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悪役令嬢は聖女なので迷宮懲役囚になりました  作者: 広科雲


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32 迷宮の終焉 8.22

 カテリナたちが迷宮を攻略してから一月(ひとつき)ほどが過ぎた。その間、彼女たちは迷宮街での暮らしを続けている。その目的は神界より召喚された『魔神』ドゥルガーとの対話であったが、表面上は地下10階を攻略中であると喧伝している。

 カテリナはドゥルガーを神界へ帰すことに賛成の立場でいる。この世界に留まられても困るのが第一だが、召喚されて使役されかけ殺されかけ封印されたという境遇はあまりにむごい。無論、全面的に信じているわけではない。封印解除とともに暴れないとは誰も保証できないのだ。封印解除は対策を練ったうえで行わなければならなかった。その準備も兼ねての時間稼ぎで迷宮街に戻って来たのだった。

 もし準備が必要ではなかったとしても、カテリナは即座に迷宮を消滅させるつもりはなかった。周囲に迷宮踏破を臭わせながら迷宮街の解体を進めていく方針でいた。迷宮街で暮らす住民たちの今後もあるからだ。一般市民もそうだが、さらに問題なのは力を持て余した探索者たちの行く末だった。下手をすれば野盗にでも落ちぶれかねない。彼らは有能な戦士であり術者なのだから、その力を活かす選択を用意すべきであった。

 そのうちの一人に、カテリナは声をかけた。

「エリン、魔術協会の二級試験を受けるのですって?」

「うん。カテリナたちが迷宮を踏破できそうなんて言うから、そろそろ潮時かなって。今までの成果を試してもみたいし。四級から二級だから厳しいだろうけど、研究員になるための最低条件だからね」

「あなたならきっと受かるわ」

 と、カテリナは大量の紙束を木箱ごと彼女の前に置いた。

「これは?」

 圧倒的な物量にエリンは頬をヒクつかせた。

「私が研究員試験のために書き溜めた資料よ」

「ん? カテリナって、三級だったよね? 二級を取ってからの話じゃない?」

「二級試験は一度受けているわ。合格もしたけれど、免状は辞退したの。私はその道には進めないとわかっていたから。でも、あなたと同じで試してみたかったのよ」

 カテリナが公爵令嬢である以上、将来は婿を迎えるか、他家へ嫁ぐか、どちらにしろ術師としての道はありえない。また、女性の過度な魔術能力は貴族社会では好まれない。『聖女』はともかく、『魔女』との風評が流れでもしたら、いつ吊し上げをくらうかわかったものではないからだ。

「……やっぱスゴイね、カテリナは。ありがとう、貸してもらうね。絶対、受かってみせるから!」

 笑顔を浮かべるエリンに、カテリナも自然と笑みを浮かべていた。

 他のアスタル・パーティーのメンバーも、それぞれの分岐点にいた。

 リーダーのアスタルと戦士のウォルターは、レナードからブレイズ騎士団にスカウトされている。アスタルは乗り気でいたが、ウォルターはそもそも兵士が嫌で探索者になったため、返事を保留している。

 術師のオーブルは、他の術師たち同様に王宮魔術師隊からの勧誘を受けている。実戦経験のある術師は戦力として貴重だった。当座としてはいいかもしれないと考えており、逆を言えば長く務めるつもりはなかった。

 罠師(トラマス)トゥランは、アスタル・パーティーが解散するときの去就ははじめから決めていた。故郷に帰り、狩りをして生きていく。探索者期間が長すぎたくらいだった。


 迷宮街刑務所に気まぐれで顔を出したカテリナは、久々にドッグバリーを見て驚いた。小ざっぱりとして生気に満ち、魔杖(ワンド)を持っている。

「……なにがあったの?」

 カテリナは、ガーベラ=メモリとともに眉根を寄せて彼に訊いた。

「人生の転機ってヤツだな。あんたのおかげだぜ。てやっ」

 ドッグバリーはワンドを掲げると、その先端に小さな火球を発生させ、花火のように散らせた。

「すごいじゃない。あなた、術師になったのね。真似事ではなくて」

 カテリナもメモリも素直に驚いた。

「あれから勉強と訓練を一日も欠かさなかったぜ。先生がいねぇから、独学だったけどよ」

「独学でそこまでできれば大したものよ。……でもあなた、水属性と言っていなかったかしら?」

「ああ、それだよ! なんかいつまで経ってもうまくいかねェからよぉ、改めて調べてもらったら、なんとオレ、火属性だったってオチだぜ。わかってからは、ここまでけっこう早かったぜ」

「本当に大したものだわ。さっさと足を洗って魔術協会員の資格を取りなさい。想像以上に伸びるかもしれないわよ」

「マジかよ!? あんたに言われたら信んじちまうぜ!」

 大喜びしたドッグバリーだが、興奮は長くなかった。

「……けど、今さらってのもあるわな。オレも若くはねぇ。迷宮が消えれば、迷宮懲役囚(オレたち)には鉱山労働が待ってる。それが終わるころには、もう魔法だなんだとはしゃいでもいられねぇ歳になってるだろうな」

 「そうね」カテリナは同情はしなかった。

「それが罪を償うということなのだから、しっかりやってきなさい。でも、ようやく掴んだその力は偉くなるためにだけ使うものではないわよ。あなたなりの使い方がきっとあるわ」

「フン、詭弁もいいとこだ。だが、まぁ、そう思うのもアリだな。力は力だ。無駄にはならねェし、したくねぇ」

「でも残念ね。もっと真面目に私と迷宮に付き合っていれば、今ごろ攻略者に近づいていたでしょうに」

「もったいねェことしたぜ」

 ドッグバリーは後悔の混じった舌打ちをしたが、すぐにニヤリとした。

 その顔を見て、彼は彼なりの人生を歩んでいるとわかり、カテリナもフッと笑った。

「ここへはもう来ないわ。元気でやりなさい」

「おうっ。あんたには世話になった。貴族にしとくにはもったいねぇ女だったぜ」

「『囚人にしとくのが勿体ない』よ」

 カテリナは刑務所を出た。

「囚人番号37563!」

 もはや当人すら忘れかけていた懐かしい呼びかけを受け、カテリナは振り返った。思ったとおり、看守のタリアがいた。

「あら、看守さん。お久しぶり」

「ぜんぜん戻ってこないな、37563。他の囚人はときおりおまえを迷宮で見かけると言っていたが、わたしは刑務所(ここ)を離れられないからな」

 その声は憤りや嫌味ではなく、拗ねているようにカテリナには聞こえた。

「戻る理由がないもの。不便で汚くて、うるさくて退屈で。私は暇ではないの」

 「そうだな……」タリアはしばしうつむき、顔を上げた。

「壮健ならよし。今後も迷宮懲役囚として、迷宮攻略に励め」

「わかりました、看守殿」

 カテリナは微笑む一歩前の表情でタリアに応えた。

 握手をするでもなく、手を振るでもなく、二人は背を向けて別れた。

 ガーベラ=メモリはそれを見比べ、タリアの元へ走った。

「カティーはあなたの服、まだ大切に持ってるからね。ありがとう」

 一方的に耳打ちして、メモリは走ってカテリナのところへ戻った。

「……メモリ、余計なことは言ってないわよね?」

「言ってないよ。言うわけないじゃん」

 下手な口笛を吹くメモリに、カテリナの目は厳しい。彼女がタリアに近づいた時点で、このポンコツ娘が余計なことしか言わないのはわかりきっているのだ。

 だからカテリナは振り返らなかった。おそらくタリアは振り返っているだろうと思いつつも、足早に去ることにしたのだった。


 カテリナはドゥルガーと話すのが面白かった。神界という未知の世界を知る機会はもうないだろうと、様々な話を聞きたがった。神という人々、生活、思想、能力、歴史、さらに別の世界の話題、なんであれ、カテリナは知識を蓄えるのに貪欲だった。

 その合間に、ドゥルガーの今後についての話もしている。彼?なきあとの迷宮がどうなるかも、その一部だった。

「迷宮は次の再構築までは残る。その次は、ない」

「次の分はすでに準備を終えているのね。その後はどのようになるのかしら」

「地面に大穴があく」

「痕跡も残さず消滅するのね」

 カテリナは感慨深くつぶやいた。迷宮とはたった三ヶ月ほどのつきあいではあるが、おそらく人生で最も強く生きた時代となるだろう。忘れることができない日々だった。

 ドゥルガーがいなくなった後も、迷宮を存続させる方法はある。ドゥルガーに代わってノエルが魔力を供給すればよいのだ。現在のノエルが『青水晶の護符《ブルー・クリスタル・アミュレット》』の代わりができるのなら、同じことが迷宮でもできる。それと気付いたときに、一同が胸を高鳴らせたのは事実だった。

 祖父の造ったものを残すか、とスヴェンに問われたノエルは首を振った。

「迷宮の理念はわかります。ですが、『聖女』として死に誘うものを認めるわけにはいきません。『魔神』が解放されるのなら、迷宮もまた役目を終えるべきです。それに――」

 ノエルは一息をいれた。カテリナたちは言葉の続きを待った。

「それに、毎日迷宮の奥まで行くのが面倒よ。迷宮に住めと言われたら、絶対イヤだし」

 半ば怒りながら不平を述べるノエルに、一同は崩れた。元気になったノエルの言動は野性味あふれた庶民そのもので、学院入学当初の彼女に、カテリナが厳しい指導をしていた理由がレナードにはよくわかった。

 そんな一幕もあって、迷宮の終焉は間違いなくやってくる。カテリナが惜しむのは、迷宮ではなく、そこでの思い出がいつしか色あせてしまうことだった。とくに、彼女との出会いは鮮烈であったぶん、消えてしまうのが怖かった。

 メモリがドゥルガーにずっと気になっていた質問をした。

「あのカシャーンってさ、考えたのはダレンさん? それともドゥルガーさん?」

 カシャーンのシステム――いわゆるガチャ――は、この世界の住人の発想ではないとメモリはずっと思っていた。だからといって、神様のアイデアとも考えにくい。

「ニンゲンだ」

「あ、そうなんだ。やっぱり……」

 メモリは得心のいった顔で深く頷いた。

「でもあれは迷宮には不利な要素よね。宝箱といい、魔術転送機といい、なぜ攻略者を救済するような要素を組み入れたのかしら。私たちも、それらがなければここまで来れなかったわ」

 カテリナはその証明の一つ、ガーベラを見た。メモリの体(クレイマン)がなければ、絶対に攻略不可能だっただろう。それに――

「そうだわ! あの鍵もよ! あの鍵がなければ、それこそここまで来れなかった。でもあの鍵の存在を誰も知らなかったわ」

 カテリナはそれに気付き、壁に納まる『青水晶の護符《ブルー・クリスタル・アミュレット》』に視線を移す。宝玉は光を受けて反射した。

「鍵と特殊魔術は『血』か『波長』の合うモノにのみ与えられる」

「あなたが操作していたということ?」

「わたしに迷宮のルールは創れない。利用はできた。鍵は、わたしの願いでもあった」

「どういうこと?」

「わたしの声が聴こえないモノがここへやってくれば、わたしはまた『青水晶の護符(石)』としてどこかへ封じられ、二度と出られなくなっていた可能性が高い」

「なるほど……」

 カテリナは納得した。そのとなりで、メモリの質問が続く。

「特殊魔術って、【粘土魔造生物作成(クレイマン)】のこと?」

「この地に辿り着いた初めての『波長』の合うモノが、器を持たずにいては不都合だ」

「え、それじゃわたしのために、カシャーンの操作をしたの?」

「器がない不安定さも理解できた」

「そうなんだ。ありがとう! おかげですごく助かったし、楽しかったよ!」

 メモリは感謝を込めて笑顔で頭を下げた。

 このときだった。カテリナがドゥルガーを信じてもいいと確信したのは。一方で、その先を想い、哀しくなった。

 カテリナは気持ちをリセットするように頭を振った。

「……メモリ、そろそろ帰る?」

「そーだね。みんなエンキドゥで待ってるころだし」

「自分の世界によ」

 カテリナの目が潤んでいるのをメモリは見た。

「……迷宮が消えるなら、いい節目かな」

 メモリは気付いていないふりをして、そう答えた。

「そう、わかった。それじゃ、その日にしましょう」

「うん」

 カテリナは目を逸らすように立ち上がり、魔術転送機のほうへと歩き出した。メモリがゆっくりと追う。

 二人は沈黙と距離を保ったまま、エンキドゥの酒場に入った。レナードとコーネル、ルナとアキラ、クロムが揃っていた。彼らは時間があれば迷宮に籠り、実戦経験を積んでいた。

 カテリナは仲間たちを見て、それから酒場の全員に聞こえるように宣言した。

「皆様、お聞きください。私たちは、来週8月28日に地下10階を完全攻略します! 迷宮は、そのとき終わるでしょう!」

 静まり返る店内。これが彼女以外の言葉であれば、多くのヤジとケンカ腰の言葉が飛び交っていただろう。しかし、彼らは知っている。彼女たちの力を。勇気を。信念を。

 酒場は盛り上がらなかった。冷めきっていた。祭りの終わりを宣告されたからだ。

「なぁ、もう少し待てねェのか!? 別に急ぐ必要はねェはずだろ!?」

 若い戦士が叫んだ。まだ迷宮街に来たばかりの新参者だった。これから稼ぐというときに、終わりと言われても納得できなかった。

「これは決定よ。絶対にこの日で終わらせる」

「ふざけんな! ならおまえを止めてやる!」

 戦士は剣を抜いて立ち上がった。顔が赤いのは興奮のためだけではなく、酒のせいもあった。

 彼の仲間たちも賛同したのか、カテリナを睨みつけて武器を取った。

 レナードたちは彼女の援軍に走ったが、その他の探索者たちは止めなかった。彼らもまた、祭りの終わりを認めたくはなかったからだ。そしてそれ以上に、カテリナたちを知っていたから。

「やかましい!」

 迫る暴漢たちを、ガーベラは一閃して叩きのめした。『義留我座無音(ギルガザムネ)』は鞘から抜かれてはいない。その程度の相手だった。

「……辛いのは、わたしもなんだよ……。ギャアギャア騒ぐなァ!」

 ガーベラは仮面を捨て、メモリの素顔で叫んだ。迷宮街で素顔を晒したのは、これが初めてであった。

「あれ、ゴーレムじゃなかったのか……!」

 そんな声が各所で起きた。

「~~~っ!!!」

 メモリは酒場中を睨みつけ、感情の行き場を失くして飛び出していった。

「追います」

 アキラがカテリナに告げて出ていった。カテリナは追わなかった。

 メモリは走ったが、粘土魔造生物(クレイマン)という体を持ってしてもカテリナから100メートル以上は離れられなかった。せいぜい裏道の空き地に駆け込むので精いっぱいだった。

 追いついたアキラが見たのは、メモリが咆哮していた姿だった。

「うわあぁぁぁぁぁっ!!」

「九重っ」

 背後から呼びかけるアキラを、メモリは無視した。さらに呼びかけてくる彼を突き飛ばし、義留我座無音(ギルガザムネ)を突きつけた。それでも彼女は叫んでいた。

 アキラはあきらめて、距離を取って見守ることにした。

「はぁ~……」

 疲れたのか、飽きたのか、満足したのか、メモリは最後に深い息を吐き、脱力した。

「気は済んだか?」

 近づいてもよさそうだと、アキラは距離を縮めた。

「……武藤君、一ついいことを教えてあげよう。これは、今後のキミに役に立つ知識だよ」

 振り返ったメモリは真面目な顔で語りはじめた。

「『キレてる女には近づかない』。覚えておくように。マンガみたいに優しく接しようとか、なぐさめようとか、なんかいいセリフを吐こうなんて思わないように。本物はチョロくない。むしろウザイとしか思わない。よけいキレる。それくらいわがままなんだよ。これがわからないうちは、いい男にはなれないからね」

「お、おう……」

 それは九重に対してだけではないのか、とツッコミたかったが、それこそ嫌われるだろうとアキラは飲み込んだ。

「じゃ、戻ろっか。とりあえず、追っかけてくれたのは感謝しとく。ありがと」

 スッキリした顔で歩き出すメモリに、アキラは戸惑いながらも訊いた。

「九重は、帰りたくないのか?」

「……キミは?」

「オレは帰りたい。ここじゃゲームができないしな。それにこの先の展望もない。自慢じゃないが体力系の仕事には向いてないんだ。できることがない」

「異世界知識ムーブをかましてみたら?」

「マヨネーズや石鹸の作り方すら知らないんだぜ? 料理だってしたことない」

「アハハ、そりゃダメだ」

 メモリは振り返って笑った。

「だから帰るよ。推しキャラ・ガチャも近いし。新アンジェは絶対欲しいっ。600連貯めてるんだ」

 鼻息荒いアキラに、メモリは和んだ。

「わたしも帰るよ。もしアキラみたいに自分の体があったら迷ったかもだけど、この霊体(からだ)じゃ、いつまでもカティーに張り付いたままになっちゃうから。カティーと一生このままってわけにはいかないよ」

「他に理由はないのか? 家族とか、友達とか、趣味とか」

「あるけど、大した問題でもないかな。大切なのは……」

 メモリは言葉を続けず、歩みを戻した。

 アキラはそれ以上訊かずに、ついていった。

 エンキドゥの酒場に戻ると、なぜか大乱闘が起きていた。行き場を失くした怒りや不満が暴発したようで、迷宮の終焉を待たず酒場が終焉を迎えそうな有様だった。

「見ろ、この世界はもうダメだ」

 アキラはなぜか楽しそうだった。

「レッドはともかく、コーネルさんまで参加してる……。無礼講?」

 見渡すと、奥の席でカテリナだけが我関せずの顔で食事をしていた。その美しい作法にメモリは目を輝かせた。

「カティー、戦場に咲く一輪の花みたいだね!」

「ンふっ」

 カテリナは喉に詰まらせかけ、小さく咳き込んだ。

「なにをいきなり気持ちの悪いことを言うの。うっぷんが溜まっているのなら、あなたも参加して来なさい」

「わたしはそんな野蛮じゃありませーん」

 澄まして言うメモリに、カテリナの目は冷ややかだった。ふぅ、と息を吐く。

「……迷宮が消えても、いてもいいのよ。生涯はお断りだけど」

「んーん、帰るよ。したいこと、たくさんあるし」

「そう。あなたにはあなたの道があるものね」

「カティーはあるの? この先のプラン」

「そうね。まずはお父様とお母様にお詫びをするわ。私のわがままを容認して下さって感謝しているの。だから今後は、公爵家のために生きるわ」

「カテ公復活だね! それから? 婿探し? 嫁ぎ先探し?」

「それは考えてないわ。前科持ちだし、相手が見つかるとも思えない。どのみちお父様が決めるでしょう。でももし自分で決められるのなら――」

「レッド?」

「ブふっ!」

 今度は激しく咳き込んだ。

「苦楽を共にしてフラグを立ててきたじゃん。生で推しカップル誕生が見られたら、わたし悦んじゃうよ!」

「ないわ! ありえません!」

「え、じゃ、白殿下……? えー……」

「なんでそんなに嫌そうな顔なのよ? 嫌いなの?」

「キライじゃないけど、カティーがもったいないよ。能力が被ってると面白くないし。でも、カティーが望むならしょうがないから認めてあげてもいいけど……」

「なぜあなたの許可が必要なの。それに殿下も関係ないわ。私が選ぶとしたら、私自身が公爵を継ぎたいのよ」

「女公爵(じょこうしゃく)? いいね、カティーらしい」

「ただ単に、結婚を考えるのが面倒というのもあるけれどね。お父様が呆れて、養子を迎えるというのならそれもよし、よ。平民落ちして魔術協会にでも勤めるわ」

「囚人落ちよりはマシだね」

「でしょう?」

 二人は笑った。

「でもその前に、片付けることが多いわ。帰るまでは働いてもらうわよ」

「もちろんだぜ、『相棒』」

「懐かしいことを言い出したわね、『もう一人の私』」

 二人の笑みには薄い陰りがあった。けれどどちらも口にはしない。まだもうしばらく、たゆたう時間の中に浸かっていたかった。


 そして、新星歴1485年8月28日、迷宮は終焉を迎える――




おまけ

「ふぅ、帰る前にどうにかブレイズ家宝剣のコピーが完成した。……メモリ、ちょっと振ってみる?」

「やるやる! フムフム、何気に本物を持つのは初めて。こんなカンジなんだ」

「能力は同じだけど、特殊コマンドを唱えるとギミックが発動するようにした」

「え、いいの、そんなことして?」

「大丈夫、教えないから。間違っても伯爵家で使われるような言葉じゃないし」

「ちなみに、どんなの?」

「『レーザー・ブレード』と言いながら刃先を撫でるんだよ」

「それってさぁ! 【レーザー・ブレード】。……え。光るのはともかく、違うアキラの歌が流れてるよ? なんでサファリパーク!?」

「柄頭を引き出すと音楽プレイヤーが出てくるから選曲もリピートもできるよ。そして――』

「メモリ【ダイナミック】!」

 ドドォォォン!!!

「……地面に大穴あいたんですけど。30メートルはあるんですけど」

「面白いだろ? 誰も知らない魔剣の秘密ってなんかいいよな!」

「まぁ、絶対出ない言葉だろうしね、レーザーなんて。それにしても、ここまで創れるならこっちの世界でも生活できるんじゃない?」

「だからオレはゲームがしたいんだ!」

騒ぎながら遠ざかる二人。

左手が黒い人「ニヤリ」


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