ラウリールとエル(2)
【エル視点】
(大変な事になったな…この人達は怪しいけど、俺…踊りなんて知らないんだよな)
旅芸人などが、街に踊りを披露しにきたりする事はあるが、この国伝統の踊りなんてものは知らなかった。
この怪しい人達が同様するかもと思い、伝統の踊りをするように言ったのだ。
(どうしよう…)
ラウリー達は同様するどころか、踊りを踊れるらしい…
自信たっぷりなその顔からは、嘘だと感じさせない何かがあったのだ。
「エルさん、僕らそろそろ始めたいんで、中央の椅子に座って下さい」
「あ、ああ!わかった!」
ラウリー達は、部屋の中を片付けて、踊りやすい空間にした。
ラウリーが真ん中に椅子を置くと、俺をそこに座るように指示をしてくる。
俺はラウリーに言われるがままに、椅子へ腰掛けた。
(それにしても凄い格好だな…)
この4人は、全員薄布1枚と下着を着用しているようだ。
「そんな格好で踊るのかい?」(エル)
「…確かに言いたい事はわかります…しかし、こちらにも女性が居ますので、全部脱ぐわけにも…」(ラウリー)
「ああ!そ、そうだよね!」(エル)
本来は裸でやる踊りなのだろうか?
変な人達に囲まれて、何故か変な汗が出てくる…
「どぅんどことっとーどぅんどことっとーどぅんどことっとー…ハ!!」
「「「ハ!!」」」
リークと呼ばれていた男性が、俺の座る椅子の後ろで、声でリズムをとっている。
それに合わせて、ラウリー達は掛け声を合わせ始めた。
俺の目の前には、他の3人が横1列に並んでいる。
皆真剣な表情だった。
真ん中にラウリー、右側にシルーキ、左側にキリスだ。
掛け声に合わせて、3人は腰を振りだした。
(ん?後ろのリークさん…着替える必要あった?)
ただ腰を振るだけの踊りなのだろうか?
その腰振りは、約10分間続く事になる。
皆じんわり汗をかいてきたようだ。
窓の外の空が、雲に覆われ、今にも降り出しそうなのが見えた。
(この国に雨雲なんて珍しいな…ん?まさか!)
「ハイヤ!ホッホ!ハイヤ!ホッホ!」
「「「雨よ降ーれー雨よ降ーれー」」」
いきなりリークの掛け声が変わり、ラウリー達は土下座のような体制になる。
腕を一直線に伸ばし、床と天井を何度も往復させるように動かした。
天に捧げる祈りのように、全員の顔は真面目なものだった。
遊び半分でやっているのでは無いのだろう。
4人の魔力が一つに重なり合い、不思議な波動を発生させる。
「なにこれ…」(エル)
ついつい言葉に出てしまったが、俺が踊りを知らないと悟られるわけにはいかないだろう。
踊りに真剣過ぎる彼等を見ていたら、俺は冷や汗が止まらなくなってしまう…
この踊りは、雨乞いの踊りで間違いないだろう。
踊りの知識がない俺も、これなら1度見ただけで忘れないと思う。
(これは…踊り知りませんでしたって、言えないよね…)
宿の外に雨が振り出したようだ…外を歩いていた人達が、歓喜の声を上げている。
(凄い…本当に雨を降らせちゃったよ)
ラウリー達は、見事に雨乞いに成功したのだ。
複雑な気持ち半分、感動半分で、何とも言えない気持ちだ。
「どうですか?エルさん!僕達の踊りは!」(ラウリー)
額に汗を浮かべながら、ラウリーは爽やかな笑顔を送ってくる。
「うん…良いんじゃないかな?」(エル)
(もうそれしか言えねーよ…)
「あー良かった…」(ラウリール)
ラウリーの言葉に、俺は適当に返事をする。
そもそも踊りを踊ってもらったからって、疑いを晴らす判断材料にはならないのだけども…
(どうしよう)
シルーキという女性が、恥ずかしそうに身を丸めていた。
俺は申し訳ない気持ちでいっぱいだ…しかしこれ以上何かを言うわけにはいかないだろう。
「お疲れ様、恥ずかしかったよね?ごめんなさい…」(エル)
(本当にすいませんでした!)
俺は片付けられたテーブルの上に目をやると、紺色の布を取り、シルーキさんの体に掛けてあげる。
「ありがとうございます」(シルーキ)
「いえいえ…あれ?ラウリーさん…ん?」(エル)
ラウリーに声をかけようと思ったら、ラウリーが居ない…
(あれ?どこ行った?)
「あ、あはは、お疲れ様」(ラウリー)
急に背後からラウリーの声が聞こえてきて、俺は少し動揺した。
(速い…本当に駆け出し冒険者なのか?ますますわからないよ…)
油断していたつもりはないが、こんなにも簡単に背後をとられてしまうとは…
振り返ると、ラウリーが真っ二つに切れた鏡を持っているようだ。
(あれは魔道具じゃなかったのかな?)
ラウリーは、何故か半分涙目になっているようだ。
踊りを止めると雨も止むらしく、外には晴れ晴れとした空が広がっている。
――――バタン――――
扉を蹴破る勢いで、1人の老婆が駆け込んできた。
俺も皆もびっくりして、その老婆を見つめた。
老婆もこの部屋の状況を見て、びっくりしている様子だ。
(部屋間違えたのかな?)
「失礼ですが、貴方は何方様でしょうか?」(ラウリー)
「わしゃ、この国で雨乞いの研究をしている、クラスジーナと言う…雨乞いを成功させたのは、お主達か?」
部屋を間違えたわけではないらしい…
老婆は早口で、自分の事を話しながら、どんどん部屋の中へ入ってくる。
ラウリー達の知り合いでもないらしく、みんな困惑の表情を浮かべていた。
「僕はラウリーと言います。僕達の踊りの完成度を、エルさんに見てもらっていました」
「なんと!エルとは、最近噂になっている冒険者ではないか!」
「ええ、たくさんの2つ名を持っていて、僕達の目標です」
ラウリーは俺の方を向き、ウインクしてきた。
(そんな言い方したら、俺が指導していたみたいじゃないか…)
まだ疑いを捨てたわけではないが、この老婆の出現に、気が削がれてしまった。
「昔の伝承や本や遺跡などなど…わしゃあ雨乞いに関するものを数多く調べたが、雨乞いの踊りを知る者や、踊り方を書き記した書物などは、何処を探しても見つからなかった…流石2つ名持ちの冒険者じゃ!」
(え?どうしよ…知らないとは言えないしな…)
「あはは、そんな大袈裟な物じゃないですよ」
俺は、適当に誤魔化す事にした。
「今この国は、水が少なくて大変なんじゃ…わしゃ必死に20年も雨乞いの踊りを探してきたが、遂に見つからずでの…こうしちゃおれん!今すぐ祭壇の準備じゃ!」
クラスジーナは、祭壇を設置すると言い残し、凄い速さで部屋を出ていった。
「王も喜ぶぞ~」(クラスジーナ)
祭壇を作って、今の踊りを広めたいのだろうか?
(ラウリーさん達…これから大変かもな…)
確かに雨の少ないラグホームでは、水は貴重な物なのだ。
雨乞いにより、好きに雨を降らせる事が出来れば、この国はもっと豊かになるだろう。
「僕達は少し疲れてしまったみたいだ…また今度呼ばせて下さい!エルさんありがとうございました」(ラウリー)
「あ、うん…お疲れ様!ランク低いうちは、色々大変だと思うけど、頑張ってね」(エル)
「「「「ありがとうございました。」」」」
(この街の冒険者みたいだし、またすぐに会う事になるだろうな)
怪しいところはあるが、この人達が悪者には見えない…
自分もこの街にしばらく居るつもりなので、正体を確かめる機会はあるだろう。
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【ラウリール視点】
エルが帰り、安心したせいか、皆その場に崩れ落ちた。
失った物は大きいが、エルの前で半端な事は許されないと思ったのだ。
フリークは空気椅子の姿勢で、ずっと声を出していたので、かなり疲労した顔になっている。
シルキーは現実逃避するように、遠い目をしていた。
「大丈夫かい?シルキー」(ラウリール)
「はい…恥ずか死するところでしたが…」(シルキー)
「ラウリール様、どうして千里眼の鏡を、真っ二つに切り裂いたのですか?」(フリーク)
フリークは、心配そうにこちらを見てきた。
この鏡は、国から借り受けている大変高価な物だ…しかし、あの状況では、ああする他なかったのだ。
エルが鏡にかけてあった紺色の布をサッと手に取り、シルキーの体を隠したので、鏡の映像が見えてしまっていた。
僕はそれを見た瞬間、鏡の前へ移動して、手刀で両断したのだ。
魔力で鏡を制御する時間などは無い…
「あの状況じゃ仕方なかったのだよ…この国の戦力を探っていたから、いかがわし………ゴホン…疑わしい物は見せられないだろ?」(ラウリール)
「いかがわ?…まあとりあえずは、鏡も無い以上、この街の情報収集は終わりましたね」(フリーク)
「…………」(シルキー)
「ソルに向かうなら、定期便が出ているらしいですよ」(キース)
キースはソルに行ったことが無いので、一気に転移する事は出来ない。
ここからはソリ馬車か魔道8輪を借りる事になるだろうが、もっと速く移動出来る手段が無いかどうか探す予定だ。
「まあここまで来たら、焦る必要はないさ。僕が乗り物を探して来るから、3人は食料と水をお願いね!出発は夜だからよろしく」
「「「はい!」」」
(もう少しだ…世界樹を必ず持ち帰ってみせる!)
しかしもう少し情報が欲しいところだ…
世界樹と直接戦ったであろう彼等に、話を聞きに行くべきかもしれない。
「ちょっと僕は牢屋を見に行って来るよ」(ラウリール)
「何をそんなに軽々しく言ってるんですか!城に潜入するなんて危険すぎますよ!まさか救出なさるのですか?」(シルキー)
「そうですよ!ラウリール様が捕まったりすれば、それこそ国の一大事です」(フリーク)
「いや、待ってくれ!彼等の与えられた任務は知らないけど、直接戦った経験を聞きに行こうかと思うんだ…これは僕達の作戦の成功率を上げるためには必要な事なんだ…わかるだろう?」(ラウリール)
「私も行きます」(シルキー)
「いや…牢屋のある階は城の最下層だし、中では魔法を使えない可能性が高い。危険を減らすために、僕1人の方が都合が良いんだよ」(ラウリール)
みんなが心配そうな顔を向けてくる…しかし、他のメンバーには任せる事が出来ない。
魔法が使えない状況下では、僕以外使い物にならないであろう…
「大丈夫さ!僕は最速の男!サッと行ってすぐ帰って来るよ」(ラウリール)
「確かにラウリール様であれば、こんな田舎国の地下牢くらい楽勝ですよね」(キース)
「油断は禁物です…くれぐれも気を付けて下さい」(フリーク)
「ラウリール様…」(シルキー)
「もし危なくなれば、僕は自分の封印を解く!何も問題は無い」(ラウリール)
「封印ネタを封印して下さい」(フリーク)
「門が閉まるまで、そんなに時間も無いですよ?」(キース)
「わかってるさ。無理はしないから安心してくれ」(ラウリール)
時間も無いのですぐに行く事にした。
部屋のドアを開けて、颯爽と歩き出す。
着替えるのを忘れて、すぐに引き返したのは言うまでもない…




