リーファウス(完)
【リオン】
花凜が上空の鬼を私に任せて、下に降りていった。
(気をつけろよ…花凜)
鬼が私を無視する事が出来ないくらいに、圧倒的な力で氷漬けにしたのだ。
もちろん花凜を追う事など出来るはずもなく、鬼達は必至に頭を悩ませているところだろう。
優しい花凜に鬼の相手をさせたくはない!私はそんな風に考えていた。
「後8体か…どうやって死にたいんだ?」(リオン)
瞬殺する事は容易い…しかし、花凜を襲った事は万死に値する。
私はこいつらのプライドを根元から折ってしまいたいのだ…
鬼の目を見てわかったのだが、こいつらは殺しに慣れすぎている…
「はぁ、注意するべきはお前だったんだな」(鬼のリーダー)
「お前なぞ、私達の誰にも勝てやしない」(リオン)
今こうしている間にも、逃走の手段を考えているに違いないのだ。
私が油断はする事は無いが、必要な情報を少しでも集めておきたいとおもった。
「どうしてリーファウスを諦めなかったのだ?最初から実力の違いくらいわかってただろう?」(リオン)
「…答えてやる必要が何処にある…」(鬼のリーダー)
「…ではリーファウスの護衛は何処へいったのだ?」(リオン)
「はっはっはっは!そんなのも居たな!まとめて魔物の餌になったよ」(鬼のリーダー)
鬼の言葉を信じるならば、リーファウスの護衛は既に手遅れだ。
完全に信用は出来ないので、頭の片隅に置く事にする。
しかし、鬼にとってどうでもいい事であれば、逆に真実の可能性が高い…
何も悟らせないように考えているのだろうが、だからこそ考えが読みやすい。
(残念だったな…リーファウスよ…)
「なあ、お前人間じゃ無いんだろ?」
いきなり質問してきたので、鬼は時間稼ぎでもするつもりだろうか?
「そうだ」
「何が目的で人間と一緒にいる?」
「人間と居ると楽しいからな」
「はは…くだらねぇ…もっと面白い言葉が聞けると思ったのによ」
鬼のリーダーの右手に、体中の魔力が集まっていく。
上手く隠しているつもりだろうが、わかりやす過ぎて拍子抜けだ。
「くだらないのはお前だ…もっと面白い事を考えろよ」(リオン)
鬼が何かをする前に、私は最大限の威圧をかけた。
明確な実力差がある中で、私の殺意に同様しないわけが無い。
鬼の魔力は乱れ、呼吸すらまともに出来ないようだ。
(もう氷の魔眼は使わないでおこう…こいつらにバレるとは思わないがな)
氷の魔眼を詳しく説明するのであれば、予め決めた座標の分子の動きを完全に停止する事が出来る技だ。
その場所は強制的な絶対零度になり、どんな生物も生きられない空間になる。
それ故に防御など不可能で、目には見えないが、起点から半径2メートルの範囲が対象になる。
しかし、無敵に思えるこの技にも弱点が2つあるのだ…
発動までにかかる時間が、約0.1秒…これだけ聞くと対策など無いように思えるだろうが、高速で動かれると範囲外に出られてしまう。
どんなに速くても敵の動きが直線的であれば、0.1秒後の場所を狙う事が出来る…しかし、この技の特性がバレてしまえば、ジグザグに動き狙いを絞らせてもらえないだろう。
2つ目の弱点が範囲だ。
この絶対零度の空間に例外は無く、接近戦をされた場合は使い用が無い…すぐ近くに発動してしまえば、私も一緒に氷漬けになってしまうのだ。
「まあいい、少し遊んでやる…来い」
「ああああああー!!」
鬼のリーダーの咆哮に、部下の鬼も気合いを入れ直したようだ。
(さて、花凜を襲った事を死ぬ程後悔するがいい)
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【ドク】
花凜が上空に勢いよく飛び出し、それをリオンが追っていく。
「どうしよっかー、ミー姉ちゃん」
「見渡す限り敵1色だよね」
今までこんな危機的な状況になった事がない。
魔物に囲まれる経験は何度かしてきたが、それでも6体くらいに囲まれれば珍しい方だ。
基本魔物は群れで行動しない…それが統率されているなんて狂気の沙汰だろう。
個の力が強い程、群れる事を嫌うのが魔物なのだ。
「何だか負ける気がしないよね…ふふ」
ミーが笑ってそう言った。
それに対して俺も笑顔になる。
俺達の魔力はせいぜい4000といったところだったのだが、それでもかなり多い方だと自覚していた。
戦闘経験も積んで、どんな状況でも生き残れる自信があったのだ。
しかし、上には上がいる事をリオンが教えてくれた。
大切な家族を取り返したい…ミーと一緒に何度泣いたかわからない…
思い上がっていたつもりは無いが、クレイが仲間を返してくれない場合、力ずくで攻め込むつもりだったのだ。
「フーがいれば、花凜ちゃんくらいだったのかな?」(ミー)
「…そうだね…フーにも見せてあげなくちゃ…いつか必ずみんなを取り返して、それで…」(ドク)
「うん、わかってる」(ミー)
いつかみんなで笑える日がきっと来る。
「行くよ!ミー姉ちゃん!」
「もちろんよ!ドク!」
八角棍を構えると、ミーの光魔法が体を包み隠した。
姿を消して戦うのは、そんなに楽な事では無い。
自分の体も見えなくなるので、感覚に頼る事になるのだ。
魔力を遮断すれば完全に隠れる事も出来るが、ミーと自分の位置関係を明白にするために、俺達は魔力を解放している。
(まずは感覚の鋭そうな魔物から)
戦闘経験から、魔力の流れに敏感そうな魔物から倒していく。
空を飛ぶ魔物や、目が退化したような魔物は要注意だ。
花凜が付けてくれた翼のお陰で、今は魔力消費が気にならない。
もう少し慣れてきたら、ミーと一緒に新しい影魔法を考えようと思った。
『ドク、花凜ちゃん降りてきたみたいだよ?』
『近くに行ってみようか』
ミーと手を繋ぎ、花凜の元へ走っていく。
姿を消したままでも、手を繋げば魔力を遮断出来るからだ。
音だけでも反応する魔物がいないわけではないので、そこだけは注意が必要だ。
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【花凜】
「あれ?ここじゃなかった…すいません…失礼します」
私はとりあえず地面に降りたのだが、周りは魔獣だらけだった。
(う…やばいかも…)
上空を見ると、鬼のリーダーの切り札である蒼炎の大鷲が飛んでいた。
リオンはそれを真似して、氷の大鷲を作り、激しくぶつけて遊ん…みす、戦っているようだ。
大鷲同士の激しい魔力のぶつかり合いが、地表にも影響を与えている。
私が逃げずに、ついつい上空を眺めていたら、大きな紫色の熊のような魔獣が近づいてきた。
しかしその熊を覆うのは、体毛ではなく亀の甲羅のような体表をしていた。
「ガゥ…」
攻撃していいの?みたいに熊が眺めてきたので、私はだめです!と、言うように首を振った。
数秒の見つめ合い…その後、熊は振り返り歩き出す。
私はすかさず、背中から雷型の鈍器を抜いた。
腰を低くして、力を溜める。
そこで熊は何かに感ずいて、私に振り返ってきた…やはり敵?みたいな顔をしていたので、私は再度首を振る…数秒の見つめ合い…
「もらったーー」
――――ドゴン――――
油断していた熊に、ドクの強烈な踵落としが脳天に直撃した。
(さらば…クマ亀さん…)
数秒の付き合いだが、仲良くなれそうだった熊に、お別れの言葉を心の中で呟いた。
「ドクちゃん、おいで」
「まだまだ大丈夫だよ?」
ドクは細かい傷が沢山ついていたので、私はドクを治そうと思ったのだ。
しかしドクに気にしている様子はない…
でも一応ドクに触り、回復させておく。
「ミーちゃんは?」(花凜)
「いるよ、花凜ちゃん」(ミー)
「ミーは光の魔法で隠れてるんだよ」(ドク)
「あ〜…なるほどねー」(花凜)
空間に作用する魔法かと思っていたけど、光魔法だったみたいだ。
「また会ったな!女!」
敵意剥き出しといった顔で、鬼が私に声をかける。
「誰?」
「ああ、そういや前は身体を隠してたんだったな…」
その男は片腕が金属の義手になっていて、刀を装備した鬼だった!
(まさか…いや、変わり過ぎ…そんな事ないよね?)
「くっくっく、また戦えるなんてな」(義手の鬼)
「まさか!トッポさん?」(花凜)
「誰だそれはー!!!」(義手の鬼)
鬼は刀を抜いて斬りかかってきた。
今はリーファウスを抱いてないので、落ち着いて対応する事が出来る。
義手が何で作られているのかわからないが、以前より数段斬撃に力が入っているようだ。
私は雷型の鈍器で受け止めると、鬼を思い切り弾き飛ばした。
「馬鹿力が!」(義手の鬼)
「そうだ!鈍器だから、名前をドンキーにしよ♪」(花凜)
私は自分の弓に話しかける。
とても強力な弓なので、もしかしたら名前があるかもしれないが、 今はドンキーで良いだろう。
私が鬼に視線を戻すと、鬼は胸から真っ赤な爪を生やしていた。
「なん…だと?」
鬼が驚愕と悔しさが混じったような顔をした。
(あれはミーが普段使ってる白銀色の鉤爪だよね?)
不可視になったミーの鉤爪に、鬼の血が滴って見えているのだ。
さっきまで私の近くに居たのに、なんて早業だと思った。
ミーは鬼に何も言わないらしく、素早く爪を引き抜くと、宙を一振りして血を払った。
「まだ…これからだってのによ…」(義手の鬼)
それが最後の言葉になる…
ミーに心臓を1突きにされたらしく、苦しむ時間は殆ど無かっただろう。
(ごめんなさい…また後でね。
早くこの戦いを終わらせたい)
ドクは自在の黒爪を両手に発動しているようだった。
ドクが手を薙ぐと、その延長線上で魔物が両断されていく。
次々斬られていく魔獣を見て、近くに居るであろう鬼も顔を青くしているに違いない。
私は周りが岩ばっかりで、少しうんざりしていた。
立ち込める血の匂いも嫌だし、命を奪うのも嫌だ。
それでも魔物は狩らなければならないだろう。
残していけば、後で被害を受ける人も出てくるはずだ。
(私なら出来る!そうだよね?リーファウス…)
『リオン、魔力解放してもいいかな?』
『いいんじゃないか?花凜は昔とは違う…今なら人間にバレても、味方が沢山居るじゃないか』
『そうだよね!ありがとう』
そうだ!私には味方が沢山出来た。
躊躇する事は何もないのだ。
「ドクちゃん、ミーちゃん、ちょっと本気出すね!」
「「え?」」
魔力の遮断を解くと、全ての視線が私に注がれる。
(そんなに見ないでよ…)
私は初めて本気で戦う決意をした。
魔力を爆発的に上げていくと、体から眩い光が放たれる。
(創造生命魔法)
全ての魔力を右手に集め、それを地面に突き立てる。
この世界を私一色に染め上げるような勢いで、大量の魔力を岩山に流した。
全ての魔物、鬼が私を警戒するがもう遅い…
「大丈夫よ…痛くないようにしてあげるから」
――――ゴゴゴゴゴ――――
ここまで全力を出したのは初めてだった…
山が悲鳴を上げるように振動している。
巨大な大樹が溢れ出し、岩山全体を覆い尽くした。
全てが私の意思で動く森…名付けるならば、妖精王の森だ。
「…なんて無茶な…花凜ちゃん」(ドク)
「岩山が…無くなった…」(ミー)
木はどれも高さ50メートルまで聳え立ち、深い霧を発生させる。
響き渡るもくちゃん達の笑い声、そしてどの木にも顔があった。
侵入者を排除せよというように、その顔は怒りで満ちている。
「全てを私に」
その言葉がトリガーになり、全ての魔物や鬼がイバラに捕えられた。
見透しの悪い霧の中で、全方位から私の魔力を感じているのだ。
鬼は生きれるギリギリまで魔力を吸い付くされ、魔獣は体ごともくちゃんにバリバリ食べられていく。
枝が裂け牙になり、魔獣に食い付き引きちぎる。
鬼は見たこともない地獄絵図に、今にも発狂しそうな形相だ…
1番の恐怖の理由は、逃げ場が無い事だろうか?
周囲数キロに渡って、妖精王の森は広がっている。
しかし木の中には、ゆるキャラのような可愛い顔も混じっているのだ。
少し…いや、3割くらい。
「花凜ちゃん…やりすぎだよ…仕事なくなっちゃった…」(ドク)
「花凜ちゃん!あの木可愛いよ…怒ってるけどね」(ミー)
「あ、その木はドラミ○ゃんだよ」(花凜)
(巨大な岩山全部を妖精王の森に変えたから、かなり魔力使っちゃったよ…)
圧倒的な魔力がある私でも、一度に数千も命を作れば疲弊もする。
「花凜様、イバラを逃れながら、5名の鬼が、そちらに向かっています」(妖精王の森)
「ありがとう!他は吸い終わった?」(花凜)
「はい!それと、人間も森の外に来ているようですが、殺りますか?」(妖精王の森)
「殺りません!敵意がない人間は、笑顔で迎えて下さい!」(花凜)
「笑顔も怖い気がするけど…」(ドク)
妖精王の森から、鬼の情報を確認した。
鬼の手練が近づいて来るらしいので、私達は身構える。
「来たね…森はどうだった?」(花凜)
「助けて下さい!お願いします!」(黒髪の鬼)
「何でもしますから!お願いします!」(灰色髪の鬼)
「頼む!見逃してくれ!」(紺色の髪の鬼)
まさかの命乞いに、私達は呆然とした。
私はここに辿り着けた鬼が、頭を下げるとは思っていなかったのだ…
私の魔力を感じて、歩いて来れる程の手練…翼を付ける前の、ドクやミーより強いのだ。
背後からもう2匹の鬼が近づいて来た。
――――ズパ――――
命乞いをしていた鬼達の首を、仲間の鬼が切り落とした。
(なんで?なんでなんで?)
「何て事を…」(ミー)
「仲間を斬るなんて!!」(ドク)
ドクとミーは怒りの形相だ、仲間を大事にしなかった事に、凄く怒っているみたいだ。
「命乞いする鬼?そんなの仲間じゃねえよ…って言うかもう鬼ですらねぇな、ゴミだこんな奴らは…」(黒髪の鬼)
「ハッハッハ、この森すげーな!良い遊園地だったよ」(青髪の鬼)
黒髪の鬼は仲間をゴミ扱いした…
共に戦い、家族のようなものではないのだろうか?
絆の宿のように、手と手を取り合う関係が私の理想になっている。
ドクやミーじゃなくても、私も悲しい気持ちになる。
(なんで…なんでなの?)
「「…」」(ドク、ミー)
ドクとミーが凄い殺気を放ち、2人の姿は消えた。
戦闘開始するようだ。
「おい、もう殺るのか?名乗りくらい聞いたらどうだ?」(黒髪の鬼)
「私が聞いとこうか?」(花凜)
青髪の鬼が、私の方にニヤニヤしながら歩みよって来た…
そして歩きながら口を開く。
「僕の名前はねぇ、ケ…」(青髪の鬼)
名乗ろうとした青髪の鬼は、ドクの自在の黒爪で、口から上を斬り飛ばされたようだ…2人の姿は、今も見えていない。
「あの馬鹿が、油断しやがって!」(黒髪の鬼)
――――ドン――――
私は背後からの不思議な衝撃に、体が吹き飛ばされた。
その衝撃は私の体の中を掻き回すように、螺旋を描き体の外へ抜けていく。
私の体には、内臓とかがあるわけではないので、ダメージは少しも無かった。
もしもリオンや双子が今の攻撃を受けていたら、確実に中身がダメになっていただろう。
どうして気づけなかったのか…それは、黒髪の鬼に注意を払っていたのと、5人だと思い込んでいたからだ。
黒髪の鬼に対する苛立ちも重なって、反応が遅れた…
「びっくりしたよ!何?」(花凜)
「普通…びっくりじゃ…済まないのに…」(紫髪の女鬼)
そこには紫色の髪をした女の鬼がいた。
見事な魔力遮断で、妖精王の森も騙したようだ…
「私は降りる…帰る…無理…」(紫髪の女鬼)
「まじか…そんなにか…撤退だ!」(黒髪の鬼)
黒髪の鬼の言葉を聞き、命乞いの鬼、軽薄な鬼、残忍な鬼、全ては私の注意を惹きつけるためだったのだろう…
芝居だった事には気付いたが、意味がわからない。
(気持ち悪い…)
私は自分の体のお陰で、助かっただけなのだ…
(やっぱりこの世界は…私のいた世界と価値観が違うよ…)
命より優先する目的ってなんだろう?
「逃がさないよ?」(花凜)
次々溢れてくる疑問で、頭がいっぱいになっていく。
自分が何処に立っているのかもわからないに、私は混乱していた。
「逃げる」(紫髪の女鬼)
走り出した2人の鬼を私が追う事は無い。
辺り一面をイバラで囲い、隙間無く逃げ道を塞いだ。
シルフを捕まえた時の作戦で、これを突破する術はないのだ。
隙間無く囲い、どんどん範囲を狭めていく。
「これは…逃げられないや…レミド、ここまでだ!投降する」(紫髪の女鬼)
「わかりましたよ…降参だ」(黒髪の鬼)
紫髪の女鬼は、黒髪の鬼より地位が高そうだった。
黒髪の鬼はレミドと呼ばれていた。
「言葉は信用しない、殺さないから…イバラで捕まえるね」(花凜)
「強いし油断もしないのね…嫌になっちゃうわ」(紫髪の女鬼)
「全くだ…仲間を無駄に…すまない…」(レミド)
2人をイバラで拘束すると、女鬼が悔しそうな顔をした。
レミドは仲間を想い、涙を流している…
私は更に頭が混乱してしまった。
それを見て、ドクとミーは姿を現した。
後はリオンの戦いだけ…
「妖精王の森の中にいる鬼を、1箇所に集めといて」(花凜)
「かしこまりました」(妖精王の森)
指示を簡潔に伝えると、私は空を飛んですぐにその場を離れる。
そしてリオン目指してまっしぐらだ。
「リオーーーーン」
「ん?どうしたのだ?悔しそうな顔をして…」
「一撃、もらっちゃったから…覚悟の大きさにびっくりして…それで…あのね…えーと…」
私は訳がわからなくなっている…こんな筈ではないのに…なんで?
「そうか…悔しい思いをしたのだな…」
「…」
私は泣いていたようだ…悔しい、怖い、この場に居たくない、色々な感情が、ごちゃごちゃになっている…
リオンは私を抱いて、頭を撫でてくれた。
「わ、私、わからないの、どうして?そこまでするの?…怖いよリオン…」
「良いんだ花凜…それで普通なのだ、お前は間違っていないぞ?」
「…」
覚悟はしてきたつもりだった…勇気はもらったはずだった…しかしさっきのを見た後で、私はそれがわからなくなっていた…
仲間の命を使ってでも、目的を果たそうとする。
それは私のした覚悟とは、掛け離れたものだったのだ…
覚悟とは何だ?わからない、わからない、わからない、なんで?なんで?なんで?
私は言葉が何一つ出てこない…気持ち悪い…
「私は花凜が花凜で嬉しいよ、だからそんな顔をするな!何のために戦ったか忘れたのか?お前は、リーファウスを守った!この国を救ったのだ!」
私はリオンの言葉でハッとする…そうだ、私はリーファウスを守るために戦ったのだ。
忘れる程気が動転していた…
鬼の考えはわからないが、私には私の守りたいものがある。
「花凜、お前は普通の人間だ。
体は変わっても、心は人間なんだ…だから安心しろ」
「……リオン」
「よし!では行くか」
リオンは私を抱いたまま下に降りていく、鬼のリーダーは、既に氷漬けで大鷲の腹の中にいた。
私はリオンのお陰で、何とか少しずつ平静を取り戻していく。
(ありがとうリオン…)
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「これで全員かな?」
「…ああ、そうだ」
辺りはすっかり暗くなっていた。
私は死んだ鬼を全部生き返らせ、鬼のリーダーに聞いた所だ。
気分も落ち着いてきて、やっとまともに話せるようになってきたところである。
もしここで蘇生してない鬼が居ても、後からでは蘇生しないと告げて、リーダーを素直にさせる。
「花凜様、人間の王とエルが間もなくここに到着します」(妖精王の森)
「わかった。
ありがとう…あ、吸い上げた魔力ちょうだい」(花凜)
私は妖精王の森から、魔獣1万匹全ての魔力をもらった。
少し体が強化されてしまったような?そんな気がする。
「君が花凜かね?」
「そうだよ、おじさん誰?」
突然声をかけられたが、近づいて来たのを知らなかった訳ではない…
今は話をしたくない気分なのを、頑張って耐えている状態だ。
「私はこの国の王、リグルート・ラシア・ラグホームだ」(リグルート)
「こんばんは王様」(花凜)
「花凜さん、お久しぶり」(エル)
「エル、そうだね!お久しぶり」(花凜)
エルの存在を忘れていたとは言わない、言い訳をさせてもらうなら、ちょっと頭を離れていただけなのだ!
「ごめんね、エル忘れてたよ」
やっぱり言う事にした…それだけの事があったので、嘘はいけないのである。
「鬼の軍隊はどうした?リーファウスは?」(リグルート)
「え?全員縛ってそこにいるよ?リーファウスは戦闘前にソルに戻したから大丈夫!」(花凜)
「「…」」(リグルート、エル)
リグルートは、口をぱくぱくしている…
「ま、魔獣はどうした?」
「…全部倒して木の養分になってる」
「そもそもこの木はなんだ!」
「さっき魔法で呼び出したの」
「これ…全部か?」
「そうだよ?」
リグルートの問いかけに、私は素直に答える。
リグルートは、真っ青な顔でエルの方を見た。
「なあハミー…俺の耳が可笑しくなったのか?」(リグルート)
「「「「ハミー?」」」」(花凜、リオン、ドク、ミー)
「いえ、普通かと」(エル)
「鬼の部隊を、無傷で壊滅させたと聞こえた…」(リグルート)
「そのようですね…」(エル)
「は?しかも、鬼もほぼ無傷だぞ?」(リグルート)
「そのようです」(エル)
「岩山が…無くなったぞ?」(リグルート)
「ええ…」(エル)
「しかも、巨木の大森林がある様に見える」(リグルート)
「ですね」(エル)
「おい!お前何か食い物は持ってないのか?」(リオン)
「…王に飯を催促するのだぞ?」(リグルート)
「事実です…間違いありません」(エル)
その後ミミックも来て、色々と大混乱になった…
私は何とか平静を取り戻したのだが、リオンとくっついて早く眠りたかったので、その場で超特大もくちゃん館を作る。
それを見て、またリグルートはエルを質問責めにしだした。
鬼達は遠い目をして、こりゃ勝てないぜ…とか呟くのが聞こえてきた。
超特大もくちゃん館になったのは偶然で、魔物の魔力を吸収したのが原因なのか、以前より楽に作る事が出来てしまったためだ。
館の内装は、ソルの超もくちゃん館と同じ造りになっている。
「とりあえず鬼は持ってってね!後でコージイもあげる」(花凜)
「わ、わかった!街に到着したら城に来てくれ」(リグルート)
王はエルにまた振り返り、儂パシリにされたぞ?とか言ってるのが聞こえた…私はとりあえず無視して館に入る。
「パパとリーファウスとコージイ連れてくるね」(花凜)
「ああ、早く合流して飯にしよう!」(リオン)
「「お腹空いたー!」」(ドク、ミー)
私は皆を残して、ロナウドの所へ転移した。
「パパーー!」(花凜)
「花凜!無事だったか」(ロナウド)
「花凜!」(リーファウス)
ロナウドとリーファウスが抱きついて来たので、ついでにコージイを手招きした。
コージイが近づいたので、袖を掴みすぐに転移する。
「早かったな」(リオン)
リーファウスとロナウドは、転移した事に気付いていない様子だった。
コージイは周りを見渡している。
私は改めて、2人に甘えるのだ。
(良かった…またみんな一緒だよ)
「花凜様、人間の王がこの中に入りたいようです。
許可なさいますか?」
「うん…いいよ」
扉が開き、リグルートとエルが入って来る。
ミミックは許可されてなかったので、眼前で扉が閉まってしまった。
「リーファウス!お前…ソルに居たのでは?」(リグルート)
「父上!さっきまでソルにおりました」(リーファウス)
「ハミー…まるでこの距離を、転移でもしたかのように聞こえたのだが…」(リグルート)
「これ何回やるんですか?」(エル)
リグルートが、エルに何回も事実確認をするので、エルは疲れた表情になっている。
私は皆を残し、ソルの家に転移した。
「コクヨウ、ご飯大量にお願い」(花凜)
「かしこまりました。それと、お疲れ様です」(コクヨウ)
「花凜、お疲れ様」(オレンジ)
「ありがとう…疲れたよ〜、心がギリギリだよ…」(花凜)
「花凜様、これを」(コクヨウ)
「あ、これって…」(花凜)
「ええ、花凜様が、この世界で初めて食べた料理です」(コクヨウ)
それはトマトクラムスープだった…
安心する始まりの味。
私はホッとして、そのスープを飲みながら、料理が大量に出来るのを待った。
待っている間、オレンジが私に寄り添ってくれる。
オレンジは涙目になっていて…私を心配してくれているようだ。
すぐに沢山の料理が出来上がり、魔法鞄にどんどん入れていった。
「みんなありがとね、行ってくる」(花凜)
「いってらっしゃいませ」(コクヨウ)
私がリオンの元へ戻ると、既に食堂だった。
「そろそろ戻る頃だと思っていたぞ」(リオン)
「ごほん!今日のメニューを発表します!
なんだかよくわからないビーフ?シチューと、なんだかよくわからないピザ、なんだかよくわからない鳥の丸焼き、シーザーサラダ、果物、なんだかよくわからない物で作ったラーメンと、おにぎり、うどんの残り、カレーの残り、たこ焼きの残り、うなぎのステーキ、なんだかよくわからない肉のハンバーグ!」(花凜)
「豪華だな…」(リオン)
「早く食べて一緒に寝ようリオン」(花凜)
「ああ、わかった」(リオン)
料理の匂いに誘われて、皆がすぐに集まってきた。
(ああ、安心した…やっと帰ってきた気がする…)
私はまた自然と涙が出るが、リオンがまた頭をポンポンしてくれたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ここがラグホーム王国かー」(花凜)
入り口から真っ直ぐ城まで続く大通りに、私は感動していた。
「凄いであろう、花凜よ」(リーファウス)
リーファウスは、自分の家を紹介するような感じで、国の中を自慢する。
綺麗な石畳の道は、ソルと一緒だった。
ただソルよりは都会なのかもしれない。車みたいな乗り物が、普通に街を走っている。
リオン、ドク、ミーも目を輝かせているが、リオンは主に食べ物にだった。
「まずは城に行くのだろう?」(リーファウス)
「んー…コージイも鬼も渡しちゃったし、行く必要あるのかな?」(花凜)
私は城に行くのが、ちょっと面倒な気がした。
しかし、リーファウスに背中を押され、しょうがなく行く事にする。
真っ直ぐ進んで行くと、立派な柵をが見えてきた。
途中から兵士に案内され、更にひたすら真っ直ぐ進んでいくと、城の入り口が見えてくる。
階段を上り、赤い絨毯の上を歩き、気付いたら玉座の前に居た…
「ほぇー、ずっと真っ直ぐ来たらここに来るのね」(花凜)
「か、花凜よ…王の御前だぞ?少しわきまえぬか…」(リーファウス)
「リグルートだったか?仕方なく来てやったぞ」(リオン)
「中散歩してきてもいい?」(ドク)
「ずるいよ!私も行く!」(ミー)
「こんにちは!リグルートさん、昨日は疲れてたから、少ししか相手出来なくてごめんなさい」(花凜)
私達は軽い感じで接しているが、本来は違うのかもしれない。
ロナウドは跪いて、発言の許可待ちみたいだった。
ドクとミーは、玉座の後ろが広いベランダになっているのを見つけて、王の横を素通りして行く。
「ハミー…余は何に見える?」(リグルート)
「…王様でございます…」(エル)
エルはロナウドの脇で跪いていた。
「…まあ良い…妖精王、花凜よ…そなたに爵位と、領地を与える」(リグルート)
「え?何それ?」(花凜)
「花凜!貴族になるって事だぞ!」(リーファウス)
「貴族…娘が…」(ロナウド)
「花凜だけではない…その他の者にも準男爵の地位を与える」(リグルート)
「なんと!ありがとうございます」(ロナウド)
「花凜は伯爵だ」(リグルート)
リグルートの言葉で、ロナウドは青ざめているようだった。
私は爵位とかよくわからないので、聞き流す事にする。
「花凜はこの国を救った!紛れもなくな…公爵の悪事を暴き、グラシアンの鬼の部隊をたった4人で退けた。
これは、この国の歴史に残る異形である。
よって、花凜には伯爵の地位を、そしてそれを助けたお前達には、準男爵の地位を与える」(リグルート)
「ありがとうございます」(ロナウド)
私はロナウドが一応喜んでる?みたいなので、貴族が何をしなきゃいけないのかわからないが、とりあえず了承した。
謁見は無事に終わり、綺麗な庭が見えるテラスに案内される。
「凄ーい…」(花凜)
「花が綺麗ね!遠くに街も見えるわ」(ミー)
ロナウドは細かい打ち合わせを聞いている。
「領地にソルの街を頼む!広大な土地だが、砂漠が広がりなかなか厄介な土地だ。
名産品も少ない、しかし花凜なら砂漠は関係ないだろ?だから選んだのだ」(リグルート)
「…なるほど、それならば私が補佐し、頑張っていきたいと思います」(ロナウド)
「ああ、頼んだ!式は明日執り行うので、今日は城でゆっくりするといい…それと、後で目の前の通路も見るといいぞ?余の、だ!い!じ!な!手紙が、ガクに入って飾られている」(リグルート)
私の横で一緒にお茶を飲んでいたリーファウスが、何故か顔が真っ青になった…何かあったのだろうか?
「ま、まさか、父上…はは、まさかですよね…そんな事ありませんね!」(リーファウス)
「その大事な手紙はな、リーファウスからこの前もらったやつだ!もらってすぐに飾ったから、見ていない者は城にはいない」(リグルート)
――――ガタン――――
リグルートの言葉に、リーファウスは椅子から転げ落ちた。
「リーファウスが、状況を知らせるのに書いたやつ?」(花凜)
「ああ、状況は確かにわかったな」(リグルート)
「…おしまいだ…忘れていた……」(リーファウス)
「何やらわからんが見てくるか」(リオン)
「私も」(花凜)
リーファウスは石化した様に固まっていた。
リーファウスの肩に、エルが手をおいて、慰めているように見える。
「これは…」
今度はリオンが固まっていた。
「ん?何?読んで」
リオンから内容を聞いた私が、今度は固まった。
ドクとミーも手紙を見て固まった。
これは、そうだ!…きっと、ただの石化の手紙である。
リーファウスは、王を石化しようとしたのだ。
「リーファウス…好きって?愛しの?」
「あわわ…あの…あれは…」
私は、愛の告白なんてされた事がない、ミミックを除けば…
私は少し緊張する。
「…余は、あ、あれは、練習だ!そう!練習だ!花凜」(リーファウス)
「練習?」(花凜)
「いや、ただのヘタレだ」(リオン)
「ヘタレね」(ミー)
「ヘタレだな」(ドク)
「情けない…」(リグルート)
「…」(ロナウド)
(え?まさか?違うよね?でも練習って何の?)
「こんな時間も、いつまで続くかわからないぞ?
リーファウス…クレイ王国も、グラシアンを睨みぴりぴりしているのだ。
後で後悔はしないように、気持ちはしっかり定めておけ」(リグルート)
「…はい」(リーファウス)
「花凜、今はそっとしといてやれ」(リオン)
「ん?うん……」(花凜)
王が思い出したような顔で、こちらをみて口を開いた。
「そういえば、リーファウスの、護衛依頼の成功報酬を、渡していなかったな!」(リグルート)
「あ、そっか…仕事でやってたんだもんね」(花凜)
「国を救った報酬だ、期待しておいてくれ」(リグルート)
私はなんだか、色々大袈裟な周りの態度や待遇に、少し居心地が悪いような気分になる。
(報酬とか別にどうでもいいんだけど…ラグホームを見て廻りたいな)




