表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/53

魔法のある世界





 言葉で言い表せない微睡みを掻き分けて、少しずつ意識が覚醒し始める。


(夢じゃなかったんだね…んーー…よく寝たな〜…)


 周りの木とは一線を画す程大きな大樹に生まれ変わって、早数日が経過した。


 今日も元気に陽の光を浴びていると、小鳥が枝に止まっているのがなんとなくわかる。


 実際にあくびも背中を伸ばす事も出来ないのだが、私は思いっきり伸びをした。


(陽の光が暖かくて気持ちいい〜…)


 もう一度眠りにつくか悩む…


(安心して寝れるのって、幸せだよね)


 普通木に生まれ変わったりすれば、動けずに何も出来ない事に絶望するかもしれない。


 私は木に生まれ変わった今の状況と、生まれ変わる前の病弱な自分の身体と比べてみる…今は昔より遥かに強い生命力が、身のうちに駆け巡っているのだ。


(生きていけるだけでもありがたいよね)


 命は大切だ…無駄にしていいものじゃないのだ。


(健康な体に生まれ変わらせてくれて、ありがとう神様)


 たっぷりある時間の中で、お父さんとお母さんの事を思い出す…


 優しい両親は今何をしているのだろうか?


(今私が元気で生きてる事を伝えたいけど…それは無理なんだろうね…お父さん、お母さん…今どうしてるの?)


 日が落ち満天の星空が浮かぶと、ずっと昼間から枝で休んでいる小鳥が気になった。


 目があるわけじゃないのに、どうしてわかるのだろうか…


『ねぇねぇ小鳥さん、今日も星が綺麗だね』


 小鳥はびっくりして飛び起き、辺りをキョロキョロしている…その小鳥の反応に私もびっくりした。


(まさか声が届いたの?)


『びっくりさせてごめんね小鳥さん、まさか声が届くと思わなかったから…』


 小鳥は警戒の姿勢を崩さない、辺りを睨み唸り声をあげているようだ…


(え?怒らせた?)


 雰囲気から察する事しか出来ないが、私は小鳥さんを怒らせてしまったらしい…


 しかし小鳥にしては、何だか様子がおかしいと思う…


『誰が小鳥だ!いったい何処から念話を飛ばしている!』

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!もう話しかけないから!許して〜』


(怖い〜…泣ける…あ、でも…体調は平気っぽい?)


 私は木なので、目で周りを見れているわけではなく、ただなんとなくわかるのだ。


 不思議な感覚だが、薄ぼんやり周りの状況がわかるだけで、説明しろと言われたら首を横に振っただろう…首ないけど…


 話ができた事を嬉しく思うが、小鳥さんをいきなり怒らせてしまったみたいだ…


 わからない事が多いけど、ここに来てから毎日平和だったので、深く考える事を放棄してしまっていた。


『もういい…何をされても、今の私が抗う事は出来そうにない…それに…悪意は感じぬからな…』


 どうやら小鳥さんに許してもらえたみたいで、心の底からほっとした。


 木になって初めて誰かと会話できた事が嬉しかったのと、木なので不整脈になる事は無いようで安心した。


 私は少しためらったが、もう一度話しかける事にした。


『小鳥さんだなんて言ってごめんなさい、私目が無いから…なんとなく感じる事しか出来なくて…』


 相手が何なのかわからないので、今はとりあえず頭の中での呼び名は小鳥さんだ。


 小鳥さんは少し間を開けてから、小さく頷いた…ような気がした。


『…姿を見せよ、何もせぬし何も出来ない…』


(そんな事言われても…まあ正直に言うしかないかなー)


『私は目の前の木だよ』


『…』


『あなたの今乗ってる枝は、私の腕のような物かな?』


『…』


 小鳥さんは黙り込み、唖然としているように感じる。


(ですよねー…普通に木から話しかけられてるとは思わないよね…)


 小鳥さんは、何かを考えているようだ…


 しばらくの沈黙…私は小鳥さんと見つめ合っているような気分になる。


『嘘は…ないようだな…まさか世界樹から話しかけられていたとは…通りで小鳥だなどと…』


 少し気になる単語が出てきた…世界樹とはなんだろうか?


(ちょっと聞いてみようかな)


『世界樹?私は世界樹っていうの?』


『……そうだ、世界に数本しかない、膨大な魔力を蓄える大樹を世界樹という…神樹とも言うな』


(またわからない単語…魔力って…もしかして魔法?)


『魔力?』


『何も知らんのだな…教えてやりたいのは山々だが、私にはもう時間がない…血を流しすぎて、今日を乗り越える事も難しいだろう』


『え!大丈夫なの?』


『昔はこの当たりには神樹などなかったはずだが、逃げのびて彷徨っていたら偶然見つけてな…近くにいれば、魔力も回復力も上がるのだ。

だから休ませてもらっていたのだが、どうやらこの身体は限界らしい』


(う…わからない事ばっかりで混乱するよ…そんな事より、小鳥さん死んじゃうの?

膨大な魔力…か、でもなんだろう…生まれ変わってから、体の中を血液のように流れる生命力?みたいな、溢れる力があるのは、わかってるんだけど。

もしかしたらこれが魔力なのかな?)


 私は意識を集中してみると、魔力の流れが手に取るようにわかった。


(この人を死なせたくない…どうにか助けたいよ…神様…)


 私が意識を集中していくと、魔力が集まってくるのがわかった。


 そうしたら漠然と、どうしたら助ける事が出来るのかが理解出来てしまう。


(いける…私!この人助けられる!)


『何とか出来るような気がするの…死なせないからね!』

『何を言っているのだ…私の体は私が良くわかっている…もう無理なのだ』


(お願いします神様、この人を助けたい…力を貸して下さい)


 更に意識を集中すると、急速に魔力が集まりだす…


 私はその魔力を凝縮して、吸い上げた水に溶かして混ぜる。それを相手の身体に落としてみた。


 私が絞り出したその魔力は、スポンジに落とした雫のように、小鳥さんの身体に染み込んでいく。


 初めてやる事だったが、私はそれが成功した事を確信した。明らかに小鳥さんの生命力が回復したのだ。


 何故か感覚的に?本能的にやり方がわかる。不思議な感覚だが、何処か懐かしいような…


『どうかな?なんとなくだけど、上手くいったと思う』


『はっ!…凄い………これは驚いたぞ…瞬く間に全てが元通りになった…痛みも消えた!それに魔力まで回復してしまったようだ』


 小鳥さんが元気になったみたいで、私は嬉しい気持ちになる。


(初めて誰かの役に立てました)


『よかった〜…死んだらダメだよ!絶対!』


『すごいな…まさか命を助けられるとは…本当に感謝する。』


(とりあえずひと安心かな?誰かを助けるって、こんなにも嬉しいんだね…)


 私は心の中が、優しい気持ちでいっぱいになった。


『名前なんていうの?私は花凜だよ〜』


『私はリオンだ、世界樹にも名前があるんだな』


 私が名前を尋ねると、小鳥が名前を教えてくれた。


 私に名前がある事が、このリオンには不思議らしい。


 何も状況はわからないが、私は自分の境遇を教える事にした。


『うん!生まれ変わる前の名前なんだ…』


『ん?生まれ変わりなのか?信じ難いが…まず喋る世界樹って時点で、色々あるのだろうな…しかし記憶も存在しているとは…前は何処で生まれたのだ?』


『日本だよ!ここはどこ?』


『聞いたことない国だな…ニホン…まあ、私も地名などは詳しくないからな』


 そこで私は、リオンに今まで経験した人生と、生まれ変わってからの数日間の出来事を話した。


 リオンは私が喋り終わるまで、静かに聞いてくれて、全ての情報を繋ぎ合わせてくれている。


『なるほどな…どうやらここは花凜が住んでいた世界とは違うのだろう』


『そう…なんだね、少しづつこの世界の事を分かっていけたらいいなって思うよ…魔力とか今まで知らなかったから』


 世界が違う…しかし薄々気付いていた事だったが、お父さんやお母さんに会えないと思うと、とても寂しくなった。


『命を助けられたのだ…私に出来ることなら何でもしよう、何かして欲しい事はないか?花凜』


 私はお父さんとお母さんの事をリオンに聞いてもらえたので、少しだけ気分が楽になった。


 その後リオンの態度が、少し柔らかくなった気がする。


 未知の世界に生まれて、初めて話相手が出来た事が、私は凄く嬉しかった。


(お礼かー…私としては欲しい物とかないからね…うーん…)


『たまにここに来て話相手になってくれたら嬉しいな♪』


『無理だな』


『即答!え?何で何で〜』


(まさか断られるとか…残念だよリオン!残念リオン)


 少し心の中で喚いてしまったが、リオンがここに来るのもきっと大変なんだろう…


 気を取り直して、無理なら無理で諦めようとした。


 その時リオンが口を開く


『このままここにいたら、近いうちに花凜は人間に見つかるからだ』


 何故?…人間に見つかるから?リオンは人間ではないのだろうか…


 リオンは普通に言葉を話し、名前も人間みたいなので、勝手に人だと想像していた。


 気になる事はいくつかあるが、理由を聞かなければならないだろう。


『人に見つかったらまずいの?』


『魔法の材料や回復薬など、世界樹からは貴重な材料が山ほど手に入る…だから人間からすれば、花凜は宝の山のようなものなのだ』


 どうやら私は、この世界に来て早々色んな人から狙われるらしい…


(折角生まれ変わる事が出来たのに…お父さん、お母さん、ごめんなさい…)


『う〜…次生まれ変わったら、普通の木に生まれ変わりますように』


『そこは木じゃなくていいだろ!』


 私はまた短命に終わってしまう事に、酷く凹んだ…


 不安で胸がいっぱいになる…


(怖いよ…どうしよう…)


『切られると痛いかな?怖い…このまま見つからないでくれたらいいのに』


『それも無理だな…花凜は今の自分の大きさが分かっているか?

人里からは大分離れているが、花凜の大きさは既に2000メートルを超えている…

魔力も探知されているだろうし、見つかるのは時間の問題だ。

それこそ国をあげて回収に来るだろう…残された時間はそんなに多くない…近くのグラシアン王国が動けば、約1ヶ月くらいで辿り着くだろうな』


 1ヶ月…それが私に残された時間…


 諦めたくない…でも、リオンの言う事が嘘だとは思えない。


『そっか…リオンさん色々ありがとう!

何も知らないままだったら、斬られる事が理解出来なくて、もっと辛かったかも知れないから』


『そう諦める事は無い、私が来る人間を全て滅ぼしてやるか(遠慮します)って、なぜだ?』


 リオンの言葉に食い気味に断りを入れておく…


 人間を滅ぼす?そんな怖い事は言わないで欲しい…


『私には、向かってくる人間を滅ぼすくらいなら造作もないぞ?』


『そうじゃないの…私だって生きたいよ?

でもね、私は生まれ変わってもお父さんとお母さんの事を忘れなかった…

それは大切な事だからだと思うの。

今はまだ答えが出せないけど、自分が助かるためってだけじゃ、私は人を殺せない』

『そうか、なら逃げるとするか』

『うん!リオンさんはそうして、私はあと1ヶ月を大事に生きるから』


 もしかしたら、神様は私に少し時間をくれたのかもしれない…


 前の体と違い、今の私は健康体だ…体…木だけど…


 リオンは軽く伸びをして起き上がった。


『では時間も無いからな、すぐに魔法の練習を始めるぞ』


 リオンは戦う気なのだろうか?


 私はそんな事は望んではいない…どういう事なのだろうと思いながら、リオンの次の言葉を待った。


『まずは魔力の制御からだ』


『え?ちょっと待って?私戦わないよ?』


『逃げるのだろう?』


『え?私も?』


『当たり前だろう?もともと人だったなら、人化の魔法くらい使えるようになるはずだ。

それに花凜だけを置いて逃げたりはしない…間に合わぬようなら人間を滅ぼして(それは遠慮します!)…なら間に合うように練習するしかないな』


 リオンはちょっと好戦的で、人間嫌いな性格なのかもしれない…


 怖い言葉も多いけど、私を大事にしてくれようとするリオンに、とても嬉しくなる。


 魔法で人になって逃げると言う言葉に、私は凄く希望が湧いてきた。


 また桃が食べれるかもしれないのだ!


『リオンさん!私頑張るよ!』


『さんはいらない、リオンと呼ぶがいい』


『…わかった!ありがとうリオン』


『少し寝ることにする、起きたら…練習を始め…る…』


 リオンは相当疲れていたのだろうか?


 言葉を絞り出すように話した後で、リオンはすぐに寝てしまった。


 切羽詰まった状況であるのは理解しているが、明日からの事を考えると、私はとても楽しみになった。


『リオン、おやすみなさい』


 リオンはすぐに深い眠りについたようだ。私もリオンを追いかけるように眠りについた。




『か…、りん、かりん、花凜!』


『ふぇ?』


『やっと起きたか…』


『おっはよーー』


『おっはよーじゃないわ!』


 何故かリオンのご機嫌が宜しくないみたい…日は天高く、真上まで太陽が昇っていた。


 私は目が見えなくても、大体の状況を把握する事が出来るのだ。


『ちょっと寝すぎたかな?』


『ちょっとだと?……今度からは少し気をつけなければダメだな…生まれ変わってから数日だというのも疑わしい…』


『?』


『花凜…2週間寝てたぞ…』


 衝撃の事実を聞かされ、リオンが怒っていた理由も頷ける…


 もう時間がどれくらい残されてるのかわからないのだ…


『ご、ごめんなさい』


『間に合うか怪しい所だがやるしかあるまい』


 リオンは深い溜め息を吐くと、早速魔力の集め方を実践してくれた。


 普段目の変わりに見ていた景色は、周囲の魔力だったのだろう。


 リオンが魔力を操作すると、その流れが手に取るようにわかった。


 リオンの身体を魔力が満たし、輪郭がくっきり見えてくる。


『猫?』


『誰が猫だ』


 魔力が完全にリオンの身体を満たし、朧げだった姿が私にもくっきり見える。


 確かに猫と言うにはスマートで、少し凛々しいような気がする。


 ちなみに猫はぽっちゃりな方が好きだ。


『姿がくっきり見えてきたよ』


『花凜も真似してくれ』


 私は魔力を集めた…理想の猫型に…


『違うわ!』


 リオンの額に青筋が浮いてる…ような気がする?…


『身体全体に行き渡らせるのだ』


『…こんな感じかなー?』


 葉の1枚1枚まで、全て魔力を行き渡らせる…


 思ったより簡単で、少し拍子抜けだ。


 私が集中すると、数秒で完璧に制御する事が出来た。


 魔力を動かすという事は、頭の中でイメージする事かもしれない…


 想像力なら任せて欲しいのだ!体が不自由だったので、想像の中で遊ぶ事も少なくなかったのである。


『驚いた…今の一瞬でよくここまで…魔力の制御が出来るようになるのには、1週間はかかると思っていたぞ!次は人化の魔法だな』


『はい、リオン先生!』


 魔力の制御は初歩の技術らしいが、それでも普通は訓練が必要らしい…


 魔力だけで周りの景色が風景としてわかるほどに、その存在を感じてきた私には、今更習う程の事ではなかったようだ。


『次は少し難しいかも知れない…満たした魔力を一気に人型に変えながら、強く人をイメージするように圧縮する!こんな感じで…』


 リオンが実践すると、みるみる姿が縮んでいく…そして人型になった。


 人化したリオンが小さ過ぎるんじゃないかとも思ったが、人としてはそのサイズが平均なのかも知れない…


 リオンがやったように、私も実践してみることにした。


 リオンは平然と空を飛び、人化の魔法を練習するように促してくる。


『そ、それじゃあやってみるね!』


『まあすぐには出来ないだろうがな』


――――ズバン!!


 何かが断ち切れるような音と衝撃、私は陥没した地面の中にいるようだ…


 ここは多分私が生えていた場所だろう…


 その中心には、底の見えない程深い穴が開いているようだ。


「く!なんだと!」


 リオンは上空で私を探しているみたいだ。


 人型の魔力が、空中で右往左往しているのがわかる。


 リオンは穴の底に私の魔力を感じて、慌てて飛び込んできた。


 私はリオンより少し小さい人型になっている。


『大丈夫か?花凜』


リオンは私に話しかけてくるが、声がでない…


『 …っっ…ん、ダメだ〜、口が動かないよ〜』

『一発でその大きさの人型になれただけでも凄いことなのだぞ?それにな、初めから口や肺や声帯など再現できるわけないだろう?』


 リオンは私が無事だった事に安心したようだ。


 しかも、私の魔法センスに再度驚いている。


『ねぇリオン…私の見た目さ、呪いの藁人形みたいな形じゃない?』


『藁人形は分からないが、とりあえずこれでひと安心だ、このまま運ぶとするぞ』


『…想像したらなんだかシュールね…呪いの藁人形を背負ったにゃんこ』


こうしてリオンは私を抱きかかえ穴から脱出するのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ