沖縄名物
私は左手の人差し指を砂浜に差し込むと、創造生命魔法を発動する。
「花凜ちゃん?何してるんですか?」
「んーと…」
ローザに振り返って、何て言うか考えたが、説明するよりやってしまった方が早いので、私はすぐに砂浜に魔力を流し込んだ。
「ちょっと待ってね」
砂浜と言ったらあれが必要だろう…
作業はすぐに終わり、私はその場を離れる。
――――ニョキ、ズズズズズ――――
砂浜から緑の芽が出てきた。
それは直ぐに成長を始め、高さ15メートルくらいの立派な大樹になる。
成長した大樹はどんどん変形してゆき、私のイメージ通りの姿になった。
木の天辺には見張り台があって、キノコの2人掛けソファーが生えている。
天辺まで登れるように、螺旋階段の様な物が生えてきた。
ローザは自分の頬を両手で抓っている。
「…」
「ローザちゃん大丈夫?」
「これは夢?でもいつから?」
「私の魔法だから安心してね」
私はローザの手を取り階段を登ろうとしたが、木が気を利かせて折れ曲がり、直接見張り台に乗せてくれようとする。
そう!今回私が作りたかった物は、ライフセーバーが座る見張り台だった。
ただ大きさと設備が、豪華過ぎる気もしなくもない…どうせならという気持ちで造ったが、用を成せれば問題ないはずだ。
「ありがとー」(花凜)
『初めまして、よろしくお願いします』(見張り台もくちゃん)
硬直したローザを肩に担いで、キノコのソファーに座らせると、私も隣に腰を下ろした。
ちゃんと腰掛けたのを確認すると、もくちゃんは定位置の高さに戻る。
「ごめんねローザちゃん、びっくりしたよね」
「えーと…はい、噂の花凜ちゃんの魔法がこんなに凄いなんて…」
私は嬉しいのか良くわからずに、少し苦笑いになる。
努力して手に入れたものではなく、初めから使えた魔法なので、ローザにキラキラした目を向けられると、ズルをしているような気持ちにもなるのだ。
リオンの話では、魔物は生まれながらに魔法が使えてしまう。
ローザに隠しているつもりは無いが、私の体は人間ではないので、何処か少し後ろめたい気持ちになったのかもしれない。
「目の前で見れて、とても感激です!帰ったら皆に自慢出来ちゃいますよ」
ローザが自分の頬を抓り過ぎて、真っ赤に腫らせながら喋っている。
「ローザちゃんは何をするのも全力なんだね」
「ふぇ?」
私は笑いそうになるのを堪え、指でローザの頬を突っついて治してあげた。
ローザと一緒に居ると、普通とは何なのかを思い出させてもらえる。
もしも何かに悩んでしまった時は、ローザに相談すると良いかもしれない。
「は!急に痛みが消え…やはり夢?」
「夢じゃないってば」
――――グオオ!!――――
急に風向きが変わり、ドクとミーは翼を広げて飛び上がる。
ぶつかり合う魔力が突風となり、強烈な威圧感が迸っていた。
2人の戦いが、とうとう始まるのだ。
ドクとミーの体を守るように、黒い風が複雑に荒れ狂いながらまとわりついていた。
リオンとの模擬戦でも使っていたあの魔法である。
あの頃とは違い、桁違いの魔力が黒い風に注ぎ込まれているようだ。
(2人共いきなり全開なのね)
2人の黒い風はオリジナル魔法で、相手の自由を奪い、リオンを追い詰めた事もある厄介な魔法である。
あの魔法が何なのか、流石のリオンもわからない様子だった。
戦いに関しては、ドクとミーの方がよほど先輩なので、私が何かを言う必要もないだろう。
「ドク、あれやっちゃおう」(ミー)
「うん、あれやろう」(ドク)
(あれ、やっちゃえ!)
何だかわからないが、とりあえず2人を応援する事にした。
――――グオーーーン――――
群れの中で1番大きな魔物が、後方から大声で鳴いた。
しびれを切らしたように、獰猛な牙を剥き出しにしている。
(何て大きな声なの…リーダーなのかしら?)
ドクとミーを敵と認識したようで、魔物達の目の色が真っ赤に変わり、威嚇するように叫び声を上げ始めた。
「そんなに焦らないでくれる?」(ミー)
「ファイヤーウォール」(ドク)
今にも突っ込んで来そうな魔物を見て、ミーが溜め息を吐く。
隣でドクが炎の壁を空中に展開して、シャチの群れと距離をとった。
ファイヤーウォールという魔法は、結界を炎に変えたようなものに見える。
多量の魔力が練り込まれているようで、遠く離れた私達のところにまで熱波が伝わってきた。
「凄いです…まるで太陽が落ちてきたみたい」(ローザ)
私はローザの言葉に頷く。
海上に浮ぶ2つ目の太陽に、魔物達はたじろいでいるようだ。
魔物の姿はシャチに似ているが、不気味な黒い角が生えていて、角からは虹色の魔力を放たれていた。
シャチの魔力量は、今のリオンの約1割程度だろう。
初めてリオンがステータスプレートを使った時は、魔力は9万くらいだった。
しかし、今のリオンの魔力は、軽く15万を超えている…
私は夜中こっそりリオンのベッドに忍び込み、少しずつ生命力の強化をしてあげているのだ。
ただ単に甘えたい気持ちだけで、リオンのベッドに忍び込んでいるのではない。
甘え9割の強化1割だ。
シャチの魔力は個体差があり、大体1万から3万くらいだと思う。
今のミーとドクに、このシャチ達が倒せるだろうか?…魔力だけで言えば、シャチも双子もおなじくらいの魔力量なので、数の不利を考えると厳しいと思った。
昔とは違い、今のミーとドクは、翼が魔力を集めてくれるので、大幅な底上げになっている。
魔力が大きければ大きいほど、強力な身体強化が可能になるので、戦闘がかなり楽になるばずではあるが、一気に攻められれば厳しいと思う。
「ミー姉ちゃん、呼吸を合わせて…」
ドクは深く深呼吸をして、意識を集中していく。
(何をするのかな?)
「任せてドク、貴方は集中して」
2人はシャチを視線に捉えたまま、寄り添い手を握り呼吸を整える。
それは私も見た事ない魔法だった…
2人を包み込むように、黒い風が大量に溢れ出していく。
その風は繭になり、いつの間にか中がまったく見えなくなってしまう。
「初めて見る魔法だよ、なんだろうあれ」
「…」
ローザは息を飲み込むように集中して、2人の戦闘を見守っているようだ。
私も2人の様子を見守っているが、何をするつもりなのかわからない。
ドクとミーは、全ての魔力を注ぎ込んでいるのだろう…溢れ出す魔力の量は、リオンの魔眼に匹敵すると思う。
しかし、私は他の事に注意がむいてしまった。
2人の生命力がどんどん小さくなっていき、変わりに風の繭が力強くなっていく。
中の様子が見えないので、私も不安になってしまうのだ。
どんな強力な魔法を使ったとしても、生命力が変動するなんてありえないと思う。
シャチ達は繭をしばらく警戒していたが、リーダーが群れの先頭に泳ぎ出た。
リーダーの角がキシキシと嫌な音をたて、不気味な虹色の魔力が輝き出す。
不快な音はどんどん大きくなり、リーダーの角が粉々に砕け散った。
「グオーーーン!!」
あの角は魔力のタンク代わりだったのだろう。
砕けた角は純粋な魔力になり、リーダーの体に吸収された。
「まずい!」(花凜)
角の魔力を取り込んだシャチの魔力が、一気に10万以上に膨れ上がった。
突如、ドクとミーを取り巻く空間が歪んだように見えた。
――――ドン!――――
目の前で、ドクとミーの繭が潰されてしまった。
シャチは重力の魔法を使うらしく、炎の壁も黒い風の繭も気にせずに、圧倒的な力で上下から押しつぶしてしまったのだ。
私は立ち上がり、つい呆然としてしまう…どうしてこんな事になってしまったのだろうか。
ドクとミーは魔法を発動するために、炎の壁で自身を守っていたのだ。
(ドクちゃん!ミーちゃん!)
シャチのリーダーは、ドクとミーを薄い板のようになるまで、魔法で潰した。
2人を空中に縫い付けたまま、シャチはこちらをギラリと睨む。
しかし、私の心の中は、それを気にする余裕なんてない。
シャチの群れの1匹が、潰れたドクとミーに突っ込んでいったのだ。
今の2人の状態でも、私に蘇生出来るのだろうか?
板のように押しつぶされてしまったので、中身も同じように潰されているはずだ。
ローザも呆然とその様子を見ていた。
(これ以上…絶対にやらせない)
ローザが隣にいたが、私は気にせずに魔力を解放した。
まだ2人の生命力を感じる事が出来る…しかし、今にも消えてしまいそうなのだ。
街は大騒ぎになるだろうが、今そんな事は気にしていられない。
解放された私の魔力が、すぐにソルの街全体に広がり、全ての草木が鳴きだした。
私は頭がパニックになり、涙が出てきてしまう…戦いに絶対なんて物は無いのだが、あの2人が負けるなんて思ってもいなかった。
見張り台からシルフの魔法で飛び出すと、ドクとミーを狙うシャチ目掛けて高速で飛び込む。
(すぐに全部片付けなきゃ)
シルフの魔法で、両手に風の大剣を作った。
簡単なイメージで作ったので、形はシンプルだが、一撃でシャチを消し飛ばせるくらいの魔力を注ぎ込んでいる。
シャチのリーダーが、私にも重力魔法を向けてきた。
上下から山でも落とされたかのような重圧が、私の飛行を妨げる。
「邪魔をするな!」
私の大声で、シャチのリーダーはたじろぎ、少しだけ魔法が緩んだ気がした。
このままでは2人の所に間に合わないので、右手を振りかぶり、風の大剣を投げつける。
私の投げた風の大剣は、迸る魔力の線をひいて、一直線に2人を狙うシャチに命中すると、シャチをあっさりと両断してしまった。
(まずい!)
切れ味が良すぎたのだ…両断されたシャチは、惰性そのままにミーとドクの潰れた繭に激突する。
微かに感じられていた2つの生命力の1つが消えてしまった。
「なんでよ…どうしてくれるのよ……」(花凜)
生命力が無くなっても、私に蘇生が可能だろうか?
答えは不可能であり、0から造った別の命になってしまう…
私は悔しくて、悲しくて、何より寂しくなった。
2人の戯れる姿や、仲が良くて一緒にリビングでゴロゴロしている姿が好きだったのだ。
ちょっとした事で、それが思い出に変わってしまう…
「ああああああ!」
私は叫ぶと、魔力の波動が海面を波立たせた。
甘えの一切を排除するかのように、自分の頬を左手で殴りつける。
シャチを睨んでから右手の魔法陣に魔力を流し、創造生命魔法も同時に発動させると、周囲を取り囲むように巨大な魔法陣が幾つも現れる。
これはただの魔力結晶を作る魔法ではなく、創造生命魔法も無理やり捩じ込んだので、魔法陣が壊れそうにスパークしていた…
しかし、何とか上手く出来たようだ。
魔法陣から現れたのは、超高密度に圧縮された魔力の種、それが海面に次々落ちていく。
直接地面に魔力を流し込む手間を省き、魔力結晶を媒介として、創造生命魔法を捩じ込んだのである。
――――ドドドドン――――
シャチを取り囲むように、海から巨大な白い木が生えてきた。
(1匹も逃がさない)
シャチ達は怯え、私から最大の距離を取るが、既に鳥籠の中だ。
私はシャチの群れを睨み、大剣を突き付ける。
「その魔物は私の敵だ」
『待って』
「え?」
重力に耐えられるように、頑丈に作ったもくちゃん達に命令を出そうとしたら、いきなり念話で話しかけられる。
聞いた事ない声に、私はキョロキョロしてしまう。
『時間かかっちゃったね…』
「だれ?」
『誰だろう?どっちだろう?』
「え…」
シャチの魔法で潰されて、空中に固定されていた黒い繭が、私に念話を飛ばしてきているらしい。
中からズルズルと、大きなものが這い出してくる。
『新しい魔法、名前はまだないけどね』
2人は死んでいなかったのだ…安心したら肩の力が抜けてしまった。
私はシルフの大剣を消して、涙を拭う。
巨大な黒い影は、大きな狼…いや、シーサーとブルドッグの中間のような見た目をしている…
「…顔が潰れたまんまだよ?」(花凜)
『え?これで大丈夫なんだよ?』(ドク&ミー)
じっくり生命力を見てみると、やはり1つしか見る事が出来ない。
生命力が消えたと思ったのは、2つが1つになったからなのだと思う。
私の心の影響を受けて、白いもくちゃんは動かなかった。
『それじゃあ始め…花凜ちゃん?』
私を恐れて固まっているシャチを無視して、合体した2人の顔に抱きついた。
「なんで言ってくれなかったのよ!心配したでしょ!」
『だって潰されるなんて思ってなかっ…』
――――ゴン――――
私はシーサーをゲンコツする。
お仕置きが必要である。
『ちょっと、さっきの魔法より痛…』
――――ゴン――――
『待ってー、やめてー』
――――ゴン――――
『ごめん、ごめんってばー』
謝ったので今は許してあげよう…
私はシーサーの頭を撫でてあげた。
「残りは倒せる?」
『大丈夫!任せて』
シーサーの巨体は、全長8メートルくらいあって、とても迫力がある。
中身はドクとミーなので、このサイズになっても尻尾は振るらしい。
頭を撫でると、嬉しそうないつもの反応が返ってくる。
シャチ達は我を取り戻すと、私から逃げようとして、白いもくちゃんに、体当たりや重力弾を打ち込んだりしているようだ。
「じゃあ後は任せるね!その魔法は、サーターアンダギーを名乗ると良いわ」
『サーター…?え?』
「サーターアンダギーだよ」
『んー、わかった!本当は神黒狼に』
「だめ」
『う、うん…なんだかわからないけど、サーターアンダギーも強そうだから良いかな』
「頑張ってね」
折角の新魔法なので、私が命名した。
ドクとミーも心良く了解してくれたので、後は任せようと思う。
私は魔力を遮断して、戻ろうとしたが、最後に一言だけ2人に言っておくのだ。
「帰ったらお仕置きだからね」
『ええええ〜』
直ぐにローザの元へ戻ると、ローザは目を開けたまま固まって気絶している。
ロナウドも昔同じ状態になった事があった。
「ローザちゃーん」
返事がない…ただの黒髪シスターのようだ…
私はソファーに腰掛けると、ローザの上半身を膝の上に優しく倒した。
無理のない程度にうつ伏せをさせて、服の背中にシルフの魔法で穴を開ける。
真っ白い背中が剥き出しになり、肩甲骨が良く見えるようになった。
(やっぱりシスターって言ったら天使かな?)
穴がほつれないようにしっかりと糸で縫い、綺麗な白い翼を付けてあげた。
すべすべの翼は触ると気持ちがいい。
「花凛ちゃん、擽ったいよー」
「おはよーローザちゃん」
「私確か気を失ってて…」
ローザは状況の確認をしているようだ。
海から巨大な白い木が生えている事に驚愕して、目を翼で擦った。
次は当然の如く動く翼に驚いている。
「その翼があれば自由に空を飛べるからね」(花凜)
「はい、何となくわかります…既に体の一部みたいに感じますよ」(ローザ)
ローザは少し考えてから、私を見て口を開く。
「花凜ちゃんは、本物の妖精王様なんですね」
ガッツにも言われたが、不本意ながら妖精王の証を装備しているので、私は妖精王らしい…
しかし、妖精王は何を考えているのか、本当に良くわからない奴だ。
一緒にされるのは少し嫌だけど、無理に否定するのも面倒だと思い、正直に話す事にした。
「んー…一応本物の妖精王だよ?なりゆきでね…これが妖精王の証らしいよ?」(花凜)
「綺麗な指輪だと思ってましたが、やっぱりこれが…」(ローザ)
「見た事あるの?」(花凜)
「絵本で見た事がありました」(ローザ)
ローザの興味が指輪に移った所で、私には少しやる事がある。
『ソルの街のもくちゃん達にお願いがあります。住人に状況を説明して下さい…それと、お騒がせしてすいませんでしたと全員に伝えて下さい』
もくちゃんに指示を出したので、これでとりあえず安心だろう。
『花凜、大丈夫か?』
「リオン!」
リオンは元の猫型で、急いで駆け付けてくれたようだ。
「リオン様なのですか?」
ローザはリオンの姿を見て、口を開いてびっくりしている。
リオンも元の姿になると、とても大きく迫力があるのだ。
「驚かせたようだな、お前は誰だ?」
「わ、私はローザですー」
リオンが人の姿に戻り、ローザを睨んだ。
少し言葉が辛辣になったのは、教会のシスターだからだろう。
「私の花凜だ」
シスターとかは関係無かったらしく、ローザの首根っこを掴み、2人掛けのソファーから引っこ抜くと、その場所を奪い取った。
きっと私が魔力を解放して戦ったので、心配になった反動だと思う。
突然の仕打ちに涙目になるローザ…可哀想だったので、キノコの椅子をもう1つ作ってあげた。
「あの魔法は初めて見るな…かなり強いのではないか?」
リオンはドクとミーの合体した姿を見て、興味津々だ。
私も気になりチラチラ見ていたが、火を吹いたり放電したり出来るようだ。
音も無く高速で移動し、攻撃されても霧散して再構築される。
さっき私が浜辺に戻ったので、今しか逃げるチャンスが無いと思い、全力で合体サーターアンダギーと戦っているようだ。
しばらく戦いを見守っていると、高速で何かの気配が近づいて来る。
私とリオンはすぐに気付いて警戒するが、どうやら知人のようだ。
「花凜伯爵様、どうか力をお貸し下さい」
「どうしたの?確かクリフさんでしたよね」
クリフは絆の宿で働くミミックの部下だ。
いつもと様子が違い、ふざけた態度はしていない…
ここまで全力で走ってきたのだろう…全身汗だくになっているが、それを気にしている様子もない。
もくちゃんの見張り台に駆け上がってきて、クリフは目の前で跪いた。
「ミミックが危険かもしれません!」
「どういうこと?」
クリフの真剣な表情からも読み取れる焦りが、ミミックの置かれた状況を表しているようだ。
私も真剣な表情になり、クリフの言葉を聞き漏らさないように集中する。
「この海岸沿いを、南に2時間くらい砂上高速艇で進んだ先に、パンメイラと言う村があるのですが、魔物の群れが出現したそうです!ミミックはAランクチームを3つ編成して、早朝この街を出発しました…もう終わっても良い頃だと思ってましたが、緊急連絡用魔道具が警報を出したのです」
緊急連絡用魔道具とはどんな物だろうか?砂上高速艇も気になるが、それよりも気になる事がある。
「ミミックさんも向かったの?」
「はい…各地から海の魔物被害が報告されていて、冒険者が足りていないのです」
「ミミックさんは無事?」
「…今は何とか持ち堪えているようですが、サハギンの群れがどんどん上陸してきて、撤退も絶望的だと連絡が入りました」
クリフはとても悔しそうな顔になった。
ローザは顔色が悪くなり、椅子から立ち上がる。
クリフは普段ふざけているので、こんなに真剣な顔をするとは想像出来なかった。
「どうかお願い致します…ミミックはこの街に居なきゃいけない人間なのです…妖精王花凜伯爵様にしか頼めません!」
ドクとミーの戦闘は問題無いと思うので、この場所はリオンに任せても大丈夫だろう。
「わかりました!リオン、ローザちゃん、行ってくるね」
「ああ、こちらは任せておけ」
リオンは私の意図を汲み取り、すぐに了承した。
私はすぐに転移しようと思ったが、何故かローザにコートを掴まれてしまった。
私がローザを見ると必死な顔をしていて、目に涙を溜めている。
「花凜ちゃん、私も連れて行って下さい」
「危ないよ?ここで待ってて、ね?」
ローザを連れて行くのは危ないだろう…戦いは何があるかわからないので、大人しく待っていて欲しいのだ。
私は優しく語りかけたが、ローザは首を振って抗議する。
「パンメイラには私のおじいちゃんがいるの、だからお願いします」(ローザ)
「なるほどね…わかった」(花凜)
「いいのか?」(リオン)
南の村にはローザの家族がいるようだ…
私はしょうがないと思ったが、リオンがいいのか?と聞いてくる。
「うん、1人は嫌だもんね…生きるのも死ぬのも」
ローザの頭を撫で、リオンに向かって頷いた。
リオンは軽く微笑むと、ドクとミーに向き直り、右手をひらひらする。
(まずは転移しなきゃ状況がわからないよね)
私はローザをしっかり抱えて、ミミックの元へ転移した。




