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悪役令嬢は聖女なので迷宮懲役囚になりました  作者: 広科雲


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7 王立ホワイトウッド学院にて 5.16

  国と同じ名を持つホワイトウッド学院は、貴族の子弟のための学校である。幼年部、初等部、中等部、高等部と、4歳から18歳までの教育を一貫して行っている王立の施設だ。

 ゲーム『あなたに光の花束を(アナハナ)』のヒロインと同じ名前を持つノエルは、平民出でありながら『聖女』として地方教会で見いだされ、さらには男爵家の養子となって学院に入学した。

 ノエルの賢さは実父の教育の賜物であった。彼女の父は村で唯一の『先生』だった。彼は母とともに村へ来た10歳のときから教養を兼ね備えていた。文字の読み書きと計算ができ、剣術と武術に秀でて、魔術の基礎も知っていた。父親が突然亡くなり、多額の借金のカタに財産が没収された元貴族らしかった。母子は村で畑仕事を手伝うかたわら、ときおり子供に字や計算を教えていた。それから数年後に母親が病で亡くなると、彼は教師として、相談役として村のために尽力することとなる。

 ノエルの母親は村に長年住んでいる農家の一人娘であった。両親は男子を望んだが、彼女以外の子宝にはついに恵まれなかった。農家としては厳しい状態ではあったが、ノエルの父との結婚で生活はだいぶよくなった。

 ノエルは明るく元気な少女だった。両親と母方の祖父母に可愛がられ、家族総出で畑仕事をする光景を、村人たちは覚えていた。

 ノエルが六歳のとき祖父が、七歳のときに祖母が亡くなった。一時期、大人しくなったノエルだが、九歳になるころには以前の活発さを取り戻していた。

 それも長くは続かず、ノエルの両親は事故で亡くなった。ノエル12歳のときである。

 それから彼女は独りで静かに畑仕事をして暮らしていた。幸い、村は豊かであったので、少女は父の蓄えと周囲に助けられ酷い苦労をすることはなかった。父が残した教科書を頼りに、独学で勉強も続けた。

 15歳の誕生日、彼女は村の小さな教会で精霊の加護を受けた。『聖女』として認められた彼女は、そのまま教会に引き取られた。

 ノエルはすぐに能力の開花させた。そればかりか、その力は日々成長を続け、あまりの強大さに司祭は王都の大教会へと報告した。

 王都に召喚されるまで時間はかからず、ついにはホワイトウッド国王の耳にまで『大聖女』の評判は届いた。

 ノエルは国王の勅命によって大教会から離され、ホワイトウッド学院の高等部に席を置くこととなる。後継人かつ教育係として、世継ぎもなく派閥にも属せず、政治にも無関心なローランド老男爵があてがわれたのも、将来を見越してだった。この時点で、多くの貴族は気付いていた。スヴェン王太子のお相手は『大聖女』ノエルになるであろうと。そして、現婚約者カテリナ・アーモニアは公妾か破談かを迫られるであろうと。

 その噂を当の二人がどう思っていたか、正確に知る者はいない。が、カテリナがノエルに対して常に厳しい態度で接していたのは周知であった。特に礼儀作法については過敏とも言えたようだ。

 ノエルのほうはどうか。学院生活にとにかく困惑しているようだとの証言がある。平民出の彼女が、一年のうちに『聖女』となり、『大聖女』扱いされ、貴族に押し上げられたのだ。頭も体もついていかない急展開であっただろう。注目の的となり、友人もおらず、頼るべきローランド男爵も今の立場に辟易しているのが見てとれる。ノエルは孤立無援であった。現実はゲームではないのである。

『ノエルってすっごい明るい子でね、前向きに何でも挑戦して、失敗して、やりとげて、周囲を変えていくんだよ』

 メモリがカテリナに問われて答えた『ゲームのノエル』の話である。

 もしかすると、ノエルの唯一の味方はカテリナなのかもしれない。ある日、叱るカテリナと叱られるノエルを見かけたとき、ふとそう思ったのはカテリナの幼馴染み『炎刃』レナード・ブレイズ伯爵令息だった。彼は『大聖女』に興味はあったが、進んで関わろうとは考えなかった。助けが必要にも見えなかったし、カテリナの言動にも正当性を感じていたからだ。

 それだけに、カテリナ・アーモニアが迷宮懲役刑に服する事件をおこしたことが信じられなかった。

 「あのカテリナ様が、なぜ、あのような暴挙を?」

 とは、学院生の誰もが抱いた疑問である。

 「やはり『大聖女』が王子の婚約者になったせい?」

 「もとから平民出が気に入らなかったんだ」

 「カテリナ様が怒鳴る相手なんて、あの『大聖女』だけだったし」

 「よく知らないけど、アーモニア公爵家って、昔、なんかやらかしたんだろ?」

 「そうらしいけど、大人は誰もそれに触れないんだよ」

 「相手はいちおう公爵家だからな。カテリナにもその血が流れてたってことかな」

 「ともかくこれで『大聖女』の一人勝ちね。懇意にしておいたほうがいいわね」

「黙れ、ゲスども!」

 レナードは、カテリナの見舞いから学院に戻って早々、中庭で腹立たしい会話をしている一団に出くわした。

 その数人のグループだけでなく、中庭にいたすべての学院生がビクつき、動きを止めた。

「おまえたちに貴族としての誇りがあるならそれ以上はしゃべるな。不満があるなら拳で聴いてやる!」

 拳を鳴らし殺気だつ『炎刃』に、全員がクモの子のように散っていった。

「なんなんだ、あいつら。最近までカテリナのそばにいたヤツも交じってやがったぞ」

「それが凡俗の反応というものだよ」

 「ああ!?」声の主を睨みつけたレナードだが、相手を認めると熱を抑えた。

「ブレインか。おまえの冷静な観察力はときに腹が立つ」

 細身の銀髪少年だった。ここにメモリがいたら、第一声で『キャー!』と叫び、目をハートにして名前を連呼しただろう。『ブレイン・グラス様ぁ!』と。彼は乙女ゲーム『あなたに光の花束を(アナハナ)』の攻略キャラの一人で、メモリの第2推しである。水の精霊加護を受け、氷の魔法を得意とする頭脳系キャラだ。二つ名は『氷牙』といい、狂戦士(ブチギレ)モードになると相手の頭を掴み、凍らせ、砕くという恐ろしい技を出すことからつけられた。頭脳系でありながら暴力と狂気も備えるキャラにファンが多い。

「レナード、君は昨日、迷宮街に行っていたそうだね。そして今日も早朝から学院をサボって向かったと聞いている。それはやはり――」

「ああ、カテリナに会ってきた」

「伯爵家の嫡男がすることか?」

「ンなことはどうでもいいだろうが。妹分に会いにいって何が悪い」

「やれやれ、相手は立派な重犯罪者だよ。自重したまえ」

「どうでもいいと言ったぞ。まさかおまえもカテリナが本当に罪を犯したと思ってるのか?」

「裁判で結果は出ている。それ以上に証明が必要とは思えないな」

 冷たい目で語るブレインを、レナードは殴りたくなった。

「テメ――!」

「とは言え、釈然としない点があるのも事実だ。きたまえ、殿下がお待ちだ」

「おいっ、最初から殿下の使いと言えばいいだろうが!」

「僕も興味はあったんだよ。君の態度でよくわかった。彼女は完全な黒ではないと。もちろん、白でもないだろうがね」

 ブレインは薄く笑い、きびすを返した。レナードはイラっとしながらついていった。

 スヴェン王太子には学園内に、立場を考慮した専用の部屋が与えられていた。一般の教室とほぼ同じ広さがあり、半分を応接室として使い、半分をサロンとして活用していた。敷居があるわけではないので、家具や調度品にこだわることで差をつけている。

 その応接側の堅く暗めのテーブルに、四人がいた。スヴェン王太子、レナード、ブレイン、それに『岩槍』グリンブル・ロックランド子爵令息である。

 グリンブルもゲームにおいては攻略キャラの一人である。長身で寡黙、自然や動物を愛する男として描かれている。『岩槍』の由来は、地の精霊加護を用いた魔法にある。彼の周囲半径10メートルの地面を隆起させ、無数の岩の逆さつららを発生させる。その鋭く長いつららが槍のように見えることからその名がついた。

「それで、カテリナの様子はどうだった?」

 スヴェンがカップに手を伸ばしつつ質問した。お茶は彼の補佐官、ラックスが淹れたものだ。補佐官は王子専属の秘書であり警護であり世話係でもあった。王子の生活全般は彼が一人で取り仕切っており、周囲からも「もうあいつ一人でいいんじゃないか?」などと言われるほど有能であった。

「どうもこうも、案外楽しんでいた。迷宮にも付き合ったが、あれならどうにかやっていけるんじゃないか」

「迷宮!?」

 王子は危うく噴きだすところであった。

「カテリナは迷宮に潜ったのか?」

 訊き返したのはブレインである。

「そりゃそうだろ。あいつは仮にも、いや、実際に迷宮懲役囚だぞ」

「……どうかしている」

 ブレインは眉間を押さえ、スヴェンも言葉が出なかった。グリンブルだけは聞いていたのかいないのか、涼しい顔でお茶を飲んでいた。

「ヒマなときはオレも付き合うつもりだ。実戦経験にはもってこいかもしれん」

 笑うレナードに、ブレインのため息は重い。「脳筋が」とつぶやいたのは『炎刃(のうきん)』には聞こえていなかった。

「……まぁ、いい。それで、ノエルに関する話はしたのか?」

 スヴェンは多くの言葉を飲み込んで話を進めた。

「罪は認めていた。肝心の理由については、話すつもりがないらしい」

「追及が甘いのでは?」

「厳しくしようがカテリナは話さないだろう。あいつはそういうヤツだ。ただ、王都でやり残しがあると言っていたな。だから早めに帰るとも」

「とうぜんその内容も――」

「話さなかった。今は話せないと。だからいつか話してくれるとオレは信じている」

「本当に甘すぎる。結局、何もわかっていないではないか」

「そうでもないだろ。あいつが元気でいる。やる気がある。話せないと教えてくれた。これだけで充分に会った意味はあったとオレは思っている」

 言い切るレナードに、ブレインは頭を振った。感情論など無意味であるのがわからないのが『脳筋』なのだ。

 二人のやり取りを黙って見ていたスヴェンは、ふと思いついたことを口にした。

「……カテリナは、迷宮に興味があったのだろうか?」

「どういう意味ですか、殿下?」

「カテリナが王都に戻ろうとするのならば、64000金貨(リスル)支払う必要がある。これは迷宮で稼げる額ではない。あのカテリナがそんな非効率な選択をするだろうか。何かしら商売をはじめるほうが堅実で安全ではないか?」

「たしかに。ですが、その元手を稼ぐため、となれば迷宮探索もあるかと」

「いや、カテリナなら元手を隠し持って迷宮街に行くだろう。違うか?」

 スヴェンの目がレナードに向けられる。レナードはうなずいた。

「ああ、囚人なのに新品の鎧や剣を身につけていたな。囚人の護衛も雇っていたし、宿までとっていた」

「そうだろう。カテリナが準備もなく行くわけがない。となれば、迷宮街、もしくは迷宮そのものに用があったと見るほうが得心がいく」

 スヴェンは笑みをこぼした。おもしろくなってきたのである。

「ですが、それなら囚人である必要はないでしょう? 護衛でも何でもつけて堂々といけばよかったのでは?」

 ブレインは納得がいかない。そもそも貴族とあろうものが、あのようなゴミ溜めに如何なる理由があろうと近づくものではないと思っている。

「貴族だからこそ近づけないのではないか? 武で名高いブレイズ家のレナードならともかく、公爵令嬢が迷宮に潜ろうものなら社交界に醜聞が拡がる。そんな暴挙をアーモニア公爵が許すはずもなく、カテリナも家に汚名を着せたくはないだろう。ゆえに彼女が迷宮に入るためには、どうしても貴族をやめねばならなかった。そのために罪人となったのではないか?」

「罪人になるほうがよほど汚名だと思いますが」

「絶縁されれば公爵家も最低限の面目は守れる。カテリナならそれを見越しているはずだ。それに迷宮街では公爵令嬢という肩書はかえって邪魔になる。無法者が集まる街で、貴族令嬢が無事でいられるわけもない。自衛のためにも囚人という身分を選択したのだろう。もっとも不自由だが、もっとも身軽な身分をだ」

 王子の推測に、ブレインは頭を振った。

「そんな理屈が悪党に通じるとは思えません。それに囚人であろうとなかろうと、護衛もない美しい女性というだけで男たちの標的になります。ゆえにその理由は通りません」

「美しいのは認めるんだな!」

 レナードが笑うと、「そういうことを言っているのではない!」とブレインは赤くなりながらツッコんだ。

 その目の前で、スヴェンがあごに手を当てて唸っていた。

「……たしかに、悪党視点の認識はわたしも甘かったようだ。そうだな、危険ではあるな」

「殿下……」

 ブレインがため息を吐く。浮世離れしているのは王子らしいが、このさいは欠点だった。

「小悪党くらいならカテリナは一人で対処できるさ。そもそも、それくらいできなくて迷宮に潜るわけがない。死にに行くようなものだ」

 レナードはまったく心配していない。

「それもそうだな」

 「殿下……」ブレインが続けてため息。論点がずれていくのに気付き、熱を冷ますため一呼吸いれた。

「……話が進みませんので、罪人になった理由は置きましょう。問題は、なぜ彼女はそこまでして迷宮へ行ったのかです。殿下もそれは考えつかないでしょう?」

「荒唐無稽だが、一つだけ思い当たることがある」

「……それは?」

 ブレインもレナードも、いつの間にかグリンブルも身を乗り出していた。

「すまない、これは禁則事項だ」

「そりゃないだろう? ここだけの話にするから」

 レナードが噛みつく。が、王子は首を振った。

「長い間、多くの者が口を閉ざしてきたことだ。それをわたしの口から漏らすわけにはいかない」

「では目的はともかく、それは叶えられるものなのですか? 囚人になってまで叶える価値のあるものなのですか?」

「叶えられることは、おそらくない。ゆえに囚人になる価値もなかったといえる」

「でもあいつは実行したぞ?」

「どれほどの可能性と覚悟を持って臨んだのだろうな。だが、そんな確証もないものでどうにかなるわけがない。それを覆すほどの協力者でもいないかぎりは……」

 スヴェンは一息吐き、冷めたお茶を飲んだ。そして、カテリナの協力者たり得るたった一人の人物に頭を切り替えた。

「ブレイン、頼んでいた調査は?」

「はい、殿下の推察どおりでした」

「やはりアーモニア公爵は動かないか……」

 ブレインの実家グラス領は、カテリナの実家アーモニア公爵領に近い。スヴェンはブレインを通じて公爵の動きを探っていた。

「娘の反逆罪に対し反応がないのがおかしいですね。カテリナが逮捕されたときも、抗議もなく、弁護団もつけず、王家に謝罪の金品を送っただけでした。判決後には間も置かず絶縁状を突きつけていますよ。公爵は世事にも娘にも興味がないのでしょうか?」

「それはないな。公爵はカテリナが大好きだったぞ? 年明けに訪問したときも、カテリナ自慢を延々と聞かされ、オレを『元気が取り柄だな』と褒めてくださった」

 ブレインの感想にレナードが反論した。「褒めてないだろ……」というツッコミは、レナードには聞こえていない。

「殿下は公爵もこの件に噛んでいるとお考えですか?」

「間違いないだろう。わたしとカテリナの一方的な破談に対して、公爵は王家が約束を反故にしたと憤るのが普通ではないか? 実際にそうなのだから、公式に訴えてもよいはずだ。カテリナもそうだ。彼女は聡明な女性だ。あのような暴挙に出たことすらがおかしい。となれば、何か考えがあっての行動で、もしかすると公爵も知っている可能性がある。……だが、それをわたしに話すつもりはないのだろうな」

 それにしても、カテリナはノエルを殺害する必要があったのだろうか、スヴェンは考えざるを得ない。迷宮懲役刑を望むだけならば、軽犯罪をいくつか重ねる程度で済んだはずである。

「……彼女は何かを主張したかったように見えた」

 だが、彼女は口頭弁論中に突然叫び、法廷侮辱罪まで科せられてしまった。何があったのだろうか。さらにはノエルに気を付けろと忠告まで残している。カテリナは何を知っていて、ノエルは何を隠しているのだろうか。ホワイトウッドの次期王は、この件を貴族間の醜聞で終わらせるつもりはなかった。

「迷宮と大聖女とアーモニア家。そして王家……」

 王子のつぶやきを聞き、次代を築く三人の貴族令息たちは顔を見合わせた。

「何かわかったのか?」

 そう問うレナードをジッと見て、スヴェンは言った。

「カテリナはおそらく迷宮の最下層を目指すつもりだろう。だが、彼女の優秀さを最大限高く評価したとしても、たどり着けるとは到底思えない」

「同意だな。多少の魔術ていどじゃ無理だ。できるならとっくに誰かが成し遂げている」

「ではやはり、無駄死にだな」

 スヴェンは大きく息を吐いた。わざとらしいとブレインは思った。

「そうはさせるかよ。オレがいる。やはりちょっくらいって手伝ってくるぜ」

「死ぬぞ」

「死ぬもんかよ。オレを誰だと思ってやがる」

 笑うレナードに、ブレインがボソッと「脳筋」と言った。が、やはり都合よく聞こえていなかった。

 「そうか」スヴェンは残ったお茶を飲み干した。カップに隠れていたが、その口もとが笑んでいたのをブレインとグリンブルは見逃さなかった。

「カテリナの件はレナードに任せるとして、もう一人の当事者についてだが、気になる点はあるか?」

 王子は気持ちを切り替えて三人の友人を見た。同年齢であり、長い付き合いのあるメンバーだった。出会いには親同士の政略も絡んではいたのだろうが、彼らにしてみれば気兼ねない遊び友達から始まっている仲間である。もう一人、『美嵐』ユービー・ディアスという男爵の子息がいるが、彼がこの場にいないのには理由があった、

「『聖女』ノエルのそばにはユービーをおいていますが、表立っては何もないようです。あの事件以降も、裁判後も、心を乱す様子すらありません」

「肝が据わっているな!」

「そういうレベルではないだろう……」

 ブレインのため息が重い。

「たしかに、動じているような素振りもなかったな。はじめは単におとなしい、もしくは貴族社会に圧倒されていたのかと思っていたが、そうではないのか……?」

 スヴェンの顔が曇った。

「『聖女』の力の影響ではありませんか? 光の精霊は理智を、地の精霊は豊潤を表すといいます。あれほどの力の持ち主です。精神的にもお強いのでは」

「そう捉えることもできるだろうが、常に当たり障りのない応対があまりに不自然な気がするのだ。『聖女』以前の彼女はどうだったのだろうか」

「以前読んだ教会からの資料以上はわかりません。誰か、調査に向かわせるべきでしょうか?」

 ブレインの提案に、スヴェンは一人の顔を思い浮かべた。が、かぶりを振った。その男にはすでに別任務を与えており、王都にはいなかった。

「……身元調査は大教会も行っている。問題があれば『大聖女』認定はすまい。『大聖女』としての覚醒が心身に影響を及ぼしているとみるほうが正しいのだろう」

「やっぱり肝が据わっているんだな!」

「もうそれでいい……」

 ブレインの頭痛は酷い。

「ただ、強すぎる力というのも常人には理解できないものだ。民衆のように大聖女誕生を喜んでばかりもいられまい。彼女が学院にいる間は我々も注意しておこう」

「はい」

 ブレインは声にして、レナードとグリンブルはうなずきで応えた。


 その夜、カテリナはエンキドゥの酒場で迷宮探索者たちに向けて声を張り上げていた。

「すでに知られているとは思いますが、改めて名乗ります! 私はカテリナ! 『聖女』殺害未遂・国家反逆罪等で、今は大罪人の迷宮懲役囚です! 今日は、あなたがたに仕事を依頼したくこの場にいます! 明日朝9時、迷宮地上フロアにて同行者を募集します! 人数は20名! 報酬は一人金貨1枚! 依頼内容は私を安全に地下4階へ連れていき、『青水晶の欠片(ブルー・ピース)』を獲得、この店に戻ることです!」

 酒場がざわついた。

 すぐそばにいた、いかにも迷宮懲役囚が笑いながら質問した。

「つまり、お姫様のお守りをしろってことか?」

「ええ、私のお守りをしてもらいたい!」

 爆笑が起きる。

「その仕事を受けてもいいが、オレ自身3階までしか行ったことがない。それでもいいのか?」

 別の男がわざわざ挙手して言った。

「ピースの有無は問わないわ。むしろ便乗して取りにいくのもアリよ。なかには諦めていた人もいるでしょう。これはチャンスだと思えばいい。報酬がもらえてピースがとれる。今後も迷宮に挑むなら、このチャンスを棒に振るバカはいないわ」

「たしかに悪い話じゃない。だが、便乗するバカばかりでは4層クリアなどできないだろう?」

「だから数よ。20人もいればどうにかなるでしょ。もしピース持ちのベテランが参加してくださるなら、追加報酬を約束する。罠師(トラマス)の方も同様。どう? 数に任せた簡単なお仕事よ」

「金の保証はどうなるんだ? あんたが絶対に払うかどうか信用ならねぇ」

 「見なさい」と、カテリナはカバンから麻袋を出して、口を開いた。金貨が唸っていた。

「これを店のマスターに預ける! ゴールはこの店だから、私とともに戻ればマスターが報酬を保証してくれるわ。もちろん、私が死亡、または重傷でも報酬は出ない。そしてあなたたちが死んでも私は涙一つ零さない。たがいに仕事と割り切って、やるべきことをやってもらいたい」

 そこまで言い切られると、不遜な探索者たちも奇妙に気持ちがよくなってしまう。乗り気になった何人かが喝采を上げていた。

「他に質問は?」

「20人超えたらどうするんだ?」

「道中の評価で20名に報酬をだすわ。ついてくればとりあえずピースは手に入るのだから、まるきり損でもないはず。報酬がもらえないようなら、実力不足の自分を恨みなさい」

「途中の宝は?」

「いったんは私が預かる。そのあと、ここでオークションをするわ」

「くすねるやつはいるだろう?」

「好きにすればいいわ。獲ったほうも、獲られたほうもね。目的は一つでも、仲良しゴッコに興味はないの。だから言ったはず。仕事をしろ、と」

「気に入った」

 黒髪の若い男がニヤリと笑った。赤い眼が光っていた。

「もういいかしら? では、明日9時集合。ミーティングをするわ。準備は各自でしておくようにね。数で押すけど、他人を頼ろうなんて思わないで。もちろん、私は頼るわよ。では、ごきげんよう」

 金貨袋をマスターに預け、カテリナは酒場を出た。

 20歩ほど歩いたカテリナは、かなり深いため息をついた。

「あ~……、無事に終わったわぁ~……」

『お疲れ様。言ったでしょ、あーゆー人たちにはノリが大事だって』

「ええ、本当に。協力してくれた店とマスターの影響力もあったおかげね」

『うんうん。カティーだけだったら、ヘタするとお金を奪われて終わってたかも』

「やめて、想像したくない……」

『でも、思い切ったよね。迷宮攻略に人海戦術なんて』

「そうでもないわ。30年前も、第一陣は200名の精鋭を送ったのよ? そのときは迷宮を甘く見すぎてほぼ半数が亡くなったわ。その次は囚人100名を盾に、300人の兵士で侵攻したのだから」

『現状がこうなんだから、失敗したんだね』

「ええ。少数が地下9階まで行ったらしいけど、最下層の10階にはたどり着けなかった」

『最下層が10階ってなんでわかるの?』

「迷宮の主が断言したからよ。『地下10階で待つ』と」

『カティーの大叔父さん?』

「ええ、そう……」

 カテリナはか細く答えた。

 メモリは話題を変えるべく、明るく切り出した。

『あ、でも、いいわけ? お金を一度に使っちゃって。こんな使い方してたらすぐになくなっちゃうよ?』

「いいのよ。消費を削って細々やってても埒があかないわ。序盤ごときでつまずいていられない。即断即決、利用できるものを利用する。4階あたりまでは数でごまかせるんだから使っておかないとね」

『そうだね。数人でビクビク進むより、大人数でガーっと行っちゃったほうが気楽だもんね』

「ええ。うまくいけば、これ以降も同行者を募りやすくなるかもしれないわ。顔を覚えてもらうのはどの業界でも大事なことよ」

『カティーはすでに有名人だと思うけどね』

「探索者として、よ」

『わかってるって』

 メモリが笑うように答えると、カテリナも自然と顔がほころんだ。

 宿の灯りが、温かく感じられた。




おまけ

ホワイトウッド学院の四騎士(ゲーム『あなたに光の花束を』版)

『炎刃』レナード・ブレイズ(レッド)……必殺技:ブレイブ・バーニング・スラッシュ

『氷牙』ブレイン・グラス(ブルー)……必殺技:氷結フリージング・フィンガー~アイス・エンド。

『岩槍』グリンブル・ロックランド(グリーン)……必殺技:……!

『美嵐』ユービー・ディアス(イエロー)……必殺技:ウィンド・ステップ

おまけのおまけ

『王太子』スヴェン・ホワイトロウ……必殺技:ライトニング・コンビクション

『補佐官』ラックス・フラッグ……得意魔法:ロボ変化、バイオ変化


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