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花凜の街




 3階建てのオレンジ色の建物が目に入る。


「変に時間食っちゃったよね…」(花凜)

「確かにな」(リオン)


 私のせいではあるが、私だけのせいではないのだ!


「新しい力も手に入ったから良いけどさー」(花凜)

「まあな…納得はしたくないけど」(リオン)


 憧れていた空を満喫して、気分は悪くない。


 戦闘で飛ぶのと、飛びたくて飛ぶのとでは大きな違いだろう。


 空中散歩は気持ちよかったのだが、妖精王が出て来なければもっと良かったかもしれない。


 絆の宿に向けて下降しているのだが、正面の入口前は、人通りの多い路地になっている。


「リオン、裏に回ろ」

「だな」


 絆の宿の裏手は、買い取った素材の保管倉庫があり、普段職員しか立ち入らない場所である。


 そこには小さな庭があったので、私達が降り立つにはぴったりの場所だった。


 私とリオンは、絆の宿の裏口から中に入っていった。


「き、来たぞ!」


 冒険者の1人が私達に気付き、近くの仲間に知らせていた。


 私達を見た職員が、深く頭を下げているのが見える。


(どうしたんだろ?)


 ざわざわするロビー…今日は普段見ないような、強そうな冒険者達もいるようだ。


 侍の格好をした冒険者や、銀に輝く立派な鎧の冒険者、ザ!魔術師!みたいな格好の人もいる。


「ねぇリオン、今日何かあったのかな?」

「さあな、しかし朝から人が多い…仕事サボってるのかもな」

「なんだかいつもと雰囲気が違うよね」


 沢山の冒険者に見つめられて、私はどうしたら良いのかわからずに緊張する。


 しかしリオンは周りを気にしていない様子で、平然とした顔をしている。


「妖精王花凜伯爵様だ…まさか本当に見れるなんて…」(冒険者の男A)

「ああ…この街に戻って来ると聞いて、そのまま残っていて正解だったな!」(冒険者の男B)

「ラグホームの英雄…女神様」(冒険者の男C)


 他にも沢山の人が、私達の噂をしていた。


 私はますます緊張して、服に流す魔力操作が疎かになってしまう。


 歪だったチェック柄が、更に無残に崩れてしまった。


 仕方がないので、見ないで!と、日本語で文字を出す。


 日本語だとこの世界の住人には、意味までは伝わらないはずだが、気分は少し落ち着きを取り戻した。


 そのままここにいても仕方がないので、リオンが私の手を引っぱって階段をすたすた上って行く。


 私達の姿が見えなくなるまで、冒険者達の視線が途切れる事は無かった。


(見過ぎ…見ないでよ~)


「ミミック、リオンだ」

「おう!入ってくれ」


 大柄の体に似合わない書類仕事が、何故か少しおかしく思えて、私はクスりと笑う。


 ミミックは私を見ると、素早く駆け寄って来た。


 私がそんなミミックにびっくりしていたら、両手を勢い良く握られてしまう。


(今日は沢山手を握られる日みたい…)


 ついさっきも妖精王に手を握られたばかりなので、ミミックが何をするとは思わないが、少し体が強ばった。


「ミミックさん、どうしたの?」(花凜)

「本当に心配した!もうダメかと思ったんだぞ!」(ミミック)

「あれくらいで死ぬわけないだろう…さあ、早く花凜の手を離せ」(リオン)


 私は鬼を退治した後に、全ての鬼を蘇生したのだ。


 体というより心が疲弊していて、頭の整理をするために眠りにつきたかった…


 王様が援軍に来たので、その相手もしなければならずに、とても大変だった。


 今思えば、良くやった方だと自分を褒めたい気持ちになる。


 ミミックも駆けつけていたが、相手をする余裕があの時の私には無かった。


 すぐに特大もくちゃん館を作って、その中に逃げ込んでしまう。


 ミミックは私をとても心配してくれていたのだ。


 リオンはミミックの心境を察しているみたいだが、ミミックを私から引き離そうとしている。


「い、いいじゃないか!感動の再開を先送りにされたんだぞ?もう少しくらいこうしてたって…」

「だめだ、私の花凜なのだ!それにもう充分だろ?早く離れろ」

「はい!リオンの花凜です!」


 ミミックはリオンに抵抗してたが、強引に引き離されてしまった。


 私はミミックが離れたので、少しだけ体の力が抜けた。


 嫌いでは無いのだが、やはり少し苦手なのだ。


「なあ、花凜さん、もう少しいいよな?」


 ミミックが往生際悪く握手をせがんでくる。


「ダメです。私はリオンの花凜だからね」

「ロナウド、リーファウス、ドク、ミーだけは許可してやる…」


 私はリオンの言葉を聞いて、頬に冷や汗を流すエルを想像した。


(俺は?って言いそう)


 そういえばエルは今頃何をしているのだろうか…


「はぁー…わかったよ…とりあえず座ってくれ」


 ミミックはため息を吐くと、私達をソファーに案内する。


 そしてテーブルを挟んで反対側に座り、ブローチを4つ持ってきた。


「これは何?…なな?」

「7と書いてあるな」


 ブローチには数字が書いてあって、私にも何とか読むことが出来た。


「妖精王のナンバーが決まったんだが、ここまで早く1桁ナンバーになるとは俺も思わなかったよ!」(ミミック)

「これも綺麗だねー…今日はワンピースだから、後でコートに付けるね」(花凜)


 私がそういうと、ミミックの視線が上から下へ移っていく…


 リオンが近くにあった膝掛けで、私の足を隠してくれた。


「とりあえずお前には、花凜が世話になっている…今日はソルに帰った事を、伝えに来ただけだ」(リオン)

「うん!鬼と戦う前に、リーファウスとパパを預かってくれてありがとう。

本当に助かりました」(花凜)


 私はミミックに感謝を告げて、ミミックにお辞儀する。


 ミミックは少し照れた様子で、頭を掻いていた。


「気にするなって…対して力になれてやしない、まあそんな事より、ナンバー冒険者の説明するぞ?」(ミミック)

「ナンバー冒険者については、ドクちゃんとミーちゃんに少し聞いたよ?」(花凜)

「ん?ああそうか…そう言えば2人が居たんだったな!ではこれが魔導掲示板だ」


 ドクとミーに1度聞いた事がある。


 正式名称は魔導掲示板らしい…


 これで他のナンバー冒険者達や、絆の宿と連絡を取り合えるようになる。


 魔導掲示板は意外と大きくて、だいたい縦20センチ、横30センチくらいあった。


(これが魔導掲示板…なるほどー、大きさも厚さもノートパソコンくらいあるね)


 テレビの外枠のように、銀製の飾りが外側を囲っていた。


 仕組みはわからないが、クリスタルで出来た板に文字が浮かぶようになっている。


 ガラスみたいに透明なので、昼間に外で使うにはちょっと見づらいかもしれない…


 まだ文字があまり読めないので、リオンに渡しておいた。


「何だか花凜の名前が多いな…」(リオン)

「え?何て書いてあるの?」(花凜)


 リオンの表情が少し曇った。


「何処で花凜を目撃したかとか、今日はどんな服を着ていたとか…おいミミック、冒険者は暇人の集まりなのか?」(リオン)

「まるでツ○ッターみたいね…」(花凜)


 リオンの冷たい視線が、ミミックに突き刺さる…

 

 私達の知らない所で、変な盛り上がり方をしていたらしい。


「しかもミミック…お前まで参加してるじゃないか…」

「えーー」


 どうやらこの掲示板は、匿名ではないらしい…


 リオンに合わせて、私もミミックに冷たい視線を送った。


「い、いやー…しかし暑いな」(ミミック)


 ミミックが苦しすぎる話題チェンジを試みる。


「涼しくしてやろうか?」(リオン)

「遠慮しておく…」(ミミック)


 追求したい気持ちもあるが、その前にもう1つの用件を済ませてしまおう。


 ミミックは冷や汗を流しながら、視線を逸らしていた。


 私は少し溜め息を吐きつつ、ナンバー冒険者のブローチを仕舞った。


「ミミックさん、私を指名した依頼は溜まってたりする?」(花凜)

「この街は花凜さんに救われたばかりだからな…緊急の依頼も今は無いよ」(ミミック)


 どうやら仕事がある訳では無さそうなので、今日の予定に余裕ができた。


「では御礼にお昼ご飯をご馳走します。

ミミックさんも仕事があると思うので、無理にとは言わないけど」(花凜)

「い、いく!絶対いく!」(ミミック)

「お!飯か?早く行こう」(リオン)


 日頃の感謝を込めて、ミミックをお昼ご飯に誘った。


 ミミックは物凄い食いつきだった…私達はすぐに立ち上がり、扉を開けて階段を降りて行く。


 職員は私とリオンを見て、またお辞儀をしているようだ。


「ごめんなさい…少しミミックさんを借りていきます」(花凜)

「いえ!滅相もございません!花凜伯爵様」(受け付け嬢)


(あ…そっか…伯爵になったからいきなりVIP待遇なのね)


 クリフは外に行こうとするミミックを見て、額に血管を浮かせている。


 私達がクリフに文句を言われる事は無かったが、後でミミックは怒られてしまうかもしれない。


「ごめんなさいクリフさん」(花凜)

「とんでもないです!どうぞこき使ってやって下さい」(クリフ)


 立ち去る前にクリフに声をかけておく。


 私の我儘と言う事にすれば、ミミックも後で帰りやすいだろう。


沢山の冒険者の視線に緊張しながらも、私達は絆の宿を抜け出した。




ーーーーーーーーーーーーーーーー





「何が食べたい?ミミックさん」(花凜)

「肉だろ?なあミミック」(リオン)


 お肉を食べたいリオンが、ミミックの思考を誘導しようと頑張っているようだ。


 ミミックは食べたい物が決まっているらしく、歩くスピードに迷いが無い。


 ミミックに御礼をするわけなので、リオンには少し我慢してもらおう。


「まあ肉だな、串焼きの屋台行こうぜ」(ミミック)


 リオンの表情が明るくなった。


「ミミックもわかっているではないか!」(リオン)

「私は何でもいいよ」(花凜)


 私達は、細い裏道を歩いている。


 家と家に挟まれて、少し薄暗いが埃っぽくはない。


 家の間の高い場所にロープが張ってあり、洗濯物が下がっていた。


 空を覆うカラフルな布が、緩やかな風にたなびいている。


 15分くらい歩いただろうか…街の中心部を外れて、木の看板を掲げた屋台に到着した。


 この屋台の周りには何も無く、場所を広く使って営業しているようだ。


 お腹を空かせた2人がよだれを垂らしているので、私はすぐに注文する事にした。


「すいません、全部下さい」(花凜)

「え?全部?」(屋台のおじさん)


 私は2人が沢山食べるだろうと思い、とりあえず全部注文した。


 この屋台は、一度に50本くらい焼けそうな大きな網がある。


 お肉の質も良さそうで、脂の滴る良い香りが漂っている。


(いー匂い♪なんだかよくわからない肉だけど)


 6人くらい座れる木製の長椅子が用意されていて、宴会出来るようにテーブルまであった。


「沢山焼いて下さい」(花凜)

「良いのかい?結構あるよ?」(屋台のおじさん)

「構いません」(花凜)


 不思議そうにしていた店主だったが、ミミックを見て納得したようだ。


 途端に笑顔になり、沢山肉を焼き始める。


「お酒はどうする?ミミックさん」(花凜)

「もちろん飲むさ」(ミミック)

「リオンはー?」(花凜)

「んー、たまには飲むかー」(リオン)

「おじさん!お酒2つ」(花凜)

「あいよー」(屋台のおじさん)


 大きなタルが横倒しになっていて、コルク栓を抜くとお酒が出てくる仕組みになっていた。


 かなりの勢いで溢れてきたが、店主は手馴れた手付きでコップに注ぎ込む。


「はいよ!」(屋台のおじさん)

「ありがとう」(花凜)


 店主は1人で作業をしているので、お酒は私が運んであげる事にした。


 リオンとミミックの前に、冷たい陶器に注がれたお酒を差し出す。


 黒い色をしたシュワシュワで、黒ビールやコーラに見えなくもない。


「毎度あり!じゃんじゃん焼くから待っててな!」(屋台のおじさん)


 リオンがお酒を欲しがったのは意外だったが、別に飲めない訳では無いようだ。


 辺りに肉の焼ける美味しそうな匂いが漂う…


(なんだかよくわからない肉だけど美味しそう)


 私は肉派ではないが、赤身のレアは好きだ。


 リオンみたいに素材丸かじりは出来ないが、ローストビーフを噛み締めた時に出てくる肉汁が、とても好きだったりする。


 しばらく待っていると、どんどん肉が焼けてきた。


 木製のテーブルが、肉、肉、肉三昧になる。


「きたきた、あーうめー」(ミミック)

「美味いな!このタレもいい」(リオン)


 2人は良い笑顔で次々串焼きを平らげていく。


 鉄串1本で、200グラムはありそうな気がした。


 私も夢中で食べていたのだが、ふと私達を見ている視線に気が付く…


「あの子…確かエルが泣き止ませてた子だ」(花凜)

「何だそれは?」(リオン)

「ああ、孤児院の子供だろ?匂いに釣られてたまに出てくるんだよ…肉が余ったらくれてやっているんだが、商売中は来るなと言ってあるのに」(屋台のおじさん)


 私はリオンに、エルが女の子を泣き止ませた時の話をしてあげた。


 リオンは複雑な表情をしている…


 それを聞いていたミミックは、少し嬉しそうだ。


(お肉食べたいのかな?よし!)


 私は女の子に近付くと、目の前でしゃがみ込む。


 小さい子供なら、人見知りな私でも大丈夫なのだ。


「お腹空いたの?串焼き食べる?」


 私は笑顔で話しかけたのだが、女の子の顔は少し険しくなる…


「い、いらない!あっち行って!」


(えぇ~)


 私は小さな女の子にふられました…完膚なきまでに…


 とぼとぼ皆の居るテーブルに戻ると、店主がこちらに顔を向ける。


「はっはっは、あの子達はプライド高いぞ?馬鹿にされるのは嫌なんだよ…もう自分の力で、生きていかなきゃならないんだからな…両親も居ないし、捨てられたり売られたりしてきたんだ」


 店主は私にそう言った…


 私は少し浅はかだったのだろうか?


 この子の気持ちも考えずに、困っているなら食べさせてあげようと、私は軽く考えていたかもしれない。


 私が相手の立場だったら、同情される事に何も思わないだろうか?


 答えは否だろう。


(何で私はこうなんだろう…馬鹿だなー)


 恵まれた日本に居たから?そんな事は関係ない…


 私が少し涙目になっていると、リオンが頭をぽんぽんしてくれた。


 そこで店主がもう一度口を開く。


「大丈夫だよお嬢ちゃん、院長先生は立派な方だ!領主様に支援を断られても、色んな所に頭を下げて、ずっとあの子達を守ってるんだからな」(屋台のおじさん)

「前の領主様は何もしてくれなかったの?」(花凜)

「……ここが王都だった時は支援があったんだが、公爵がこの街を納めるようになってから、支援される事は少なくなった。

5年前に公爵が代替わりしてからは、支援が全く無くなったらしい…」


 私は屋台の店主の言葉を聞いて、やらなければならない事に気が付いた。


 私は何も言っていないが、リオンは何かを悟った顔をしている。


「ミミックさんごめんね、私行ってくるから」

「ああ、そうだな…孤児院はもう少し街外れにあるぞ」


 私は店主に金貨を多めに渡した。


「その道を真っ直ぐ行けば見えてくるよ」(ミミック)

「ありがとうミミックさん」(花凜)


 リオンはミミックの隙をついて、焼けてある肉串を全て掻っ攫う…


 ミミックが可哀想なので、肉串を食べきれないくらい追加注文して、孤児院の方へ歩き出した。


 リオンは大量の肉串を持って、私の後ろを着いてくる。




ーーーーーーーーーーーーーーーー

【ミミック】




(行っちまったか…やっぱり花凜さんは優しいよな)


「なあミミックさんよ、あのお嬢ちゃん達は何者なんだい?」


 店主は不思議そうな顔で質問してくる。


 多分あのコートを着ていれば、俺が言わなくても気付いたかもしれない。


「知らなかったのか?あの子はラグホームの英雄様さ!冒険者チーム妖精王のリーダーで、今は伯爵様になっちまったな。

そして新しくソルの領主様になった!ナンバー7冒険者の花凜だ」

「ええええーーー!!ミミックさん…そういう事は早く言ってよー!俺は…俺は何て恐れ多い事をしてしまったんだ…」(屋台のおじさん)

「あはは、大丈夫さ!花凜さんは優しいからな」(ミミック)

「しかし、本当に美人なんだな!噂が広まるのも早いはずだぜ」(屋台のおじさん)





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