支え合い、ソル城
私はミラに、マヨネーズ、照り焼きソース、ケチャップの作り方を教えた。
「凄いね花凜、酢と油を卵で混ぜるなんて、私今まで知らなかったよ」
「ふふふ、マヨネーズはいつでも美味しいの!マヨネーズは正義!」
「この照り焼きソースも美味しい」
「ふふふ、照り焼きも正義だよ」
「この赤いのは?」
「それこそ正義のリーダーの証!」
「あはは、正義ばっかりだね」
ミラから褒められて、私は得意げになる。
私が1から考えたソースではないけど、細かい事は気にしないのだ。
ミラという友達が出来て、私は心から嬉しかったのだ。
リオンは私の中で、既に家族のような感じになっている。
その関係に優劣をつけるわけではないが、私が守りたいと思う気持ちに、違いなどは無い…
強いて違いを言うならば、リオンが私の保護者で、ミラは私が保護者のようなものだ。
守りたい物が、どんどん増えていく…
きっと幸せと言うものは、好きな人が笑顔でいる事なんだと思う。
だから私は、ミラの笑顔が見れて、今とても幸せなんだろう。
(もっともっともっともっと…私はもっと幸せになりたい)
私の心は、自分でも理解できるくらい矛盾だらけだ…
その場その場で切り替わり、一所に留まる事がない。
私の心は、日本に居た頃とはかなり変わってきている。
この世界は、少し歩くだけで、すぐに悲しみにぶつかってしまうのだ…
「ミラ、私は仕事があるからまた来るね」(花凜)
「ありがとう花凜、いつでも来てね」(ミラ)
「またねカイト君」(花凜)
「またな、花凜」(カイト)
ミラに別れを告げ、カイトの頭をポンポン撫でる。
ミラとカイトの家を出て、私は旧王城跡地に向かった。
大通りは人で溢れていて、すれ違う人々が、私には幸せそうに見えた。
その事が少し疑問に思ったのだ。
皆無理をしているのだろうか?その笑顔は本物なのだろうか?
悲しみの多いこの世界で、活気に満ちた街は不自然じゃないだろうか?
考え始めたら、街は急に怖い物に思えてきて、私は体に力が入らなくなり、暗い感情が心を支配していく。
私はとても気持ち悪くなり、人目につかない路地裏に隠れ、うずくまった。
(わからない…どうして…)
日本とは違うこの世界と、私はどんな風に向き合ったら良いのだろうか?
『パパ…パパ…』
『ん?花凜か?…どうしたんだ?』
私はロナウドに念話を繋ぐと、何を話したら良いのかわからずに、上手く言葉が出てこない…
『大丈夫か?…何かあったのか?』
『…』
『………俺には、今花凜に何があったのかはわからないが…そうだな…きっと大丈夫だぞ?』
ロナウドが、きっと大丈夫だと言った。
私はそれを聞いて、我慢していた涙が出てきてしまう。
『……パパ、この世界は、私の生きてきた世界より、もっと身近に死があるように思う……それなのに、どうして皆、笑っていられるの?』
『…』
今度はロナウドが黙ってしまった。
この世界しか知らないロナウドに、いきなりこんな質問しても、困ってしまうのは当たり前だろう…
『街の人は、皆無理をして笑ってるのかな?幸せそうなフリをしているのかな?私は…』
『…それは違うな、俺は花凜の生きてきた世界はわからないが、確かに人間なんてものは脆いもんだ。でもな、死が身近にあるからこそ、今笑わなくてどうするんだ?笑った数が幸せなら、いつ死ぬかわからないからこそ、俯いてる暇なんてないじゃないか。それにな、俺は笑顔の花凜が大好きなんだ。辛い気持ちはな、皆で分け合えばいいんだよ』
ロナウドはゆっくりと、私に諭すように念話を返してくれる。
『…死が身近にあるからこそ笑う…そっか…そうなんだね。私も、パパや皆が笑顔だと嬉しい』
『だから、誰も無理して笑っているわけじゃないんだよ。俺は上手く言えないが…ああ、上手く動く口でも付けてくれないか?』
『パパ、エルお兄ちゃんと同じ事言ってる』
『あっはっは、あいつも不器用だからな、俺譲りだろう』
ロナウドのお陰で、落ち込んでた気分もすっかり元に戻った。
私はまた1つ、ロナウドに教えてもらったのだ。
私が笑顔だと、喜ぶ人がいる事を。
ソルの街の人達は、皆が皆を支え合っている。
(そうか…支え合うのが人だったんだ…もう少し単純に考えればよかったんだね)
『パパ、ありがとう!もう大丈夫だよ』
『おう!またいつでも言ってくれ』
私は大通りに戻り、歩き出した。
さっきとは違い、街の人達の笑顔が、とても優しいものに見えた。
自然と私の顔も、つられて緩んでしまいそうになるが、1人でニヤニヤするのは、周りから見たら気持ち悪いだろう…
街の人達の笑顔に、嘘などは無い…それが私にはどうしようもなく嬉しかったのだ。
私に気付いた人達が、皆慌てて跪くので、商売の邪魔をしたら悪いと思い、私はシルフの魔法で、空に浮かび上がる。
旧王城跡地まではもう少しなのだ。
私の飛ぶ姿を見て、びっくりする人が多いみたいなので、空を飛べる魔法は難しいのかもしれない。
ふわふわゆっくり飛びながら、忘れていた残りのたまごタルトを取り出して齧る。
(ミラにタルトあげるの忘れちゃった)
旧王城に向かいながら、破壊した城の瓦礫をどうするか考えていた。
しかし、見えてきたのは瓦礫の山ではなく、どこまでも平らな平野になっていた。
(ほとんど片付いてるじゃん!)
何も無いと、とても広くみえる。
「あ!花凜ちゃーん」
少し遠くからミーの呼ぶ声が聞こえたので、私はそちらを向いた。
ドクとミーと知らない人が、一緒に佇んでいる。
私はミーの側にふわりと降り立った。
「なんだか良い匂いがするね」
ドクが匂いに気付き、私の手に持っている物を見た。
「どうぞ」
「おぉ〜…ありがとう花凜ちゃん」
ドクにタルトを1つ渡したのだが、ミーも欲しそうにしていたので、ミーにもタルトを渡した。
「花凜伯爵様!私の事は覚えていらっしゃいますでしょうか?」
知らない人だと思っていたが、私と面識があるらしい…
少し高そうな白いシャツに、膝下までのゆったりした焦げ茶色のズボン、普段外仕事でもしているかのように、肌は日に焼けている。
髪の毛は短く、爽やかな印象を受けた。
(え?だれ?)
「今日は普段着なのでわからないかもしれませんね」
「ごめんなさい…」
「ソルの出入りを管理しています。衛兵のガレッジです!」
「あ!」
私はやっと思い出す事が出来た。
この人は、身分証もお金も無かった時に、ソルの街に入る事を許可してくれた人だ。
列に並んでいた人達の助けもあり、何とか街に入れてもらえたのだった。
「あ、あの時はありがとうございました」
私は深々と頭を下げ、ガレッジに御礼を言う。
「いいえ!私の目に狂いは無かったようで」
(……え?…どういう事?)
ガレッジは跪き、私に頭を下げる…顔がキリっとしていて、私にはわかっていましたよ?みたいな雰囲気だった。
私はそれを見て、苦笑いになってしまった。
「あはは…いつもの兵士さんの格好じゃないから、すぐわからなかったよ…よろしくね!ガレッジさん」
「今後ともよろしくお願いします」
私はもう一度周りを見渡した。
何も無いので、すぐに城を作る事が出来そうだ。
「瓦礫がすっかり無くなってるね…」
「兵士皆で片付けました…鬼の仕業とは言え、酷い有様でしたよ」
旧王城に住んでいた公爵を、襲撃して誘拐したのは私だ…
ガレッジの言葉を聞いて、ドクとミーが私をチラ見してきた。
もしかしたらリグルートが、事実をねじ曲げたのではないだろうか…
わざわざ否定する事もないので、話を合わせるように頷いた。
「ではこれから新しい城を作りますね」
「へ?城を作るんですか?」
「うん、少し離れていて下さい」
ガレッジは、言葉の意味がわからない様子だ。
しかしそのままの意味なので、説明するより作ってしまった方が早いだろう。
(んー…この妖精王の指輪があれば、何とかなるかな?)
私はラグホーム王国の王城をイメージしていた。
(形は少し単純にするけど、凄く頑丈な木にしよう…)
私の創造生命魔法は、本来ならもっと色々な物を作れるはずなのだが、鉄や石は今も作る事が出来ない…
有機物なら大丈夫だが、無機物は難しいのだ。
しかし限りなく頑丈に作る事は可能なので、強度は問題ないだろう。
私は更地の中央に移動すると、しゃがんで地面に両手をついた。
(創造生命魔法…)
魔力が外に漏れないように、ゆっくり地面に魔力を集めていく。
(思ったより時間がかかりそう)
私は目を閉じて、地面に手をついた体制のまま、約15分が経過する。
結構時間がかかっているので、ドクとミーもこちらを気にしているようだ。
私は目を閉じていても、周りの状況は大体把握する事が出来るので、余り意味は無いかもしれないが、集中する時の癖になっているのかもしれない。
(ちょっと欲張り過ぎたかな?…かなり大掛かりな魔法になっちゃったけど、備えあれば憂いなしって言うからね♪)
それから更に10分後、やっと王城の芽が出てきて、私は安心した。
魔力の遮断を気にしなくても、これを作るには5分はかかりそうだ。
しかし妖精王の指輪の力は凄い…
魔力の流れに無駄が無くなり、発動速度が早くなり、魔力を手足の如く動かせるようになる。
これなら、コルローにもらった魔道具は必要無くなるだろう。
魔力を手足にすればいいのだ。
妖精王に次に会ったら、この指輪の御礼…ミス…また違う物を要求しようと思う。
「出来たよー」
私は満足して3人の所にもどると、意味がわからないガレッジは困惑顔だ。
ミーとドクは、これから何が起きるのか、よくわかっているので落ち着いている。
――――ゴゴゴゴゴゴ…ズ…ズズズ――――
私の魔力が形を変えて、地響きと共に大地が揺れる。
「な、なんだ!?」(ガレッジ)
「まあまあ…見てればわかるって」(ドク)
驚くガレッジを、ドクが肩に手を置き落ち着かせる。
地面から、5本の巨大な木が生えてきた。
それはどんどん姿を変えて、巨大な城の形になる。
城の壁は滑らかで、白くつやつやしていた。
屋根の部分をとんがり帽子にして、色は青緑になっている。。
城の四方には見張り台があって、ソルの街全体が良く見えるようにしたのだ。
「んー…やり過ぎたかな?ラグホームの王城より3倍はでかいよね?」(花凜)
「うん、大きい…それにお城綺麗だね」(ミー)
「中には誰か居るの?」(ドク)
「今は誰もいなーい」(花凜)
「あ、あはは…」(ガレッジ)
ガレッジは、考える事を放棄して笑っている。
人間の魔力量からすれば、ここまでの規模の魔法を成功させるのには、長い年月と人数が必要になるだろう。
この街で衛兵を続けるなら、これくらいの非常識は日常だと思って欲しいものだ。
「ちょっと中見てきていいかなー?」(ドク)
「大丈夫だよー」(花凜)
「中がどうなってるのか楽しみね」(ミー)
ドクとミーは楽しそうに城に入って行った。
四方の塔の高さは約60メートルあり、中央の塔は100メートルはある。
しかしこの城は、見えない部分に力を入れている。
ガレッジは、やっと理解が追いついてきたようで、驚愕の顔をしているが、私を質問攻めにするわけにもいかず、顔を苦笑いに切り替えて、呆然とその城を眺めていた。
「ガレッジさん、私行く所があるから、わからない事はドクちゃんとミーちゃんに聞いてね」
「は、はい!花凜伯爵様!!」
ガレッジの態度が、さっきよりも更に改まっていて、この世界で初めての敬礼を見る事が出来た。
私は城の近くまで歩くと、城に話しかける。
「貴方の名前は、ソル城ね!これからよろしく」
『はい!これからよろしくお願いします!花凜様』
私が笑顔で話しかけると、ソル城から元気に念話で返事が返ってきた。
名前がそのまま過ぎる気もしたけど、そっちの方が住民が覚え易いと思ったのだ。
いきなり出現したソル城に、街は軽いパニックになっている。
危険があるわけじゃないのがわかると、人がどんどん集まってきた。
「ガレッジさん、この城の1階部分と、四方の塔には、一般人出入り自由にします」
「はい!」
「今日は休日を楽しんで下さいね」
「ありがとうございます!いってらっしゃいませ!花凜伯爵様!」
ガレッジと初めて会った時の事を思い出すと、なんだか不思議な違和感はある…
もう少し楽な態度で対応してほしいのだけど、民主主義の考え方を求めても理解はされないだろう。
神は人の上に人を造らず…
(少しずつ馴染んでもらいたいな)
私はこれからコルローの所へ行くつもりだ。
コルローなら狂人化について何か知っているはずだ。
(ミラ、私頑張るからね!)




