最速の男、決戦準備(2)
【ラウリール】
(砂漠ももう少しか…)
ラグホーム王国を出て、既に2日が経過していた。
休まずに限界速度で進んで来たので、値が張った魔導車も悲鳴を上げるように軋んでいる。
この魔導車は7人乗りで、先頭に運転席がある。
運転席の後ろは真っ直ぐ通路になっていて、両側に3人掛けのソファーが、対面するように設置されていた。
最新鋭の万能型で、舗装のされていない場所へも楽々入って行く事ができるのだ。
(これ…活動資金で処理できるかな?)
グラシアン王国は金に困ってはいないが、無駄な出費は流石に怒られる…しかし、個人で砂漠を越えてソルの街を目指す場合、移動手段が大型の魔導車かソリ馬車に限られてしまうのだ。
それだと最短でも4日程時間がかかる事になってしまう。
ラグホーム王国の1番大きな魔導車販売店で、他に早く行ける方法が無いか相談したのだ。
その時お勧めされたのが、クレイ王国から輸入されたばかりの最新鋭ベルト式魔導車だったのである。
贅沢をするつもりは無かったが、他に手段が無いのでは仕方がない…キースもソルの街に行ったことがないので、転移で楽々~とはいかなかったのだ。
(砂漠の夜は、こんなにも寒いのだな…)
氷点下に達するような寒さを感じながら、体に毛布を巻き直した。
最新鋭の魔導車は最悪自腹になる可能性もある…しかし、世界樹を持ち帰れればお釣りが来るはずだ。
今日は風が出ていないので、砂塵に視界を妨げられる事は無い。
空には無数の星が輝いていて、灯りが無くても走るのに苦労はないだろう。
今日の夕方頃を境に、魔物に襲われる事も無く、順調にソルへ移動出来ているのだ。
(何だか少し変だ…)
「ラウリール様、眠れないのですか?」(フリーク)
「うん、まあ今起きたんだけど…何だかやけに外が静かじゃないか?」(ラウリール)
「そうですか?自分には、魔導車の騒音で…って!そうじゃないですよ…折角運転を交代制にしてるのですから、しっかり寝て下さい」(フリーク)
「大丈夫だよ!しっかり寝かせてもらったからね」(ラウリール)
「どうしました?」(シルキー)
「…起こしてしまったかい?」(ラウリール)
魔導車の中は広くないので、少しでも大きな声を出せば聞こえてしまうのだ。
シルキーは眠そうな目を擦り、起きたついでにお茶を淹れるようだ。
こうなってしまえば、逆に少し話をした方が寝付きやすいだろう。
シルキーは魔法鞄に手を入れると、ハーブとブランデーを取り出して準備をしている。
「明日はソルに入れますね」(フリーク)
フリークは何処か諦めた表情で、車内に拡がる香りを楽しんでいた。
「キースさんにはたっぷり寝といてもらわないと」(シルキー)
「そうだね、この作戦の要になるのはキース君の転移だろうから」(ラウリール)
「気絶させて連れされれば良いのですが、花凜さん…あ、すいません!」(シルキー)
対象は世界樹であって、人物では無いのだ。
ラグホームの街で花凜達の情報を集めたのが、裏目に出てしまった…
そこから見えてきた花凜の人物像が、とても好感の持てる人間であったのだ。
そもそも冒険者をしていると言う時点で驚きだが、誰に聞いても花凜を知らない者が居ないと言う程に、その名は有名になっていたのだ…
「謝るのは僕の方さ!みんな…すまないな…この作戦はみんなに辛い思いをさせる事になるだろう」(ラウリール)
「ラウリール様の命令であれば、私は何でもやりますよ」(フリーク)
「私もです!ラウリール様の命令であれば何でもします」(シルキー)
この2人の忠誠心はとても嬉しい…しかし、僕としてはもう少し自分の幸せに目を向けて欲しいのだ。
「じゃあ命令をするよ?良いかな?」(ラウリール)
「「はい!」」(フリーク、シルキー)
「グラシアンに帰ったら、君達結婚しなさい」(ラウリール)
「はい!」(フリーク)
「はい!あ、え?」(シルキー)
「え?」(フリーク)
見つめ合うフリークとシルキー…2人の顔はだんだん赤くなっていった。
フリークには前を向いてて欲しいんだけど…いや、ほんとに…危ないから…
「わ、わ、私は!あのですね!えーと…その…」(フリーク)
あたふたしたフリークは、両手を思念伝達版から離してしまい、一瞬車体がグラグラする。
運転席にある思念伝達版から魔導車を操っているので、走行中に両手を離すのはとても危険なのだ。
フリークはまた慌てて片手を思念伝達版に戻す。
「…」(シルキー)
「まったくね、フリーク君は何年シルキーを待たせるつもりなんだい?この際だから言うけどね!シルキーは」(ラウリール)
「わーわーわーわー!ラウリール様!」(シルキー)
シルキーは顔を真っ赤にして、両手をぶんぶん振り回した。
シルキーの態度を見て、フリークは初めてシルキーの気持ちに気付いたようだ。
「シルキーは、ラウリール様の事が好きなのだとばかり…」(フリーク)
「いや、鈍感過ぎるよ君は…普通ならこんなお節介は言わないが、僕達には何があるかわからないだろう?すまないね、シルキー」(ラウリール)
「…いえ」(シルキー)
シルキーは深呼吸をして心を落ち着かせた。
今まで話を切り出せなかったのはシルキーも同じだ。
フリークは魔導車をゆっくり停車させる。
(本当に手のかかる子達だね)
「そこで狸寝入りしてるキース君と僕は少し外に出るから」(ラウリール)
「ギク」(キース)
キースの頬に冷や汗が流れる。
「起きてたのか…」(フリーク)
「あ、いや…その…起きるに起きれない雰囲気で…」(キース)
キースはバツの悪そうな顔で体を起こすと、自分が使っていた毛布を体に巻き付けて先に車外へ出て行った。
僕はシルキーの頭に手を乗せる。
「フリークは堅物だからね…頑張れ、シルキーちゃん」(ラウリール)
「…はい」(シルキー)
2人には少し話し合う時間が必要だろう…僕も軽く上着を羽織り、すぐに外へ出て行った。
キースが魔導車から10メートルくらい離れた砂漠の上に腰掛けていたので、僕も隣に腰掛ける。
「上手くいきますかねー?」(キース)
「大丈夫さ…いつまでたっても進展しない2人を、このまま放置もしておけないだろう?」(ラウリール)
クレイ王国との緊張状態が高まっていく中で、立ち止まっている時間は無い…いつ本格的な戦争に突入するかわからないので、当たり前のように一緒に居れる今しかチャンスがないのだ。
クレイに喧嘩を売ってるのは、グラシアン王国の方だったりするのだが…
「うぅ…凄く寒いです…」(キース)
「もう少しだから我慢しよう」(ラウリール)
僕は振り返り車内の様子を覗いて見る。
暗がりで影が重なり合った…何をしているのかまではわからないが、どうやら上手くいったようだ。
お互い好き同士なのはわかっていたが、好きだからくっつくと言うわけではない…2人は親同士が仲の良い貴族なので、きっと反対はされないだろう。
『上手くいったようだね!おめでとうシルキー』(ラウリール)
『はぃ…ありがとうございます…私は幸せです』(シルキー)
念話から感情が伝わって来るほど、シルキーから喜びを感じる事が出来た。
(本当に良かった)
「指先の感覚が無くなってきました…」(キース)
「も、もう少しだから!ね?」(ラウリール)
簡易な装備で出てきてしまったので、キースもそろそろ限界といった顔だ。
砂漠の夜の寒い風が、体から体温を容赦無く奪っていく。
『そろそろ戻るね』(ラウリール)
『はい、え?あ…フリーク様…だめです』(シルキー)
『ん?どうしたんだい?』(ラウリール)
『それが…あん…あ、いけません!フリーク様!あ…』(シルキー)
僕は強制的に念話を切ると、どうしたものかと考える…
立ち上がり魔導車に戻ろうとしたキースの腕を掴んだ。
上手い言葉が思いつかず、頬に冷や汗が流れる。
「待つんだキース君…そうだな、あの砂丘まで行ってみないかい?」(ラウリール)
「え?1度魔導車に戻りませんか?」(キース)
「あー…いや、あと1時間は帰れなくなったんだよ…これは僕にも予想外だった」(ラウリール)
「いち…じ…かん…どうしてですか?」(キース)
キースは絶望の表情を浮かべた。
「まあまあ、良いじゃないか…」(ラウリール)
この場所では近すぎるだろう…これから2人がする事を考えれば、もう少し離れる必要がある。
寒さで渋るキースを引っ張って、小高い砂丘を上って行った。
想いが通じ合った勢いが止められずに、フリークは行くところまで行ってしまったのだろう…
せめてソルの街で宿を取ってからにして欲しかったが、時間には少し余裕があるので、目を瞑る事にした。
明日の昼にはソルに到着するだろうが、状況を見てからじゃないと何とも言えない…しかし、作戦を決行するのは早くても明日の夜中になるだろう。
「本当に魔物の気配が無いな…キース君は何か感じる?」(ラウリール)
何故だか嫌な予感がするのだ…僕の様子を見て、キースも周りを見渡している。
目で見ているわけではなく、魔力の存在を探しているのだ。
キースは魔法に秀でているので、砂の下に魔物が隠れていても見つける事が出来る。
「本当に何も居ませんね…世界樹が影響しているのでしょうか?」(キース)
「いや、どうだろうか…世界樹の魔力は強大だが、そんなに恐ろしい感じはしなかっただろう?魔物はそういうのには敏感だ」(ラウリール)
「言われてみればそうですね…気にした事はありませんが」(キース)
「急に現れれば驚きはするだろうけどね…魔力を見れば、その者の本質がわかるんだよ」(ラウリール)
「そんな話…私は聞いた事がありません」(キース)
「あはは、確かにこれは経験による物だからね!だからこそ笑えないんだけど…」(ラウリール)
「なるほど…そういう事ですか…」(キース)
(あ…世界樹が現れた時の心構えを言うつもりだったのにな…)
だから恐る事は無いと言えば良かっただろう…これでは逆効果になってしまう…
僕が世界樹から感じていた魔力は、寂しさ、悲しさ、喜び、その3つをごちゃ混ぜにしたような、とても不思議な物だったのだ。
世界樹は生まれて間もないはずなのに、あまりにも感情豊かで腑に落ちない。
「フリークさんもシルキーさんも若いですからね」(キース)
「君が1番若いじゃないか…」(ラウリール)
急にキースの表情が変わる…何かが起こったのだろう。
「大変です!ラウリール様!魔導車の中で何かがあったのかもしれません!」(キース)
「どういう事だい?」(ラウリール)
「急に魔力の激しいぶつかり合いが始まりました!」(キース)
「も、もう少し離れようか?ね?キース君」(ラウリール)
「何故ですか?あ、もう終わったようです…良かった」(キース)
「早すぎるだろーー!!」(ラウリール)
「いったい何があったのでしょう」(キース)
「気にしないでやってくれ…それと、今の出来事は他言無用だ」(ラウリール)
「わ、わかりました…」(キース)
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【花凜】
「ローザちゃーーーん」
「花凜ちゃーーーん」
村人がローザに先導されて、町まで帰ってきた。
色々内容の濃い話し合いをしたので、ローザに会うのも久しぶりな気がする…
「ミミックさん、この村周辺の人達を1度避難させたいと思います」
私はローザを捕まえて抱きしめると、何だか少し安心した。
ローザを捕まえたままの状態で、ミミックと今後の話をするつもりである。
「何処へ避難させる?この村だけじゃなく、周辺全ての村から人を集めるとなると、全部で4000人にはなる…」(ミミック)
「ちょっと良いでしょうか?」(村人の男性)
ミミックが頭を悩ませていると、村人の男性が話に割って入って来た。
私は反射的にローザを盾にして、その後ろに隠れてしまった…
「先程は村を守って下さりありがとうございました」(村人の男性)
「いえいえ…みんな無事で何よりです」(ミミック)
ミミックがらしくない営業スマイルをしている。
もしかしたら、絆の宿に依頼を出した人なのではないだろうか…
「まさか元ナンバー冒険者のミルミック様が来て下さるなんて…今は引退して、ソルの絆の宿を任されていると聞きました」(村人の男性)
「ええそうですよ、今日は人手が足りなくて…怪我人は出ませんでしたか?」(ミミック)
ミミックは丁寧に村人に対応していた。
こういうところが絆の宿を任されている理由なんだと思う…
私はもちろん社会経験なんてものは無いので、敬語を使ったりタメ口になったりチグハグしている。
きっと気が緩むとタメ口になり、緊張すると敬語になるのだ。
「お陰様で、数人が逃げる時に慌てて擦り傷を負ったくらいですね」(村人の男性)
「回復魔法の使える者が居ますので、良かったら治癒させて下さい」(ミミック)
「いえ、もう既にローザがみなを治してくれたので大丈夫ですよ」(村人の男性)
村人の男性はローザに視線を移す…マスコットのように抱かれたローザは、自分の名前が会話に出たので、羽をパタパタ動かした。
「人生でここまで驚いた事はありません…まさかローザが天使になっているなんて」(村人の男性)
「花凜ちゃんに付けてもらったのです」(ローザ)
「あぁ…よく見たら頭の上に輪っかが無いね…魔道具か何かなの?」(村人の男性)
村人の男性がローザに質問するが、ローザも何かはわかっていないはずだ。
「魔道具では無いですが、何時でも取り外しできますよ」(花凜)
私が翼を外そうとしたら、翼が嫌がるように逃げた。
きっとローザが無意識に動かしたのかもしれない…
体の一部になっている翼を外されるのは、感覚があるだけに怖いだろう。
「えーと、そちらのお嬢さんは誰ですか?」(村人の男性)
「この方は妖精王花凜伯爵様です」(ミミック)
私が自己紹介するよりも早くに、ミミックが私を紹介した。
ミミックの言葉を聞いて、村人の男性は青ざめてしまったようだ。
会う人会う人にこんな顔をさせてしまうのなら、初対面の人には小橋と名乗ろう…
「花凜さん、こちらの方は今回の依頼人様で、この村の村長をしてくれているライオットさんだ」(ミミック)
「ライオットさん、よろしくお願いします」(花凜)
ライオットは我を取り戻すと、額に汗を流しながら跪いた。
「失礼致しました!私はこの村で村長をやらせていただいています!ライオットです!」(ライオット)
「あ、はい!花凜です」(花凜)
ライオットはパニックになっているようで、更に自分から自己紹介をする。
私もライオットの迫力に負けて、ミミックに紹介してもらった後だが名前を名乗った。
ミミックは複雑そうな顔をする。
「非礼をお許しください」(ライオット)
「気にしていませんよ」(花凜)
「ありがとうございます!立ち話もなんですので、良かったら我が家にお越し下さいませ」(ライオット)
「はい」(花凜)
クラーケンの事で相談する必要があったので、丁度いいと思った。
すぐに私達はライオットの家に移動する事にした。
人数が多いので、冒険者全員が家の中に入るのは厳しいだろう…
私とローザとミミック以外のみんなには、しばらく村の中で待っててもらう事にした。
話し合いが終わり次第、冒険者の方達には仕事を頼みたいと思っている。
ライオットの家は平屋だが意外と大きい…内装に土壁が使われていて、ちょっぴり日本家屋の雰囲気を醸し出していた。
畳があれば嬉しかったのだが、普通にテーブルと椅子が用意されていた。
私は椅子に座ると、左側の椅子にローザを座らせた。
ミミックは私の右側に座り、村長のライオットはテーブルを挟んで反対側に座った。
急な来訪だったが、ライオットの奥さんと思わしき人物がお茶を持ってきてくれる。
「ありがとうございます」(花凜)
「こんな時間に主人がお客様を連れて来るなんて珍しいわ。
粗茶ではありますが、ゆっくりなさって下さい」(ライオットの奥様)
奥さんはテーブルの近くのランタンに火を灯すと、すぐにライオットの隣に座った。
お茶からはとても良い香りがする…カップの中を見てみると、花弁の細やかなピンク色の花が沈んでいた。
ゆっくり楽しみたいとも思ったが、やらなきゃいけない事がたくさんあるので、早速話を切り出す事にした。
「まずは自己紹介をしますね。
私は花凜と言います…なりゆきで妖精王をやっていまして、ソルを統治する新米伯爵です」(花凜)
折角椅子に座ったばかりなのに、私が自己紹介をすると奥さんは椅子から降りてしまった…椅子を脇に避けてその場に跪く。
「先程の無礼な発言、誠に申し訳ございません…私はライオットの妻で、名をシャルと言います」(シャル)
「畏まらなくて大丈夫です!椅子に座って下さいシャルさん」(花凜)
シャルはしっかりしてそうなので、是非このまま話を聞いていてもらいたいと思った。
今度こそ全員が席についたので、私はもう一度口を開く。
「ライオットさん、実はこれからが大変なんです」(花凜)
「はい!どういう事でしょうか?」(ライオット)
「みんながサハギンと呼んでいた魔物は、自分達の事を水狩り族と名乗っていました。
水狩り族の声は、人間には聞こえないそうです…私は人間ではないので、彼等の声が聞こえました。
人間に魔物として認識されているので、手紙などを使い事情を説明するのには時間がかかります。
急を要する事態だったので、すぐにでも人間を追い払うために人間の村を襲撃したのだそうです…
水狩り族達に代わって、まず此度の彼等の行いを深くお詫び致します。
すいませんでした」(花凜)
私が頭を下げたので、ライオットは物凄くびっくりしているようだ。
シャルは静かに話を聞いている。
(私だってこのくらいは出来るんです…この後どんな風に説明しようかな?)
「えと、サハギンではなく水狩り族ですね!わかりました!大丈夫です!はい!わかりました!」(ライオット)
ライオットは私の頭を上げるために、とても必死そうに頷いている。
本題はまだこれからなのだが、ちゃんと理解してくれるのかが怪しい…
「水狩り族がこの村を襲った理由は、人間達を海辺から遠ざけるためでした。
今この大陸に最大の脅威が迫ってきています。
5つの法則、クラーケンです」(花凜)
「はい!わかりました!クラーケンですね!」(ライオット)
ライオットは驚く事に即答する。
シャルは口を挟まずに、私の言葉を聞き逃すまいとしてくれているようだ。
「あと2日か3日で、クラーケンはこの周辺を襲うでしょう…なので、避難しなければなりません」(花凜)
ライオットはわかったと言ったが…本当にわかっているのだろうか…
いつ頃脅威が訪れるのか、正確な時間はまだわからない…
「クラーケン…海の支配者ですよね?なんて恐ろしい…花凜ちゃん、これからこの町はどうなっちゃうの?」
ローザからまともな返事が返ってくる。
ライオットは呆けているが、シャルの顔は真剣そのものだ。
「この町を戦闘に巻き込む気はないんだけど、近くでクラーケンの魔力を浴びたら、人間は狂人化するか死んじゃうかもしれない…だから避難させたいの」(花凜)
「避難ですか?いったい何処に?」(ローザ)
「ここの領主様って何処に住んでるの?」(花凜)
「…ここも花凜さんの領地だよ」(ミミック)
「あらま…ではやっぱり全員ソルに避難かな」(花凜)
ライオットが話し合いに入って来ないので、こちら側で勝手に話をしているような感じになってしまった。
「しかし、全員を受け入れる事は可能なのか?」(ミミック)
ミミックは朝から依頼に出掛けていたので、私が新しく作った城を見ていないのだろう…
「大丈夫だよ!私が作った城の中にみんな入れます。
この大陸で1番安全だと思うな」(花凜)
「あの城はとても大きいですよね」(ローザ)
「城?城…」(ミミック)
「ミミックさん達冒険者には、住民に事情を話しソルまで護衛して欲しいんです。
それと、ソルの住民も全て城に集めて下さい…衛兵のガレッジさんにも協力を頼んで、全住民を城まで案内をお願いします」(花凜)
規模の大き過ぎる話に、全員が顔を困惑させていた。
やっとライオットも話の流れがやっと理解出来たようで、頭を抱えている。
ランタンの優しい灯りが、ゆらゆら揺れている…
「本当に大丈夫なのか?ソルの住民も入れるとなると、3万人は超えてしまうだろう…食料なども必要だ」(ミミック)
ミミックの心配する事もわかる。
いきなり避難しろと言われても、たくさんの問題が出てくるはずだ。
「食料の手配はうちのメイドが上手くやってくれるでしょう。
人数も問題無いよ?お風呂もベッドも用意出来ます。
それにパパが…ロナウドがいます」(花凜)
「そ、そうか…そうだよな…とにかく時間がない!俺はすぐに行動に移す事にする。
衛兵のガレッジさんに一筆書いてもらいたい」(ミミック)
ミミックの顔は、だんだんとやる気に満ちていくようだ。
(一筆ね…え?)
「どうしたんだ?」(ミミック)
「……だ、大丈夫…うん!きっと…」(花凜)
「シャルさん、紙とペンと封筒はあるだろうか?」(ミミック)
「すぐに御用意致します」(シャル)
シャルがすぐに必要な物を用意する。
私は初めてこの世界の文字を書く事になり、みんなが私の手元を見つめていた。
(あわわ…どうしよう…)
これでは落ち着いて書く事が出来ない…
(そうだ!)
「兵に宛てての手紙なので…ちょっと、向こうで書いてきますね」(花凜)
「ああ、わかった!」(ミミック)
私は部屋の片隅に移動して、みんなから見えない場所でペンをとる。
何となく部外秘でもありそうな言い回しで、その場を誤魔化す事に成功する。
(ガレッジ…さん?さんってどうやって書くんだろう…無くてもいっか♪
あー、文は浮かんでるのに単語がわからない…
あ!頑張れならわかるや♪
これで良し!ガレッジ、頑張れ!)
封筒に手紙を入れて、ミミックに渡した。
「もう出来たのか?」(ミミック)
「うん…大丈夫」(花凜)
時間がある時に直接言えばいいので、内容は別になんでもいいだろう…1行だけど…
「花凜ちゃん!私にも手伝える事は無い?」(ローザ)
「ローザちゃんは私と一緒についてきて」(花凜)
「わかりました」(ローザ)
住民の事はミミックに任せて大丈夫だろう。
「シャルさん、ミミックさん、ライオットさん、ちょっと忙しくなりますが、よろしくお願いします」(花凜)
「「仰せのままに」」(シャル、ライオット)
「花凜さん、他に出来る事があれば何時でも言ってくれよな」(ミミック)
「ありがとうミミックさん!行くよ、ローザちゃん」(花凜)
「はい、花凜ちゃん」(ローザ)
ローザの手を掴むと、私はすぐにリオンのとこまで転移する。
これからまだまだ忙しくなるだろう…
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【ミミック】
「き、消えた…まさか…転移魔法でしょうか?ミミックさん」(ライオット)
目を見開き驚いているライオット…いや、ライオットだけでは無くシャルも驚いているようだ。
「まぎれもなく転移魔法ですよ…私も最初見た時は驚きました。
あの時は緊急事態だったので、驚いている暇もありませんでしたけどね」(ミミック)
「詠唱すらいらない転移など…可能なのでしょうか?いえ、不可能ですよ!」(ライオット)
ライオットの言いたい事はわかるが、花凜を常識に当てはめるのは間違っているのだ。
「彼女は妖精王花凜なんです」(ミミック)
「その名はこのパンネイラにも聞こえてきているので、私も知っていますわ。
ラグホーム王国を救った英雄で、どんな難病も治す事が出来ると…」(シャル)
「たった4人で鬼を…グラシアンの軍隊を撃退したと聞きました。
そして王から伯爵の地位を賜り、砂漠一帯を預かる領主様になりました。
妖精王花凜の話しなら、この国で知らない人はいませんよ?」(ライオット)
伝わらないのはわかっていたが、俺の言った言葉はそのままの意味だ…
「いえ…ですから彼女は妖精王!なんです。
冒険者のチーム名も妖精王ですが…彼女は本当に!妖精王なんですよ」(ミミック)
「言ってる意味がわかりませんな…はは…」(ライオット)
シャルの表情がみるみる青くなっていく…妖精王、それはつまり妖精族全てを束ねる王だ。
伯爵なんて地位に意味なんか無い…妖精王の前にはただの笑い話になってしまうだろう。
「貴方…目を覚まして下さい。
私達はすぐに、妖精王様の言葉通り動きますよ」(シャル)
「ははは…は……はい」(ライオット)
「息がピッタリの良い御夫婦ですね…羨ましい限りです。
私もソルを預かる冒険者として、最前を尽くします」(ミミック)
「…ミミックさん、大変な相手に恋しましたね」(シャル)
「言ってる意味がわかりませんな…はは…」(ミミック)
ついついライオットの真似をしてしまった。
(本当に大変だよ…はぁ)




