15 笑う仮面 5.22
アキラが正式メンバーとなり、初の迷宮攻略がはじまる。
迷宮に現れたアキラを見たカテリナとメモリは、装備の異様さに圧倒された。
「……ずいぶんと大きな盾ね」
『それときのうの剣に加えて槍も持ってるよ』
「レナード師匠がくれたんだ」
アキラが嬉しそうに見せびらかす。
「シショー? レナード様が、師匠?」
「あー、まー、いちおう戦闘技術を教えてやることになったからな。好きに呼ばせてる」
「あなたたち、同い年でしょうに」
「年齢は関係ない。教えを乞うものが師を敬愛するのは当然だ!」
『アキラもやっぱりレッド寄りの人だったね』
メモリが苦笑した。
『どうでもよいことなのだけど、そのレッドって、ゲームでの呼び名なの?』
『あ、ごめん。こっちに慣れちゃってるんだよ。学院の有名子息五人にはパーソナル・カラーがあってさ、レナードは熱血炎の赤、みたいな。赤毛だし、技も燃え燃えだし、暑苦しいし』
メモリの物言いに、カテリナは噴き出しかけたが品性に欠けると抑え込んだ。真顔になって、『あまりいい趣味ではないわね』と繕った。
『ごめん。けど、愛称だと思って許してよ』
『ち、ちなみに、スヴェン殿下にもあるのかしら?』
『性そのままのホワイトだよ。日本語だとシロっていうの。「白殿下」とか呼ばれてた』
『シロ……。可愛い響きね』
『うん。日本ではよく犬とかの名前にも使われるよ』
『ふっ』
我慢できず軽く噴いた。
『カティー、王子様に失礼だよ』
『そ、そうね。ンンっ……』
カテリナはメモリとの脳内会話をやめた。
「その装備は、レナード様が選んだのですか?」
「ああ。こいつはまだオフェンスには使えないからな。盾役をやってもらう」
「良い考えですね。壁があると私もやり易くなります」
「だろ?」
レナードはドヤ顔で胸を逸らした。
「さて、隊列はきのうと同じでいきます。前から――」
「悪いカテリナ。逆らうわけじゃないが、意見を言わせてくれ」
「なんでしょう?」
「アキラは前衛に置きたい。理由は簡単だ。戦闘経験を積ませたい」
「わかりました。コーネル様と交代でお願いします」
「オレがアキラより前じゃないのか?」
「レナード様が前に出たら、それこそアキラの出番はないではありませんか」
「たしかに」
罠師『黒の左手』ことクロムがフッと笑った。コーネルもうなずいている。
アキラを理由にそれを狙っていただけに、レナードは悔しくとも反論できなかった。
カテリナはそんな三日兄様の心情など無視してミーティングを続けた。
「私からも変更があります。本日の最低目標は地下6階の突破になります」
「最低? クリアするまで籠るのか?」
クロムが眉根を寄せてリーダーを見た。
「ここ二日の探索データと他パーティーからの情報を検証したところ、色迷路の順序が数ルートに絞られました。運がよければ一周目で7階に降りられるかと」
「そんな簡単にか?」
レナードたちは懐疑的だった。
「攻略法はすでに確立されていますもの。毎日きちんとマッピングしていけば、ルートはおのずと絞られます。運の要素も大きいですが」
「そのわりに、まだ誰からも突破した話を聞いていないぞ」
「それは単に、6階攻略を目的としていないからですわ。今月、初めて挑むパーティーが私たちだけであれば不思議ではないでしょう?」
「そりゃそうか」
「色迷路を解くヒントは多くあります。迷路じたいが毎日変化すること。階段室および転送機室に入るたびに歩いた順序がリセットされること。各部屋には最大四枚の扉があること。つまり、スタートとゴールは最大四色の通路とつながっており、毎日迷路が変化することでその色も毎回変わります。けれど、ルートは月一で決まるので、必ず残る色があるわけです。その特定をして、あとはどの色通路とつながるかを検証していけば答えは出るのです」
「おー」メンバーらは感嘆して拍手をする。
「やめてください! ですから解法があると言いましたわ!」
自分の手柄ではないので、カテリナはいっそう恥ずかしい。
『いやいや、毎回変わる迷路をマッピングしてルートを絞るなんて地味でつまらなくて眠くなる作業をできるってだけで感心しちゃうよ。わたしなら誰かが答えを上げてくれるまで放置しておくね』
『あなたはあなたで根気がなさすぎよ!』
「と、いうわけで、さっさとクリアするわよ!」
カテリナは真っ赤になりながら魔術転送機に向かっていった。
男たちは和みながら、彼女のあとを追った。
地下6階では喰人巨鬼との遭遇が多かった。
アキラは壁として立ちふさがっては殴り飛ばされ、張り飛ばされ、蹴り飛ばされまくった。硬化魔術付与された盾のおかげで即死には至らなかったが、カテリナがいなければ危険な場面もあった。
レナードはアキラが稼いだ貴重な攻撃チャンスを逃さず、必殺の剣でオーガーを仕留めていく。
言ってしまえば、オーガーが1体や2体であればアキラは必要ではなかったのだが、戦闘経験を積ませるという言葉どおり、度胸をつける上でもレナードはアキラに先陣を切らせていた。やられることは想定済みで、ここで心が折れるようなら先はないからだ。
「いい仕事をしたぞ。怪我は大丈夫か?」
戦闘のたびに、レナードはアキラを褒めた。
「大丈夫です!」
アキラは鼻血を拭いながら笑みを浮かべた。
「あのようなところはさすがレナード様ね」
「ええ。学院でも剣術指南のサポートを任されていますからね。人望もあります。まこと、立派になられました」
コーネルの視点は親鳥のようだと、カテリナとメモリは少しヒいた。
この日の地下6階は、他の探索者がいないのか、魔物との遭遇率が高かった。ゴブリンとホブゴブリンの一団ともぶつかり、援軍までやってこられて挟撃された。
オーガーに比べればパワーがないのが幸いして、アキラは前方の半分を一歩も退かず守り切った。
後方はコーネルとサイサリスが暴れ、カテリナの魔術が敵を制圧していく。
普段、戦闘に参加しないクロムも数の多さに短弓で応戦した。一本も外さないほど、高精度の射撃だった。
その激闘の褒美のように、宝箱が二つも見つかった。
一つ目には弓が入っていた。ちょうどクロムが使っている物とほぼ同じ大きさだった。
「この中で弓を使うのはおまえだけだ。持ってけよ」
レナードがクロムに差し出すが、『黒の左手』は「いらない」と受けとらなかった。
「なぜだ? 魔術付与されているのは確かだぞ」
「いらないと言っている。オレのこの弓は、さる高貴な方からのいただきものだ。これ以外を持つつもりはない!」
「あー、殿下か」と皆、心の中で思い、レナードだけは声にしていた。
「それじゃ仕方ないな。コーネル、預かっててくれ。鑑定結果しだいでどうするか決めよう。アキラ、悪いが腰の剣をくれ」
レナードはそう言って、アキラの剣をもらって宝箱に詰めた。箱はしばらくして消えた。
「今度はオレの剣が魔剣に変わるんだな」
「すまんな、帰ったら買ってやる」
「いえ、いいです。この槍と盾がありますから」
「それはそれだ。それに、また交換するかも知れないしな」
レナードはアキラの背中を叩いた。
次に発見された宝箱の中身は、珍しい物だった。
「鍵……だな」
クロムが手に取ってよく眺めるが、どこをどう見ても鍵だった。
「この迷宮で鍵を使うという話を聞いたことのある人は?」
カテリナが一同を見回す。しかしその問いは多数ではなく、アキラに向けたものだった。この迷宮ゲームをよく知る彼なら、答えを知っているのではないかと思ったからだ。全員に訊いたのは、アキラにピンポイントで問いかけては怪しまれるからだ。
カテリナの期待も虚しく、アキラをはじめ、誰も知らなかった。
「普通に考えたら開かない扉の鍵とかだな」
「地下7階への階段室の鍵……ではないですね」
コーネルは自分で言って、否定した。階段室には鍵穴すらなかったからだ。そもそも鍵で開くのならば色迷路は不要だろう。
「街で情報を集めるしかないわね」
「そうだな。考えてもわからんものはわからん」
レナードは無駄な頭脳労働をやめ、体をほぐした。
彼女たちは今、青い壁と床の通路を進んでいた。五色目の道だ。
「扉だわ。この先が黄色ならそのまま行くわ。違う色なら黄色の通路につながるまで探す」
クロムが罠のチェックをして、そっと扉を開ける。先は黄色の通路になっていた。
「あとは階段室へ行くだけね」
カテリナはマップに目を落とす。他色の通路を歩いているときに開かない扉があった。それが7階への階段室とわかっているので、その方向へ進むだけだ。
黄色通路は最後の関門のように、カテリナたちを妨害する。罠が一つに、戦闘が間髪入れずに三回。わずか15ブロックの間で起きるには濃密だった。
「挟撃されなかっただけマシだが、次つぎ来るのはやめろ」
さすがのレナードも息が荒かった。
「もう邪魔はないでしょう。あの扉がゴールです」
カテリナが指さす先に扉があった。
クロムが慎重に罠をチェックし、仲間に振り返った。
「開けるぞ」
珍しくクロムが緊張をはらんで言った。ノブに手をかけ――回った。
ドアノブを引く。地下への階段が見えた。
『やった!』
「さすがカテリナ! 一発大当たりだ!」
レナードが妹分の背中を叩き、「痛いですわ!」と本気で怒られた。
「とりあえず中で休みましょう。少し疲れました」
「オレも腕が疲れた……」
コーネルの提案に、アキラも賛同した。大盾の重量が響いてきている。
「そうね。休憩を取りましょう」
地下7階への降り口に警戒しながら、一同は食事をとった。
「で、これからどうするんだ?」
レナードが極厚ハムサンドを頬張りながら訊いた。
「まず7階へ降りて、転送機を使えるようにします。それから少し探索をしたかったのですが……」
カテリナはメンバーの様子を確認した。戦闘が多かった分、皆、疲労が見える。
「初回だ。挑むなら全力がいい」
クロムが言った。彼の携帯食は、いつも四角く硬い何かだった。カテリナも一度分けてもらったが、歯が欠けそうで、味もしなかった。『レンガ?』とメモリが言ったが、彼女もそう思った。
「そうね。なので、また6階に戻って帰ります。ここなら戦闘になってもどうにかなるわ」
「わかった。とりあえず一時間ほど昼寝する」
レナードはリュックを枕に寝転んだ。2秒せずに寝息が聞こえる。
『のび太くん!?』
『誰よ、それ』
『眠りと銃とあやとりの申し子』
『ジューとかアヤトリってなによ……って、いちいちあなたに訊く私も馬鹿みたいだわ』
『そんな付き合いのいいカティーが好きよ』
『あなたも寝てなさい!』
『はーい』
サイサリスは階段に腰かけ、階下を覗きこんだまま止まった。
「見張りか?」
「え、ええ。フロアをまたいで魔物は来ないようだけど、絶対ではないでしょうし」
クロムに適当に答え、カテリナもサンドイッチを食べはじめた。
それぞれが休憩で心身ともに緩んでいた。部屋の安全性や見張りのサイサリスの有能さもあっただろう。サイサリス=メモリ自身も、階段に座っているだけで深く注意はしていなかった。
「!」
人の身がなくとも一瞬で背筋が凍る感覚が走った。メモリは一点を見ていた。地下7階へ降りる階段の折り返し地点。踊り場の片隅。薄暗い壁の奥に、金色が光っていた。
「……!!!」
メモリは声が出なかった。それはゆっくりと彼女を見た。白い面は笑っていた。三日月を横に倒したような目には、金色の瞳。闇にあって眩しく光る。道化師の恰好をして、頭には銀の冠。
メモリは即座にわかった。
『クラウン……!』
声にならない声が自分の頭でだけ反響する。一目でわかるヤバさに、サイサリスは動けなかった。カテリナに警告しなければならないと理解しつつ、実行できずにいる。
メモリの頭はフル回転していた。恐怖にのまれそうになりながらも、彼女の戦闘意識が思考を突き動かしていた。今、仲間は気が抜けている。レナードに至っては眠っている。戦闘になれば確実に何人かは死に、最悪、全滅するだろう。だが、クラウンもまたこちらを観察しているようだ。ただの人間ではないメモリが階段に陣取っているおかげで、不用意に動けないのだろう。もしくはフロア移動の縛りでもあって上がってこられないのかもしれない。それならこのままやり過ごすほうがいい。待っていれば勝手にいなくなるだろう。だがもし、こちらを襲う機会を待っているだけならばどうする? こちらから仕掛けたほうが有利だろうか? それとも全員で迎撃態勢を整えるべきだろうか? いや、戦うなら先手だ。階段から出したらダメだ。広い場所ではおそらく誰もクラウンに追いつけない。でも、この狭い階段であれば……。どうする? どうしたらいい?
メモリは二秒悩んだ。クラウンはただ、彼女を見ていた。怖かった。しかし、今の自分ができること、優先すべきことを考えると、答えは出た。
『カティー、カティー!』
『なによ、メモリ?』
カテリナは口に付けかけた水筒を下ろした。
『時間がない。わたしを信じて。静かに【雷蛇】の準備をして』
『え!? なに、突然! 何かいるの?』
カテリナは立ち上がりかけ、メモリの『静かに』という言葉を思い出した。むせたふりをして座り直す。
『わたしが合図したら、わたしを狙って撃って』
『……わかったわ』
カテリナは迷いを捨て、魔術の門を「オープン」した。
『ためらわないでね』
メモリは力を抜いた。ゆっくりと立ち上がり、何も見えていないように階段に背を向けた。
メモリは見ていた。サイサリスから抜け、真上から俯瞰していた。クラウンが、静かに脚を溜めていた。
メモリはサイサリスに戻り、ゆっくり、ゆっくり、魔剣を抜いていく。
その動作に反応して、クラウンは跳んだ。
『今!』
「ゴー!」
その声と同時に、カテリナのカードから大蛇のような雷がほとばしり、クラウンの刃がサイサリスの首を斬り飛ばし、サイサリスの魔剣が彼女の核石もろともクラウンの胴を刺し貫いていた。
「なんだ!?」
仲間たちが騒ぎに気付き、異様な光景を凝視する。
笑う仮面の道化師は、サイサリスととも剣で串刺しとなっていた。さらに【雷蛇】による電撃拘束と継続ダメージで、完全に身動きが取れない。足掻くが、カテリナがさらに二度の【雷蛇】を重ねる。それでもクラウンは暴れた。
「オレとしたことが!」
レナードは自失から立ち直り、炎の精霊を纏った剣でクラウンの首を貫いた。さらに頭部をカチ割り、手足を切断し、背後から心臓あたりを抉り削る。それでようやくクラウンは動きをとめ、灰となり、塵となり、消えていった。
「なんだ、あいつは!?」
レナードはまだ興奮が冷めきらなかった。
「クラウンです。この迷宮の中ボス的なヤツで、まともに戦ったらかなりヤバい相手ですよ」
アキラが胸をあたりを押さえながら答えた。彼の知るゲームにも、クラウンはいた。ゲームのパーティーが何度も全滅した記憶がよみがえる。
「実在したのか……」
クロムも噂でしか知らなかった。実際にクラウンと出会ったパーティーの話も聞いたことがない。探索初心者に対する警告か脅しとすら思っていた。
「カテリナ様、よくわかりましたね」
「私ではないわ。気付いたのはメ……サイサリスよ。彼女が危険信号を送ってきたの」
「それは命拾いしましたね。わたしたちだけでしたら、きっと……」
「ええ、全滅していたかもしれないわ」
カテリナはコーネルの視線の先、サイサリスの成れの果てを見た。首が飛び、胸を貫き、焼き焦げ、倒れている。
「ありがとう」
カテリナが心からの礼を述べ、頭を下げた。
『どーいたしまして!』
サイサリスがぴょこんと立ち上がった。
一同がギョッとする。
『いやぁ、さすがにビビッたよぉ。でも狙いバッチリだったね!』
無造作に剣を胸から引き抜き、頭を拾ってくっつける。馴染ませるように首や肩を動かして、「うらぁ!」と叫んだ。
『感動を返しなさい!』
『? なに言ってんの? わたし今、ゴーレムだよ? これくらいで死ぬわけないじゃん』
『中のあなたはゴーレムではないのですよ!』
『カティーってときどきお嬢に戻るよね。言葉遣い、いちいち変えるの疲れない?』
『うるさいわね!』
『そうそう。核石、壊れちゃったんだけど、どうする? このままだと10分くらいで消えちゃうけど』
『~~~っ』話がポンポン飛ぶので、カテリナはイライラした。ふぅっと一息吐く。
『……またクレイマンを造るのは無理よ。もうそこまでの魔力がないわ』
『じゃ、核石ちょうだい。ムリヤリ埋め込んでみる』
カテリナはカバンから集めた核石を取り出そうとした。が、ふと、サイサリスの足元のそれに気付いた。
『メモリ、それを使ってみる?』
『これって、クラウンの核石? 少し削れてるけど』
『レナード様のトドメのせいね。それでも今までで最も大きいわよ。核石の大きさが魔物の強さに直結してるみたいね』
『じゃ、これ入れたらサイサリスもパワーアップしちゃうかもね』
サイサリスは核石を拾った。テニスボールほどの大きさがあるな、とメモリとアキラは思った。
「あれ、どうするんだ?
アキラが訊いた。」
「サイサリスの核石に使ってみるのよ。さっきの攻防で使っていたのが壊れたから、変わりね」
「ゴーレムって核石で動くのか」
アキラは興味津々で見ている。メカやロボやサイボーグやアンドロイドが嫌いな少年はいない。
サイサリスは核石を胸にねじ込む。かなり強引だが、収まった。すると――
「うおおおおおおっ!」
と、サイサリスは叫び、拳を握りしめた。
「な、なに!? 体に合わなかったの……?」
サイサリスはスンッとなって止まった。
『特に変化ないね』
メモリはつまんなそうに言った。
『紛らわしい冗談はやめなさい!』
『ごめーん。もう少し何か変化があると思ったんだけどなぁ……』
「持続時間が長くなる程度の恩恵しかなさそうね」
『そうみたい。魔物の強さはあくまで個体能力ってことだね』
『それがわかっただけ収穫よ』
カテリナは変わらなかったメモリに、どこかホッとしていた。
慎重に地下7階への階段を降りた。階段は今までの倍以上長く、深く潜った。その理由は単純で、地下7階の天井はそれまで以上に高い。いっそう、頭上からの攻撃や罠に注意が必要となりそうだった。
五分ほど階段室に留まった後、また六階へと戻る。そして色迷路を遡って地上へと出た。
「まだ陽は高いが、疲れたな」
珍しくレナードが漏らした。戦闘回数もそうだが、クラウンのインパクトが気持ちを落ち着かせないのは誰もが同じだった。
「今日はこれで解散とします。明日からは地下7階へ行きます。各自、準備を怠らないように」
カテリナの締めにメンバーはうなずいた。
「そうだな。使えそうな道具を探してみるのもいいな」
「レナード様、この弓はどうしますか?」
コーネルが担いでいた魔弓をレナードに見せた。
「忘れていた。カテリナ、どうする?」
「あの鍵の鑑定を頼むために商会へ行きますから、その弓も預かりましょう」
「いや、それならオレも買い物があるからついていく」
「ではわたしも」レナードが行くとなれば、護衛のコーネルも同行する。
クロムとアキラも買い物へ行くつもりだったので、結局は全員で商会へと向かった。
商会ではまずは核石を換金し、全員で分配。この時点でクロムが離脱した。アキラも離れようとしたが、レナードに捕まって剣を押し付けられていた。
弓は鑑定の結果、放った矢に魔力をまとわせる能力があるとわかった。いざというときに使えるだろうと、レナードは重しがわりにアキラのタワーシールドの裏に括りつけた。「これも修行だ!」と笑うレナードに「亀仙流かよ!」とアキラは文句を言ったが、ウケたのはメモリにだけだった。
問題の鍵は、魔力を帯びている以外はわからなかった。意匠は凝っているが、それが印やメッセージにはならなかったので余計に使途不明である。だが迷宮の宝箱から出たものである以上、必ずどこかで役に立つだろうとカテリナは自分で管理することにした。
商会で別れると、カテリナはまっすぐに宿へと戻った。ベッドにそのまま倒れこんだのは、彼女にしては珍しかった。
「疲れたね」
メモリは仮面と鎧を解除して、街中用の服装となった。
「クラウンは予想外よ……。しかもなんで階段室にいたのか。安全じゃなかったの……?」
顔を枕に沈めたまま言う。疲労と魔力枯渇に、気を抜くと気絶しそうであった。
「アキラいわく中ボスだし、特殊っぽいね。でも斃せたじゃん」
「それも明日になれば復活しているわよ」
「あ、そっか。中ボスでも復活あるか……」
「ゲームじゃないのよ。『青水晶の欠片』の死霊でもわかるでしょう?」
「それじゃ、またアレと戦う可能性はあるんだ……」
メモリはクラウンと目があったときの寒気を思い出した。今回はうまく奇策にかかってくれたが、普通に戦っていたらどこまで抗えただろうか。あの首狩り速度に反応できるのは、おそらくレナードくらいであろう。
「まぁ、でも」カテリナは仰向けになって両腕を真上に伸ばした。
「クラウンとの遭遇率はかなり低いようだから、あまり考えすぎないほうが精神的には良いかもしれないわね。もちろん、対策は考えておくべきだけど」
「そうだよ! ビクビクしてたら迷宮攻略なんてできないよ! この先、もっとすごいのが出てくるだろうし!」
「……あれより凄いの……? はぁ~……」
カテリナの腕が墜ちた。
その手を取って、サイサリスはベッドの脇に座った。
「とりあえず今日はちゃんと帰ってきたよ。明日がんばるために、たくさん食べて休もう」
メモリの熱のない手が、カテリナには温かく感じた。
「……そうね。あなたのそういう能天気、嫌いではなくなってきたわ」
「染まってきたね、メモリ・ワールドに」
「嫌な世界だわ」
カテリナの顔が本当に嫌そうで、メモリは遠慮なく笑った。
カテリナはゆっくりと起き上がり、サイサリスを抱きしめた。
「ありがとう。あなたはまた、私を救ってくれたわ」
「え、ちょ、そんなのトーゼンじゃない」
「だとしてもよ。……あなたが言うゲームの世界では、ヒロインの聖女がこうやって殿下たちを救っていくのかしらね」
「でもわたしには聖女の力なんてないよ?」
「人を救うのは、何も力だけではないわよ」
カテリナはそう言って、メモリに微笑みかけた。
「そっかなー。力こそパワーだよ」
真面目な顔で応えるメモリに、カテリナはスンッとなった。
おまけ1
「弓があるなら矢も買わなければな。そうだ、兜も頑丈なのを買おう。鉄の籠手もいりそうだな。ついでに薬も一揃い持っていたほうがいいだろう。あれも……これも……」
「……師匠。重すぎて動けません」
「根性だ!」
おまけ2
核石について……
『核石』は俗称で、迷宮内の魔物=魔造生物のエネルギー源となることからそう呼ばれる。魔術協会正式名は『放魔石』。蓄えている魔力を放出することしかできないため、その名がついた。
放出だけではなく、魔力の吸収・蓄積・構築ができる石もあり、これらは『聖石』または『魔石』と呼ばれる。いずれも等級があり、上位になるほど同体積で放出量などが多い。
日本で言えば核石は電池で、聖石は蓄電池+αといったものである。




