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決戦準備(1)





「さ、作戦?花凜さんは戦うつもりなのか?」(ミミック)

「そんなの無茶ですよ!それよりも避難を優先した方がいいんじゃないですか?」(女冒険者A)

「今少し考えてる事があってね…避難もするけどさ…」(花凜)


 どう伝えたらいいのかわからずに、上手く言葉が出てこない…

 人命を最優先するならば、みんなで逃げる!これ一択になるであろう。

 負の感情を取り込み、今も苦しんでいる5つの法則を、早く楽にしてあげたいのだ…


「○○△△✕✕!」


 ビヨルドが兵士に指示を出しているようで、大きな声を張り上げていた。


「みんな、ちょっと待ってて」


 ビヨルドが何かを始めたので、私はミミック達に少し待ってもらった。

 水狩り族の言葉はミミック達に聞こえていないので、ビヨルドが振り返っただけに見えるだろう。

 私はビヨルドの声は聞こえているが、その意味までは把握出来ない…

 ビヨルドの指示を聞いて、動き出した約100名くらいの水狩り族が、浜辺に走り出した。

 そのスピードは速く、あっという間に海へ飛び込んで行く。

 もしかしたら水狩り族の精鋭部隊なのかもしれない。


「何を話していたの?」


 指示を出し終わった様子だったので、私はビヨルドに聞いてみた。


「妖精王様…他の…みんなに…伝えに…行かせた…みんなを…安心…させたい…レイブ様…生きてた…」


 レイブの生存を伝えるために、兵士は海へと飛び込んで行ったらしい。


「そうだね!みんなを安心させて」

「ありがと…ございます」


 ビヨルドが少し微笑んだような気がしたが、表情が読みずらいので気のせいかもしれない。


「我々…戦闘準備…整えて…また来る…クラーケン様…と…我々も…戦う」(ビヨルド)

「人間のために嫌われ役までやってもらって…どうしてそこまで頑張るの?」(花凜)

「妖精王様…なら…きっと…助けた…だから…我々も…出来る…事を…した…」(カズネイラ)

「…そっか…なら私も出来る事をします。

妖精王レイブ・チム・ユメライと同じ様に、私が貴方達の味方になるよ!」(花凜)

「…………」(ビヨルド)


 私の言った言葉を聞いて、ビヨルドとカズネイラは涙をボロボロ流している…

 水狩り族は見た目が怖い…だから人間から誤解されてしまうのかもしれないが、歩み寄ればわかり合えるのだ。

 ビヨルド達は多分過去の真実を知っているのだろう…クラーケンに様をつけているだけ、今も尊敬しているのかもしれない。


「では…また…来ます…妖精王様…最後まで…貴方と共に…」(ビヨルド)

「ありがとうビヨルドさん。

私に出来る事があれば、何でも協力するからね」(ビヨルド)

「はい…では…また!」(ビヨルド)

「妖精王様…こ…これを…」(カズネイラ)


 カズネイラが珊瑚を加工したような物を取り出すと、私に渡してきた。

 その珊瑚みたいな物は、少し透けていて中が空洞になっているのが見えた。

 大きさは5センチくらいで小さい…ピンク色の宝石のようだ。


「数名…言葉わかる…者…残して…行きます…笛…吹けば…現れ…ます」

「これ笛だったんだね…ありがとう」


 私は試しに笛を吹いてみる事にした。


――――ヒョロロロロロー――――


 空に向かって不思議な音が鳴り響く。

 この音はミミック達にも聞こえているみたいだ。


「お呼びでしょうか?妖精王様」


 私の背後に音も気配もなく現れた水狩り族が、人間の言葉を普通に話せるくらい熟知しているらしい…

 急に現れてびっくりしたが、3メートルくらい距離を置いてくれていたので、そこまで焦りはしなかった。


「貴方凄いね!ちゃんと喋れるみたい!」

「私は偵察で人間の国に行く事が多いんです」

「なるほどねー…文字を使って人間に警告とかは出来なかったの?」

「その案もありましたが、我々は魔物として人間から恐れられています。

時間の迫る中で、この国の王に手紙を届ける時間は無いと判断しました。

クラーケン様の力は、常識では測れない程に絶大です!

海の中なら無敵と言ってもいいでしょう…

被害の出る大きさもわからないので、この町の住民を追い出す事に決めたのです」


 クラーケンの迫る切羽詰まった状況で、この国の王に手紙を送る時間が無かったのだろう。

 手紙を読みリグルートがすぐ動いたとしても、兵を動かす頃にはこの町は地図から消えているのだ…

 町を襲えば冒険者にすぐ連絡が入るし、絆の宿を通して冒険者がすぐにこの町周辺の住民を避難させるだろう。


「ありがとう。

これからよろしくお願いします!名前はなんて言うの?」

「私の名前はスナッキで、ビヨルド王の実弟です」

「よろしくね!スナちゃん」

「あ、はい!よろしくお願いします」


 スナッキは何だか少し嬉しそうに見えた。


「カズネイラさん、ありがとうございます」

「礼は…いりません…我らが…主…妖精王様…」




ーーーーーーーーーーーーーーーー

【リオン】




 遠くで花凜の魔力を感じたが、ただの威嚇のようですぐに収まった。

 私はドクとミーの戦闘を観察している。

 この魔物は弱くは無い…重量魔法は強力なので、頭が悪くても相当な威力を発揮する事が出来る。

 しかし私と花凜の敵ではないだろう。


(あと3匹か)


 花凜の創り出した特殊な白いもくちゃんに囲まれて、空を飛ぶ魚の魔物は逃げる事が出来ない。

 ドクとミーの新魔法を分析するが、私にもあれが何なのかよくわからないでいた。


(あと2匹)


 獣の形をしているが、実態があるわけでは無いようで、魔物の攻撃もすり抜けるだけになってしまう。

 正確には霧のような物なのだろう…瞬く間に治ってしまうが、凹んだり千切れたりしている。

 中身はどうなっているのだろうか?

 魔力の流れを感じる事は出来るが、弱点のような物があるようには見えない…

 魔物もドクとミーの攻略手段が見つけられずにいるみたいだが、逃げられないので懸命に戦っている。


(あと1匹)


 魔物が唸り声をあげると、角が輝きを放つ。

 どうやら最後に最大の魔法を使うらしい…


「おい、何かやってくるぞ!」

『はい!師匠!』


 既に決着は見えているが、魔物とて諦める訳にはいかないのだ。

 魔物の角が砕け、蓄積された魔力が溢れ出す。


(タメが長い…隙だらけだな)


 ドクとミーはその隙を見逃さなかった。


『今日の晩御飯なんだからね』

「その通りだ!」


 宙を黒い獣が魔物に向かって走り出す。

 赤い目を光らせながら、突風が襲うように魔物の体を通り抜けたように見えた。

 何をしたのかわからないが、魔物は血を吐いて海へ落ちて行く。


「お前達のその魔法は何なんだ?」

『これは影魔法なんです』

「そんな魔法はお前達意外に見た事がないな」

『黒狼族だけの魔法みたいですよ』

「なるほどな…中身はどうなっているんだ?」

『えーっとー…』


 ドクとミーは変身を解き人の姿に戻ると、かなり疲弊していたようで、浜辺にフラフラ降りてきた。


「中身は全部影ですよ」(ミー)

「体を動かしてたのは俺です」(ドク)


 ドクとミーは浜辺に辿り着くと、すぐに下手りこんだ。


「魔力のコントロールは私がしていました」(ミー)

「変身中の意識は1つになっているんですが、別々の事が考えられます」(ドク)

「不思議な感覚ですね」(ミー)

「悪くなかったぞ!弱点は無さそうに見えたな」(リオン)


 ドクとミーは顔を見合わせて、褒められた事で笑顔になる。


「えーっと…実は弱点があります」


 ドクはズボンのポケットから干し肉を取り出した。

 小さな魔法鞄を縫い付けているようで、ポケットに入っていたとは思えない大きさだった。

 ドクは干し肉を半分に千切ると、ミーに手渡した。

 私は当然の如く右手を差し出す。


(くれ)


 想いは通じたようだ…ドクはもう1つ干し肉を取り出してくれた。


「私達、さっきの魔法だと長い間戦えないんです」(ミー)

「それに戦った後は疲れ果ててしまうのと…」(ドク)

「お腹ぺこぺこ…」(ミー)


 この干し肉は、戦闘後に食べるために用意してある物なのだろう。

 噛む度に旨味が出てくるようで、とても美味しい。


「あと…花凜ちゃんの拳…」(ドク)

「あー、花凜ちゃんのゲンコツは痛かったよね…なんでだろう」(ミー)

「なぜ花凜に殴られたのだ?」(リオン)

「えーと…実は…」(ドク)


 干し肉を齧りながら、ドクとミーはその時の事を説明してくれた。

 なんの説明も無しに、目の前でペシャンコにされたら誰だって心配するだろう…


「なるほどな、心配をかけたお前達が悪いな…」(リオン)

「花凜ちゃん早く帰ってきてー」(ミー)

「早くー…お腹空いたよー」(ドク)

「この魔物、少し味見をしよう」(リオン)

「「ダメー」」(ドク、ミー)





ーーーーーーーーーーーーーーーー

【リグルート】




 夕飯が終わり、クラウドと執務室で書類を眺めていた。


「ミスリルの買い付けがやたらと増えてないか?クレイは何を作っているのだ…」


 クラウドは自分の仕事を忙しそうにしていて、余の言葉が独り言になってしまった。

 クラウドは幼い頃から余に仕えていて、この国を守護する要のような存在だ。

 最近ちょっと態度が大きいような気がしてならない…

 クラウドは武闘派では無いが、軍略に関して言えば右に出る者はいない…それを差し引いても、やはり態度が大き過ぎるような…


「陛下、私は今忙しいのです!」

「おぅ…そうだな…」


 クラウドは今、沿岸沿いで相次いでいる魔物被害の報告に頭を悩ませている。

 海辺に住む魔物もどんどん内陸に移動して来ていて、街道を歩く人々が襲われているらしい…

 主要な道に兵を巡回させているが、範囲が広すぎるので、全てをカバーする事は出来ないのだ。

 普段人前に姿を現さないような魔物まで、次々と報告が寄せられている。

 その土地を護る各領主には、手紙を出している最中だ。

 絆の宿にも協力を頼み、避難誘導や住民の警護をしてもらっている。


「戦時下でも無いのに、ここまでお前が頭を悩ませるとはな」(リグルート)

「まったくだよ…ですよ」(クラウド)

「お前今タメ口…」(リグルート)

「気のせいです」(クラウド)


――――コンコン――――


 執務室の扉を叩く音が聞こえてきた。


「父上、リーファウスです」

「入るがいい」

「失礼します」


 部屋の中に入ってきたリーファウスは、すぐにクラウドの元へ近づいて行く。


(あれ?余に用があるのでは無いのか…)


 リーファウスは花凜と離れてすぐに、戦闘訓練や兵法などを今まで以上に頑張っている。

 辛い経験をしたのだと思うが、その事を一切話そうとはしないのだ。

 父親としては成長を嬉しく感じるが、クラウドにべったりなので少し寂しい…

 リーファウスは元々真面目な性格だったので、今まで訓練や勉強をサボった事は無い。

 才能もあり頭もキレる方だとは思うのだが、年代の近い花凜があそこまでの事を成し遂げたのだ。

 男として負けっぱなしは嫌なのだろう…

 鬼はこの城の地下牢に投獄されている。

 リーファウスを狙った理由はまだ何も話さないが、グラシアンの取り引き材料になればいいと考えている。


「リーファウス様、今日はグランツに勝ったそうですな」(クラウド)

「んんー…勝ったには勝ったが、グランツは魔法を使っていない…こちらは全部を出し切ってやっとだよ」(リーファウス)

「それでも凄いですよ」(クラウド)

「ん?何の話をしておる?」(リグルート)

「あ、父上は仕事をしていて下さい!」(リーファウス)

「そうですな」(クラウド)


(仲間外れ…だと?余は王だぞ?)


「父上の仕事は代えの効かぬ仕事ばかり、忙しい身の父上にわざわざ話す事ではないゆえ」(リーファウス)


 リーファウスの目に悪意は無いようだ…そして花凜という大きな目標に向かって頑張っている。


「そうか…そうだな」


(余もしっかりしなくてはならないな)


――――コンコン――――


 また誰かが来たようで、執務室の中にノックの音が鳴り響く。


「陛下、報告したい事があります」

「入れ」


 今部屋に入ってきたのは、余の直属の兵士だ。

 こんな時間に来る事は珍しいので、急用かとも思ったが、別に急いでいる訳ではないらしい。

 急用の時はノックもせずに飛び込んで来る奴だ…余もそれを咎める事はしないので、そこまで大事な案件では無いのかもしれない。


「どうしたのだ?」


 落ち着いた声で要件を問いただす。


「パンメイラの町に、数千のサハギンの軍勢が襲撃したと報告がありました」

「何だと!大事ではないか!」


 クラウドも焦りの表情をみせる。

 現在兵に余裕は無く、割ける人材が限られているのだ。

 しかも数千のサハギンなんて聞いた事が無い…俊敏な動きで武装までしている特殊な魔物なので、数倍の兵を出さなければ返り討ちにあってしまう。


「クラウド!今動かせる兵の数は?」(リグルート)

「無理です陛下、パンメイラは…パンメイラは諦めて下さい」(クラウド)

「そんなわけにいくか!住民の避難はどうなっている?」(リグルート)

「いえ、それが…もう解決済みなのです…」(兵士)

「へ?」(リグルート)

「冒険者チーム妖精王様の花凜伯爵様が…えーと…信じられないのですが…話し合いでサハギンを撤退させたそうです…」(兵士)

「は?」(クラウド)


 余もクラウドも、兵士が何を言っているのか理解するのに数秒かかった…

 言っている意味は理解出来たのだが、サハギンと話し合うなんて誰が考えるだろうか…


「ふふ…ははは!花凜らしいではないか!そうか…あはははは」(リーファウス)


 リーファウスは嬉しそうに笑っている…花凜はまたとんでもない事をしでかしたのだ…

 花凜の魔力を肌で感じた事があるので、その絶大な力はわかっているつもりだった。

 もしかしたら、花凜はこの先もっととんでもない事をするのではないだろうか…


(リーファウスよ…笑っている場合ではないぞ…)


「また褒美を取らせねばなるまいな」


(何はともあれ、パンメイラの人々を護ってくれた花凜に、余も報いねばな…)




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