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リオンの名前





 私とロナウドとリオンは、絆の宿に向かって歩いている。


 ドクとミーが留守番なのは、リーファウスの護衛が居なくなるからだ…


 お昼にうどんを山ほど食べたのに、リオンは屋台を見つけると、自然と吸い寄せられそうになっている。


(うぅ…マタタビでも使ってるのかな?)

「今失礼な事考えなかったか?」(リオン)

「リオンの感は、本当に恐ろしいと、私は思ったのであった」(花凜)

「誰に向けての説明なんだ?」(ロナウド)


 そうこうしているうちに、絆の宿のミミックの部屋に到着した。


 ロナウドがいつも通り中に向かって声をかけると、いつもの通り入室が許可される。


 ミミックがこの部屋に居なかった事はないので、昨日私に1日付き合ってくれたのは、本当にレアなケースだったのかもしれない…


「花凜さん、昨日はご馳走になった。

出来ればまた、酒に付き合ってくれ!

むしろ付き合ってくれ!」

「ミミックよ、今日は少し込み入った話なのだ…」


 ミミックの事は大分慣れたが、ぐいぐい来られるとまだやはり怖い…


 ミミックの見た目は、身長の低い私から見たら、熊みたいなものなのだ。


 私はロナウドの後ろに体を隠して、恐る恐る前を覗き込むと、ロナウドがミミックに言葉を返した。


「込み入った話じゃなかった時なんか無かっただろうよ!」

「否定は出来ないかもしれんな…」

「それで今日は何なんだ?」


 ミミックは覚悟を決めて、聞く姿勢に入る。


 ロナウドは、少し申し訳なさそうな顔だ…


 ロナウドの後ろにばかり、隠れてもいられないので、後の話は私が引き継ぐ事にした。


 え?むしろ私の話しだって?聞こえません!


「えっとね…昨日ミミックさんと別れてから、暗殺者に襲われたんだけどね」

「へ?リーファウス様を狙ってる暗殺者にか?」

「うん!だって私を殺さないと、リーファウスを絶対に殺せないでしょ?」

「ああ…そうか…そりゃそうだよな…

リーファウス様の護衛依頼を、引き受ける冒険者の名は伏せておいたんだが…

花凜さんはリーファウス様と一緒に居た所を、暗殺者に見られていたんだったな…

俺が迂闊だった!本当にすまなかった…」

「危険が無い依頼なんてないでしょ?

ミミックさんが謝る事じゃないよ!」


 ミミックは私を心配な表情で見ている…しかし本題はこれからなのだ!


「でね、暗殺者なんだけど、人間じゃなくて鬼だったの」(花凜)

「なんだと!それじゃあもしかして、グラシアン王国が絡んでるって言うのか?」(ミミック)

「相手は名前もリーファウスを狙う理由も教えてくれなかったけど、角が生えてて炎を詠唱も無く使ってきたの…

それと、使い捨ての転移魔道具を、いくつか持ってたよ」(花凜)

「その話を聞いて、俺もグラシアン王国じゃないかと思ったんだ…

しかも自分の事を、部隊と呼称していたらしい…」(ロナウド)

「私を確実に殺す予定だったみたいだけど、無駄に情報はくれなかったよ…」(花凜)


 昨日の話は、大体これくらいでいいだろう…私は次の話をする事にした。


「公爵だけでも大変なのに、グラシアン王国までが絡んでるんじゃ…この依頼は、絆の宿には手に負えない!」(ミミック)

「俺もそう言ったんだけど、ドクもミーもやる気なんだよ…」(ロナウド)

「そんな事を言っていても、先に進まんだろう?リーファウスを放り出すつもりか?絆の宿は可能な依頼しか受けないって言うんなら…そうだな、ひきこもりの宿とでも改名しろ」(リオン)

「な…」(ミミック)

「安心して!依頼は、必ずやり通してみせるから!良い作戦を思いついたの」(花凜)


 ミミックの言う事もロナウドの言う事も、実に正しいものなんだろう…リオンは、ミミックに発破をかけたつもりかな?


「まず1つ目の作戦は、あえて裏道を通って、グラシアン王国の軍隊から襲いやすいようにします」(花凜)

「なるほど…囮になって、その間にリーファウス様を、大通りからこっそり移動させるのだな」(ミミック)

「違うよ?リーファウスが囮だし、皆一緒!

それでね、ちょっと聞きたいんだけど、公爵って何処に住んでるの?」(花凜)

「公爵は旧王城だが?この街で1番デカい建物だ!少し小高い場所に建てられている」(ミミック)

「ありがとう!私達は今日の夜に、旧王城を破壊して公爵を誘拐します!」(花凜)

「「へ?」」(ミミック、ロナウド)

「どういう事だ?」(リオン)


 私の言った事に、リオンも疑問に思っているみたいだ。


「な、何故そうなるんだ!公爵にはリーファウスを狙った証拠も無いんだぞ?」(ミミック)

「うん!証拠が無いから良いの!だから公爵を襲っても、鬼は出て来れません。

それに鬼は折角の傀儡の王を失って、グラシアンに帰れると思う?帰れません!

利が大き過ぎるのと、そこまで馬鹿にされたら、高そうなプライドで必ず襲ってきます!

それが証拠になるから大丈夫!」(花凜)

「「…」」(ミミック、ロナウド)


 私はこれ以上、後手になりたくない…いつもいつも振り回されて、嫌になっちゃう…

 私が作戦を言い終えると、ミミックとロナウドは沈黙…リオンは?


「くふふ、あっはっはっはっは!花凜、最高だ!お前は策士の才能があるよ…先を読む考え方も良い、思い切りも良いしな!

敵は、私や花凜の力しか警戒してないだろう…

今日公爵廷を襲撃されても、事態を理解するのは全て終わってからだろうな」(リオン)


 リオンは、この作戦が気に入ったようだ。


「ただ鬼がラグホーム王国を諦めて、故郷に帰るなら、私達はお尋ね者になります!

でもリーファウスを守るためなら、リスクは取らなきゃいけないからね…

皆私と犯罪者になろう!」

「ああ、わかった!リーダーはお前だ!」


 リオンは最近で1番の笑顔を作ったが、ロナウドとミミックは顔が真っ青になっている。


「……頭が痛いよミミック…」

「……奇遇だな…俺もだ…」



 哀愁漂う男が2人…私とリオンは、2人を置いて出ていく…その後2人の姿を見たものはいな(いるよ!殺さないでよ!)…いるようだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




 作戦会議を終えて、私はリオンを連れて魔道具屋のお婆さんの所へ行った。


「おや?良く来てくれたね」(おばあさん)

「こんにちは♪体の調子は大丈夫?」(花凜)

「絶好調さ、爺さんも朝から海で釣りをしているよ」(おばあさん)

「凄い!夜ご飯は魚なんだね」(花凜)

「あー、そっちは不調なんじゃよ」(おばあさん)


 魔道具屋のおばあさんと少し会話をして、私は欲しい物を説明する。


 小さい魔法鞄を10個と、今回の作戦で使いたい魔道具を2つ買って店を出た。


「花凜、そんなに魔法鞄買ってどうする?」

「妹達にあげるの!今有線だから、少し考えてる事があってね…」

「なるほどな…鞄の中に花凜のミニハウスを作って、そこから線を引っ張り外出可能にする気か?」

「おお〜…リオンの言う通りだよ。

ただミニハウスが、鞄の中でも魔力を蓄えれるかわからないから、とりあえず実験!ダメだった場合は、バッテリー代わりにする」

「バッテリー?花凜は私でもわからない言葉を、沢山知っているな…前の世界の知識なのだろうが、いつか色々聞かせてくれ」

「もちろん!たださ、この街に来てから、本当にハードな毎日だったよね…」

「それは…花凜が、無自覚に色々手を出すからだろ?

ロナウドに手を貸した事で、絆の宿に関わることになり…

リーファウスを見つけた事で、国の大事に関わろうとしている…

全部花凜からではないか?」

「うぅ…言われてみれば…」

「だがな、ここに来て良かったと私は思っている」


 リオンは私の方を向き、私の目を見つめてきた…


 言葉を探し出してるようだ。


「……ここに来て、花凜の笑顔が増えたのだ…2人だけの時は、花凜はたまに辛そうな顔をしていた…

私だけでは、どうしてやる事も出来なかった…

私は花凜に会う前は、死んだように生きてきたんだよ…私の初めての家族は人間だった…」


 リオンがとても辛そうな顔をしている…私はリオンを軽く抱きしめると、そのまま魔獣の森に転移した。


 リオンが周りを見て、懐かしそうな表情になる。


「ここで私達は出会ったんだよね…」

「ああ、そうだな…」

「全部話してくれるかな?」

「わかった」


 私はリオンを木陰に座らせて、自分も隣に座った。


 もくちゃん達は、静かに私達の様子を伺っている。


 少しして、リオンは口を開いた。


「私が生まれた時代はな、大陸が1つしかなくて、魔物はみな動物と同じだった。

生きるための最低限の狩りと縄張りを持ち、多種多様な生物が、共存していた。

私はある日、狩りのために移動していた…

魔物としては幼くて、50歳くらいだっただろう。

美味そうな匂いがしてな、その方向に私は走り出した。

そこには、1人の人間の男がいたのだ…

私は飛びかかり、その男の腕に噛み付いた。

しかし、邪魔が入る事になる。

剣を持った女が現れて、私に斬りかかってきた。

私はそれを躱し、距離をとってその女を睨んだが、実力は明白だった。

私はその頃加減を知らなくて、山1つを氷漬けにして、その者達の退路を塞いだ。

人間が何かを言っていたが、私にはまだ言葉がわからなかったのだ…

女が何かを言い終わると、女は自分の右足を、剣で切り落とした。

それを私に放り投げたので、私はその足を咥えて、その場を離れたのだ…

それから数年後に、またその女と会う事になる。

山の中で、今度は泣きわめく子供を庇って血を流していた。

近くにはデカい熊が1匹いて、必死に杖を振り回して…何かをまた叫んでいたのだ。

私は気紛れに、助けてやる事にした…

獲物も探していたので、ついでだけどな…

私は、その熊の魔物を、氷の爪で細切れにした。

女はヘタリ込み、近くの子供を抱きしめると、すぐに近くの林に入り込んで行く…

そこにはもう1人子供が居たみたいで、既に心臓は止まっていたのだ…

私はその辺に住み付き、たまに危なそうにしていたら、狩りのついでに助けていった。

やがて人間は、私に食べ物を持ってくるようになった。

人を観察していたために、だんだん言葉もわかるようになる。

私が助けた女は、クレアと言うそうだ。

クレアは私に名前をくれた…熊に裂かれ、死んでしまった子供の名前、リオンとは、その女がくれた名前だ…

私はリオンと呼ばれ、その者と子供と住むようになる。

クレアは教会で働いていてな、私を鎮めた事で、崇められていた。

クレアはそれを煩わしがっていたが、彼女の人柄に惚れ込んだ者が多かったのだ。

世界には強大な力を持ち、崇められる者達がいた。

今で言う竜王や、大地の化身などがそうだ。

しかし強大な力があっても、暴れたりする事はない…

祭壇が建てられ住み分けもされて、皆平和に暮らしていたのだ…

クレアはそんな彼等とも面識があった。

人間の代表として、友として、クレアは彼等と仲良くしていたのだ。

しかし事件が起きた…

妖精王の宝珠が盗まれたのだ…犯人は見つからずに、十数年の時が流れる」


 そこでリオンは一旦言葉を切った…


 リオンの名前は、クレアの死んだ子供の名前だったのだ…


 クレアが子供の名前を与えた事からも、リオンがどれだけクレアに大事にされてきたのかがわかる。


 リオンは話をしながら、少し震えていた。


 私はリオンをそっと抱き寄せると、リオンも落ち着いたようだ。


 リオンはまた言葉を続けた。


「妖精王の宝珠は見つかった。

クレアを崇めていた人達が、クレアを拘束して、その宝珠をクレアの体に埋め込んだのだ。

宝珠は、何千年もの自然の力が蓄えられた結晶で、それを埋め込まれたクレアは正気を失う事になる。

クレアは、命令された事だけをする、破壊兵器になってしまった。

教会はクレアを操り、数々の祭壇を破壊して、教会に逆らう者を全て殺していった。

教会は、唯一神を作ろうとしていたのだ…

クレアの力は絶大で、私を含め止められる者は居なかった。

しかしそんなクレアを見兼ねて、立ち上がってくれた者達がいた。

竜の王、海の支配者クラーケン、大地の化身、魔物の王、不死の王、吸血鬼の王、人間の王、ドワーフの王、エルフの王、他にも沢山の者が集まってくれた…

クレアは、とても愛されていたのだ。

それから数年、厳しい戦いをする事になる。

教会はクレアだけではなく、人々も戦いに巻き込んだのだ…

皆を愛したクレアを思い、無闇に殺す訳にもいかず、被害はどんどん膨れ上がる。

人間の王は裏切り者だと処刑され、ドワーフの国は滅び、エルフも吸血鬼もほとんど残っていない…

この世界に生きる生物の半分以上が、その戦いで死んだ。

しかし、私達はやっとクレアを追い詰める事が出来た…

皆ボロボロだったが、クレアを諦める者は1人も居なかったのだ…

私は残る力で、クレアの首に噛み付いた…

その最後の時、クレアは正気を取り戻し口を開いたのだ。

あら皆お揃いで、私は嬉しいわって…それがクレアの最後の言葉になった。

クレアを殺したのは私なのだ…チャンスは1度しかなかった…クレアの子供が、命をかけて作った隙を…私も命をかけて飛び込んだ…

今でも殺した時の事を、思い出す時がある。

クレアから宝珠が取り出されると、宝珠は禍々しく輝いていた…

その力は凄まじく、この世界の恨みを全て吸収したように、悪意に満ちていたのだ…

放っておく訳にもいかず、皆は宝珠を砕き、それを口にする。

それは瞬く間に体の中に溶けて、どんどん体の自由を奪っていく…

皆溢れ出す憎悪を、今も必死に耐えているのだ…

しかし、それもそろそろ限界だ…

私は、今も苦しむ皆を楽にしてやりたい!もう100年も苦しませてしまった!

絶大な力を持つ彼等を、衰弱した状態である今でさえ殺してやる事が私には出来ない…

竜王の無意識の反撃で、私は死にかけていた。

彼等は大陸を割るような力を持っていた、私が生きていた事から考えても、かなり手加減されていたはずだ…

そんな中、私は花凜と出会ったのだ…

私は1人になってから、誰とも関わってこなかった。

もう人間なぞ見るのも嫌だったのだ!

人間が憎い!全てを壊してしまいたい!

しかし私が好きになったクレアは人間だ、花凜も元人間なのだ…

花凜の素直な気持ちが、私には眩しい物に感じたんだよ。

クレアと姿も性格も違うのに、こうと決めたら譲らない所はそっくりだ…

最初私は、花凜に助けてもらった礼を返すため、一緒に行動していたが、今では花凜と一緒に居ることに、安らぎを感じているよ。

私は花凜から、沢山のものをもらってしまった。

忘れていた気持ちを思い出させてもらった。

家族の大切さを思い出させてもらった。

諦めない気持ちを思い出させてもらった。

花凜は不可能を可能にする。

それは力ではなく想いによるものだ。

願えば届くのだと思わせてくれた。

私は今………幸せだ」


 リオンは最後に、私に笑顔を作ってくれた…


 私はぎゅっとリオンを抱きしめる。


 リオンは今まで自分が歩いた道を振り返り、笑ってみせたのだ。


 それは途方もないものに、私は感じた。


 どうして私の周りは、こんなに強い人ばっかりなのか…


 そして、リオンをこんな風に変えてくれたクレアを、私は心から尊敬する。


「話してくれて、ありがとうリオン」


 私も笑顔で返したが、少しぎこちないものになってしまったかもしれない…


(私は…まず竜王を殺る!これは決定だ)


「ねえリオン、私と竜王の力の差ってどれくらい?」

「何を言ってるのだ、遠く及ばないに決まっているだろう!」

「そっかー…」

「花凜?」

「ん、わかった!」


 まずは、リーファウスをどうにかしないといけない…


 少しリオンには我慢してもらう事にしたが、私の心は荒れていた。


「すっかり夜だねー」

「そうだな、話も長くなってしまった…

さっき話したのが、この世界の真実で、教会や国が隠してる事だ…

しかし教会が無くなるのは混乱が大きい…しかも大半が、過去の戦いを知らずにいる。

でも、それはそれで良い事なのだ!

真に皆の役に立ちたいと願っている者が教会に増えれば、クレアも喜ぶであろ」

「リオンの話を聞いた後だと、リーファウスの抱える問題なんて楽勝だね…」

「ああ、早くちゃちゃっとやってしまおう」


 私はリオンと笑い合った。


「時間もまだ早いから、騒動になるかもだけど…まあいっか〜」

「このまま行くのか?」


 私は、魔法鞄から外套を取り出し、リオンにも渡す。


「これを着て、正体をバレないようにします!後葉っぱで、仮面舞踏会風にして行こ!」

「なんだか楽しそうだな」

「初めての誘拐だからかな?」

「そうか…なら私も楽しむとするか!」


 私達のノリはいつも軽い、これが平常運転なのだ!


 私は魔道具を起動してからリオンを掴むと、転移で家まで移動した。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




「だ!だれだ!」

「ふふふ、私は!怪盗仮面花凜!」

「…なんだ花凜か…」

「え?何でバレたの?」

「…」


 私は家に到着すると、リーファウスに見つかったので、仮名で名乗ったが、すぐに正体がバレた…解せぬ…


「何処からツッコミを入れたらいいのか…」(リーファウス)

「まあいっか…とりあえず誘拐行ってきます!」(花凜)

「私も、少々誘拐と城攻めをしてくるぞ」(リオン)

「何がとりあえずなんだ?城攻め?何を言ってるのかわからんが、出掛けるなら気をつけてな!」(リーファウス)


(夜の怪盗仮面花凜!夕食前に華麗に参上♪)






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