フルーツタルト
「リオン、夜ご飯何が食べたい?」
孤児院の件が片付き、私はリオンと腕を組んで歩いている。
リオンの答えは肉だろう…私はわかっていたが、一応食べたい物を聞いたのだ。
「……んー、そうだな…」
リオンは珍しく悩んでいるようだった…
こんなリオンは珍しい、私はリオンの顔を覗き込んだ。
「んー…鳥の肉かな」
何の肉にするかで悩んでいたらしい…
(はぁ良かった…いつものリオンだ!)
「おい、今失礼な(以下省略)」
私達は、とても高級そうな焼肉店に入っていった。
牛なのか豚なのかわからないが、そんなマークが扉に描かれていた。
外にはとても豪華な銀製の看板があり、普通の店ではない事が伺える。
店内は綺麗なフローリングで、ピカピカに磨き上げられていた。
木製の椅子も艶々していて、四角いテーブルには白いテーブルクロスがかけられている。
壁は白い壁紙のようだが、ランタンの灯りを受けて、少しクリーム色にみえる。
「見ない顔だな…うちの店は初めてか?」
「そうですけど…」
まさか一見さんお断りの店なのだろうか?
店主のおじさんが、私達を席に案内しに来たのだ。
私はそう思ったのだが、こんな高級そうな店で、いきなり敬語すらないのは、お客さんに対して失礼だと思う…
美味しい料理が食べれれば、文句は言わないだろうが、良い気持ちにはならないだろう。
「早くこっちにこい!全くとろくさい…早くこれに着替えろ」
(え?この世界は、お客を着替えさせる事があるの?)
私達はわけがわからずに、焦げ茶色の割烹着を分厚くしたような物に着替えた。
動きやすい格好なので、確かに体は楽かもしれない。
リオンは完璧に着こなしていて、私はとても綺麗だと思った。
「しかし、こんなに可愛いとはな…お前達、名前は何て言うんだ?」
「私は花凜、こっちはリオンだよ」
「ほぅ、覚えておこう…どこかで聞いたような名前だが…まあいい、この皿をそこに並べてくれ!」
この店は、客に配膳までやらせるらしい…
(セルフサービスのお店だね!)
店主1人でこの店を回しているのだろう。
もしかしたら、この店独特のルールなのかもしれない。
「ほら!早く動け!時間は待ってくれないぞ」
「は!はい!」
私達は、大きな皿をテーブルに運んだ。
皿には蓋がしてあって、中に何が入っているのかわからない。
とても美味しそうな匂いがする。
「リオン、ヨダレ出てるよ」
「…ん」
私達はせっせと皿を運び、次々店主の言う事を聞いていった。
「なんだよ、やれば出来るじゃないか!今までで1番良かったよー!仕事が早い早い」
何だかわからないが、褒められてしまった。
そろそろ食べてもいいのだろうか?
私は店主に聞いて見る事にする。
「もうそろそろいいのかな?」
「ああ、助かった!これが報酬だ」
(報酬?)
渡された小さな袋を見てみると、中に金貨が1枚銀貨が3枚入っている…ん?おかしい…
「これは?」(花凜)
「なんだ?依頼料だぞ?」(店の主人)
「…えーっと…私達お客さんだよ?」(花凜)
「客?へ?」(店の主人)
店主の顔が固まる…段々顔が真っ青になっていく…
「お、お客様ーー!?」
その時、店の扉が勢いよく開いた。
「ぜはーぜはー」
明るい茶髪をポニーテールにした、可愛い女の子が入ってきた。
身長は私とリオンの中間くらいで、肌はこんがり焼けている。
13歳くらいだろうか?もしかしたら、元の世界の私と同い年かもしれない。
少女は余程急いでいたのか、肩で息をしながら額に汗を滲ませていた。
「す、す、すいません!遅くなりました!絆の宿から依頼を受けました。ミラと言います!よろしくお願いします」
私はまだあまり文字が読めないので、絆の宿にある依頼の掲示板を見ても、内容がわからない。
冒険者の仕事には、料理屋の下働きもあるらしい…と、今更ながらに思った。
私達はそこで今の状況を把握した…これはあれだ、人違いなのだ…
ミラと名乗った少女は、私達の顔を知っているようで、驚愕の顔と同時に跪いた。
「あわわ、こんな所で!妖精王花凜伯爵様とリオン様、ご、ご機嫌麗しゅしゅる…しゅう」
ミラは焦りのあまり、言葉が噛み噛みになってしまう。
年齢が近い事からも、私はミラに親近感を覚えた。
「こんばんは、ミラさん」
私は挨拶したが、リオンはミラに目配せだけで済ませた。
「申し訳ありません!!本当に!申し訳ありませんでした!」
私は店主の声にびっくりして、リオンの後ろに隠れる。
「で?飯はまだなのか?」
リオンはこの店に入ってから、初めて声を出した。
「今すぐ御用意させていただきます!!!」
「ここまでやらせたんだ、半端な物出したらこの店潰すからな」
リオンは、何処かのヤクザのようなセリフを吐いた。
店主の頬に冷や汗が流れる。
利権がどうのこうのではなく、リオンは文字通り店を物理的に潰す気だろう。
私達は着替えて、店内にある適当な席に座ろうとした。
「特別なお部屋を御用意いたします。ささ!こちらへ」
店主について行くと、2階の部屋に案内された。
案内された2階の部屋は、VIPルームになっているようで、とても高級そうな椅子に、天然石を切り出したような、大きな三日月形のテーブルがあった。
「凄いねーこの部屋」(花凜)
「そうだな」(リオン)
三日月形のテーブルに合わせるように、椅子が外側に配置されている。
中は少し薄暗く、綺麗な木製ランタンが、優しくテーブルを照らしていた。
私はこの部屋の雰囲気が気に入ったので、また来てもいいかなーっと考えている。
中央の椅子に並んで座り、料理が運ばれて来るのを待っていた。
リオンはとてもお腹が空いているようで、少しムスっとしている。
私は魔法鞄から、バタークッキーを1枚ずつ取り出して、リオンの口に放り込んでいく。
「お、おま、おまか…お待たせいたしましま!」
ミラは言葉を噛み過ぎて、意味がよくわからなくなっている。
「ミラちゃん、そんなに緊張しなくて良いよ?」
「はひぃ」
言葉は噛み噛みだが、仕事は何とかこなせるようだ。
ミラが料理を、次々と運んで来てくれる。
コース料理になっているみたいで、沢山の種類の料理が運ばれてきた。
どの皿も綺麗な盛り付けで、高級フランス料理でも味わっているような気分になる。
中央に立体的に盛られた料理の数々は、ランタンに優しく照らされて、どれも輝いて見えた。
味も流石だが、本当に見栄えが良い。
ミラが扉を開けた時に、下の階から話し声が聞こえてきたので、予約のお客さんが到着したのだろう。
私は料理に満足すると、リオンに食べきれない料理を渡していく。
無理に食べれない事もないが、リオンの顔がとても幸せそうだったのだ。
今リオンが食べている料理は、鳥籠のような細い飴細工に、見事に焼き上げられた鳥の香草焼きが入っている。
シンプルな味付けだが、パリパリの飴細工を崩しながら一緒に食べると、口の中で飴と肉汁が溶け、とても美味しい。
自宅ではここまで出来ないので、やはり流石に高級店だった。
かける手間が違えば、ここまで食材を引き上げる事が出来る。
「あー美味しかった」
「悪くないな、見直したぞ」
料理を楽しんでいたら、店主が静かに入って来る。
大きな配膳台で、巨大なお肉を運んで来た。
店主は私達の目の前で、音も立てずに肉を切り分ける。
お肉は薔薇のようにお皿に盛られ、色々な種類のソースが、肉の周りに点々と添えられていた。
きっとこれがメインディッシュなのだろう…私ももう少し食べる事にして、オレンジ色のソースを付けてお肉を頬張った。
(美味しい!上品な味)
爽やかな香りと、柔らかい肉の脂が口の中で解け、上品な旨みが広がっていく。
強烈な香りや塩気で誤魔化したりしない、私はこの料理がとても気に入った。
「おい、悪くないぞ、もっと切ってくれ」
店主は軽く頭を下げると、次々と肉を切ってくれた。
リオンは濃い紫色のソースが気に入ったようで、そのソースでお肉を沢山食べる。
多分このソースは、ベリーと木の実で作った物なのだろう。
家に帰ったら、私も真似してみたいと思う。
王宮の料理に出てきても、不思議ではない程の出来栄えに、私達はとても満足したのだ。
リオンは肉の塊を全て平らげ、店主は次の肉を持ってくる。
私はリオンが満足する程、料理を沢山用意出来た店主に、ちょっとびっくりした。
デザートはフルーツタルトに、お酒の香りのするチョコ風のムース、この世界で初めて見た、ライチを巨大にしたような果物が出てきた。
どれも美味しく、私は大満足だ。
「とても美味しかったよ」
「私も腹いっぱいだ」
私達の言葉を聞いて、店主はホッとした顔をする。
「フルーツタルトの持ち帰りは出来ますか?」(花凜)
「今からですと、ホールで5枚までなら御用意できます」(店の主人)
「全部下さい」(花凜)
「かしこまりました」(店の主人)
食後にさっぱりとしたお茶を用意して、店主は階下に降りていった。
「色々あったけど、良かったよね?」
「私は気に入ったぞ、昼間の串焼き屋も良かったけどな」
屋台と比べられるのは、流石に可哀想な気がする。
しかしリオンに気に入ったと言わせたのだ、私達はまた来る事にした。
店主はこの部屋に入ってから1度も音を立てずに、質問に答える以外に言葉も発しなかった。
もしかしたら、この世界の高級店マナーなのかもしれない。
(私達のマナーは大丈夫だったかなー?)
少し不安になったが、今から考えても仕方がないのだ。
私達はそろそろ帰る事にして、階段を降りていった。
下の階はお客さんで溢れていたが、話し声は静かで、どこか品格のある人達のようだ。
「ごちそうさまでした」(花凜)
「ありがとうございます。こちらにケーキが出来ております」(店の主人)
私は周りの雰囲気に合わせ、静かに店主に話しかける。
店主が綺麗な木箱を段積みして、フルーツタルトを出してくれた。
私は魔法鞄にケーキを入れ、中からお金を取り出した。
「おいくらですか?」
「数々の非礼、本当に申し訳ありません…今日のお代は結構ですので、良かったらまたいらしてくださいませ」
店主が深々と頭を下げる様子を見て、周りのお客さん達もこちらに注目してくる。
「あ、頭を上げて下さい」(花凜)
「失礼致しました」(店の主人)
無料は申し訳ないので、適当に王金貨5枚を取り出し、店主に手渡す。
王金貨の価値を私は知らないが、白銀の綺麗な金貨で、リーファウスを王宮まで護衛した報酬に、クラウドから受け取った物だ。
店主はその王金貨を見て、目を見開き驚愕している…
さっきまで静かだったお客さん達も、それを見て唖然としているようだ。
「無料は悪いから払うよ?足りないかな?」
「ま、まさか!こんな大金、見た事がありません…1枚だけ、1枚だけ受け取らせていただきます!」
これは後で、王金貨の価値をロナウドに聞かなければならないだろう…
「あれ?あ!妖精王花凜伯爵様だ」(客A)
「え!じゃあ新しい領主様!」(客B)
さっきまで静かだったお客達が騒めき出す。
全員椅子を脇に避け、私に跪いてしまった…
今度来る時は正体を隠し、お忍びで来るしかなさそうだ。
「あわゎ、皆さん食事を続けて下さい!リオン早く行こ」
「そうだな、店主よ、また来るぞ」
「ありがとうございました」
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私達はすぐに店を出て、街の中を歩いている。
「リオン、伯爵ってそんなに偉いのかな?」
「それはかなり偉いんじゃないか?正体がわかると、全員跪くからな…私は貴族階級はよくわからないが、領主とはこの土地を代表する者だろう?
王とまでは言わないが、ソルでは花凜が1番偉いのだ」
きっとリーファウスは、私が態度を変えないように、初めて会った時に偽名を使ったのだろう。
リーファウスが私に最初名乗った名前は、リーフだったのだ。
今なら私も、リーファウスの気持ちがわかる。
私はリオンの手を引いて、絆の宿に入った。
「こんばんは」
「花凜伯爵様!こ、こんばんは!」
「これみんなで食べて下さい」
「いえ…しかし」
私はフルーツタルトを、素材買い取り窓口のお姉さんに手渡した。
お姉さんは恐縮していたが、いつも私がミミックを借りてしまうので、迷惑料代わりに差し入れを持ってきたのだ。
「いつもお世話になっちゃってるので」
「有難く皆で頂きます」
いきなり来てミミックを独占されれば、職員さん達は大変だろうと思う。
受け付けのお姉さんに軽くお辞儀をしてから、私はリオンとミミックの部屋に向かった。
扉が開いていたので、私達はとりあえず中に入ってみる。
「こんばんは」
「花凜さん、さっきはごちそうさま」
ミミックは串焼き屋の御礼を言ってきたが、あれは私の感謝の気持ちなので、喜んでもらえれば私も嬉しい。
私はミミックにもフルーツタルトを渡すと、ミミックはすぐに、ケーキを切って持ってきた。
私達はさっき食べたので遠慮しようと思ったが、リオンが食べ始めたので、何も言わなかった。
「これ美味いな…凄く高かったんじゃないか?」
「良いお店を見つけたので、持ち帰りを頼みました。
ミミックさんに教えて欲しい事があって、来たんですけど…」
「ん?俺にわかる事なら何でも教えるぞ」
「良かったー、私に遊廓を教えてください」
ミミックはケーキを吹き出してしまった…やはりとっておきの技なのだろうか?
しかし私は、ミミックが遊廓を使える事を、リオンから聞いているので、是非教えてもらいたいのだ。
「リオンがね、ミミックさんは遊廓に詳しいって言うから」
私の言葉を聞いて、ミミックはサッとリオンを見るが、リオンは視線を逸らし、ケーキに集中している。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!遊廓に行きたいって言うのか?」
遊廓とは修行場所なのだろうか?ここでは無い場所に行かなければならないらしい…
ミミックも仕事中なのだ…無理に頼めば迷惑になるだろう…
仕方がないので、ここは引き下がろうかと思う。
「やっぱり忙しいよね?すぐに出せる技とか覚えたかったんだけど…」
「なんだとーーー!すぐに…出せる…技…」
ミミックの急な大声に私はびっくりした。
怒っているのだろうか?顔を真っ赤にして、少し鼻血が出ているようだ…
私はミミックの反応を見て、軽率だったのかもしれないと、考えを改めた。
生半可な覚悟で、遊廓に行くべきでは無いのだろう…私は強くなる必要がある!
「いきなりごめんなさい…でも私は頑張らなくちゃいけないの…そう!妖精王として!」
「どこを目指してるんだよ!妖精王はーーー!!!」
ミミックに私の決意は伝えた…ミミックは叫ぶ…もしかしたら、他の冒険者に聞いても、教えてもらえるのではないか?
絆の宿をまとめているミミックを、無理矢理連れ出す訳にはいかないだろう…そうだ!双子なら、遊廓の場所を知っているかもしれない!
「無理言ってごめんなさい…私、やっぱりドクに教えてもらいます!それで技を増やします!」
「や、やめてくれ…頼むよ…お願いだよ…」
ミミックは私に抱きついた…何故か泣いているようだった…遊廓とはそこまで辛い修行場のようだ。
「でもね、私は救いたい人が沢山いるの…だからこのままじゃダメ!この手でどうにかしたい」
私は、ドクとミーの仲間を救わなければならない!それはミミックもわかっているはずなのだ。
私の揺るがない決意を前に、ミミックは膝から崩れ落ち、大粒の涙を流していた。
こればかりは仕方ないのだ、私は崩れ落ちたミミックの頭を撫でた。
(さあ!行くよ!遊廓へ)
「すまないミミック…ここまで話が拗れるとはな…」
私は決意を漲らせ、まだ見ぬ遊廓に想いを巡らせていたら、ケーキを食べていたリオンが、ケーキをテーブルに戻し、口を開いた…ミミックはリオンに顔を向ける。
「……花凜は遊廓を知らない、男性経験もない、ミミックに遊廓の説明をしてもらおうとして、花凜を連れて来たのだ」(リオン)
「へ?」(ミミック)
私は意味がわからなかった…遊廓とは、修行出来る場所じゃないのだろうか?
ミミックは全てを理解した様子で、再度私を抱き寄せる。
「ミミックさん、離して、ねぇ」
「うぅぅ、良かった…本当に良かった…」
結局私は、その後遊廓について何も教えてもらえなかった…
ミミックは私を抱きしめて、なかなか離してくれない。
どさくさで私の体に触ろうとして、リオンに蹴飛ばされるまで、私は抱きしめられたままだった。
遊廓は気になるが、それはまたいつか、誰かに聞く事にしよう。
時間も遅くなったので、旧王城の建て直しは明日にして、今日は帰宅する事にした。




