孤児院(後編)
院長先生達は、妖精王の森が喋った事に、また驚いている。
しかし今は、そんな事は後回しだ。
見た目はチンピラという感じでは無く、普通の兵士みたいに見える。
10人共同じ鉄の鎧で武装していて、何やら話し合っているようだ…私は、少し話を聞いてみる事にした。
「おいおい…何だよこれは…昨日までは無かっただろ?」
「だよな…ってかよ、警戒するのは院長だけかと思ってたのに…」
「一旦帰る?ミルド様に報告するか?」
「馬鹿かお前は…この状況を、どうやって説明するんだ?ミルド様に信じてもらえないだろう?」
「…孤児院のあると思われた場所に、でかい木の林が出現、中の様子がわからないので、1度帰ってきましたって?
状況がわからないにせよ、1度調べないと何も報告出来ないだろ?」
どうやらミルドの手下らしく、ここに踏み込む決意を決めたようだ…
(どうしよ…)
「院長先生、兵士が10人来たようです…」(花凜)
「先週も3人来たんだが、儂が追い払ってしまったからな!今日は本腰を入れて、取り立てに来たのかのう…」(院長先生)
院長先生は、少し疲れた顔をした。
しかしすぐに表情を変え、子供達を守るための頼れる大人の顔になっていく。
しかしここは私の出番であろう、不当な取り立てをさせるわけにはいかないのだ。
「なるほどね…じゃあ私が追い返すよ!」(花凜)
「何を言う…皆を守るためとはいえ、儂のする事は犯罪になる…貴族に逆らうのだ!これ以上迷惑をかける訳にはいかない」(院長先生)
この院長先生が、兵士に負けるとは思っていない。
さっき生命力を大幅に回復させたので、きっと眠い筈だろうとは思う…
心配する子供達を振り切り、院長先生が家を出ていった。
私はふと、さっきの少女の事を思い出す。
(あの子、まだ串焼き見てるのかな?)
串焼き屋の近くで、肉を覗いていた少女が帰って来ない…
森にびっくりして、戻れないのだったら私のせいだ…
院長先生も、妖精王の森の中を、怖がりながら歩いていたので、私は森に指示を出し、にっこり笑わせた。
しかし院長先生は、それを見て逆に怖そうにしている。
(あれー?ごめんなさい)
私は目を閉じて、まあ閉じる必要はないのだが、院長先生と兵士の様子を見る事にした。
兵士は院長先生が、森の外に出てきたのに気が付いた。
兵士達のリーダー格なのだろうか?
院長先生を見て、前に1步進み出てくる。
「お金は用意出来ましたか?
ミルド様は、ちゃんとお金を支払うなら、孤児院を存続させても良いと言っています」
(え?ミルドさんの許可なんて必要なの?)
「金は既に支払った!儂が必死に集めた金だ…どうしてまた払わねばならないのだ!」
「こっちが下手に出ていればつけあがりやがって!」
(下手に出たの一瞬だよね?院長先生は払ったって言ってるのに…)
「ちゃんとここに納税した証があるわい!それが何故わからぬのだ!」
(そんなのがあるんだね、知らなかった)
「それは無効だ!」
(なんでーー!)
「今の新しい領主に代わり、当面の間はミルド様に街の全権が任せられている。
これがラグホーム王からの正式な書類だ!」
(あー…リグルートさんは確かに言ってた…まさかミルドさんに頼んでいたなんて…)
これはリグルートの、完全な人選ミスであろう…
きっと何も知らずに任せたのだ。
「しかし、儂らには支払う事が出来ない…」
「なら出ていってもらおうか!ここにはミルド様の屋敷が建つのだ」
ミルドは手段を選ばずに、ただこの場所が欲しかったのだろうか?
孤児院を潰して何の得がある?
私には、ミルドの考えがわからなかった…
この孤児院の周りには何も無い。
少し小高い丘の上にあるので、見晴らしが良いくらいだと思う。
「この場所は儂が守る!儂しか…儂しかあの子らを守ってやれないのだ!
お前達みたいな奴に、親の居ない子の気持ちはわからんじゃろう!死んでも通しはしないぞ!」
私は院長先生の言葉に嘘は無いと思う…死んでも通さない、それはそのままの意味だ。
妖精王の森を背に、兵士と向き合う院長先生の顔は、私からは見えない。
しかし兵士の表情が変わった事から、院長先生の気迫が伝わってくるようだ。
「まずいな…」
「え?どういう事?リオン」
私は院長先生達に集中していたので、急にリオンが喋りびっくりした。
リオンは直接見えていないのに、それでも何かを感じ取り、私に知らせてくれたのだ。
きっと魔力の流れを感じ取り、経験から想像しているのだろう。
「あの院長先生、負けるぞ」
「え?」
私は院長先生をじっくり見てみたが、やっぱり負けそうには思えなかった。
まだ戦闘は始まってないが、兵士の中に手練は居なそうである。
「違う違う…院長の魔力を見てみろ」
リオンに言われて魔力を見てみると、さっきより魔力はたっぷりあった。
しかし乱れが酷い…集中出来てないのだろう。
「兵士が魔力を乱す魔法を使っているみたいだ、あれでは厳しいだろう」
私は院長先生を覗き込む…
「何の対策もしてこないと思ったのか?これで魔法は使えないだろう!」
「く!このままでは…」
兵士が邪悪に笑う…院長先生は、苦しそうな声を出した。
(まずい!)
兵士の1人が短刀で、素早く院長先生の首筋に斬りこんだ!
「何でそこまでするのよ!」
仮に税金を払えなかったくらいで、命を奪って良いはずはない!
日本と比べるのが間違っているのだろうが、それにしてもこれは酷すぎる…
ドクやミーの速さは全く及ばないが、一瞬で間合いが詰められた。
――――ドン――――
鈍い音が響き、斬りこんだ筈の兵士が崩れ落ちる。
(え?)
「は?」
私の心の中と一緒に、リオンが口を開けている…
一瞬リオンの方を意識してしまったが、すぐに院長先生へ注意を戻した。
「な、何をした!」
「ふん!昔は拳聖と言われておったのじゃ!」
なんと院長先生は、魔法だけでなく武術も出来るらしい…
(すごい!)
兵士の意識を刈り取った攻撃は、私にも見えなかった。
「ち!」
兵士の1人が、少し遠くから弓を構えると、殺気を込めて狙いを絞る。
(ダメ!危ない!院長先生ーー!)
「花凜落ち着け…」(リオン)
「え?」(花凜)
リオンが喋ったので、また意識がこちらに戻ってきた。
「子供達が心配するだろ…座ったらどうだ?」(リオン)
子供達は不安そうな顔をしていて、お菓子を食べる事をやめていた。
「そうね…ありがとうリオン!」(花凜)
「危なくなったら出ていけば良い」(リオン)
私は椅子に座り直し、院長先生に意識を戻した。
――――バン――――
また鈍い音が鳴り響く…弓を構えていた兵士が、後ろに吹き飛び、気絶していた。
「なんだと!」
「ふん!昔は投擲のガッツと呼ばれていたのじゃ!」
院長先生は石を投げたようだ…
(あんな事も出来るんだね…凄い!)
次々に鎮まる兵士の魔力に、リオンも困惑の表情を浮かべている。
院長先生は、最初に襲ってきた兵士の短刀を拾い上げると、魔力を足に集中させていく。
移動系の身体強化を使っているのかもしれないが、一瞬で兵士達の背後に回り込む。
「な、なんだと!見えなかったぞ!」
院長先生は、ただ周り込んだだけではなかったようだ。
「ふん!中身など入っていないではないか!昔は盗賊のガッツと呼ばれていた!」
院長先生は兵士達から巾着袋を盗んでいたのだった…
(院長先生…呼び名多すぎ…それにナイフ拾った意味は?)
その後も沢山の呼び名を披露して、兵士を1人、また1人と倒していく…最後に兵士のリーダーと一騎打ちになった。
(あ、危ない!)
院長先生は、倒れていた兵士に足を掴まれて、兵士のリーダーから強烈なサンダーボルトを受けてしまったのだ。
(卑怯だよ…あんなの)
仲間諸共道連れにした作戦が、院長先生に回避を許さなかった。
頬は焦げ、白煙が体から立ち上る。
しかし院長先生は、まだ戦う気持ちを失っていないようだ。
歯を食いしばり、力を振り絞って立ち上がった!
「な!何故あれをくらって立てるんだ!」
「ふん…そんなの知れておるわ!儂は遊廓巡りのガッツと呼ばれていた!何度だって立ち上がるさ!そして……」
院長先生は目をカッと開くと、兵士を睨む!
「そして!それは今も健在じゃーーー!」
最後は無策のグーパンチ…しかし兵士のリーダーは、避けれずに頭を強打されて、意識を失った。
院長先生の勝利である。
「わーー!凄い!院長先生勝ったよ!リオン」
「驚いた…私は魔力の流れしか見れていなかったが、魔法が使えるようになってからも、魔法に頼らなかったようだな」
「うん、あ!ねぇリオン、遊廓ってなーに?」
「なんだいきなり」
「院長先生が遊郭で強くなったみたい!」
「……後で…ミミックに聞いたらいい、詳しそうだしな」
「ん?うん…わかった!」
(とりあえず兵士捕まえとこー)
私は妖精王の森を使い、イバラを伸ばして、気絶した兵士を全員拘束した。
院長先生は驚いていたが、対象が兵士だとわかるとホッとした顔になる。
全ての兵士が拘束されるのを見届けて、院長先生は家に戻ってきた。
「院長先生凄かったね!」
「み、見ておったのか…」
「呼び名も沢山あったね」
「聞かれていたとは…最後まで聞いていたのか?」
「うん、かっこよかったよ」
「そ、そうか」
きっと子供達に、木刀や弓を教えていたのは、院長先生だろう。
色々な特技を持っている院長先生に、私は素直に尊敬した。
そして最後の決め手になった遊廓、これは私もマスターしなければいけないだろう。
後でミミックに、詳しく聞くつもりだ。
リオンの話によれば、ミミックは遊廓を扱えるようだ。
今はとりあえず、この件をこのままにしておく事は出来ないので、早めに解決するとしよう。
「さてと…ミルドの屋敷に乗り込みますか」(花凜)
「ああ、そうだな」(リオン)
「ちょ、ちょっと待ちなさい!お嬢ちゃん達、それは犯罪になるぞ?」(院長先生)
「その辺は大丈夫!帰り遅くなるといけないから、夕飯を用意するね」(花凜)
用意と言っても、ここにはそんなに食材は無いはずだ。
1度家に帰れば余り物があるので、私はすぐにコクヨウまで転移する。
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【ガッツ】
今日は何度びっくりしたかわからない…
自分の常識を吹き飛ばすように、花凜は転移で姿を消した。
「無詠唱で転移じゃと!?ありえぬ…不可能じゃ!熟練した達人でも、土地名すら言わないのは無理…貴重な転移の魔道具を使った様子も無かった」
まず彼女は、氷漬けにされても生きていた…そしてこちらの白髪の少女も只者ではない!
(儂のこの体…見た目はそんなに変わっていないが、まるで20代前半まで若返ったようじゃ…それにあの子が身に付けていた指輪…どこかで見た事があるような)
名前も何処かで?それも最近聞いた事があると思うのだが…思い出す事が出来ない。
「君達はいったい何者なんじゃ?」
「さっき花凜が名乗ったであろう?私はリオンだ」
「儂はガッツじゃ。大魔道士ガッツ!聞いた事あるじゃろう?」
何十年も昔になるが、この大陸で魔導探究の旅をしてきたのだ。
幾多の戦いを切り抜けて、いつの間にか儂の名は有名になっていた。
王宮から招待状も届いた事がある。
この少女もさっきの少女も魔法に長けていた。
きっと儂の噂を聞いて、ここまで来たのかもしれない。
「……あぁ、うん、無いな…大魔道士かー…頑張れ!」(リオン)
何故か少し哀れみの視線を向けられているような?
リオンという少女に励まされてしまった。
「うん、儂…頑張る」
この子達は何をしにここまで来たのだろうか…
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【花凜】
コクヨウまで転移して、私は事情を説明した。
すると、コクヨウはカレーやシチューなどを用意してくれて、沢山のパンも持たせてくれる。
「コクヨウありがとう」(花凜)
「子供達が好きそうな味にしておきました。
きっと喜んで食べてくれると思いますよ」(コクヨウ)
「凄い!ありがとうー」(花凜)
私は1口食べてみる事にした。
コクヨウの考える子供向けの味に、少し興味があったのだ。
「あれ…?これ私が食べてるいつもの味?ねぇコクヨウ?」(花凜)
「………気のせいでございます」(コクヨウ)
コクヨウは私を子供扱いしていたらしい…悔しいけど美味しかった。
「いってらっしゃいませ」(コクヨウ)
「うん、行ってくるんだけど…この味はさ」(花凜)
「お気をつけて」(コクヨウ)
「…はーい、行ってきます」(花凜)
ちょっと納得いかないが、私はすぐにリオンまで転移した。
突然現れた私に、院長先生は驚愕していたが、私は無視して子供達の所へ行く。
「フラッツ君!君に仕事を与えます。
私達が出掛けた後で、このスープを温めて、皆に配って食べさせて下さい」
「は、はい!」
フラッツは最初より素直になっているような気がした。
きっと院長先生が元気になり、兵士をやっつけれた事が、とても嬉しいのであろう…
ご飯を用意した事で、この子のプライドを傷付けないかが、少し心配だった。
多分家の中ではそうならないのかもしれない…私はフラッツの頭を撫でてあげる。
家の外に出ている時は、馬鹿にされないように頑張っているのだろう。
この子達の未来を守るために、私は私の出来る事をしなければいけないのだ。
「さて!ミルドをやっつけにいくよ!」
「わ、儂は孤児院を守れたら、それでいいのじゃが…」
家を出ていく私とリオンに、院長先生は複雑な顔でついてきた。
妖精王の森に、兵士を縛りつけたまま放置する。
私はどんどん街の中心に歩を進めた…
(あれ…そういえば)
少し気になる事が頭をよぎる。
「ねぇ、ミルドの家どこ?」
「「…」」
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私達は住民に聞き込みをして、ミルドが街の中心に、家を借りている事を突き止め、そこへ向かった。
「あれがそうだよね?」(花凜)
「ああ、間違いないじゃろうな」(院長先生)
ミルドの借りている屋敷は、物凄く立派だった。
綺麗に手入れされた噴水付きの庭に、緑の芝生と白い石畳。
屋敷は超もくちゃん館よりは小さいが、それでもかなり大きいと言える。
その家は新築のように、汚れのない真っ白い壁だった。
水色の屋根で、リゾート地の別荘のような佇まいをしている。
この大きな屋敷を、住民から不当に奪ったお金で、贅沢に使用しているのだろう…
私は先制攻撃をする事にした。
(創造生命魔法…)
私の右手に魔力が集まってくる。
「妖精王のも…」
魔法を発動しようとしたら、リオンに手で止められた。
私が困惑の表情でリオンを見ると、隣の家を指さしているようだ。
「あれではないか?」
周りの家より少しだけ立派だが、貴族の仮住まいにしては小さいと思う。
リオンの指は、その家の2階の窓に向けられている。
そこにはミルドが口を開けて、空を仰ぐ姿が見えた。
「……ありがとう、リオン…」
綺麗な屋敷を攻撃しなくて良かった…それにしても、ミルドのアホ面が痛々しい。
私は街中の戦闘はやめて、ミルドを眠らせる事にする。
「眠りの胞子、シルフ」
2つの魔法を細やかに使い、2階のミルドの鼻に眠りの胞子を誘導した。
ミルドは一瞬で、2階の窓から干した布団みたいになる。
(創造生命魔法)
すぐにイバラの蔦で拘束して、ミルドを地面に引きずり落とす。
眠りの胞子は強力で、それくらいの衝撃で起きる事は無いようだ。
「これでおっけー」(花凜)
「この後どうするのじゃ?」(院長先生)
「行くんだろ?」(リオン)
「うん!集まってね」(花凜)
リオンと院長先生とミルドと一緒に、私はリグルートの所へ転移した。
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「こんにちは」
「!!花凜さんか!」
リグルートは、私が急に現れたので、びっくりしたようだ。
ここは執務室になっているらしく、クラウドも仕事をしているようだ。
執務室の中は、沢山の書類が積まれているが、部屋が30畳くらいあるのと、天井が高いお陰で、閉塞感は感じない。
「ここは何処じゃ?随分と立派な部屋じゃのう」(院長先生)
「ここはリグルートさんの部屋だよ」(花凜)
「ようリグルート、アホを連れてきたぞ?」(リオン)
「まてまて、順を追って話せ」(リグルート)
「お茶を持ってきます」(クラウド)
院長先生は部屋を見渡していた、リオンはミルドをポイ捨てする。
リグルートは状況がわからず、私達の自由さに頭を抱えている。
クラウドは部屋の外に控える兵士に、お茶を催促していた。
リグルートはこれでも国王なので、やらなければいけない執務もあるのだろう…
しかし私を優先してくれるようで、リグルートは部屋の中にあるソファーに移動した。
「とりあえずはそこに座りなさい」(リグルート)
私達もソファーに座り、ミルドは床に放置してある。
あまり長い間邪魔しても悪いので、私はすぐに事情を説明した。
「なるほどな…花凜さんが居て良かったな!孤児院の院長先生殿」
「全くですじゃ…しかしここは何処で、貴方は誰なのだ?」
リグルートは私を見ると、え?説明も無しに連れてきたの?と、いうような顔をした。
「院長先生、リグルートさんだよ?ラグホームの王様だよ?」(花凜)
「へ?」(院長先生)
「そうだぞ?これでも王なのだ」(リオン)
先程から聞き覚えのある名前だったのだろうが、流石に王様の部屋に直接乗り込んだとは、院長先生も思わなかったようだ。
リオンが、信じられないだろ?みたいな顔をする…これはとても失礼過ぎて、クラウドが頭を抱えていた。
事態を把握した院長先生は、顔面が蒼白になり、ソファーから見事なバク宙をして、そのまま平伏する。
(流石!バク宙のガッツさん!)
私は先程沢山聞いた肩書きの1つを思い出し、心の中で呟いた。
「大変な御無礼を!儂は何も知らずにぺらぺらと…」(院長先生)
「良い、謁見の間ではないのだ、ソファーに戻るといい」(リグルート)
「はい!身に余る光栄に御座います」(院長先生)
クラウドはうんうんと頷いている…これが普通なのだと言いたげな顔だった。
「では花凜さんに領地の全てを任せるよ、ミルドは牢屋で反省してもらうとしよう」(リグルート)
「うん、パパと相談しながらやってみる」(花凜)
「陛下…今地下牢は鬼で溢れかえっていますが、そこにミルドを放り込むので?」(クラウド)
「そうだ、良い反省になるだろ?」(リグルート)
「かしこまりました」(クラウド)
流れが決まり、話はひと段落した。
即断即決が出来る大人は素晴らしい…しかし、ミルドの意見は聞かないのだろうか?
(私達の言葉だけで、何で貴族のミルドさんの意見は聞かないんだろう…私はもしかしたら、最初からリグルートさんに使われていたのかも?)
その答えにたどり着いた今、既に問題は解決されている。
(むむむ、まあいいか…)
何だかリグルートの手の中で転がされた気分になる。
全ての要件が終わったので、帰ろうかと思ったが、院長先生が緊張でガチガチになっている。
「じゃあまたね!リーファウスにもよろしく言っておいて!」(花凜)
「ああ、またな」(リグルート)
「貸し1つだからね!」(花凜)
私はリグルートにカマをかけた。
リグルートは涼しい顔をしていたが、頬に冷や汗が流れる。
(やっぱりそっか)
私はニコっと笑うと、リオンと院長先生を連れて、孤児院に転移した。
【執務室】
「……はぁ…バレてしまったか…上手くやったつもりだったのだがな。貸しは高いかな?」(リグルート)
「どんな返済を求められるのか…生きた心地がしませんね…」(クラウド)
「そもそも余は悪くないだろう?」(リグルート)
クラウドは溜め息を吐いた。
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「はぅ…」(院長先生)
孤児院に戻ってすぐに、院長先生は膝から崩れ落ちた。
私は妖精王の森に、ミルドの兵士を解放させる。
孤児院の子供達は、院長先生を見ると駆け寄ってきた。
「おかえりなさーい」
「おかえりーなの」
「おかえりなさい」
「みんなただいま!もう大丈夫じゃ」
院長先生は駆け寄ってきた子供達を、愛おしそうに順番に撫でていく。
「良かったね」(花凜)
「お嬢ちゃん達のお陰で、まだ孤児院を続ける事が出来る…ありがとう」(院長先生)
これで一件落着だろう。
後は院長先生が何とかしてくれるはずだ。
「孤児院は、この先税金を払わなくていいからね」(花凜)
「そういう訳にもいかんじゃろう、ん?…そう言えばお嬢ちゃんは何者なんじゃ?」(院長先生)
「私はこの街の領主、妖精王の花凜だよー。一応伯爵なの」(花凜)
「そうだぞ?だから花凜が孤児院からの金をいらないと言えばいらない…安心しろ」(リオン)
院長先生はやっと納得出来た様子だった。
「儂は何たる無礼を…」
私に平伏しようとしたので、私はすぐに院長先生を止めた。
「院長先生…貴方は尊敬出来る人です!これからも子供達を守って下さい」
「我が身にかえましても…本当にありがとう御座いました」
院長先生の両目からは、涙がどんどん溢れてくる。
子供達を、こんなに一生懸命に守ってきたのだ。
その努力のお陰で、やっと安心出来る明日を手に入れる事が出来たのだ。
「こんな日が来るとは…諦めんで良かった」(院長先生)
「院長先生…」(フラッツ)
院長先生の涙を見て、子供達にも涙が伝染していった。
(次は…やっぱり家が狭すぎるよね?)
子供達は、いつまでも子供ではないのだ。
今は10歳以下の子供しか居ないようだが、こんな小さな家では不便が多いだろう。
「院長先生達に家を用意します。着いてきてね」(花凜)
「なんと!ありがとう御座います…この家では限界だったのです」(院長先生)
「今後院長先生には、沢山の孤児を受け入れて欲しいから、特別に大きい家を用意したいと思います」(花凜)
「何から何まで…本当にありがとうございます」(院長先生)
院長先生は子供達を見渡した。
「よし!お前達、お出かけの準備をしなさい」
「はーい」
「うん」
「お出かけお出かけ~」
「わーい」
子供達は楽しそうに着替えていた。
私が大きな家を用意すると言ったので、院長先生を含め、少し遠くまで歩くのだと勘違いしたのかもしれない。
始まってしまったものは仕方ないので、準備が終わるまで待った。
「花凜伯爵様、お待たせしました」(院長先生)
「うん、すぐ外なんだけどね」(花凜)
院長先生は少し首を傾げた。
確かにこの近くには家がないので、わからないのも仕方がない。
全員が家の外に出てきたので、私もイメージを始めた。
「ちょっとみんなー、場所開けてもらえる?」(花凜)
「仰せのままに、花凜様」(妖精王の森)
私は妖精王の森の中に入ると、木に歩いて移動してもらった。
――――ダダン!ズズ、バサバサ――――
高さ50メートルもある木が歩くのだ、院長先生も、子供達も、リオンもその光景にびっくりしている。
「な!なんじゃとーー!」(院長先生)
「怖いよー、ふええーん」(孤児院の小さな男の子)
大迫力の大樹の移動は、すぐに完了した。
「びっくりさせてごめんね」(花凜)
院長先生に寄り添う子供達が、ぴったりとくっ付いて離れないでいる。
これで家を作るスペースが出来たので、私は特大超もくちゃん館を作る事にした。
(創造生命魔法…みんなを守るお家)
私の右手が青白い光に包まれる。
しゃがみこんで、その魔力を優しく地面に流していく。
溢れでないように繊細に…
――――ズモ…ズズズズ――――
特大超もくちゃん館の芽が出て伸び始めた。
「なんじゃとーーー!」(院長先生)
「うわーー」(フラッツ)
高さ約40メートル、横幅約30メートルあり、奥行きも約30メートルだ。
やり過ぎもいけないと思ったので、騎士やメイドを創るのはやめておいた。
焦げ茶色の壁に、深緑色の屋根だ。
窓は従来通り用意していないが、館に頼めば作ってくれる。
大きなリビング、大きな食堂、大浴場が2つ、教室などなど。
寝室は狭く3畳くらいにしたが、個室だ!訓練が出来るスペースに、遊び場、広い院長室、トイレは格階に設置した。
「ここが貴方達の家です!あれ?院長先生?」
院長先生は真剣な顔つきになり、私に深く頭を下げている。
さっきまでと雰囲気が違うので、いったいどうしたのだろうか?
「……王様が花凜伯爵様に、頭が上がらない理由が今わかりました…貴方は本物の妖精王様なのですね」(院長先生)
「え?違うよ?」(花凜)
私は否定したが、院長先生は真剣な表情を崩さないようだ。
「その指輪は正しく賢者の石です。それは妖精王の証であり、魔道士の憧れる指輪…妖精王花凜の噂は、わし…私でも街で聞いた事がありました。
私は、どこまでも貴方についていきます」(院長先生)
「…確かに私は、変態…妖精王から、指輪を巻き上げ…貰いましたが…」(花凜)
「なんと!では貴方が妖精王です!私に、子供達を守らせて下さり、本当にありがとうございました」(院長先生)
「うぅ~…妖精王かー…」(花凜)
「あははは」(リオン)
確かにあの時妖精王は言っていたのだ。
この指輪は妖精王の証なのだと…だからと言って本物かと聞かれれば良くわからない。
院長先生の態度を見て、子供達も一緒に頭を下げた。
串焼き屋を覗いていた、お昼の女の子もいるようだ。
(あら?いつの間に…)
口の周りにカレーがついてて可愛い。
「冒険者のチーム名も妖精王なんだ…不満もあるだろうが間違いでは無いだろう」(リオン)
「確かに…」(花凜)
あのチャラチャラした妖精王を見てしまうと、妖精王と言われる事に少し抵抗がある。
ただ呼ばれるだけならば、別に困る事もないかな?そう思って、これ以上何かを言うのをやめた。
(妖精王かー、仕方ないかな)
気を取り直して、私は院長先生に顔を向ける。
「あの変態妖精王の称号をもらうのは嫌だけど…院長先生におまかせします」(花凜)
「はい!私の事はガッツとお呼び下さい!妖精王様」(ガッツ)
「なら私も花凜でお願いね、ガッツさん」(花凜)
私は院長先生に、納めた税金の金貨60枚を返却すると、院長先生は素直に受け取ってくれた。
さらに金貨1000枚を手渡たし、使い道を説明する。
「あと子供達に新しい服と、1人立ちする時の事を考えて、文字も教えてあげて下さい」
「かしこまりました」
「じゃあまたねガッツさん。困った事があれば、家に相談すれば、私に知らせが来るからね」
「はい!ありがとうございました」
家の使い方は館が説明してくれるはずだ。
ガッツ院長先生と子供達に見送られて、私達はその場を後にした。
私とリオンは、今日来た道を歩いて帰っている。
「リオン…子供達、あれで大丈夫かな?」
「ああ、問題無いだろう、また遊びに来れば良い」
私はワンピースに魔力を通し、リオン好き!と、日本語で文字を点滅させる。
この日私は、本物の妖精王になった…不本意だけど…




