20 暗中模索 5.24
地と水の精霊加護を持つ『守護者』ルナ・ヒルマンがカテリナ・パーティーに加わった初日の朝は、エンキドゥの酒場からはじまる。改めて自己紹介を行い、朝食のテーブルを囲んだ。
アキラは新規メンバーを一見して、首をかしげた。
「なんか、きのうより二回りくらい小さくない……?」
少年は無遠慮にルナを見回す。その疑問は実は全員が抱いており、甲冑を着ていないとはいえ、明らかにサイズが違っていた。長身のレナードより高かった上背が、アキラと同じくらいになっている。
「あれは魔術で体を補っていたからだ。若い女だと舐められるからと、クレストが考えてくれた。おかげで迷宮でも助かることが多かった」
アキラに対する解答なので、ルナの言葉遣いは雑だった。カテリナやレナード、コーネルに対しては礼儀正しく返答する。クロムとはまだ会話をしていないが、おそらく扱いはアキラと同じであろうことは誰もが予測できた。
「なんで甲冑なんだ? 重くて不便だろう?」
レナードが続けて訊いた。
「わたしが目標とするのは『守護騎士』です。『守護騎士』は常に甲冑を着て任務にあたりますから」
「気持ちは常に『守護騎士』か。その熱意には感心する」
「ありがとうございます。ですが実は、あの甲冑も魔術で造った物でして、外見は鎧に見えますが別物です。これは同じ地属性を得意とするカテリナ様にも有効です」
「もしかして、体を覆うように魔術をかけているの?」
「そうです。魔造物を纏うといえば伝わるでしょうか?」
カテリナは背後に立つサイサリスをチラリと見た。
『内蔵合体!? ゴーディアン? バイカンフー? もしかして、飛影ですかァ!』
『お黙りなさい』
「だから昨夜、兜が消えたりしたのね。魔造物の一部を変形させて」
「ご明察です」
「残念ながら私の【クレイマン】は自律行動型なので、その目的には使い辛いわね」
「よろしければ、お教えいたしますよ。地下8階は術者が狙い撃ちされることがありますので、覚えて損はありません」
「魔物がそこまで判断して襲ってくるの?」
「すべてではありません。特定の魔物だけです。それがもっとも厄介な相手です」
「大悪魔?」
「あれは無差別です。敵も味方もない殺戮狂なので、視界に入ったそばから殺しにきます」
「では、なにかしら?」
「クラウンです」
「クラウン? 戦ったの?」
カテリナは地下7階への階段室を思い出した。得体の知れないまま斃せたが、再戦は望みたくなかった。
「過去に三度戦い、斃したのは二回。一度目は逃げました」
「凄いわね。あれと普通に戦って勝ったなんて」
「……その口ぶりですと、カテリナ様もクラウンとの戦闘経験があるのですか?」
「ええ、一度だけ」
カテリナは階段室での遭遇戦について話した。
「そうですか。運がよかったですね。クラウンは基本、魔力の高い者を狙います。それも隙をついて首を狩りにくるのです。三度ともに、まずわたしが狙われました。強化魔術のおかげで首がつながっています」
「乱戦中で狙われたら対処が難しいわね」
「はい。ですから防備は固めておくべきかと」
「そうね。オリジナルの魔術にちょうどいいのがあるので、それをかけておくわ」
「必要でしたらいつでもわたしの魔術もご活用ください」
「研究はしたいわ。夜にでも教えてくださるかしら」
「喜んで」
ルナは一礼して微笑んだ。
ミーティングは地下8階における基本戦術に進んでいく。まずはクレストたちが行っていた手順をルナが説明した。彼女が魔術転送室を出る前に【聖盾】を張って敵の進入路を狭め、敵がいるようなら戦士たちが守備優先で立ちふさがる。そして後方から弓や魔術で撃退する。これを繰り返して進んでいく。
「あの盾魔法、持続時間はそんなに長いのか?」
レナードが質問した。魔法の盾で壁をこしらえて進む以上、途中で壊れては大変である。
「放置状態であれば六時間は持ちます。過度の攻撃をくらうと破壊されますが」
「軽い攻撃でも数をくらえば壊れるのか?」
「一定以下のダメージはまったく意味を成しません。8階であの盾を壊したのは大悪魔とクラウンだけです。稀に大型の竜獣が尾でヒビを入れますが、決壊する前に斃しています」
「それは凄いな。まさに鉄壁だ」
レナードの感心に、ルナは律義に「ありがとうございます」と感謝を述べた。
カテリナは一つ引っかかった。『8階で』というワードだ。
「昨夜から気になっていたのだけれど、9階には何がいるの?」
「……!」
ルナは一瞬で顔色を変えた。
「地下8階を狩場にするほどのクレスト・パーティーが恐れるモノ。そしてあなたの昨夜の勝負。関係あるわよね?」
「……はい」一拍おき、ルナは答えた。
「迷宮を攻略するうえで、当然ながら地下9階は避けられません。その地下9階にいるモノは、わたしの【聖盾】と同等以上の魔術を使います」
レナードたちは驚いたが、カテリナは予測の範囲にあった。
「だからあなたの盾を破れるかどうか確かめたかったのね。あれを破れなければ、その魔物には絶対に勝てないから。ひいては、あなたの夢である『守護騎士』も叶わないと」
「はい、そうです」
「レナード様はあなたの盾を破ったけれど、太刀打ちできそうかしら?
「……」ルナは一度顔を伏せたが、意を決して顔を上げた。
「おそらくは無理です」
「なんだと?」
レナードは納得がいかなかった。
「私も同意見です」
「カテリナ!?」
「考えるまでもないでしょう? レナード様は盾を破るのに一分以上かかっているのですよ? 敵はそのあいだ、待ってはくれません。手間取ればそれだけこちらが不利になります。ましてや、本当にレナード様が破れるかどうもわからないのですから」
「敵の攻撃を喰らわなきゃいいだろ」『当たらなければどうということはない』
脳筋二人がカテリナの鼓膜と脳を焼く。
「それは敵を甘く見すぎです。それに、広範囲の攻撃魔術を使われたら誰かは被弾しますよ」
「『そこはルナの盾がある」』
ついに二人はハモリだした。カテリナは頭痛がする。
「とても希望にあふれたご提案ですね」
ルナはそう返すしかなかった。
「……もういいわ。この先は8階を攻略してからにしましょう」
「そ、そうですね。まず、目の前のことを優先すべきです」
カテリナとルナはわかりあった。脳筋に流されてはダメだと。
「オレからも一つ確認したいことがある」
それまで黙って聞いていたクロムが軽く手を上げた。
ルナが「なにか?」と硬い顔を向けた。あからさまにカテリナたち相手とは違う態度だった。
「地下8階の構造を聞くに、魔物はフロアを好き勝手に動いているようだが、トラップはないのか?」
「そのとおり、8階にトラップはない。したがって罠師も戦闘要員として参加していた」
「わかった」
クロムは簡潔に応え、また沈黙した。
「では、今後の短期的目標だけれど」間を見てカテリナが切り出した。
「まずは地下9階への階段に行きつくこと。それと、できるだけ魔術武具を集めることを考えているわ」
「魔術武具集め、ですか?」
ルナはピクリとした。クレストの方針と同じであり、その結末が今である。繰り返しを怖れていた。
「ルナには悪いけれど、勝ち目のない戦いはしない主義なの。でも、一つだけ約束するわ。一年以内には迷宮を攻略すると。それ以上は、どのみち時間がないと思うから」
「それはどういうことでしょうか?」
「ごめんなさい。今は話せないわ。けれど、地下9階を超えたら必ず説明する。【誓約】してもいいわ」
カテリナの真摯な目を受け、ルナは首を振った。
「カテリナ様を信じます」
「ありがとう」
カテリナは安堵した。
「では、その件は解決としまして、もう一点の地下9階への階段室ですが、これは固定です」
「そうなの?」
「はい。西壁の中間、N16E2です。9階の構造上、固定のようです」
「それって井戸のそばではないの?」
「そうです。井戸と階段が同じ部屋にあります。付け加えますと、9階も8階と同じような部屋になっていまして、魔術転送機もそこにあります」
「9階の構造に作意を感じるわね」
カテリナはまた顔をしかめた。
「わかりやすくていいじゃないか。さっそく8階へ行くとしよう」
レナードは気楽に立ち上がる。彼が立てばアキラもコーネルも座ってはいられない。
「少し待ってください。別の用件がありますので」
カテリナは立ち上がり、あるテーブルに近づいた。「おはようございます」とニコやかに挨拶をする。そこにいたのはアスタルのパーティーである。
「おはよう、カテリナ」
アスタルたちから挨拶が返る。その中で、カテリナは女性術師に目を向けた。
「エリン、これを」
「え、わたし?」
エリンは差し出された紙を受けとった。
「約束した【風炎刃】の基本構造と構築理論よ」
そのメモに発動手順は書かれていなかった。カテリナは敢えて記さなかったのだ。その意味をエリンはすぐにわかった。
「ありがとう。発動手順は自力で完成させる。それが魔術研究だもんね」
エリンはカテリナの意図を掴み、嬉しくなった。それを理解され、カテリナも嬉しい。
「では」
「いってらっしゃい、気を付けてね!」
「あなたも」
カテリナはレナードたちの元へ戻った。
「アキラにも【解魔術】を教える予定だったわね。ごめんなさい、疲れて忘れていたわ」
「いいよ。オレも疲れてたし。余裕のあるときでいい」
「余裕なんてないのよ。作るの」
「そうだな。ナルハヤで頼む」
「あなたも変な言葉を使うわね」
カテリナはため息をついた。
「あなたも?」
「こっちの話よ。まずは今日の課題を片付けるわよ」
カテリナはきびすを返した。迷宮8階への一歩である。
「さて、この扉の向こうには何がいるか」
レナードは地下8階の魔術転送機室でワクワクしていた。
「竜獣が二体いるわね」
カテリナが扉を凝視したまま言った。
「なんでわかる!?」
驚く一同に、「これくらいなら透視ができるの」と彼女は答えた。もちろん嘘で、メモリに一時幽体離脱してもらい、扉のむこうを確認してもらったのである。さすがにもう、扉を開けていきなり大悪魔との遭遇は願い下げだった。
「先手が打てるのは助かります。さすがカテリナ様です」
ルナが鉄兜の奥でくぐもった声を弾ませた。彼女は迷宮に着くなり魔術で甲冑型魔造物を作って身にまとった。探索者マドロックの姿である。
それを見ていたメモリが大興奮してしまい、カテリナはげんなりした。
『聖衣だ! 神甲冑だ! 鎧擬亜だ! 蒸着プロセスをもう一度!』
「大きさはどちらも3メートルほどよ。尻尾を含めてね」
「ご存じかと思いますが、竜獣はドラゴンに近い種ですが、ドラゴンではありません。炎のブレスを吐きますが、知能が低く魔術は使えず、噛みつくか尾による攻撃が主になります。防御面はドラゴンほどではありませんが、鱗は厚く、硬いですね」
「解説ありがとな。まぁ、叩き斬ればいいだろ」
レナードがルナの説明を無駄にする発言をした。すでに誰もツッコまない。
「カテリナ様、扉の向こうに別の壁は近くにありますか?」
「1ブロック先、左面に一枚あるわ。正面と右側には見えないわね」
「わかりました。では、初手は正面に盾を置きます。そうすれば、竜獣の大きさからして右からしか攻撃はできませんから」
「そこへオレが躍り出ればいいんだな」
「違います」レナードの血気をカテリナが諫め、後続の動きを伝える。
「先陣は常にサイサリスにやらせます。それからアキラ、その盾をうまく固定して、侵入を阻みなさい。安全な壁を構築したらレナード様たちの出番です」
「はい、それがよろしいかと」
ルナもカテリナの案に賛同した。レナードは「ぐぬぬ」と呻いたが、反発はしなかった。
作戦は初期段階からうまくいかなかった。盾を張り、前衛のレナードたちが参戦してすぐに計画倒れとなった。敵にとって狭い戦場は、味方にとっても自由を保証しない。前衛として戦うレナードとサイサリスは、クレストやルナと違い守備的な前衛活動は不向きで、とにかく動きまくるのである。後衛のカテリナやクロムは攻撃をしたいが狙いがつけ辛く、効果的な援護ができない。そのため結局は前衛二人の武力頼りとなり、竜獣の頑強さと生命力に長期戦となった。また、サイサリスはともかく、レナードは体力バカではあるが人間の域を越えない。一時コーネルとアキラに盾に徹してもらって一呼吸を入れねばならなかった。このとき初めてカテリナの初撃が当たったくらいだった。
さらにルナがもどかしく思うのは、純粋な火力不足だった。例え前衛が攻撃的で後衛が活躍できないにしても、前衛の火力が充分以上であれば帳消しにもできたであろう。だが、実際は竜獣の装甲にレナードは苦戦し、サイサリスに至っては掠り傷をつけるので精一杯であった。
「前衛用の魔術武具の収集が急務ですね。竜獣程度に手間取っては先に進めません」
「そうね。一撃必殺とは言わないけれど、確実なダメージを与えられないと」
「当面は魔術で補うしかないでしょう」
「私の戦い方も考える必要がありそうね」
「はい。ですが、防御面ではほぼ完璧です。わたしとカテリナ様の加護がそちらに傾倒しているので当然ではあるのですが」
「クレスト・パーティーの前衛はいい魔術武器を持っていたの?」
「全員が魔術武器でした。特にクレストの持っていた風刃剣は等級5の逸品でした。魔力をそそぐことで【風刃】を使うことができましたから、近接を得意とする術師のようなものです」
「それなら後背への被害の心配もなく魔術が使えるわね。しかも範囲に作用する」
「大悪魔すら唐突な近接魔術には対応できませんでしたので、出鼻をくじけました。その隙に後衛が本命を叩き込むのが作戦の一つでもありました。ですが……」
「何か欠点でも?」
「魔力量ですね。クレストは魔術素養が高くありませんでした。魔剣の内包魔術は使用魔力量に応じた強さになるので、地下8階で効果的に使うとなると、日に三回が限度でした」
「レナード様でも同じ結果になりそうだわ」
「このパーティーの場合、コーネル様にお任せするのが適任でしょうね。いくつか魔術をお使いになられるのでしょう?」
「ええ。魔術素養もレナード様よりは格段にいいわ」
「では、あのアキラという者の魔術素養はどうなのでしょう?」
ルナの目が不格好に逃げ回るアキラを追った。
「測ったことはないわ。ただ、【工作】を習得しても使えなかったことから高くはないわね。そもそも魔術とは縁遠い生活をしていたので、基礎からの鍛錬が必要よ」
「つまり役には立たないと……」
「言ってしまえばね。でもいずれ、彼は必要になるの。それだけは確かよ」
「そうですか。では、今夜より特訓ですね」
ルナは兜の奥で不敵に笑った。
どうにか二体の竜獣を斃し核石を回収しているとき、クロムが数ブロック先の敵を感知した。
「いったん仕切り直しよ」
カテリナの指示に、パーティーは魔術転送機室へと戻った。
「なにがやり難いって、あのトカゲども、炎属性だからかオレの加護を相殺しやがる」
「だから攻撃が通りづらかったのですね」
「そうだ。まさかいきなり奥義を使うわけにもいかなかったしな」
『わたしの場合は単にパワー不足だね。鱗が硬すぎる』
メモリの感想に、カテリナは考え込んだ。対抗策としてパワー特化のダスティー形態を思い浮かべたが、かぶりを振った。あれは美しくない。
「……武器の切れ味がよければマシになるかしら」
「そりゃな。刃が通ればいくらでもやりようはある。これまでのサイサリスの戦い方でもいけるだろ。オレだって力任せに叩き斬らなくてすむ」
「レナード様の剣は、ブレイズ家の宝剣ではないのですか?」
ルナが不思議そうに訊いた。家宝ともなれば相当な魔剣であるはずだ。
「等級で言えば7らしい。だが、それは魔力増幅効果の高さからくるもので、切れ味は名剣と言われる程度だ」
「ブレイズ家の奥義もその剣があってこそ、ということですか」
「そうだな。ただの剣ではオレの炎が白熱するまでにはならないし、なったとして剣が耐えられん」
「ですが、切れ味が増す魔術を付与すれば、その効果も倍増以上ということになりますね」
ルナがレナードの剣に注目すると、皆の目もそれに集中した。
「カテリナ、できるか?」
「単なる魔力付与ならできますが、切れ味特化となると開発が必要です。二時間ください」
「それでできるのか?」
「理論上は。ですが試行錯誤が必要です」
カテリナはカバンから紙束を取り出した。魔術式を書き連ね、魔術モデルを構築する。試作に15分、検証に15分、再構築に10分、微調整に15分と、約一時間かけて魔術を完成させた。
「これを天才と言わずに誰を天才と評すればよいのでしょうか」
ルナは感動していた。
「魔術協会にはゴロゴロいるわ」
そんな評価は意に介さず、カテリナは【回刃】を唱えた。レナードの宝剣に風がまとわりつき、高速で渦を巻いている。宝剣の魔力増幅効果で、まるで風のドリルのようだった。
カテリナは魔術で【盾】を作り、「試してみてください」とレナードを促した。
レナードが軽く剣を振る。すると盾は刃の軌跡ではなく、かき氷のように削られていった。
「思ってたのと違う!」
全員が言葉や内心でツッコミを入れる。対してカテリナは「切れればいいのよ」と冷淡だった。
『ミンチよりヒデェや。斬られたら泣くよ、これ』
『あなたも泣くかしらね。試してみる?』
『遠慮する……』
「即席にしては充分なはず。消費魔力も持続時間も悪くないわ。これで実戦をしてみて、必要なら改良するわ。それとこの魔術の利点は、『切れ味を上げる』ではなく、『切れる風を付与する』から、あらゆる物質に付与できるわ。武器だけではなく盾にもね。アキラも盾で攻撃ができるわよ」
「そうか、守りながら攻められるんだな!」
アキラの顔が輝いた。
「カテリナ様はそこまでお考えになって……」
「結果論よ。【風刃】を飛ばさずに定位置で回転させるという考えで創ったらこうなったの。では、行きましょうか」
カテリナはコーネルとサイサリスの剣、そしてアキラの盾にも【回刃】を付与した。
メモリに偵察させ、扉前には何もいないのを確認。扉を開けて【光】を飛ばす。数ブロック先に青い人型が照らされた。
大悪魔も人間たちに気付いた。悦び勇むように腕を掲げ、魔術の準備をする。
ルナの【聖盾】が先に発動し、デーモンの【爆炎球】を防いだ。
大悪魔はコウモリの羽を羽ばたかせ、宙に浮くと直立したまま滑るように向かってきた。腕を広げ、爪を伸ばし、甲高い叫び声を上げた。
「仲間を呼んだか!?」
「いえ、威嚇です。グレーター・デーモンに仲間意識はありません。むしろ逆に自分がここにいると周囲に報せ、近寄ろうものならテリトリーを犯したとみて攻撃します」
ルナが道を作るためにもう一枚の【聖盾】を張りながら、レナードに答えた。
「戦闘狂だな」
「どちらかといえば、狩人のつもりでしょうね」
大悪魔とカテリナ・パーティーが接敵した。サイサリスが先陣を切る。
『今度はどーだぁ!』
メモリは気合を込めて魔剣を振り降ろした。
デーモンはあらかじめ準備していたのか、魔術の【盾】で受けた。【回刃】の効果で砕けると思ったメモリだが、ヒビが入っただけで割れなかった。
「離れろ!」
そこへレナードが踏み出し、宝剣で叩く。【盾】が割れ、デーモンの左腕をズタズタにした。
しかし悪魔は怯むことなく右腕を振るう。その爪には紫の靄がまとわりつていた。
「【毒霧】です! 避けて!」
ルナの声に、レナードは回避どころか剣で迎えうった。炎の加護を発動させ、【回刃】の風と合わせて毒を霧散させる。その上で、右腕までも刻んでいく。
デーモンは反射的に後ずさった。両腕が使えないのでは戦いにならないと、魔造生物でもわかる。
その隙をレナードは見逃さない。
「アキラ、押せ!」
「うわあああっ!」レナードの指示でアキラが大盾を構えて突進する。その表面には【回刃】がかかっており、大悪魔に接触すると腹部を削り裂いていく。
さらにたじろぐ大悪魔の後背より、白面赤鎧の死神が首筋に剣を突き立てた。首に大穴を開けて跳ね飛ばす。とても嫌な感触をメモリは感じた気がした。
『うへぇ。ホント、ミンチよりヒドい……』
核石が落ちた。
「なんだ、あっさりだな」
レナードは拍子抜けした。
「近接型でしたから、相性がよかったのですよ。術師型ですと遠距離で魔術を連発されるので面倒です」
ルナが解説する。
「タイプがあるのか?」
「デーモン系にだけ見られる特色です。本来のデーモンと同じように性格を含めた個性があるようです。狂魔術師も、探索者を狩るために策を講じているのでしょう」
「パターンにハメられないのは面倒ね……」
カテリナは顔を曇らせた。パターンがあれば先手を取ることもできるが、何をしてくるかわからない相手には迂闊な行動はとれない。強烈なカウンターが用意されている可能性があるからだ。これでは後手に回ってしまい、積極性すら失われてしまう。
しかし、それを楽しむ者もいる。
「つねに新鮮な気持ちで戦えるな」
「……楽しそうですね、三日兄様」
陽気なレナードにカテリナは呆れた。
「危険な敵と様々な実戦経験が積めるんだ、戦士として嬉しくないわけがない」
「ですが、行動を読めない相手に先手は取れません。危険すぎます」
コーネルが忠告する。実戦経験よりも優先なのは、レナードの生存であった。彼はレナードの護衛として、無事に領地へ帰らせる義務と責任があった。
そんな忠臣の気持ちもレナードには届いていない――わけではないのだろうが、大して気にかけていないのは確実だった。
「なぜ先手が取れないと思う? こっちには守りの専門家のカテリナとルナがいる。まして不死身のサイサリスが先陣を切る。初手さえやり過ごせば、あとはこちらが攻めるだけだろ」
『もう、戦士というより――』
『一言で表すなら――』
メモリの言葉にカテリナが続こうとしたとき、クロムがボソッと言った。
「脳筋が」
カテリナとサイサリスは顔を見合わせ、あやうく噴きだすところであった。
おまけ
『カティー、ルナの魔術を断ったのって、使える使えないじゃなくて、カッコ悪いと思ったからでしょ?』
『ぎくぅ!』
『別にあの形じゃなくても、ライド・アーマーとかコンバット・スーツとかまだまだあるよ! いっそプラグ・スーツもアリじゃないかな!?』
『何を言っているかまったくわからないけれど、わからないことが幸せなのはわかるわ』




