リーファウス(3)、戦闘開始
ソルを出発してから既に4日、まだ鬼が現れる気配がない…
砂漠を抜けると太い街道が現れた。
私達は裏道を使う予定なので、山間部に遠回りして行く事になる。
更に遅いペースで進んでいたのだが、明日には王国に到着してしまうらしい…
とりあえず私達は、車の外で昼食にする事にした。
(この場所は…襲撃するのに最適だと思うんだけどね)
周りは岩に囲まれていて、遮蔽物も多く、天然の要塞として活用出来そうな気がした。
周りには草木が生えていないので、私の能力の片鱗を見た鬼のリーダーならこの場所を選ぶ筈だ。
私も初めて来る場所だったので、事前に知っていたわけではない。
私は地面に魔力を流し、遠くの木々から情報を交換した…
どうやら王国までの道で、鬼が隠れている場所はなさそうだった。
(もうこの場所以外の安全は、全て確認しちゃった…)
私は鬼が襲撃を諦めて帰った可能性を考える…
(いや、きっと来てくれるよね?)
来なければそれはそれで仕方がないが、その場合はラグホームでゆっくりするつもりだ。
私達は少人数なのでゆっくり出来るが、鬼は部隊らしいので長期戦にはしたくないはず…
拠点では無かったと思うが、旧王城も潰してあるので、少なからず影響は出ているだろう。
リーファウスとの旅もあと少しなので、今日1日を楽しむ事にした。
「今日のお昼ご飯は、うなぎの肉巻きおにぎりと、なんだかよくわからないキノコの味噌汁と、タマゴサンドイッチと、なんだかよくわからないサラダと、なんだかよくわからないカツ丼!好きな物食べてね」(花凜)
「いつも思うが、こんなご馳走…いったい何処から…」(コージイ)
「家からだけど…」(花凜)
「カツ丼!気に入った!肉巻きおにぎりも!これでは…コージイよ、やはり世の中肉だぞ?」(リオン)
「はい!世の中肉ですね!」(コージイ)
「余はこの状況を、どうやって父上に説明したら良いのやら…」(リーファウス)
「「肉は良いよねー」」(ドク、ミー)
「王国に着いたら、うなぎを売らなければな…それと、エルは大丈夫だったのだろうか…」(ロナウド)
なんだかよくわからない系の食材に、私はツッコミが欲しかったが、誰もそこはスルーらしい…
世の中肉ですか…なんだかよくわかりませんね…
リーファウスの言いたい事はわかる。
コージイのこの豹変ぶりは、洗脳に近いかもしれない…
私は、ドクとミーが可愛くて、和んでしまっている。
ロナウドは全てをスルーして、商売と息子の心配をしているようだった。
「そういや伝えるのを忘れていたのだが、妖精王はナンバー冒険者になるらしいぞ?」(ロナウド)
「それ何回か聞いたけど、ナンバー冒険者になるといったい何が変わるの?」(花凜)
「んーっとね…冒険者のカードにナンバーが入るのと、他の冒険者に指示が出せるよ」(ドク)
「ナンバー冒険者同士が使える魔道掲示板がもらえるんだよね!私達はミミックさんに返しちゃったけど」(ミー)
「そうか…エルの治療のために、ナンバー冒険者をクレイから派遣してもらった事があるのだが…魔道掲示板で依頼したのだろうか?」(ロナウド)
「そうだと思うよ?絆の宿の職員も使うから、そこから直接依頼したんだと思う!花凜さんの功績は、他の街の冒険者にも知れ渡ってるはずだよ?」(ミー)
「目立つのは苦手だけど…仕方ないかー」(花凜)
魔道掲示板はとても便利そうだ。
スマホみたいに使えるのだろうか?
クレイに着いたら、身内用にもあったら便利なので、少し考えてみる事にする。
(ん?)
私は、何かが動き出す気配を感じた。
(数が多い…数千?もっとかな?)
――――ドドドドドド――――
突如周囲から沢山の足音が、地鳴りの如く押し寄せる。
瞬く間に周辺一帯が囲まれた事がわかった。
どんどん溢れる魔力と、膨大な数の足音が聞こえてくる。
やはり鬼は、この場所で罠を張っていたみたいだ…
上空に飛ぶ、大きな沢山の影…
「これは…何なのだ!」(リーファウス)
「やっと来たか…おかわりだ」(リオン)
リオンはおかわりしたカツ丼を、一気に口に流し込んでいく。
喉を詰まらせたらいけないので、リオンの近くに水を置いた。
リーファウスとロナウドの顔は物凄く険しい…
私は少し考え、皆を安全な場所に移そうと思った。
「コージイ、パパ、リーファウス、集まって」(花凜)
「な、何を言っている!こんな数に囲まれて、突破出来る訳はない!」(リーファウス)
リーファウスは戦いの素人ではないと思う。
王子様であれば、国で軍略を学び、戦力の分析も出来るのだろう。
なのでリオンや双子の実力を知らないリーファウスは、とても焦っているのではないだろうか…
「大丈夫なのか?花凜、リオンさん」(ロナウド)
「…後は任せて」(花凜)
「ダメだ…ダメだダメだダメだ!!すぐに逃げるのだ花凜」(リーファウス)
私は空を見上げた…そこには約100匹の飛行する竜と、背中に乗る鬼の姿が見える。
ロナウドは、私とリオンを見つめた。
リーファウスは、必死に私達を止めようとする。
この鬼を倒さなければ、私は安心してリーファウスを国に返す事が出来ない。
「妖精王!!よくもコケにしてくれたな!後悔の中で死んでいけ!全部隊に告げる!八つ裂きにしろ!」(鬼のリーダー)
「おおーーー!!!」(鬼達)
何故か鬼に従う大量の魔物、見えるだけでも数はかなり居るようだ…
(こんなに沢山の魔物は初めて見る…)
鬼のリーダーの掛け声に、他の鬼は喉が潰れそうな勢いで叫んだ。
「リオン、一旦結界をお願い!」
「わかった」
準備が整うまで、リオンに結界をお願いする。
リオンは座った体制のまま、魔力の遮断を解いた。
リオンから溢れ出る魔力は尋常ではなく、私以外の全員がリオンを凝視しているようだ。
ドクとミーも少し冷や汗を流している。
リオンが左腕を天に掲げると、私達を囲むように半球状の結界が現れた。
リオンの右手は、肉巻きおにぎりと戦っているので、左手1本なのは仕方がない。
「おい!バカ公爵!ついでに助けてやる!そこにいる王子を殺せ!王になりたいんだろ?」(鬼のリーダー)
(証拠発言いただきました♪)
「バカはお前だ!もう誑かされたりしない!バーカ!」(コージイ)
「本当に使えん奴だ…」(鬼のリーダー)
鬼のリーダーは、コージイが予想以上に使えない事に呆れてしまう…気持ちはわかるが、リオンの教育(洗脳)を受けた公爵に何を言っても仕方がない…
「花凜!逃げるのだ!」
リーファウスの表情は必死だった…
自分が力になれない事が、悔しいのかもしれない。
目に涙を浮かべている。
「大丈夫だよ、3人を安全な場所に連れて行くから、後は任せて!ね?」(花凜)
「ダメだ!一緒に逃げよう、花凜…数が多過ぎる!お前が死んでしまう!」(リーファウス)
「早くしろ、連れて行ってしまえ」(リオン)
「よせ、逃げよ!ダメだ!」(リーファウス)
今の状況で、この3人を護りながら戦うことは出来ない…
リーファウスは私の肩を掴み、説得しようと力を篭める。
いつまでもこうしてる訳にはいかないので、私はリーファウスに眠りの胞子を使う事にした。
(創造生命魔法…ごめんね…リーファウス)
私の右手が青白く光る…創造生命魔法で作られた眠りの胞子が、リーファウスの体を包んだ。
金色に輝く胞子が次々とリーファウスに吸い込まれていく。
「か、花凜…ダメ…だ…」
リーファウスはその場で崩れ落ちるが、寝ていない様子で、唇を噛みきって耐えている。
(凄い…ソルの街全体を数時間眠らせた胞子なのに…)
きっとリーファウスはとても意思が強いのだ。
リーファウスの前髪をさらい、私はロナウドを見る。
「パパ、2人をお願いね」
「絶対に死ぬなよ!お前はもう、俺の娘なんだからな!」
俺の娘…ロナウドのその言葉の重さは、私は充分過ぎる程わかっている。
それと同時に、私は凄く嬉しくなった。
ロナウドは私を抱きしめてから、近くにいるリーファウスとコージイを掴むと、私に頷く。
「花凜…ダメだ…お願いだ…」
「そんなに泣かないで、リーファウス…貴方は強くなるよ」
私はいつの間にかボロボロ涙を流しているリーファウスの頭を撫でた。
(大丈夫、私にはリーファウスに貰った勇気があるもの)
「行ってくる」(花凜)
「ああ」(リオン)
3人を連れて、ミミックの所へ転移する。
ミミックは凄く忙しそうにしていた。
まだ旧王城が破壊された後処理に追われているのかもしれない…
「パパ、事情説明は任せるよ」
「!!花凜さん!」
ミミックに声をかけられたが、今は時間が無いので無視した。
すぐに転移で皆の所に戻ると、リオンは食事を終えていた。
「久々に暴れるぞー」(ドク)
「お待たせ」(花凜)
「数はどれくらいいるのかな?」(ミー)
「魔物はお前達にくれてやる!私は花凜を襲った鬼を殺る」(リオン)
全員の目の色が、変わった様に輝いて見える…
(待っててね、リーファウス)
この規模の戦いは初めてだが、私ならきっとやれるはずだ。
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【リーファウス】
「ダメ…だ…花凜」
(願いは、花凜に届かなかった…何で余は何も出来ない!)
「リーファウス様…」
(くそ!意識が遠くなる…)
何とか意識を保たねばならない。
花凜にかけられた魔法は不明だが、とても強烈な眠気に体の力が抜けてしまう。
自分の左手の人差し指に手をかける…
(花凜、死んではならん)
俺は力の限りに指をへしおった。
痛みで辛うじて意識を繋ぎ止め、俺は震える足で立ち上がる。
ミミックが驚愕の表情をしているが、今はそんな事はどうでもいい。
痛みに耐え、深く息を吐いた。
「あれは、ダメだ…グラシアン王国の…そうだ!蒼炎の将!百鬼のバナムだ!すぐに国に伝えよ!花凜を助けよ!」
ミミックは状況を理解したが、それだけではわからないようだ。
「鬼だとは聞いていたが、まさかあの蒼炎の将が…くそ!リーファウス様!場所と数は?」(ミミック)
「あの将の軍団だ!知れておる…飛竜100騎の上から指示を出し、1万の魔獣を操るんだ!地図をもってこい!」(リーファウス)
「俺は軍事はわからない…だが、何とか助けてくれないか?あの子は、やると言ったら引かないんだ…頼む!」(ロナウド)
状況は今も動いている…ミミックはすぐに地図を広げた。
ロナウドは全力で祈り、ミミックはすぐに人を呼ぶ…
これがプロの現場なのだろう。
「セリナ!すぐに王国に連絡を取り、Aクラス以上の冒険者を編成し、向かわせろ!王にも伝えるんだ!
クリフ!すぐに緊急用の高速魔道騎馬を用意しろ!」
セリナとは受付嬢の1人みたいだ…クリフ?何故屋根裏から出てきたのだ!?
ミミックの命令に、職員達は反論も質問もしないで、すぐに行動に移って行った。
ミミックも大剣を背負い、部屋を出て行こうとする。
「何処へ行くのだ、ミミック!」(リーファウス)
「リーファウス様、私は現場に向かいます」(ミミック)
「余も連れて行け!今すぐだ!」(リーファウス)
「だめです!リーファウス様の命に関わります」(ミミック)
ミミックは足を止めない、しかし自分も引き下がるわけにはいかない!
(考えろ!考えろ!何の為に今まで軍略を学んできたのだ!…そうか…)
「ミミック、余の命を使え!余には力がない…しかし余の命が危なければ国が動く!王を動かすのに使え!だから、だから連れて行ってくれ」
ミミックは歩みを止めて、俺に振り返る。
「…本気なんですか?何のために花凜さんが、リーファウス様をここに連れてきたと思っているんですか!
グラシアンが絡んでいる危険な依頼を、引き受けたのは誰のためだと思っているんですか!
花凜さんが一言でも王子のためだと言いましたか?
それは絶対にない!リーファウスのためだと言っていたはずだ!
今その場所へ行けるのは、力のある者だけだ!
それに貴方が居なくても、この国の王なら動きます!
…すいません…わきまえて下さい」
ミミックが踵を返し、部屋を出て行こうとする。
「待ってくれ!余も1人の男として、その場へ行きたいのだ」(リーファウス)
「リーファウス様!だめです!ミミック、行ってくれ」(ロナウド)
「すまんなロナウド、俺が間に合うかわからないが、行ってくる」(ミミック)
「だ、ダメだ…待ってくれ…待ってくれよ…」(リーファウス)
俺はロナウドに止められ、ミミックは歩き出した。
(花凜…死なないでくれ…)
意識が遠くなる…それが、自分と周りの大人達との差のように感じられた。
ミミックの大きい背中に手を伸ばす、遥か先を歩いている者の強さ、覚悟、力がほしい…力が…
俺は膝から崩れ落ち、とうとう意識を失った…
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【エル】
俺は今、王様とクラウドと昼食を食べている。
旧王城が破壊された時は、城中大騒ぎだった…
(やるならやるって…言って欲しかったな…)
犯人はわからないらしい…しかし、自分は気付いていた…花凜達にしかありえないだろうと…
目撃者無し、怪我人無し、財宝は盗られて、庭の草木まで盗まれる…
しかも城が完全に破壊されて、公爵も連れ去られ…残された書き置きの内容、アイスクリームという意味不明な言葉…犯人はすぐにわかるというものだ…
(俺がどんだけ焦ったか…はぁ〜)
「どうしたのだハミー?」(クラウド)
「顔色が悪いな、ハミー?」(陛下)
「い、いえ…大丈夫です!」(エル)
2つ名(ハミチ○コ)が略されて、今はこの2人からハミーと呼ばれている…
俺は目から涙がハミーだよ…
昼食を食べながら、王様は情報収集を続けていた。
もしかしたら、既に旧王城襲撃犯は、この頭のキレる王にはバレているかもしれない…いや、バレてるよね…
王の行動を近くで観察していた俺は、王とはどういうものなのか…
そしてその偉大さや、優しさ、全てを見る事が出来た。
俺は素直に、この人が尊敬出来る。
「しかしハミー、お前は相当美味いものを食ってきたのではないか?城の料理に驚きもせんしな」(クラウド)
「それは余も思ったのだ、ハミーが持ってきたあの茶色い球体も格別だったな…また食べたいものだ…」(陛下)
「それは初耳ですな、陛下」(クラウド)
茶色い球体とは、俺が家を出る時に、弁当として持たされた物だった。
夜に陛下の晩酌に付き合い、その折に思い出し、話をしたら食べてみたいと言うので一緒に食べたのだ。
クラウドは陛下の言葉を聞いて、こいつ…何勝手な事してんの?みたいな顔を向ける。
陛下はクラウドの視線に、冷や汗をかいているようだ。
昼食も終わり、俺は簡単な仕事を頼まれていたので、移動しようと思ったその時、いきなり扉を蹴破るような激しさで、兵士が1人飛び込んできた。
陛下は、そんな兵士を見ても狼狽えずに、視線で言葉を促した。
「魔獣の大軍が、北東の岩山に出現!数およそ1万!
リーファウス様一行を狙っての事だと、冒険者から報告がありました!早急に兵士は集めております!」(兵士)
「なるほどな、良かろう!余が出る!
後はクラウド、作戦参謀のお前が国を護れ!
ハミー付いてこい!」(陛下)
「「はい、陛下」」(エル、クラウド)
軍はすぐに編成された。
その数は魔物と同じ1万!国には6万の兵を残し、将軍を2人連れて出撃した。
王の華麗な指揮を見ながら、俺は王を近くから護る。
高ランクの冒険者も依頼を受け、先に出発したみたいだ。
俺は結構落ち着いていたりする。
花凜、リオン、ドク、ミーの実力は、間違いなくトップクラスだからだ。
進軍開始からおよそ1時間、人間業とは思えない、魔力の大放出が軍全体を襲った。
「な、何だ!何が起こっている!!」
出会った時から冷静だった王様が、初めて俺に狼狽えた姿を見せる。
「陛下、あの魔力は妖精王花凜のものです」
「なんだと!馬鹿な!こんな魔力あってたまるか!」
「…ですよね〜」
尻もちをついてしまった兵士も沢山見える…相変わらずとんでもない魔力だ。
「……ハミー…余は行く必要あるのか?」(陛下)
「…どうなんでしょう…」(エル)
停止の命令が出ないので、軍はそのまま進みだした。
全員、顔が真っ青になっている。
(攻撃目標変わらないよね?ね?)
俺は違う意味で、不吉な予感が頭を過ぎる。
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【花凜】
「皆準備はいい?」
「「うん!」」
「もちろんだ」
魔獣の群れは、結界のすぐ外まで迫っていた。
上空の飛竜に乗った鬼達は、余裕そうに眼下を見下ろしている。
「早く出てこいよ!」
鬼の1人がそう言うと、結界に向けて唾を吐いてくる。
「作戦どうしようか?」(花凜)
「皆殺しだ」(リオン)
「「はい!師匠!」」(ドク、ミー)
「…それ、作戦なの?…リオン、鬼はなるべく捕まえるよ」(花凜)
「…証拠か…今更な気もするが、わかった」(リオン)
「ドクちゃうとミーちゃんは魔獣をお願いね!」(花凜)
「「はい!花凜ちゃん!」」(ドク、ミー)
リオンは少し微笑むと、結界を解いた。
ずっと戦いたがっていたので、嬉しくて仕方がないのだろう。
私先に飛び出して、一気に上空の飛竜の大軍に突っ込んでいく。
(驚いてるね)
今は昔の自分では無いのだ!私にはシルフの魔法があるのだ。
「来たな!化け物め!撃てーー!!」(鬼のリーダー)
リーダーの掛け声で、私に向かって、沢山の魔法と矢が飛んできた。
炎、水、雷、氷、風、飛礫、咄嗟に放てる大量の魔法の嵐!
「綺麗だね…」
それが、私の素直な感想だ…
こんなに弱い魔法を、わざわざ避ける気は無いので、腕を交差して突っ込んでいく。
「馬鹿か?そのまま突っ込むなんて」
「油断するな!来るぞ!」
兵士は私の事を知らないみたいだ、それを鬼のリーダーが、いさなめる。
前回私を襲った時に、砂漠の戦闘を見ていた者が何人いるだろうか?
リーダーと同じような顔をしている者が数名いるようで、伏兵に来ていたメンバーかもしれない。
私はそのまま飛び込み、魔法を全て弾き飛ばす。
鬼のリーダーはとても悔しそうな顔をしていた。
「こんにちは、今日は魔道具使わないの?」
「転移の魔道具は、お前のせいで使い切ったよ!」
鬼は笑う…しかし油断ではないのだろう…急に接近した私に、驚きながらも、距離を取ろうとした。
「嘘ばっかりだから、信じてあげないよ?」
私は何もせずに、飛竜の群れを通過して、更に上昇する。
「まずい!散開しろ!」
「遅い!」
鬼が命令を出した、しかし私の魔法に準備時間は必要ない…
それに飛竜は小回りがきかないように見えた。
私は飛竜の上から、空気の巨大な塊を叩きつけようと思った。
(行くよ!)
「シルフ…最大出力!」
空気の塊は見えないが、上空の雲が消し飛び霧散する。
最大出力とは言ったが、あくまで魔力遮断をしながら出来る最大出力だ。
尋常ではない威圧感を感じたのかもしれないが、鬼達の表情が焦りに染まっていく。
「隊長!」
「踏ん張れ!」
必死に耐えているが、ほとんどの者が地に落とされ、部隊は半壊した。
シルフの魔法は使いやすく、私の魔力があれば、屋外ではかなりの威力を発揮するだろう。
空気を消して地に落とす事も考えたが、飛竜が羽ばたいているようには見えなかったので、浮力を利用しているわけではないと思ったのだ。
「こんなの!前は使わなかっただろうが!」
「最近覚えたんだよ?こんな事もできる!」
私は真空の刃を剣の様にした…
その刃は巨大で、見るからに危険な物だとわかるだろう…
迸る魔力が形を成したような剣で、私は飛竜に斬りかかった。
「てやーーー!」
まさに斬る寸前…私は、やっぱり斬るのは怖かったので辞めました…
血が吹き出たらと思うと、躊躇してしまうので、やはり私には剣は向かないだろう。
「で、出来るんだよ?本当だからね?」
「…馬鹿にしやがって!」
次の瞬間、その場が凍り付く…
「私も混ぜてくれ花凜」
リオンが風の魔法で飛んできたのだった!
凍り付いたのは物理的にだ…飛竜だけ凍らされて、鬼達は悲鳴を上げながら落下していく。
上空に残った飛竜は、既に残り10体になっていた。
「何故お前達は平然と飛べるのだ!くそっ、空の戦いは俺達…」
兵士の1人が叫んでいたが、リオンが一瞬で凍らせた。
絶句する鬼のリーダーに、部下の兵士も動揺している。
「勝手に喋るな…」
リオンがそう言うと、もう1体の飛竜が凍り浸けにされた。
そっちの飛竜は完全にとばっちりだろう…
(ここはリオンに任せて平気だよね?)
「リオン、私は下に沢山落ちたやつを倒してくるね!」
「ああ、こっちは任せろ…魔獣軍団の相手は、花凜の方がいいだろう」
「あとあの人なんだけど、自称リーダー?だから、治せる範囲でやってね!転移しようとしたら、加減しなくて良いから」
鬼の絶望の視線が、リオンに集まっている…
しかしリーファウスを護るために、私は心を鬼にするのだ…
(リオンが喋るなって言ったから?皆喋らなくなった…)
私はその場をリオンに任せて、下に降りて行く。




