自分の魔法
森の中を突風の如きスピードで颯爽と掛けていくリオン。
『ねぇリオン、今何処に向かってるの?』
まだこの世界の事を何も知らないので、私は地名を言われてもわからないが聞いてみた。
とりあえず今は、人間から逃げるために移動してるだけなので、特別目的地があるわけではない…
『この大陸の中央には山があるんだが、ドラゴンの住処になっていて、通る者はいない。
花凜が生えていた場所は、大陸の北西一帯に広がる魔獣の森だ…
中央の山からは、西北西に向かって、大河が流れていてな、強力な水性の魔物がうようよしているので、人が船で渡って来る事は、まず出来ない。
山にも踏み込めないから、人間が来るとしたら東からだろう…
今は南西の河に向かって、走っている所だ』
『うん…私…生まれ変わる世界を間違えた気がする…』
リオンの話を聞いて、ファンタジーの世界に生まれ変わった事を理解した。
本で読むのと現実に体験するのでは訳が違う…まだ見ていないけど…
魔物やドラゴンとか怖いし、近寄らない事を強く決心…しない!
(日本じゃそんなの居なかったし、見るだけなら良いかなー?見るだけなら…)
『今日はこの辺で休むとしよう。
ここで人化の魔法と魔力の遮断を使えるように練習する。
しっかり使えるようにしないと、花凜が神樹だってすぐにバレてしまうからな…』
『ありがとうリオン…もしリオンがいなかったら、人からノコギリで、細切れにされてたんだろうね…』
『今思えば、それは花凜が何もしなかったらの話だ。
人間も神樹に意識があるなんて思ってないだろうからな…
それに花凜は、自分の力がわかっていない…刃を立てられて、反射的に魔力を放出するだけで、人間の軍団は吹き飛んでいたはずだ…
それは花凜が望む事ではないんだろう?』
私はただ斬られるだけじゃなくて、もしかしたら人殺しになっていたかもしれないらしい…
助け出してくれたリオンに、深い感謝の気持ちを抱く。
自衛とはいえ沢山の人を殺してしまったら、私は私を嫌いになってしまうだろう…
『リオンありがとう…』
『感謝するのは私も同じだ…花凜がいなければ、今頃私は死んでいたからな…』
『リオン大好き〜♪わっふ…』
猫型のリオンの背中にくくりつけられて、一日中運ばれていた呪いの藁人形は、乱雑に地面に落とされる。
そっぽを向いているリオン…私の言った言葉の照れ隠しみたいだ。
『まずは人化の魔法を完璧にするのだ、よりイメージを正確にしろ』
何事も無かったかのように振る舞うリオンが、少し可愛く感じる。
(にゃんこなのに♪もう!可愛いんだから!)
『今失礼な事考えなかったか?』
『…集中集中』
リオンの感は鋭いらしい…危ない…
『私は狩りに行って食べ物を取ってくる、また後でな』
『え?え?ちょっとま……って〜…』
リオンが狩りに行くと言い残し、あっという間に森の中に消えていった。
私の声は届いていたはずなのに、リオンはお構い無しといった様子だった。
関節すらないカカシ同然の私は、森に捨て置かれて半ば呆然とする…
(魔獣の森で、いきなり1人にされるとか思わなかったー…)
しかしよく考えてみたら、私はリオンに会う前までは1人だったのだ…
急にいなくなった事で、リオンがどれだけ大きな存在だったのかがわかる。
小さな頃に、お祭りの人混みで両親とはぐれてしまったような気分だ。
甘えてばかりもいられないので、今はやれる事をするしかない。
『人を強くイメージ…イメージ』
それからしばらく人型の特訓を続ける。
1時間くらい経っただろうか?
私は薄ぼんやりイメージが纏まってきた気がした。
昔の顔に少し肉付けすればいいだろう…
『花凜』
『ひゃい!』
リオンが帰って来ていた事に気付かず、急に声をかけられて、びっくりして変な声が念話で出てしまった。
『ああ…すまない…気配を断っていかなければ魔獣が逃げてしまうのでな、そのまま気配を消していた』
『も〜びっくりしたよー』
びっくりしたが、私はリオンがいることに安心して、そっと胸を撫で下ろす。
サバンナでライオンが獲物を狙う場合、身を隠して風下に回るとテレビでやっていた。
きっと魔力のあるこの世界では、魔力を断つのが基本になるのだろう。
『人型のイメージは固まったか?』
『うん!もう少しかな?』
――――バキバキ、ゴツ、ガブ――――
(ん?)
――――ガリガリ、ブチブチ――――
『リオン?』
『ん?』
『もしかしてお食事中?』
『そうだ』
(にゃんこ恐るべし…)
『大きな動物捕まえて来たんだね…』
『こいつはな、断熱性に優れた皮をもつ魔物で、花凜の人型が完成した後に、服が無いのでは不便だと思って捕まえてきたんだ』
『凄い!嬉しい!ありがとうリオン♪』
『私は服を持っているからな、まあ気にするな』
素っ気ない態度のリオンだが、いつもいつも世話をやいてくれる。
リオンが獲物の肉を噛みちぎる振動で、私の体は少し揺れているのだ。
(ツンデレにゃんこ♪)
『おい、今しつれ(イメージ固まってきたーーー!)』
リオンの言葉に被せて誤魔化す事にした私…ジト目を向けるリオン…
私にはまだ目が無いので、そんな視線を向けられているだろうというイメージである。
(さあ、頑張るよ)
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人型のイメージ特訓から3日目の朝、身体全体に魔力を通して行き渡らせる。
(よし!今度こそ成功させるぞ!)
全身が淡い光に包まれていった。
魔法で今の姿になっているので、人化の魔法を再発動した事により、作り直されるために体の輪郭が曖昧になっていく。
完成系の姿を想像すると、3日も練習したので、今でははっきりイメージする事が出来る。
体を包んでいた光が、徐々に弱くなっていく。
(上手く出来たかな?)
私が目を開けると、想像していたよりも背丈の高い木々が立ち並んでいた。
リオンに美味しくいただかれたのだと思われる残骸が、あちらこちらに落ちている。
周りを見渡していると、大きな魚の鱗のような物を見つけて、手鏡代わりに自分の顔を確認する。
(どうだろう…)
不安にかられて生唾のような物を飲み込んだ。
頭から深緑色の髪の毛が生え、瞳は金色、肌は真っ白で人形のようだ。
身長は150センチくらいだと思うが、比べる物がないので定かではない。
体はマネキンをイメージしたので、今はまだ性別を判断出来るような特徴は無いのだ。
顔の見た目は少女で、昔の顔に肉付けしただけの手抜きだったりする。
形を意識するのに集中していたので、髪色や瞳の色は自然とこうなったのだ…
今はとりあえず満足のいく出来映えである。
『できたのか?』
『あ、リオン…凄く綺麗、リオンって全身真っ白だったんだね♪』
リオンが小さく頷く、私は自分のいる場所を更に見渡してみた。
『魔獣の森なんて言うから怖いイメージ持ってたけど、木漏れ日に優しい風が気持ちいい』
『目、肌、耳は再現出来てるみたいだな、言葉は話せるか?』
「あーあーあー、うん!大丈夫みたい」
『そう…か、いいんじゃないかな?ははは』
私は普通の人みたいに、人間らしい感覚を持つことが出来て、ひと安心した。
しかし、何故か笑いを堪えるような…?そんなリオンの態度が気になった。
『リオン何処か変かな?』
『自分の頭のてっぺん触ってみればわかる』
私は恐る恐る頭に手を伸ばす…
(!!!?)
手にかたいものがぶつかり、魚の鱗で頭の上を確認する。
そこには細い神樹が生えていた。
(これじゃあ歩く避雷針だよ…泣ける…)
私は膝から崩れ落ちる…
『まあ落ち込む事はない、3週間はかかると思っていた事が、3日でできるようになったのだ。
身体が最高級の魔法の材料になど使われる事からしても、身体全体が杖の役割を果たしているのだと思うぞ?』
『でも頭から木が生えてる人間なんて…』
私は想像してしまったのだ…頭から魔法を飛ばす自分を…
そして決め台詞を吐く…[ここの日光は頂いたわ!]
(あれ?意外と悪くないんじゃないの?)
『切ってやるから動くなよ』
『え?ちょっとま…』
――――スパン――――
『いたーーーい!…くはない』
『そんな細い枝を切ったくらいで痛い訳がないだろう?』
『でもびっくりしたよー』
爪や髪を切るように、これくらいじゃ痛みは感じないらしい。
リオンは風の魔法みたいなのを使い、一瞬で私の頭から生える神樹を切り飛ばした。
いきなりの事でびっくりして、私は少し不貞腐れてみせる。
しかしリオンは構ってくれずに、私は軽く無視されてしまった。
『今切ったその枝は、花凜自身の身体の一部だ。
加工すれば強い武器になるだろう』
『んー、武器とか考えてなかったな…確かに身を守るには戦う事も必要だよね…どんなのが良いか考えとくよ〜』
『そうだな、まあまずは服を作ってやる』
『わーい』
リオンは人型に変身した。
多分身長は160センチくらいで、真っ白い長い髪が腰の下まで伸びている。
透き通るような青眼に白い肌…バツグンのスタイル…見た目は18歳前後で、息を飲むような美しさがあり、白いモコモコした毛皮のドレスを着ていた…え?
「リオン?」
「どうした花凜?」
「女の子だったの!!!?」
「そういえば花凜に目がついてからは初めての人化だったな…毛皮を加工するのに、人型の方がやりやすい」
「もうリオンには驚かされっぱなしだよ…」
「花凜には言われたくないな、お互い様だ」
リオンは牛っぽい皮と蛇革で、全身を隠せるフード付きの外套を作ってくれた…
後は何処かの町で買う事になるだろう。
少し生臭いような気がする…
「可愛いくはないけど…ありがとうリオン」
「贅沢言うな、私は物作り系の魔法はほとんど使えないしな」
「とっても助かるよー、流石リオン!さすリオ」
体が使えるようになったので、体を使って盛大に気持ちを表現をするべく両手を広げて微笑んだ。
リオンは私を見て少し戸惑っているようだ。
私の気持ちが伝わるように、森に魔力と活力が満ちていくのがわかる。
「ねえリオン、さっきのリオンが使った風の魔法って私も使えるのかな?
リオンを助けたいって強く考えた時は、なんとなくやり方がわかったんだよね…
でも今リオンが使った魔法は、私にはわからなかったから」
「ふむ…少し長くなるが、説明しよう…」
リオンと私は近くの幹に座った。
「さっきの私が使った風の魔法は、人間が作ったものだ。
人間はその短い生涯の中で、様々なたくさんの種類の魔法を、作り出している。
そしてそれを後世に伝える事で、いくつもの不可能を可能にしてきた。
さっきの風の魔法は、人間に教えてもらったのだ。
私達の存在は、人間の言葉を借りれば、魔物というのに分類される。
魔物は生まれてから、感覚的に自分が使う事の出来る魔法を理解して、体の一部のように使う事ができる。
だけどな、例えば炎を操れる魔物がいたとしても、その能力を存分に発揮する事は出来ない…
私達と、他の魔物の違いは何だと思う?」
リオンはそこで一旦言葉を切り、私の方を見つめてくる。
私はリオンの顔を眺めながら考えた。
「んー…何だろう…私はまだ他の魔物も見た事ないから…あ!人の姿になれる事と関係ある?」
「まあ関係無くもないな…私達と他の魔物の決定的な違いは、考える事が出来る思考能力の差だ。
炎や氷、水や風、雷に大地、光や闇、時間や空間…そういった能力を持っていたとしても、周りに撒き散らしたり叩きつけるくらいしか出来ないからだ。
だけど私達なら色々な使い方を試す事が出来るだろう?
私達が大地を操れるなら、陥没させたり城壁を建てたり、底無し沼にしたり色々考える事が出来る。
思考能力の低い他の魔物は、飛礫や自分の身を守る程度しか使えないのだ。
もちろん魔物にも差があるから、一概には言えないけどな」
「なるほど…」
そういうとリオンは目に魔力を集めて、遠くの木を見つめる。
リオンに見つめられた木は、次の瞬間氷漬けになっていた。
「これは私独自の魔法だ…花凜にだから見せたが、私の切り札の1つで、他の者は使えないだろう。
普段不用意に使ったりはしない…大きな力の差が無い限り、魔法での戦いは騙し合いのような物だ。
私は氷や冷気を自在に操る事が出来るが、見せて良い物と切り札は分けている。
そこでさっきの花凜の質問なんだが、結論から言うと、花凜も風の魔法を使う事が出来る!
人間は色々な呪文を詠唱する事によって、その魔力を変化させる。
実力が相当高くなれば呪文の詠唱もいらなくなり、魔物みたいに能力を行使する事が出来るが、そこまでの実力を持つ者は少ないだろな…
花凜も呪文や座学を勉強して、風を使う能力の感覚が掴めれば、使えるようになるはずだ。
でも花凜はまず自分なりの魔法を完成させるのがいいと思うぞ?」
「リオン凄い!」
「花凜は感情の変化だけで、森に活力を与えていた…魔力を使えば、何か出来るんじゃないか?」
「やってみる」
私は自分の能力について知らなければいけない。
感覚を掴むために目を閉じ集中する。
(私に出来る事…回復させる事?なんか少し違うな…死なないようにする魔法?それも少し違う…でも私はリオンの命を助ける事が出来た…)
目を開き、近くの草を触ってみると、私は命の流れを感じる事が出来た。
それは魔力ではなくて、もっと根源的な物だろう。
(私に出来る事、それは命を助けたり強くしたり…奪う事も1から創る事も出来そう…)
私は近くの木に触り、魔力を通して集中してみる。
すると魔力は波紋のように広がり、辺り一帯からざわざわ声が聞こえ始めた。
「我々に生命を与えて下さりありがとうございます神樹様」
『木が喋ったよ!リオン!』
私はぎゅるりと首を捻り、口をパクパクさせながら念話を飛ばした。
『ああ、私にも聞こえる』
「神樹様にお使え出来て、我々は嬉しく思っております」
周りの木々が言葉を話し出し、皆私に御礼を述べる。
木が喋れるようになったのはイメージ通りではあるが、流石に少しびっくりした。
「あなたのお名前はなんて言うの?私は花凜だよ」
「存じております神樹様、それと我々には名前はありません」
「でも木さんじゃ呼びづらいし…どうしようリオン…」
「会話が出来る程の生命を作ったのか…とんでもないな…花凜の魔力だからこそ出来る魔法なんだろう。
花凜が生命を吹き込んだ木なんだから…そうだな、神命樹とでも名付けたらどうだ?
それか花凜の名前から取って(もくちゃんにしよう!)って、おい!」
リオンは私のマイペースに溜め息を吐く…私はそんな仰々しい名前は嫌なので、変な名前を付けられる前に命名した。
木だから、モクと読んでもくちゃんだ。
「我々もくちゃんは神樹様に使えさせていただきます」
「それで良いのかお前らは…」
リオンは呆れ顔になっている。
もくちゃん達は嬉しそうにざわざわしている。
私がにこにこしていたので、リオンは私に何かを言う事を諦め、もくちゃんの方を見た。
「で、お前らは何ができるんだ?」
リオンがもくちゃん達に話しかける。
今後のためにも、聞いておかなきゃならないということらしい…
「若き猫よ…(誰が猫だ!)我々の認識は、神樹様と繋がっている、神樹様の出来る事なら我々も出来るのだ。
ただし神樹様とは魔力の桁が違う…人型になれば生きてはいけないし、それと大規模な回復も我々の魔力では不可能だ。
生命をいじる事も我々には出来ない」
「それはそうだろうな」
「出来る事は、森に侵入した者が何処にいるのか探知して、神樹様と情報の共有をする事と、形態変化をして敵を串刺しにしたり、ツタで縛り上げたり、毒殺したり、幻覚を見せたり、方向を狂わせたりするくらいだ」
「もくちゃん!物騒な事言わないで!」
「…神樹様、この世界は神樹様が花凜として生きてきた世界よりも、危険に溢れているのです」
「でも、食べること以外の殺しはいけません!仲間が傷つけられたら、抵抗は許可します」
私は強い意志を込めて、もくちゃんを見つめる。
もくちゃんは私の転生前の記憶を共有しているので、私が言いたい事がわかっている筈だ。
もくちゃんはこの魔獣の森での出来事を加味して発言したのだが、私の強い意思を受けて黙り込む。
そしてもくちゃんを通して、今の状況を確認した。
「リオン、鎧を着た人達がここに向かってるみたいなの…凄い数だよ?
大体2000人くらいの大軍で、剣とか弓とか持ってて…真っ直ぐこっちに向かってきてるんだけど、なんでなのかな?」
「神樹としての花凜の姿は消えたが、花凜の魔力はそのままだからな…
剣や弓を持っているのは、普通にこの森の魔獣対策だろう。
今は魔力を目指して、こちらに向かって来ているんだろうが、あとどれ位でここに辿り着きそうなんだ?」
リオンの言葉に私は考え込む、するともくちゃんがざわざわし始めた。
「ん〜、だいたい2日かなー?」
「ならそれまでに魔力の遮断を覚えて、移動しなければなるまい…
普通ならある程度魔力を遮断すれば、気配は希薄になり存在は感知されにくくなる。
だが花凜の場合は、完全に魔力を遮断しないとバレてしまうだろう」
「わかった、っと〜その前に家を作るね」
私は魔法の使い方を理解してきたので、今ならきっと出来る筈だ。
使いたいイメージを頭に描きながら、両手を地面につける。
(こんな感じが良いな…リオンと2人のお家)
目を閉じ魔力を集中すると、地面から小さな木が生えてくる。
私はリオンの手をとるとその場から離れて、生まれてきた小さな木の様子を見た。
――――ニョキ、ズズズズズズ――――
私の魔力でみるみる伸びる木…
高さは7メートルくらいで成長を止めたが、次はどんどん横に太くなっていく。
その木は約直径10メートルまで広がった。
流石のリオンも驚いてる様子だが、まだ終わりではない…
幹の部分に扉が現れたのだ。
「花凜、これは家なのか?」
「うん!今思いついて、出来そうな気がしたからやってみたんだ♪中は凄いよ?」
リオンが扉に近づくと、待ってましたと言わんばかりに自動で扉が開く。
それを見てまたびっくりするが、私が当然のような顔をしているので、リオンは中へと入っていった。
窓は無いのに、家の中はほんのり明るい。
天井に光る苔が生えており、キノコで出来たふかふかのダブルベッドがある。
仕切りはないけど丸いお風呂に、個室トイレ、魔力の溶けた少し甘い樹液が湧く溝には、木製のコップが備えられていた。
家の真ん中には、ふわふわのカーペットみたいな苔の上に、木製の丸いテーブルがある。
快適温度の空調付きで、家の中全体には微弱な回復魔法が常時かけられている。
「とんでもないぞ…なんて無駄に快適な空間なんだ…」
「私、今まで生きてきて…1番本気だしたからね!」
「初めまして、神樹様」
「!!?」
「うん!よろしくね♪」
リオンは私の生きてきた世界を知らないので、私の想像力から生み出された魔法に驚愕している。
最先端技術の粋を集めた家に、田舎から引越ししてきた人が、自動ドアにびっくりしている感覚だろうか…?
リオンは不意にかけられたもくちゃんハウスの声に、再度びっくりしたのだ。
「これはなんだ?」
「それは魔力回復する水だよ」
「これは?」
「お風呂!あったかいお湯が出てくるよ」
「じゃあこれは?」
「たけ○この里とき○この山、甘いよ〜♪」
「…」
「じゃあ私は、魔力遮断の練習をしようと思うんだけど、まずどうしたらいいの?」
「これだけの魔法が使えて…なぜ魔力遮断が出来ないのか…逆に疑問なんだが…」
リオンの話しでは、私は膨大な魔力を持っているそうなので、これくらいの事では疲弊する事はない。
何度も驚いているリオンだったが、たけのこ○里ときのこ○山の美味しさに、また驚いている様子だ。
味などは再現出来ている筈だが、魔力の塊のような物で、私が食べても意味は無い。
「魔法の…
サクサクサク…
遮断方法は…
サクサクサク…
まずは…
サクサクサク…
両手を前に…
サクサクサク…
出してから…
サクサクサク…
こう…
サクサクサク」
「うん、食べて落ち着いてからでいいよ?」
言葉は飾り気がなく男口調だが、親切で世話焼きで色々教えてくれるリオンに、私はほっこりする。
命を助けて助けられて、まだ一緒にいてくれるリオンは、根本的に優しいのだろう。
いつかコタツと猫じゃらしを作ろうと思った。
「リオンはた○のこの里派なんだね、私もだけど」
「この茶色くて甘いのが気に入った!口の中で溶けだして香りも良い…200年生きてきて初めての味だ」
「200年…凄い長生き!」
「あの木が言っていたように、私はまだ若いのだ。
エルフなんかは600年前後生きるしな…
人間は短命だが、神樹の花凜には寿命はないだろう」
「んー、そんな実感は無いけどな」
「神樹や世界樹と呼ばれる木は、この世の理から外れた存在だ。
それが考える意志を持って行動するなど、誰も夢にも思わないだろう。
私もそんな話は聞いたことがない…しかし、実際目の前に花凜がいるしな」
「でも捕まったらおしまいなんだよね」
「それだけの力があれば、人間など取るに足らないだろうが、争いを好まないなら逃げるしか無いな」
「ではリオン先生、魔力遮断教えて下さい♪」
「まずは…
サクサクサク…
両手を前に出して…
サクサクサク…」
「リオンわざとやってるでしょ…」
リオンから魔力の遮断方法を教わりながら、今後どうしていくか考える事にした。
少し余裕が出来た。
(あれ?そういえば猫ってチョコ食べちゃダメだったような…大丈夫かな?)
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「ど、どうかな?」
「…」
家の外が茜色に染まる頃、ついに魔力遮断が形になってきた。
リオンは目を閉じると、私の魔力の存在を探している…
「大丈夫だな、後はそれを常時続けれるようにすればいいだけだ」
「せ、先生…こんな集中状態を、ずっと続けなくちゃいけないの?」
「そのうち問題なくできるようになるさ、慣れるまでは魔力遮断の結界を作ってやるから安心しろ」
「ありがとうリオン…実はこの状態だと、私ピクリとも動けない…」
「まだまだ道は遠そうだな…しかしこのた○のこの里と言う食べ物のお陰で、私も魔力が溢れてくる。
常時結界を作る事も可能だろう、今から結界を作るから今日は寝て明日に備えよう」
「うん、ありがとう」
リオンと一緒にキノコのベッドで横になった。
不整脈にならないお陰かどうかわからないが、リオンとは普通に接する事が出来る。
心臓は作ってないのだが、リオンとベットに入ると、少しドキドキするような錯覚を覚えた。
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「起きて下さい神樹様」
「ん、んー?」
もくちゃんハウスからの呼び声に起きる私達…
中からではわからないが、まだ時刻は深夜だろう。
私はまだリオンにくっついて寝ていたいが、そんな状況ではないらしい…
「あー、そういう事ね、ありがとうもくちゃんハウス」
「どうしたのだ花凜?」
私はもくちゃんから情報を受け取れるので、外の状況がすぐにわかった。
情報を掴んでいないリオンが私に質問してくる。
「んーとね…人の軍隊はまだまだ遠いんだけど、少数の人だけここに向かってるみたいなの…あと半時もしないうちに到着する」
「なるほど、魔力の反応が消えたから少数の精鋭だけ偵察に出したのだろうな」
「書き置き残して逃げよう」
「神樹様お待ち下さい」
リオンに状況説明をして書き置きを残そうと思ったが、もくちゃんからストップがかかる。
「神樹様の世界の文字では、こちらの人間には伝わりません」
「がびーん…盲点…リオン文字書ける?」
「それくらいわけはない、なんと書き残すのだ?」
「旅に出ます、探さないで下さい、神樹ってお願い」
「家出娘みたいな書き置きだな…まあいいだろう」
「それじゃあ出発〜♪」
「ああ…
サクサクサク…
行くとしよう…
サクサクサク…
追っ手を…
サクサクサク…
巻いて…
サクサクサク…
逃げるなら…
サクサクサク…
南西の大河に…
サクサクサク…(リオン後でまたもくちゃんハウス出してあげるから食べるのやめよ?)…むむ…」
「それじゃあ気を取り直して出発〜♪」
「ああ…サク、行くか!」
私達は南西の大河に向かって移動を開始した、ツリーハウスのテーブルに、削り出した書き置きを残して…
(お父さん、お母さん、まりちゃん、私は世界から追われる身になったよ)




