水狩り族
(ローザちゃんは、おじいちゃんと合流出来たかな?)
私はキノコソファーに座り、ローザの翼から情報を受け取る事にした。
普段は見ないようにしているのだが、緊急時は仕方ないだろう…
そこは
(良かった…おじいちゃんに会えたんだね)
ローザは大人達に囲まれていた。
村の大人達は、皆嬉しそうにローザの頭を撫でている。
その中に黒髪のお爺さんがいるので、きっとローザの探していた人に間違いないであろう。
(とりあえずは大丈夫そうだね)
「ミミックさん、村人は皆無事なの?」
冒険者達は、まだ驚いた顔をしている。
ミミックは流れる冷や汗を隠しもせずに、私の事を見つめていた。
魔力は既に遮断しているのだが、サハギンも動く気配は無いようだ。
「村人は…無事だ…」
歯切れ悪く答えるミミック…
仕方ないのかもしれないが、もし逆の立場なら、私はどうなってしまっていただろうか…
抗いようのない力を前にしたら、やっぱり怖くなって動けなくなるだろうか?
私はミミックに今まで通り接して欲しいので、気まずいままにはなりたくない。
声も体も大きく迫力があり、私の苦手な人ではある…しかし、ミミックはとても良い人なのだ。
(怖くないってわかって貰えればいいのかな?)
私はソファーから立ち上がり、考えながらミミックの前に歩いて行った。
サハギン達も話し合いをするには、用意する時間が必要であろう…
私の声を隅々まで伝えるため、声を大きくする事が出来るように、ユーフォニウム型もくちゃんを創り出したのだ。
冒険者達はとても緊張している様子で、つられて私も緊張してしまう。
(なんて声をかけたらいいんだろう)
その場にいる全員…サハギンまでもが息をのみ、私の動向を伺っているようだ。
「ミミックさん、えーと…抱いてもいいよ?」
「は?え?な、なんで急に」
「さっき抱きたいって言ってたでしょ?」
私はミミックの目の前に立つと、さっきミミックが言っていた事を思い出した。
帰ったら抱きたいと言っていたので、体が触れそうな位置にまで歩み寄ってみる。
ミミックの体はとても大きく、私とは50センチ以上も身長差があるので、見上げるような型になってしまった。
近くで見ると良くわかるのだが、鍛え上げられた体に残る古傷が、今までの経験を物語っているかのようだ。
ミミックは中々私を抱こうとしなかったので、突き放されてしまうのではないかと思うと、どんどん不安が濃くなってきた。
しかし人の街で生活する以上は、いつかぶつかる壁だったのだ。
さっきもソルの街で、ドクとミーの危機だと思った瞬間…他の事など一切何も考えずに、魔力を解放してしまった。
ミミックから私はどう見えるのだろうか…必死に頭をフル回転させる。
(もし私がミミックさんだったなら?…だめ、筋肉で想像が出来ない…もし私が肉だったとして、目の前にリオンが居たら怖いよね?
確実に食べられる…あれ?この例えだとゲームオーバーだよね?
んー…もし私がドーナッツだったとして…ん?ドーナッツ?いや、待って…)
私は必死で考えると、1つの答えに行き着いた。
(これだ!)
私はミミックに背を向け跪くと、ミミックを振り返った。
「おんぶしてあげる」
「え?」
ミミックは私の行動を見て、口を開けて固まっている。
私の辿り着いた答えは、食べられない位置にいることだったのだ。
(間違ったかな?んー…?)
私は立ち上がり、再びミミックに向き直る。
ミミックは私を見て、ゴクリと唾を飲み込んだ。
(そもそも私は、ミミックさんを食べようとは思ってないもんね…)
今回は食べ物で例えてしまったのが悪かったのであって、私は悪くない!きっと悪くないよ?
(もし私が乾電池だったとして…目の前に赤ちゃんが居たとする……あー!だめ!だめだよ!食べちゃだめー!)
私の頭の中は混乱していた…
今のは赤ちゃんが悪いのだ!私は悪くないはず…
(どうしよう、わからないよ…)
「ふふふ…はははは」
ミミックが急に笑い出し、それが他の冒険者にも広がっていくと、大きな笑いになった。
何がどうなっているのだろうか?
さっきまでの緊張感は何処へ行ってしまったのか…
「どうしたの?」
私は混乱する思考をやめ、ミミックに聞いてみた。
「どうしたの?っは、こっちのセリフだよ。花凜さんが来るまで、俺達は絶望的な状況だったんだぞ?」(ミミック)
「全くだよ…冒険者ナンバー7、妖精王の花凜様…俺達は信じられない物をみちゃったよな…これが1桁ナンバーの実力かー」(冒険者A)
「お前リオンさんのファンだっただろう?」(ミミック)
「花凜様、少し抱きしめてもよろしいでしょうか?」(女冒険者A)
さっきまで悩んでいたのは何だったのだろう…
私は冒険者達に取り囲まれ、流されるまま揉みくちゃにされている。
最初は状況がわからなかったが、なんだかとても嬉しくなってしまった。
みんなの優しい対応に、だんだん表情が緩んでいく。
冒険者は家族だと前にミミックが言っていたのだ。
(みんなありがとう)
冒険者の皆、ソルの皆、ロナウドとエル、ドクとミー、リオンやリーファウスにリグルート…今の私があるのは皆のお陰だ。
暫くされるがままに任せていたのだが、不意にバランスを崩してしまい、転びそうになった。
ミミックが私を受け止めようとしてくれたので、踏み止まる事はせずに、ミミックに体を預ける。
「おぁぁ」
奇妙な声を出したミミックは、私を受け止めきれずに共倒れになってしまった。
「お、重い…」
「あわわ、ごめんなさい…」
ミミックは私のコートや雷型の弓(仮命名ドンキー)を見て、ため息を吐くと、不思議そうな顔で優しく背中を撫でた…
「よくこんな重い装備で動けるよな」
確かに重いのかもしれないが、私には他の服と大差は無いので、あまり気にして来なかったのだ。
私はミミックの体の横に立ち上がり、ミミックを支え起こしてあげる。
「私は全然大丈夫だよ」
「その魔王のコートは有名でな…他の街からもそれを見るために、わざわざ沢山の人が来ていたんだよ。ソルの街の観光スポットになっていたんだ…だから花凜さんは、今じゃ歩くソルの観光スポットになっちまったな」
ミミックが口元を緩めて、ゆっくり立ち上がった。
なんだか気になる事を言われた気がするが、別に悪い気はしない。
この和やかな雰囲気がとても嬉しかったので、苦笑いに止める。
「ん?サハギンが動き出したぞ!」
サハギンを見張っていてくれていた冒険者が、皆に警戒を呼びかけた。
全員に緊張感が戻ってくる。
剣を構え、臨戦態勢になる者もいた…気持ちはわかるが、大人しくしていて欲しい。
「武器は出さないで、私の後ろで待っててね…」
「わ、わかりました」
もし再び飛びかかられたら、話し合いどころでは無くなるので、サハギンを刺激しないようにしたかったのだ。
私はソファーに戻り腰掛けると、対話の意思を示すために魔法鞄からお菓子を取り出した。
飲み物が無かったので、フルーツゼリーにする事にした。
私が手を叩くと、約直径50センチの小さな丸いテーブルが地面から生えてくる。
実際には足から魔力を流し、創造生命魔法で作ったテーブルだ。
シャンパンタワーのように、透明なグラスに入ったゼリーを並べていくと、なんだか豪華に見えてきた。
カラフルなゼリーが並び、夕陽を受けて輝いて見える。
私がゼリーの飾りつけに満足していると、サハギンの軍隊が半分に割れた…どうやらサハギンの代表が出てくるようだ。
「人…言葉…わかる…少しだけ」
「私は花凜、よろしくお願いします」
一回り体の大きいサハギンが、割れた軍隊の中央から歩み出て来てくれた。
話し合いに来てくれたのは2匹で、どちらも戦意は無いと示すように武装はしていない。
親子かどうかはわからないが、年配のサハギンと若いサハギンだ。
年配のサハギンは何とか言葉を絞り出したようだが、言葉はたどたどしい。
私はそれを聞いて、サハギンが理解しやすいように、ゆっくりと自分の名前を口にしたのだ。
「人間…水狩り族の…言葉…聞こえない…だから…理解…出来ても…伝え…られない…」
「私には聞こえてるよ」
手の平を返し、正面のソファーに向けて座るように促した。
地面から生えるキノコのソファーに驚きつつも、サハギンの2匹は、素直に従ってくれる。
「サハギンが座ったぜ…嘘だろう?」
冒険者の1人が声を出す…他の冒険者達も、うんうんと頷いている。
「私…は…先代…の、水狩り族…王…こちらは…今の…水狩り族の…王」
たどたどしく話すサハギンは、自分達の事を水狩り族と名乗った。
若い水狩り族が今の王様で、年配の方が先代らしい…
「言葉が通じて良かったです。私の事は花凜と呼んで下さい」
「話し合い…出来て…嬉しい…同じ…私…カズネイラ・ウルサック…王は…ビヨルド・ウルサック…息子だ…」
「ビヨルドさん、カズネイラさん、よろしくお願いします」
私は微笑み、先にビヨルド次にカズネイラと握手をする。
「俺も…少しだーけ話せる…花凜…強い…女…兵を…治療、ありがとう…礼だ」
「どういたしまして、ありがとう」
さっきサハギンを治療した事の礼として、水狩り族の王ビヨルドは、拳くらいの大きさがある見事な真珠を取り出した。
私は綺麗な物が好きなので、キラキラ光るきめ細かい真珠に目を奪われている。
「本当に綺麗…良いの?もらっちゃっても…」
「それは…尊敬出来る者…水狩り族の…王が…認めた証…花凜…相応しい」
「ありがとう」
ビヨルドが差し出す真珠を両手で受け取ると、私は近くから眺めてみた。
手に持った瞬間、真珠から変な魔力を感じる…
良く知る魔力…これはあいつの魔力だ。
「ねえ?これさ、何で妖精王の魔力を感じるの?」
私が質問をすると、ビヨルドとカズネイラはとても驚いた顔になった。
この真珠からは、悪意の類いは感じないので、受け取る事に問題はないと思う。
水狩り族は、妖精王と繋がりがあるのだろうか?
「妖精王様…我々…弱い種族…護りし者…偉大なる…御方…真珠…妖精王様から…賜わった物」
「なるほどね…」
カズネイラがゆっくりと説明してくれた。
妖精王が水狩り族にあげた真珠らしいので、魔力が残っていたのかもしれない。
「それ…最後の…真珠…妖精王様…消えて…もう…数十年…花凜…妖精王様…知ってるか?」
カズネイラが悲しい顔で、妖精王の事を聞いてきた。
更に言葉を続けようとするが、中々言葉が出てこないようだ。
ビヨルドも真剣な表情をしている…
「沢山…種族が…世界中…探した…何年も…何年も…安否…不明…何処にも…居ない」
(何やってるのよ…あいつは…こんなに心配されて、顔くらい出したらいいのに!)
「花凜…知ってるか?…妖精王様」
ビヨルドが、最後に続くだろうと思われる言葉を代弁する。
「妖精王は生きてるよ…今度会ったら、顔くらい見せるように言っておくね」
私の言葉を聞いて、カズネイラが安心したような表情をしているように見える。
本当は色々聞きたいのかもしれないが、上手く言葉が出てこないのだろう…
変わりにビヨルドが口を開いた。
「花凜…妖精王様…何処に?」
「今も多分覗いてると思うよ?異世界の日本にいるんだけど、たまにこっちに来るからね…半透明だけど」
「見て…いらっしゃる?」
「うん、呼べば来るんじゃないかな?」
「会わせて…いただき…たい」
カズネイラと共に頭を下げるビヨルド…確かに見てみなければ安心出来ないだろう。
「妖精王、出てきてー」
私は空に両手を掲げて声をかけた。
「「…」」
そのまま1分経過する…
「妖精王様…我々に…姿を…お願い…します」
カズネイラの呼びかけも虚しく、妖精王は現れてくれないようだ…
「生きて…くれた…わかった…だけ…嬉しい」
水狩り族は、皆悲しい顔になってしまった…
私が安請け合いをしてしまった事で、期待させてしまったのだろう…
でもこんな事態になっているのは、妖精王がいけないのだ!
私は少しイライラしてきたので、もう一度呼んでみる事にした。
「妖精王レイブ…見てないわけが無いでしょう?早く姿を現さないと…」
私は妖精王の指輪を外して、賢者の石を指で摘み、どんどん力を込めていく。
「ほら、このままじゃ指輪壊れちゃうよ?早く出てきなさい」
「その指輪…まさか!」
カズネイラは指輪を知っているみたいで、目が飛び出してしまうか心配になるほど目を見開いている。
指輪にはどんどん力を入れているが、見た目変わらないので地味に見えるかもしれない…
私も指輪が気に入っていたのだが、この際仕方ないだろう…
「指輪は指輪だよ…誰かを心配させてまで、とっておく価値はないからね」
私は更に身体強化を強める…
「ちょっと待ってーー!ダメ!指輪壊しちゃダメ!」
「妖精王…様!」
妖精王が空に出現すると同時に、私に飛びかかって来た。
私は上半身の動きだけで妖精王を躱すと、妖精王は地面に顔からダイブしていった。
妖精王を見て、カズネイラは声を出す。
「出てきたね…やっぱり覗いてたでしょ?」
「いてて…全く、僕をここまで焦らせるのは花凜だけだよ…脅しじゃなくて本気なんだから…はぁ〜」
妖精王は立ち上がると、深い溜め息を吐いた。
「だって皆、妖精王が居なくなって心配してたんだもん…顔くらい見せるべきだよ」
「そんなに簡単じゃないんだよ…それに今の妖精王は君じゃないか」
「皆が会いたがってたのは貴方なのよ…えーと…」
名前を忘れたとかは言わない…そんな失礼な事は、人として言ってはいけないのだ。
「名前なんだっけ?」
なので聞く事にした。
「酷いよー…」
半泣きになる妖精王…私は首を傾げている。
「レイブ・チム・ユメライだよ」
「そうでしたね!わかってたけど…今度からレイブと呼んだらいい?」
「…本気で忘れてたよね?忘れてたよね?」
レイブはグズっているが、この男は何を考えているのかわからないので、私は警戒している…
妖精王を見て、村の入り口から海岸までの全ての水狩り族が平伏し、ビヨルドとカズネイラは跪いた。
「か、花凜さん…その人は誰なんだい?」(ミミック)
「妖精王って聞こえたけど…あはは、まさかね」(冒険者A)
「花凜様にとても似てるわ」(女冒険者A)
「体透けてない?」(冒険者C)
「存在感薄くない?」(冒険者B)
ミミック達は妖精王を見た事が無いらしく、水狩り族の態度の変わりように動揺しているようだ。
私とレイブの声はミミック達に聞こえているはずなので、再度確認するために質問したのかもしれない。
「えーと…妖精王のレイブ・チム・ユメライだよ」
私がレイブを紹介すると、ミミック達は驚愕の表情を浮かべるた。
冒険者全員が、慌てたように跪く。
「お初にお目にかかります!非礼をお許しください…妖精王様」
「そんな堅苦しくしなくていい、それに僕は妖精王じゃないよ?元だからね」
ミミックは顔を伏せたまま謝罪をするが、レイブの言葉に意味がわからない様子だ。
「今の妖精王は僕じゃなくて花凜だよ?」
「な、なんと!花凜さんが…本物の妖精王だったなんて…」
ミミックが顔を上げて私を見たので、私は微妙な顔をする。
確かに私は妖精王の証を持っているが、だからどうという事は無い。
レイブは真剣な表情になり、水狩り族に顔を向けた。
「妖精の民よ…苦しい状況はわかっているが、僕は僕にしか出来ない事で忙しい…花凜と協力して、この厳しい状況を乗り切って欲しい…」
厳しい状況とは何の事だろうか?
まだ私は、水狩り族がこの村に攻め込んだ理由も聞いていないのだ…
「御心の…ままに」
「じゃあ僕は行くね…もう体が消えそうだ」
「待ってよ!厳しい状況ってなに?」
レイブは苦笑いを浮かべると、私に近づいてくる。
両手を広げ、抱きしめようとしてきたので、サッと避けた。
「…空気読もうよ」
「どっちがよ!」
空振りした腕を寂しそうに動かし、溜め息を吐くレイブ…
「…海の支配者クラーケンが、正気を無くして動き出したんだ…詳しい事は水狩り族に聞いて欲しい」
「5つの法則の?」
「うん、僕もこんなに早いとは予想外だった…その事でやらなきゃいけない事があってさ…だからここにゆっくりもしてられないんだよ」
「そんな…」
「今はやれる事をやるしかないんだ…」
リオンを軽くあしらう事が出来る程の力を持つ5つの法則…その1体がついに動き出したと言うのだ…
今回ばかりはレイブも余裕の無い表情をする。
「わかった…私も水狩り族に状況を詳しく聞いて、リオンと相談する」
「うん、後で来れたらまた来るよ」




