33 解放 8.28-8.29
新星歴1485年8月28日9時55分、カテリナ・パーティーは迷宮1階地上フロアに足を踏み入れた。
迷宮の周囲は迷宮街の兵士や王都から派遣された騎士によって囲まれ、彼女たち以外の探索者は立ち入りを禁止されていた。これは、迷宮が完全攻略された際に起こり得る崩落などの危険から他者を守るため、と報道されていたが、別の目的もあった。また、回収した『青水晶の護符』を無事に王都まで運ぶためにも、警備は決して大げさではなかった。
カテリナたち七人以外がいない1階大ホールは静かだった。レナードたちの鉄靴の音が普段よりも響いていた。
「外のやかましさと真逆だな」
レナードが言った。外では探索者たちの野次や怒号、見学者の激励、商人たちをはじめとする住人の不平の声で溢れている。迷宮街はいつまでも続くと思っていた者の、なんと多いことだと彼は肩をすくめた。
「永劫などないのに、なぜあると思うのか」
「楽だからですよ」意外にも答えたのはアキラだった。
「考えなくていいから。慣れた道を進むほうがわかりやすいし、安心していられる」
「それをぶっ壊したらどうなるか。面白そうだ」
レナードはニヤニヤと底意地の悪い顔をした。
「管理室に行きます。搬出作業を行い、時間が余れば昼まで待機です。その後、『青水晶の護符』を外して戻ります」
カテリナが予定を告げた。
「なぁ、余った時間は狩りに行ってもいいか?」
「禁止です。万が一もあって欲しくはありません」
レナードが戦闘経験を積みたいのは理解できる。迷宮の最期となれば、名残惜しさもあるだろう。だが、それだけに油断がないとも限らない。迷宮は死と隣り合わせなのだから。
「だよな。わかった」
「ありがとうございます」
カテリナは胸を撫で下ろし、魔術転送機室に向かった。
地下10階・最奥の管理室で搬出作業が始まった。管理室に入れるのはカテリナたちだけなので、ダレン・アーモニアの遺産を運び出すのは彼らの仕事だった。といっても、量はそれほどでもないので、30分もかからず荷物は1階に並べられた。それを用意しておいた木箱に納めていく。ダレンの遺体を含めたそれらは王国騎士団が王都へ運ぶ手はずとなっている。
その後は雑談をするか、寝て過ごした。この後の段取りはすでにできている。淡々とこなしていくだけだった。
「……そろそろ時間ね。ドゥルガー、『青水晶の護符』を外すわ」
メモリを介して、「従おう」との返事を受ける。
「必ず元の世界へ帰すわ。……レナード様、お願い致します」
カテリナのうながしを受け、レナードが『青水晶の護符』を壁から外し、布でくるんで木箱に入れた。コーネルが預かり、大事に抱え持つ。
「では、行きましょう」
迷宮に変化はなかった。彼女たちは魔術転送機で地上へと戻り、堂々と迷宮を出た。
見学者の拍手と歓声が湧き上がる。さんざん文句を並べていた探索者たちも、この期に及んであきらめたのか、酒瓶を片手に祝福を叫んでいた。
その群衆の前で、レナードが木箱を開けて『青水晶の護符』を掲げた。歓声がひときわ大きくなる。
「30年間続いた迷宮の歴史は今日で終わった! 終わらせたのはカテリナ・アーモニア! 建国より続く由緒ある偉大な公爵家の令嬢であり、不世出の魔術師! 皆、我らがリーダーを讃えて欲しい!」
レナードがアドリブのスピーチをブチ上げ、群衆はさらに湧いた。カテリナの名がこだまし、アーモニア公爵家を讃えた。
「ちょっ、レナード様!」
「これでおまえが攻略者筆頭であることが世間に知れた。ダレン卿の事件も、王家の謝罪も関係なく、アーモニア家は復興する」
「そうですが……」
場慣れしていないカテリナは困惑を隠せない。それを隣で支える者がいた。
「ダメだよ、主役は顔を上げなきゃ」
ガーベラ=メモリがカテリナの背中を叩き、背筋を伸ばさせた。
「カテ公に戻るんでしょ? これからは社交界でブイブイ言わせるんだから、これくらいヘーゼンと受けなきゃ!」
「カテ公はやめなさいっ。……まったく」
カテリナは表情を改め、右手を軽く上げた。それだけで観客は声を上げる。
『……スピーチしないの?』
『予定外よ! 適当なことをいうわけにもいかないでしょう!?』
『カティーってアドリブ弱いよね』
『うるさいっ』
カテリナが話す様子がないので、レナードは『青水晶の護符』をコーネルに渡し、「これより王都へ向けて凱旋する!」と宣言した。
カテリナはホッとして、迷宮前で待機していた馬車に乗り込んだ。
夕刻、王城に到着すると、彼女たちはそのまま国王の待つ謁見の間へと通された。
儀礼的な言葉と報奨金を賜り、『青水晶の護符』を返上して短い謁見は終わった。カテリナやアーモニア家に対する言葉はなく、個人的なものといえばブレイズ伯爵令息レナードへの称賛のみだった。レナードは苦々しく思ったが、おくびにも出さず謝辞を述べて退出した。
廊下に出た瞬間、レナードが大きく息を吸い込んだので、メモリたちが取り押さえた。
「怒らないでください、レナード様。あれでいいのです。私に陛下からのお言葉は必要ありません。荒立てないでください」
「…………………………わかった」
長い沈黙のあと、レナードはため込んだ息をゆっくりと吐き出した。
「こちらに。殿下がお待ちです」
衛士にうながされ、カテリナたちはスヴェン王子の執務室へと案内された。室内にはスヴェンだけではなく、『大聖女』ノエルも待っていた。
「よくやったな、カテリナ。だが、まだ最後の試練が待っている」
挨拶もないスヴェンに、カテリナも挨拶を省略した。
「私はそうは思っていませんわ。ドゥルガーは約束を違えません」
「なぜ言い切れる?」
スヴェンの眉が上がった。
「ドゥルガーは私に大切なものを与えてくれました。それだけで信じる根拠になります」
「またあなたは……」
王子は頭を振る。相も変わらず意味のわからない言葉を吐きだしてくる。
「カテリナ様、おかえりなさい」
ノエルが駆け寄った。その左腕には魔銀製の腕輪がはめられていた。
「体調はよさそうね、ノエル」
「はい、これをつけてから、ますます調子が上がっています。以前みたいな強い聖命力は出なくなっているので、そのうち『大聖女』の資格を剥奪されそうですけど」
苦笑いするノエルだが、剥奪を残念には思っていない。むしろ気が楽になるので大歓迎だった。これで面倒くさいしきたりや仕事、周囲の期待から解放されるのだから。剥奪されたら以前の田舎暮らしに戻ろうと決めていた。
「それはどうかしらね。腕輪を外せば力は出るのだし、解放はされないと思うわよ」
「そのとおりだ。ノエルは……わたしの婚約者でもあるのだからな」
スヴェンが少し顔を赤らめて割り込んだ。
『おやおや』
『おやおや』
「殿下、わたしは王宮には向きませんと何度も言っていますのに……」
ノエルは不満のようだった。
「だからこそ、と言うのは失礼だろうか」
「失礼でしょ」
メモリが素でツッコんでいた。一同の視線が彼女に突き刺さる。メモリはそっぽを向いた。
ノエルが微笑む。
「メモリさん、こうして直接話すのは初めてね。あなたのおかげでこうして元気になれたわ。ありがとう」
手を握ってくる乙女ゲーム『あなたに光の花束を』のヒロインに、メモリはビックリした。
「わ、わたしだけの力じゃないよ! 主にカティーのおかげだからね!」
「知ってるわ。そのカティーがもっとも頼りにしていたのがあなたよ。手紙に書いてあったわ」
「ノエル!?」
今度はカテリナが真っ赤になった。
「へーへーへー。そっかー、頼られちゃってたかー」
ニヤニヤするメモリをカテリナは無視した。何を言っても調子づかせるのがわかっているからだ。話を変えることにする。
「それより、ダレン様とはお会いした?」
「はい。ありがとうございます、祖父を連れてきてくださって」
「いいのよ。家族に宛てた手紙もあったから、あとで読んで」
「はい」ノエルは短く応えたまま、顔を上げなかった。
「ダレン卿のご遺体はわたしが責任をもって埋葬する。もちろん、名を刻んでだ」
スヴェンがノエルの肩に手を伸ばして言った。
「殿下いいのか? そんな約束しちまって」
さすがのレナードも驚き、口に出していた。ダレンは世間では大逆賊である。名を抹消されたとはいえ、知る者は少なくない。
「陛下にも許可は取ってある。ただし、王都からかなり離れた地方……ノエルのご両親のそばになるがな」
「殿下……」
ノエルが顔を上げた。
「むしろいいんじゃ?」アキラがメモリに耳打ちした。「いいと思うよ」とメモリも返す。
『王様って、けっきょくノエルにも公爵家にも謝罪してないでしょ? これってせめてもの償いのつもりなのかな』
『おそらくね。公式にはどうしたってできないし。それに何度も言うけど、ダレン様の行いは国を救いはしたけれど、王命に背いて宝玉を盗み、迷宮で多くの兵を損なったのよ。それは大罪には違いないの。とくに兵士の遺族には人殺しの大悪党なのよ。それを忘れてはいけないわ』
『そうなんだけど、う~ん……』
『あなたが怒ってくれただけで、充分に元はとれたわ。ありがとう』
『どーいたしまして? う~ん……』
スヴェンはカテリナのほうに向き直った。
「アーモニア公爵家に対しても、陛下からのお言葉を預かっている。秋の園遊会には顔を出すように、とのことだ。アーモニア公爵嬢、あなたもだ」
殿下は机に置いてあった封書をカテリナに手渡した。
「……謹んでお受け致します」
「これでアーモニア家も社交界に復帰か」
「自粛をしていただけで、出入り禁止だったわけではないのですが」
カテリナは不満げにレナードに応えた。
「そのおりは、カテリナ様にぜひダンスのパートナーをお願い致しますわ」
ノエルがにこやかに言った。
「違う意味にしか聞こえないわね。絶対にやらないわ」
嫌そうな顔をするカテリナを見て、メモリは「楽しそー」と目を輝かせた。
「メモリさんも参加なさって下さい。ドレスくらい、カテリナ様がご用意くださいますわ」
「ん、ありがとう」
メモリは一瞬言葉に詰まり、それからお礼を言った。それでノエルも思い出した。
「……ごめんなさい。メモリさんは、帰るんだよね」
「ん、んー。そうなんだよー。ごめんね、せっかく誘ってくれたのに」
「いえ、わたしが無神経だったの。でも、残念。これからもっと仲良くなれると思ったのに」
「だね。わたしの中では、ノエルはすごいヒロインなんだよ。今回は出番がなかったけど、場合によっては悪い魔神だって斃しちゃうくらい強い聖女なんだから!」
「そんな『場合』はないほうがいいなぁ」
「アハハ、そうだよね! これからは、わたしのかわりにカティーをかまってやってね」
「はい!」
「はい、じゃないでしょ。やっぱりあなたたち、似てるわ……」
「「最高の褒め言葉……?」」
「なんでハモるの、あなたたちは!」
賑やかな三人の間に、スヴェンが果敢にも割り込んだ。
「それなんだが、メモリ、と言ったな? そちらの少年とともに、しばらくここに残ってはもらえまいか?」
メモリとアキラはたがいに目くばせした。残留を望む理由がわかったからだ。
「異世界の技術は教えないよ。この世界には不要だと思ってるから」
アキラが答えた。
「なぜだ?」
「この世界のいいところを、オレたちの世界で壊したくない。失ってからじゃ遅いんだから」
「それほどの技術があるということだな。ますます手放したくないものだ」
スヴェンは笑みを浮かべた。
そういう性格であるのを知っているメモリは、アキラにかわって前に進み出た。
「白殿下、諦めて。わたしもアキラも帰るのは、むしろあなたのような人がいるからなんだよ」
「シロ……殿下?」
白殿下はポカーンとした。
「そーだよ? あなたはわたしの世界で、白殿下と呼ばれているの。信じられないなら、幼少エピソード語っちゃうよ? 『殿下』の威厳を損なうことになると思うけど」
メモリはジッとスヴェンの目を見つめた。心まで覗かれているようで、王子はゾッとした。
「カテリナ、こいつはなんなんだ?」
「ご存じのとおり、異世界人よ。ドゥルガーと同じ、異世界の人間。私たちと同一に考えないほうがいいわ。私も手懐けるのにどれほど苦労したことか。主人以外には簡単に噛みつきますわよ。それも、世界最強の剣を振るって」
「そうだぜ殿下、そいつを怒らせると怖いぞ。言ってなかったが、魔神の下僕を殺したのはそいつだ。人間なんてゴミにしか思ってないぞ」
レナードが調子に乗って尾ひれを付け足す。
「わかった、もういい! 危険なのは魔神だけで充分だ!」
スヴェンはあきらめて背を向けた。
「ごめんなさい、殿下。殿下がとてもスゴイ人なのは充分に知ってる。ノエルを大切にしてくれるのも知ってる。でもね、知ってはいけないこともあるんだよ。知識に罪はないから、気付かないうちに取り返しがつかなくなることもある。大丈夫、殿下は今のままで、立派に国を治めていけるよ」
「……!」
驚いてスヴェンは振り返った。そこにいたのは得体の知れない異世界人ではなく、自分を羨望の瞳で見る一人の少女だった。
「……カテリナが手を焼くわけだ。キミは面白いな」
「わ、殿下に褒められた!」
「褒めたのかしらね……」
カテリナには疑問だった。
その後も長く語らい、それは日付が変わるまで続いた。
翌、8月29日正午、『青水晶の護符』はかつての封印されていた地下室へ運ばれた。国王やスヴェン王子をはじめとする王国の権威たちはドゥルガーを信用しておらず、できるかぎりの対策を講じていた。部屋の中にはスヴェンとノエル、カテリナとメモリ、レナードとルナもいる。さらに魔術協会の術師や王国騎士団長を含めた十数名も控えていた。
「魔神を使役する魔術も術師数人に覚えさせた。怪しい動きがあれば即発動させる」
魔神送還を取り仕切るスヴェンが『青水晶の護符』に語りかけていた。ドゥルガーからの返事はない。あったとしても彼には聞こえない。
「メモリ、反応は?」
カテリナが王子の仲介に入った。さらに仲介としてメモリが代弁する。
「問題ない、とだけ。あらかじめ説明はしておいたから大丈夫だよ」
「では、はじめよう」
スヴェンが手を振り下ろした。
メモリが台座に置かれた『青水晶の護符』に近づいた。
「それじゃ、ドゥルガーさん、行くよ。この宝石を切るからね。出られたら、少し話をしよう。それからお別れね」
メモリは真聖刀『義留我座無音』を腰に当て、抜刀した。
一瞬で金属音が駆け抜け、魔銀のメダリオンは真っ二つになった。
全員に緊張が走る。成功か失敗か、青い宝玉から光の靄が立ち昇る。
『ああ、解放された……』
その声はこの場の全員に聞こえていた。封印が解け、思念会話が可能になったのだ。
「よかったね、ドゥルガーさん」
メモリは納刀し、笑顔を浮かべた。
『感謝する。これで帰れる』
「長い間ごめんなさい。元気でね」
問題なく終わると誰もが安堵する中、一人の術師が探求心を抑えられずに前へ飛び出した。
「ま、魔神様――!」
駆け寄る男の喉をメモリが刀の柄で突き、悶絶させて声を封じた。スヴェンは「連れて行け」と静かに騎士団長に伝え、すぐに実行された。連行される男を見て、これが昨夜、メモリの言いたかったことなのだと理解した。今の危険も省みない無謀な言動が止められていなかったなら、どのような結果をもたらしていたか、想像しただけで恐ろしかった。
「やかましくしてごめんなさい。最後にお礼を言わせて。あなたのおかげで、わたしはカティーに会えた。ありがとう」
『わたしは強制した。かつてのニンゲンと同じように。同じ苦痛を与えた』
「たしかにいきなり召喚はされたよ? でも、わたしにはぜんぜん苦痛じゃなかったよ」
『感謝を。「メモリ」』
「感謝を。ドゥルガーさん」
メモリが笑うと、ドゥルガーも笑うように揺らめいた。
そして、徐々に光は薄れ、消えた。
「……帰ったの?」
しばらく待ったのち、カテリナが訊いた。
「うん、帰ったよ。もう声は聞こえない。みなさん、お疲れさまでした! 『魔神』ドゥルガーは自分の世界へ帰りました! もう『魔神』はいません!」
メモリが宣言すると、騎士団は喝采した。術師たちは多少、惜しむような顔をしている。暴走した術師の気持ちを彼らは理解できた。
「さて、次はわたしたちの番だね」
メモリは微笑みを絶やさなかったが、さきほどとは少し違っていた。
国王へのドゥルガー送還成功の報告を済ませてすぐ、カテリナたちはスヴェンの執務室に集合した。
「カテリナ、メモリたちを還す魔術とはどんなものだ? すぐに消えるのか?」
レナードが訊いた。余裕もないのであれば、別れを済ませておかねばならない。
「わかりません。まずは試してみます」
「なんだそりゃ? 魔術協会ご推薦の送還魔法とかじゃないのか?」
「そのようなものはありませんよ。あるかもしれませんが、私は知りません。私が使うのは迷宮で手に入れた魔術です。おそらくあれが、ドゥルガーが与えてくれた送還の魔術です」
「あ、あれか! カシャーンとかいうので出てきたヤツ!」
レナードたちは思い出した。
「そうです。『【悪夢の終焉】』。被召喚者からしたら悪夢ですからね。それを終わらせる魔術といえば、元の世界への帰還です」
「それが使われるときはドゥルガーさんも封印という悪夢から解放されているってのもありそう」
「そうね。そちらの意味合いのほうが強いかもね」
メモリのひらめきに、カテリナは口もとだけで笑った。
「ともかく、テストしてみます。みなさん、私の後ろにいてください」
カテリナの忠告に従い、全員が彼女の前から退避した。
「【悪夢の終焉】」
発動命令を唱える。
が。
何も起きなかった。
カテリナ自身が驚き、何度かコマンドを唱える。だが、まったく反応を示さなかった。
「どういうことだ? コマンドが違うとかか?」
「いえ、カシャーン・カードは刻印魔術です。間違えるはずがありません。手順は正しく書き込まれています」
「じゃ、どうしてだよ?」
全員が原因を模索して話し合う中、当事者が「あ」と気付いた。
「……そういえば、これを覚えたときもテストしましたよね? そのときも失敗しましたが、原因は魔力不足でした。もしかすると今の私の魔力でも発動できないのではないかと……」
「えーーーーーーーっ!!!」
おまけ
8月28日深夜・王城内客室にて――
「……メモリ、何を書いているの?」
「手紙。けっきょく会えなかったから、カティー、渡しといてくれる?」
「いいけど、誰に?」
「ちょっと待って。もう少しで書き終わるから。……ちなみにこれ、カティーは読める?」
「……なにこれ? 記号? 文字なの? 複雑な点と線の集まりね」
「これが日本語。そういえば書いて見せたことなかったね。ちなみに、『義留我座無音』ってこう書くんだよ」
「なんだかぜんぜんわからないわ。不良少年たちが壁に描く意味不明な絵画みたい」
「この世界にも落書きヤンキーっているんだ……」




