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氷雪記  作者: ゐく
第三部
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終章

「それじゃあ二人とも、元気でな!」


「絶対に(ふみ)、送ります!」


「また会える日を楽しみにしていますから!」


「雪姫、疾風。ありがとう! またねっ!」


 風見ヶ丘の出口で、雪姫と疾風が仲間達を見送る。再会を約束して、佳月、粋、早智乃、幼夢と順番に握手を交わした。





「……行ってしまったわね」


「うん。寂しくなるね……」


 仲間の姿が遠くなり、やがて見えなくなる。

 幼夢と佳月はこのまま街道を西に進んで緋那を目指し、早智乃と粋は若草を経由して水澄に戻るという。


 雪姫は名残惜しそうに皆の消えた先を眺めたまま、隣の疾風にぽつぽつとしゃべりだした。


「私ね、この旅を通して大人になりたくなったの。氷室様や清晏先生、一葉様の姿を見て、私もああなりたいなって」


 一度そこで言葉を切り、目を閉じて胸に手を当てる。


「初めはね、成人なんてただの肩書きで、札納(ふだおさ)めも大した意味のない風習の一つだと思ってた。でもね、今なら違うと思えるの。意識したり、覚悟することが大事なんだ……って。引かれた線に対して、今なら自分なりの意味を見いだすことができるようになったわ」


 そう言って、少年を見上げる。

 雪姫は、この旅で多くのものを手に入れた。それらは、氷姫がくれた掛け替えのないものでもあった。


 氷姫はもう雪姫に憑いていない。願いを叶えた彼女は、氷之神を鎮めたあと天に昇っていった。きっと今頃は他の先祖達と共にいるのであろう。本来のあるべき姿で、雪姫を見守っていてくれているに違いない。


「……ねぇ、雪姫」


 今の話で何か思うところがあったのか、今度は疾風が切り出した。少女の方に向き直る。


「僕が風見ヶ丘の生活に慣れたらさ、君のお婿(むこ)さんにしてもらえる?」


 そう言って、手を差し出す。


「本当は、物語みたいに“お嫁さんになって”って言いたかったんだけど、思えば今の僕には実家がないんだった。だからお婿さん」


 にっこり笑って、どう? と尋ねるように首を少し傾けてみせる。

 どこまでも正直な少年に、雪姫は「ふふ」と笑った。


「はい。喜んで!」


 照れながらも了承の返事をし、その手を取る。


 その時。

 ふわり、と優しい風が吹き上げた。雪姫と疾風はそれを追って、空を仰ぐ。



 ────晴天。



 高く、高く舞い上がるその風は、まるで氷姫が二人の未来を祝福してくれているかのようであった。





《「氷雪記」おわり》

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