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ラウリールとエル(1)





「もう行くのか姉ちゃん」

「ええ、ありがとうございました」


 シルキーとフリークは、ラグホームにある絆の宿の酒場で、情報収集をおこなっていた。


「フリークさん、今の話、どう思いますか?」


 シルキーとフリークは、絆の宿で話を聞いた後、一緒に石畳の上を歩いていた。


 周りには様々な屋台、レンガで囲われた花壇、魔導車などが、歩行の邪魔にならないように、気を配られて配置されている。


 しかし人が多すぎるので、油断するとはぐれてしまうかもしれない。


 フリークは、混み合う通りを眺めながら、難しい顔をしていたが、そこにシルキーが話しかけたのだった。


「そうだね…んー、急に現れた冒険者チーム、妖精王花凜か…

ラウリール様はとても気にしておられる様子だった。

今の話も、本当かどうか怪しいけど、もう1度皆で話し合うべきだろうね。シルキーは可能だと思うかい?」

「あの傲慢な飛竜軍団が、たった4人に負けたとか、私には信じられないわよ…

1人1人が、ラウリール様や、私達くらい強いかもしれないって事かしら?」


 シルキーとフリークは、2人揃って、深い溜め息を吐いた。


 この2人は、結構仲が良かったりする。


 キースとラウリールが、2人で調査する事が多く、シルキーとフリークは、いつも2人きりにされていた。


 自然と距離は近づくというものである。


 現在、エンファイト騎士団の、ラウリール、キース、フリーク、シルキーの4人は、ラグホーム王国で、2手に別れ情報収集をしていた。


 ラウリールとキースは、部屋で千里眼を使い、調査しなければならない事があると言い、外の情報集めには、フリークとシルキーが任せられている。


 キースは度重なる長距離転移で、かなり疲労していた。


 今回ラグホーム王国に来たのは、ここから北東で、大規模な魔力の反応があったからだ。


 その魔力の量は、尋常ではなかった…


 ラウリールの感では、何かに化けた世界樹の可能性が、非常に高いらしい…


 そこで、情報を集めに絆の宿に行ったのだが、状況は良くないと言わざるを得ない。


 その世界樹かもしれない存在が、今では国の英雄で、伯爵になり、領地まで持ち、ナンバー7の冒険者だと言うのだ。


 シルキーの念話でラウリールに報告したところ、キースの魔力が回復したら、すぐにソルの街へ出発する事になった。


「まあ、今から考えても、仕方がないか…」

「そうね……」

「どうした?シルキー?」


 シルキーの浮かない表情に、フリークが声をかけた。


 考えている事は、なんとなくわかる…


 フリークも、同じ事を考えていたのだ。


「他国に潜入任務だから、仕方ないけど、本体と切り離された現状で、本当に連れ去る事が可能かしら?」(シルキー)

「倒してしまったら、世界樹の姿に戻るかもしれないって事だろ?そうなってしまったら、1割も回収出来ないだろうな…

眠らせて、キースの転移を使うしかないだろう」(フリーク)

「そうなると、先に王様に伝えといた方がいいかな?」(シルキー)

「そこは、ラウリール様に、後で確認しよう」(フリーク)


 フリークとシルキーは、話し合いをしながらも、達人の足運びで、人混みなど無いかのように、ラウリールとキースの待つ宿へ歩いていった。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




 扉もカーテンも閉ざし、ラウリールとキースの任務は、開始された。


 千里眼の鏡を使い、ラグホームの戦力を確認しなければならないのだ。


 しかし、2人の任務は難航し、何かの対策がされているのかもしれない…


 キースは有り余る才能をフルに使い、ラウリールが助言をして、何とかその場所を見つける事が出来た。


「ラウリール様!こんなの…こんなの…見た事がありません…」


 キースの両目から、涙が流れていた。


 ラウリールは、キースの気持ちが凄くよくわかる。


 キースの肩に手を起き、軽く頷いた。


 それは…一言で言うなら兵器…爆弾だろうか?


「ああ、こんな物は…みたらしでは確認出来なかったな…僕でもわかるよ、凄い破壊力だ」


 その時、宿の廊下から、足音が近づいて来たのがわかった。


 ラウリールとキースの顔に、焦りと悔しさが浮かんだ。


「くそ!!!!!ここまでか!!!!!」(キース)

「うぅ…仕方ない…これは、僕達の極秘任務だ!速やかに鏡を隠してくれ」(ラウリール)


 キースは、すぐに千里眼の鏡を紺色の布で覆い隠す。


 ラウリールはカーテンを開くと、窓に映った自分の顔が、涙に濡れているのがわかった。


 勢い良く、左手の人差し指で、自分の顔の涙を拭い、振り払う。


 宙に舞う輝く雫は、何よりも綺麗で、純粋な気持ちが込められていたのだ。


 もっと神秘が見たい!


 しかしフリークとシルキーに、悟られるわけにはいかないので、慎重に行動する必要がある。


「ん?これは…足音が1人だぞ?」(ラウリール)


 ラウリールが、真剣な顔つきになった。


 息を呑むキース…


――――コンコン――――


「すいませーん、絆の宿から、ここに来るように、言われた者です」


 ラウリールとキースは、忘れていた。


 妖精王花凜と、縁のある人物の仲介を、絆の宿にお願いしていたのだった。


「は、入ってくれ!」


 キースが、扉の外の人物に聞こえるように、少し大きめに声をかけた。


 扉を開けて入ってきた男は、くせっ毛の短い短髪、青い瞳をした若い男性だった。


 革鎧に身を包み、普通の冒険者に見えなくもないが、かなりの手練だと噂に聞いていた。


 お金には困っていない様子で、見事なミスリルの剣を装備している。


「良く来てくれたね、本当助かるよ」(キース)

「いいえ、この街の絆の宿には、お世話になっていますから」(若い男性)

「僕の名前はラウリーさ!今回、少し聞きたい事があって、ハミ○ンコさんを呼ばせてもらったんだ」(ラウリール)


 キースの挨拶に、ハミチ○コは、笑顔で挨拶を返してくれた。


 ラウリールは、本名を言うわけにはいかないので、この街ではラウリーと名乗っている。


 安易なネーミングだと思うが、自分達が混乱しないようにしたのだ。


「あれ?どうかしましたか?」(ラウリール)

「いえ…別に」(エル)


 冒険者は2つ名に憧れる者達なので、エルと言う名前をもちろん知っていたが、ハミ○ンコと呼ばせてもらった。


 しかし、エルの顔が引き攣る…


 下調べでは、この冒険者には、たくさんの2つ名があったのだ…


 ラウリールは、こんなところでエルとの関係を、ギクシャクさせたくなかったので、一瞬の間に頭をフル回転させる。


 もしかしたら、ハミチ○コと言う呼び名は、既に古いのかもしれない…


(まずい!こうなったら)←ラウリール


「ささ!奥へ入って下さい!脱衣場の略奪者さん!」(ラウリール)

「……はい…」(エル)


 これでも無かった事に、ラウリールは頭を悩ませた…


 そもそも、多くの2つ名を所持している冒険者は、相当な実力者なのだ。


 エルから引き出せるかもしれない情報は、とても貴重な物になるであろう。


 ラウリールは、また頭をフル回転させる。


「もう少しで、仲間が2人帰って来ますので、お茶でもどうぞ!父親にブラジャーを外された男さん」(ラウリール)

「………あの…帰っていいですか?…」(エル)

「機嫌を損なわせてしまい、本当にすいません…」(キース)


 ラウリールとキースは焦る…自分達の、情報収集能力の高さが、逆に仇になってしまったのだ…


 キースがすぐにエルへ頭を下げる。


 ラウリールもエルに必死で頭を下げた。


 たくさん集めたエルの2つ名のせいで、どれが正解かわからない…


「はぁー…エルで良いですよ」(エル)

「す、すまない…60個くらい2つ名があるので、どれが今の呼び名か、わからなくてね」(ラウリール)

「そんなにあるんですか!?」(エル)

「それほど実力があるって事じゃないか!僕は羨ましい!ハッハッハ」(ラウリール)

「あ…あはは…」(エル)

「お菓子もあります」(キース)

「ありがとうございます…」(エル)

「あと2人帰って来ますので、少々お待ち下さい」(キース)


 何とかエルを部屋の中に案内出来て、ラウリールとキースは安心した。


 待つこと約2分、シルキーとフリークが、宿に帰って来る。


 シルキーとフリークは、部屋の中にエルを見つけ、すぐに状況を理解したようだ。


「こんにちは、蒸気する女性下着さん」(シルキー)

「初めまして、理性も飛んでったった⤴さん」(フリーク)

「もううんざりだよ!何ここ?ねえ何ここ?」(エル)

「本当にすいません!みんな、悪気があるわけでは無いのです…」(キース)

「ごめんなさい…」(ラウリール)

「絶対嘘だね!悪気が無い訳が無い!」(エル)


 フリークとシルキーも、たくさんある2つ名の中から、1つ選び口にした。


 エルは涙目になって、案内された椅子から立ち上がった。


 ラウリールとキースは真剣に謝り、何とかエルを、呼び止める。


「みんな!この冒険者さんの事は、エルさんと呼んでくれ!エルさん…わからない事とは言え、本当にすいませんでした」(ラウリール)

「…わかりましたよ…」(エル)


 ラウリールの真剣な謝罪は、なんとかエルに伝わった。


「最近他の冒険者達にも、同じような事を聞かれるんです。

貴方達は、妖精王の何が聞きたいんですか?」

「さっきは本当にすまなかったね…国の英雄になった人達の事だし、僕らは何でも聞きたいよ」


 エルはかなり協力的なようで、ラウリールは安心した。


 英雄の事を知りたがる人達は、ラウリール達以外にも沢山いるらしい。


 しかし、怪しまれたくはないので、遠回しに慎重に言葉を選ぶ必要がある。


「やっぱり強いのかい?英雄になるくらいだもんね」


 ラウリールは、軽く聞こえるように、エルから妖精王の戦力を聞き出そうとする。


「妖精王のメンバーは、みんな桁違いに強いよ」


 冒険者チーム妖精王は、世界樹のワンマンチームではないらしい…


 下調べでわかっていた事だが、ドクとミーは、元ナンバー冒険者だった。


 妖精王が、この前の大きな魔力に、関係していたという情報は、ラグホームに来てすぐに掴む事が出来た。


 なので、古くから活動していたドクとミーではなく、新しく冒険者を始めた、花凜とリオンが怪しいだろう…


「他にも色々教えてくれ、僕は妖精王のファンでね」

「ああ、わかってるよ。まずは花凜さんからね!花凜さんは、果物が好きだ。次は、キラキラしたものが好きだったりする」


(ん?あれ?)ラウリール


「プレゼントするとしたら、キラキラした物を選ぶと良い。あと自分のコートがお気に入りでね、コートを褒めると喜ぶと思うよ。とても優しくて、人見知りだから、いきなりガツガツいくのはダメだ…とても家族思いで…」(エル)

「ちょ、ちょっと待ってくれないか?」(ラウリール)

「ん?みんなに聞かれる事を、話してるんだけど、他の事だったりするの?」(エル)


 まだ花凜が、世界樹と決まったわけではないが、花凜とはかなり人間に近い生き物のようだ。


 そして家族がいると言う話は、ここにいる全員が初耳だった。


 しかし、そこに食いつくのはおかしな話だ。


 聞きたいのは山々だが、諦めて別の質問をする事にした。


「花凜さんは、どんな見た目なんだい?」

「深い緑色の髪、金色の瞳、白い肌、身長150センチくらいの、とても可愛い女の子だよ?顔は、14歳くらいに見えるかも」


 エルが教えてくれた情報で、シルキー、キース、ラウリール、フリークは、表情が強張る…


 自分達は、そんな少女を拘束して、国に連れ帰り、始末しなければならないのだ。


 木を切り倒すのとは、わけが違う…


 見た目がどうこう以前に、家族思いで優しい子を、問答無用で斬るなど、本当に騎士団のやるべき事なのだろうか?


 人に化けた可能性が高いのは、魔獣の森にあった家からみても、わかっていた事だ。


 それでも、いざ話を聞いてしまうと、やはり気分が重くなる。


 しかし、大陸の統一は、長い目でみれば必要な事なのだ。


 少しの犠牲も出さずに、そんな夢を語れる程、ラウリール達は、甘い環境で鍛錬してきてはいないのだ。


 ラウリールが気にしたのは、部下達の気持ちだった。


 皆苦い顔をしていたが、ラウリールが顔を向けると、フリークも、シルキーも、キースも、黙って頷いた。


「ありがとうエルさん、それで、花凜さんは、どんな魔法を使うんだい?」(ラウリール)

「俺は、直接戦闘を見た事がないんだけど、回復魔法が凄いよ!なんでも治しちゃうからね」(エル)


 花凜の回復魔法については、絆の宿で噂されていて、みんなが知っている情報だった。


 治療不可能だと思われた患者が、治療時間数秒で、完治するというとんでもない話を…


「それは凄いね!他には何かわかる?」

「んー…後は魔法で家を作れるよ…とんでもない魔力なんだ」


 世界樹の疑いは、確信に変わる。


 この情報だけでも、かなりありがたい。


 そうなると、やはり気になる事が出てくる。


 ラウリールは言葉を選びながら、また口を開いた。


「家を作れるなんて、花凜さんは、土魔法の使い手なのかな?」

「んー…大きな木って感じかな?樹木魔法とでも、言えばいいのかわからないけど、他にあんな魔法見た事ないよ」


 何も知らないを装い、次の言葉を紡ぐ。


「オリジナルなのかな?花凜さんは凄いね…リオンさんは、どんな人なの?」


 ラウリールは、ナンバー冒険者の2人を、たった1人で蹂躙したらしい、リオンの事が気になったのだ。


「えーとね…人じゃないらしいよ?魔力もとんでもなく大きいから、いつも魔力を遮断してくれてるし、花凜さんの事が大好きみたい」(エル)

「人じゃないだって?それは亜人って事かい?」(ラウリール)

「あはは、そんなに生易しい物じゃないよ。あの魔力は、1人でこの大陸を、滅ぼせるくらいやばいからね…

ドクに聞いた話だと、この前襲ってきた鬼のリーダーも、リオンさんに、遊ばれてたらしいから」(エル)

「あはは、それは流石に言い過ぎじゃないかい?」(フリーク)

「勝負に必要なのは、魔力だけじゃないわ」(シルキー)


 エルの言葉を聞いて、フリークとシルキーは、優しく言い返した。


しかし、エルの表情が曇る。


「君達は、他の人達とは妖精王について聞きたい事が違うようだね…もしかして、他国のスパイだったりするのかな?」


 エルの急な疑いに、その場の全員が凍り付いた…


 皆が動揺する中、ラウリールだけはニコッと笑い、エルに冒険者の身分証を手渡した。


「僕らは、まだ駆け出し冒険者なんだ」

「へぇー…Eランクか、なるほどね…出身地は何処なんだい?」

「やだなーエルさん、ラグホームって書いてあるでしょ?」

「そうか、疑ってすまない…」


 エルはラウリールに身分証を返すと、警戒を解いてくれたように、少し微笑んだ。


 もしこんな街中で戦闘になってしまえば、すぐに情報が国中に広がってしまう。


 ラウリールは、何とか危機を乗り切り、ホッとしたのだが、すぐにエルの魔力が膨れ上がる。


 焦るラウリール達…


「何故僕達が、スパイだと思うんだい?」(ラウリール)

「…この紅茶、グラシアンの物だろう?鬼が公爵に贈った物に、そっくりだ。それに、その布で隠しているのは魔道具じゃないかい?まるで、グラシアンの部隊が秘密裏に潜入して、ラグホームの中を探っているみたいじゃないか!それに君達は、隙が無さすぎる」


 お茶は確かにグラシアンから持ってきた高級品であった…


 隙を作らないのは、もはや習慣になってしまっているのだが、そこを疑われるなんて思っていなかったのだ。


「僕達はスパイなんかじゃないよ」

「なら、この国に昔からある…伝統の踊りをやってくれよ」


 ラウリール達の調べに抜かりはない!


 伝統の踊り…それは、この国に1つしか無いのだった。


「ふふふ、良いだろう。僕達の本気を見せてあげるよ!」

「え?私も?」

「疑いを晴らすためだ、仕方ないだろう」


 ラウリールは不敵に笑い、右手で髪をかき上げる。


 シルキーが顔を赤くして、本当にやるんですか?と、言うような顔を、ラウリールに向けた。





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