思案、美食
竜王は、どんな姿をしているのだろうか?
私はベッドに潜り込み、もくちゃんを通じて、見てみようかと思った。
霊峰と呼ばれる山に、竜王はいるらしい…
しかし流石にベッドの中からでは、竜王の居場所など探れるわけもなく、眠さもあって集中出来ない…
「ん~…んん…」
やはりダメなようだ…
そもそも竜王は、霊峰のどの辺に居るのだろうか?
霊峰は、ソルの街からでも見える。
標高はどれくらいあるだろうか?
霊峰はこの大陸のほぼ中央にあるらしいので、海沿いのソルからだと、そこまで行くのに、大陸の約半分を横断する事になるのだ…
この大陸が実際どんな形をしているのか知らないが、私は勝手に頭の中で、この大陸の形を丸でイメージしていた。
しかし、そこは問題ではなく、霊峰まで相当な距離があるのは変わらない。
「ん…んん…ん~」
私は頭を切り替える事にした。
5つの法則と、ドクとミーの仲間の救出は、どちらの方が簡単だろうか?
そもそもなんで、黒狼族は捕えられた?
奴隷として、クレイ王国が欲しがった理由はなんだろうか?
色々知らなければならない、それにはまず文字を覚える必要がある。
私はシスターズに、この世界の文字を勉強させていた。
それで私も、少しずつ文字を覚え始めているのだが、漢字や英語などの見慣れた文字ではなく、名称が記号のようなものが多い…
元の世界の先入観もあり、余計に難航しているのかもしれないが、それにしても難しいのだ。
しかしシスターズは6人いる。
みんなが寝静まってから、シスターズ達は1階の応接室で、勉強してくれていた。
それぞれ好きな物が違うらしく、覚える単語は偏っていた。
コクヨウとアオイは、料理関係に偏っていて、ギンカは勉強が苦手らしく、あまり集中出来ていないが、宝石類が好きらしい。
アカネは…よくわからない…そう、私には難し過ぎる。
アジサイは、満遍なく勉強しているようだ。
オレンジは、武器や冒険に憧れているようで、冒険に役立つ物の単語をどんどん覚えていった。
毎日2時間くらいの勉強だけど、6倍効率で覚えていっている。
「ふふふ…」
私はこっそりドヤ顔した。
(あ…魔道具の事忘れてた…)
私が公爵を誘拐した時に、念の為使っていた魔道具だ…
リーファウスを送り届けてから、王様に説明しようと思い、私は魔道具屋である物を購入していた。
私の見聞きしたものを記録する魔道具と、映像化する魔道具だった…
しかし、それを出す事はなかったのだ。
公爵のコージイが、洗いざらい全て白状したので、証拠の必要が無くなったのである。
リーファウスを守る事が目的だったので、全てが終わった後に、牢屋の鬼の話や公爵の話を聞いていない。
「なんだかな~」
そう、なんだかなーである。
人間の世界は、人間でどうにかすればいいのだ。
実際にはそんな風に考えてはいない。
鬼はとても恐ろしい存在だった。
私は鬼が怖くて、もう関わり合いたくないと考えている。
それにしても、私達はリーファウスを届けた後に、そのまま旅に出る予定であった。
しかし話の流れで、今はソルに帰ってきている。
黒狼族を助けた後は、ソルで面倒を見る予定なので、今ソルの街を整える事は必要だ。
ラグホーム王国は、クレイ王国と友好関係にあるらしく、クレイの奴隷を私が正面から取り返しに行けば、間違いなく大問題になる…
「む~…まあ、いいよね」
良くはないだろうが、正体がバレないように、何処までやれるかわからないので、最優先するべきは黒狼族なのだ。
そろそろドクとミーにも、私が黒狼族を助けるつもりでいる事を、ちゃんと話すべきであろうか?
ドクとミーは、私がミミックから黒狼族の事を聞いているとは、思っていないだろう…
(ちゃんと、救出計画が決まってからの方がいいかな?)
まだ竜王も倒せていないのだ…
そもそもなんで、この世界は、衰退していっているのだろうか?
クレアの体から取り外された宝珠は、憎しみの塊のようなものだと聞いた。
それを砕き、体内に取り込んだ5つの法則…
私は、どうすれば、リオンを助けれるのだろうか?
『おい…何をぶつぶつ言いながら、1人で百面相しているのだ…』
私はハッとした。
この展開は覚えている…
私は、前にもリーファウスに言われたのだ!自信を持て!私なら出来る!と…
また1人で悩んでいたらしく、この後リオンに諭されるのだろう。
『さっさと寝ろ…』
どうやらそうでは無かったらしい…
私は今、リオンの部屋のベッドに潜り込んでいたのだ。
見つかったのなら仕方ない…
私はもぞもぞ動き、リオンの体の下へ滑り込む。
リオンは元の猫型の姿で、下半身を横に崩し伏せをしている状態で寝ていた。
私は胸の下から顔を出し、両腕に挟まれるようにして、仰向けになる。
私はリオンの頬を撫で、首を触るが、猫特有のゴロゴロは言わないらしい。
『花凜、少し髪が伸びたか?』
「かなー?」
『花凜の元の姿は、何メートルになってるんだろうな…』
「んー…全然わからない」
『起きたら髪の毛切ってやる』
「うん、ありがとう」
リオンは、私の顔を潰さないように、少し横に首を降ろした。
私は今、リオンまみれで幸せである。
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「おい…」(リオン)
「え?」(花凜)
朝食の後、私とリオンは庭で髪の毛を切ろうとしていた。
リオンが私の髪を手に取り、ハサミの刃を当てた瞬間、髪に異変が起こった。
「……花凜の髪は、切られたくないらしいな…」
「あらまぁ…」
私は、ショートヘアになってしまった。
髪の毛が、勝手に縮んだのである。
そして程よいウェーブがかかり、見事なまでに整えられていた。
原因は私にあるだろう。
「今ね、出来上がりを想像してたから…」
「そういう事か…髪の毛に、意思があるわけではないのだな」
元々魔法で縮めた体なので、イメージで変化させやすいのだろう。
髪の毛が緑色なのは、きっと葉っぱの色なのだ。
「おーい、花凜、リオンさん」
ロナウドが家の中から出てきた。
何やら、書類を沢山持っているようだ。
「パパ、どうしたの?」(花凜)
「この街の税金や兵士の給料など、色々やる事が多いのだが、今日リオンさんを借りても良いかな?」(ロナウド)
「私は構わんぞ?」(リオン)
「そうか、ありがとうリオンさん!」(ロナウド)
今日リオンは、ロナウドと出かけてしまうようだ…
少し寂しい気分になるが、仕方ないだろう。
「私達も出かけて来るね、花凜ちゃん」(ミー)
ロナウドの後ろから、ミーとドクが出てきた。
「うん、みんな気をつけてね」
急にみんな居なくなったので、私は予定をドタキャンされたような気分になる。
空を眺めながら、何をしようか考えた。
(あ、お城作らないと)
コバとヘイリが、私を見ているようだ。
そんなに見ないで欲しい…
庭で椅子に座らせられて、白い布を巻かれ、周りには誰もいない…
ぽかぽか陽気に優しい風…
庭で日向ぼっこしている、てるてる坊主の気分だ。
(てるてる坊主~てる坊主~明日も天気にしておくれ~♪)
私は部屋に戻り、コートに着替えた。
2階のリビングのテーブルに、ナンバー7のブローチを置く。
「あ、アジサイちゃん!このブローチを、ドクちゃんとミーちゃんに渡しておいて」
「は、はい!かしこまりました!」
私はすぐに外に出ると、コバが椅子を片付けてくれている。
「コバちゃん、良い武器はあった?」
リーファウスを送り届ける時に、コバとヘイリには金貨を渡しておいたのだ。
しかし2人とも武器を装備しているように見えない…
「私もヘイリも剣を買わせていただきました」(コバ)
「何で装備してないの?」(花凜)
「肌身離さず持っていたかったので」(コバ)
コバは口を開けると、上を向いた。
(え?まさか…)
口から赤いグリップが飛び出てきて、それをコバは右手で引き抜いた。
レイピアのように細いが、物は丈夫そうにみえる。
いや…問題はそこではないのだけど…コバはとても嬉しそうだった。
(魔法があるこの世界なら、口から剣を取り出しても変じゃないかな?)
「武器以外にも、欲しい物は買っていいんだからね」(花凜)
「それなら少し手入れをしたい箇所があるのですが」(ヘイリ)
「手入れ?」(花凜)
「この土地を囲う塀と、旧ロナウド邸の改築をしたいと思っておりました」(ヘイリ)
確かに塀はボロボロで、ロナウドに家は守衛所にしか見えないのだ。
私の一存では許可する事が出来ないだろう。
「ここはパパの土地だから、パパが帰ってきたら相談してみて」(花凜)
「はい、ありがとうございます」(ヘイリ)
「そろそろ行ってくるね」(花凜)
私は2人に手を振った。
「「いってらっしゃいませ」」(コバ、ヘイリ)
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街を歩いていると、甘い美味しそうな匂いがしてくる。
少し気になったので、脇道に逸れると、屋台で何かが焼かれていた。
その屋台は、少し幅の広い通りに設置されていて、周りに他の屋台は無い。
メインの通りではないので、人通りは少なそうに見えるが、こんな場所で営業出来るのだろうか。
しかし私と同じように、匂いに釣られた近所の子供も集まっているようだ。
売り物を覗いてみると、そこには、星型のたまごタルトみたいな物が売られている。
(良い香り~)
焼きたてのそのタルトは、朝食を食べたばかりの私にも、魅力的に見えたのだ。
しかし子供は、誰もそのタルトを食べていないようだ。
何故買わないのか、私はすぐにその理由がわかった。
(1個…銀貨…2枚?高すぎじゃない?)
私は値段くらいなら、何とか読めるようになってきたのだ。
銀貨2枚、それは日本で約2000円の価値がある。
(それじゃあ食べれないよね…)
私は1つ買ってみる事にした。
値段に見合う味なのか、確かめる必要がある。
「1つ下さい」
「あいよ」
私は銀貨2枚を渡して、そのタルトを頬張った。
甘いが甘過ぎない、サクサクの生地も絶妙だ…
私の表情を見て、屋台のおじさんも、満足気な顔を浮かべている。
(あ、バニラの香りだ…)
「おじさん、これバニラ入ってるの?」
「なぜそれを!食べただけでわかったってのか?それはうちの企業秘密だって言うのに!」
「だから高いのかな?」
「ああ、そうだよ…」
この世界でバニラの香りのする物は、まだ食べていなかった。
調味料を買い漁った時にも、バニラは置いてなかったので、もしかしたら、バニラはこの世界で高級品なのかもしれない…
こっちを見ていた子供が、私の口に合わせて、エアタルトしている…
流石に可哀想なので、追加で15個購入する。
「まいどあり!」
屋台のおじさんは、たまごタルトを布の袋に入れてくれる。
この布の袋はとても薄く、使い捨てにする物かもしれない。
屋台のおじさんは、沢山売れた事で笑顔になったが、私の胸のきょにゅ…ブローチが目に入ったようだ。
だんだん顔が蒼白になり、頬に冷や汗が流れる。
「ま、まさか!妖精王花凜伯爵様でしょうか?」
「うん」
「大変申し訳ありません!」
「気にしないでいいのに」
「貴族様は、普段乗り物で移動しますので、全然気が付きませんでした」
屋台のおじさんは、深々と頭を下げている。
貴族は、徒歩で移動はしないらしい…
「本当に気にしないで下さい、それでは」
私は金貨3枚を手渡すと、子供達の所へ歩いて行く。
子供達は、少し私を警戒したようだ…
もしかして…昨日のパターンになったりするのだろうか?
孤児院の子供に、いらないと言われた時の事を、思い出した。
(子供のプライドか…どうするかな)
私は少し考えてから、子供に近づいた。
「君達に仕事をお願いしたいんだけど、聞いてもらえますか?」
「え、仕事って?」
私は、屈んで小さな女の子に話しかける。
子供達は、全員で7人いるようだ。
これなら、2個づつ渡せるだろう。
「これを食べて、親や保護者に感想を伝えるのが仕事だよ!出来るだけ急いで欲しいの」
「わ、わかった!」
子供達は、たまごタルトを受け取ると、すぐに走り出した。
孤児院の子供とは違うのかもしれないので、普通に渡しても良かったかもしれない。
最後の1人、この子は何故か受け取ろうとしないようだ。
「貴方は、お仕事受けてくれないの?」
「ふふふ…味は想像するから楽しいのさ!」
(え?何この子…物凄いドヤ顔…)
「そ、そう…私が悪かったわ」
「食っちまったらそこでおしまいさ…お前は、美食というものをわかってない!」
私は、頬に冷や汗が流れる…
この子の見た目は、5歳くらいの男の子で、服装は裕福とは言えないかもしれない。
革のツナギ姿で、あちこち破けている。
茶髪の似合う、元気な男の子みたいだ。
(まだ3つ残ってるんだけどな)
「ごめんなさい、私も美食を勉強するね!」
私は立ち上がると、来た道を戻ろうとする。
残りのタルトは、後でおやつに取っておく事にした。
「まあ待てや姉ちゃん」
私はその言葉を聞いてビクッと固まる…
(この子…本当に子供だよね?)
「そこまで言うなら仕方ねぇ…はぁ~…あんたに、美食ってやつを教えてやるよ!着いてきな!」
(ええぇぇ…)
「私はこれから仕事が…」
「ああ!?」
「あぅ…」
私は、その子に仕方なく着いていく…
断わろかとも思ったのだが、どうやらこの子は目が見えていないらしく、壁伝いに歩いていた。
私はこの子が、放っておけなくなってしまったのだ。




