↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は聖女なので迷宮懲役囚になりました  作者: 広科雲


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/38

11 イロイッカイズツ 5.20

 朝、ベッドは広かった。カテリナは昨夜のベッドの狭さに心地よささえ感じていたので、目覚めは物足りなかった。

『おはよ、カティー。あれからすぐに術が解けたよ。けっこうもったけど、一日は無理だったね』

「そう。でも、データは取れたわ。ご苦労様」

 ゴーレムの体温のない温もりさえ今はない。それでもメモリの声は聞こえる。それで充分だった。

『今日は地下に入る?』

「そうね、核石を集めておきたいわ。……あ、しまった。【クレイマン】に使う核石は複数でもいけるかどうか調べておけばよかったわね。必ずしも大きい物が手に入るわけでもないのだし」

 きのう使ったのは狂赤熊(マッドベア)の核石である。コボルドの物に比べて三倍ほどの大きさだった。

『そうだね。探索中に切れたらまたクレイマン造りに魔力を消費しなきゃいけなくなるもんね』

「ええ。できれば起きてすぐにクレイマンを造って、少しでも魔力を自然回復しておきたいわ」

『そのほうがわたしも楽しめそう』

「あなたを遊ばせるためじゃないわよ」

『今、核石があるなら試してみたら? 発動さえしちゃえば複数実装可能ってことじゃない?』

「……そうね。何事も実験よね」

 カテリナはカバンから小さめの核石を二個取り出した。これは本来、レナードの分け前になるはずだったものだ。

 核石を二個並べて【クレイマン】を発動。術はさらに早く展開し、10秒かからずクレイ・メモリが完成した。

「どう?」

「うん、問題なく動けるよ。ところでー……やっぱ、ダメ?」

 科(しな)を作って上目遣い。

「あれは禁止よ」

 もちろんスターダスト・メモリである。

「うわーんっ。そしたらどうやって戦えというのー!?」

「この魔剣を使いなさい。私が持つよりいいわ」

「これ、なんか能力あったんだっけ? ビームが出るとか、相手を凍らせるとか、次元を切り裂くとか」

「あなたの例えは毎度ながらわからないし、必要とも思えないわ。……通常の剣よりも剛性に優れていて、霊体相手にも使えるくらいね。他に能力はないから、魔剣ランクで言えば最下位の1かしら」

「ゴミじゃん」

「それでも売れば金貨20枚にはなるわ」

「ははーっ」

 クレイ・メモリは頭を下げた。金額には素直だった。

 魔剣を抜いてみる。刃渡りは50センチくらい。長すぎず、短すぎずといったところだ。魔力を帯びているので淡く光っている。

「重さも悪くないね。厚みや幅、研ぎ具合、うん、よく切れそう」

 メモリは嬉しそうに剣を腰に下げた。

「……ね、メモリ。その姿はやっぱりイヤ?」

「イヤってことはないよ。自分の姿だもん。でもきのうも言ったけど、こういう街で女の子二人連れってどうなのかって。避けられる危険は避けたいじゃん」

「そうね……」

「だからこうすることにした」

 クレイ・メモリの顔が白い面で覆われる。目は鋭く、その周辺を黒と赤の隈取りでより威圧感を与える。口のあたりも同様に、牙のような模様に赤い塗りが入っている。服装も戦士に習って硬革装備一式に似せた。色は赤と派手であったが。

「たしかに近寄りがたくはなったわね」

「名付けてスターダスト・メモリーズGP2サイサリスよ!」

「あなたの名前センスは本当にもう……」

 カテリナは頭を抱えたくなる。

「じゃー、サイサリスだけで」

「はいはい、わかったわ。これ以上は望まないわよ」

「あとはしゃべれない設定は続けるからね。わたしの声、ゴーレムにしてはかわいすぎるし」

 カテリナは面倒くさくなってツッコまなかった。


「きのうのあれはどうした?」

 エンキドゥの酒場で朝食をとっていると、アスタル組がやって来た。一番の挨拶がそれだった。

「おはようございます。あれよ」

 と、カテリアはスプーンを置いてから壁側に立つサイサリスを指す。

「なんで少女みたいになってんだよ?」

 アスタルたちはまじまじと【クレイマン】の産物を眺めまわした。

「あれは……気持ち悪すぎたわ」

 「わかる」エリンが即同意した。

「強そうだったけど、それ以上に嫌悪感がわいた。あれを連れてくるならカテリナとはいっしょしたくないとまで思った」

 『そこまで!?』サイサリスの中のメモリは愕然とした。

「でしょう? いろいろ検証した結果、造形は変えられるとわかったので、とりあえずはこんな形にしてみたの。あの魔剣が扱いやすい体格にして、速さ重視ね」

「デカイと迷宮だと邪魔になるしね」

 エリンはうんうんとうなずく。

「そうか? オレはあれがよかったな。同じ戦士目線で言えば壁役はデカイほうがいいに決まってる。それに威圧感があってカッコよかった」

 『そーだよー! わかる人にはわかるんだよー!』メモリは喝采した。

「とりあえず使ってみてからどうするかは決めるわ。状況に合わせて変えたほうがいいのでしょうけど」

「まあな。ということは、メンバー探しか?」

「ええ。入れてくださる?」

 アスタルはメンバーを見た。反対はいなかった。

「いいが、今日は6階に降りるぞ。5階が混んできたんでな」

「それは申し訳ありませんでした。一人分の分け前で二人分働いて返しますわ」

「決まりだ。6階は休憩できないと思え」

「携帯食と水を多めに持っていくわ」

 「そうしろ」とアスタルは応えて、朝食を注文した。


 迷宮のはじまる時間とともに、アスタル・パーティーとカテリナ&サイサリスの7人は地下5階に降りた。カテリナの『青水晶の欠片(ブルー・ピース)』では直接6階に降りられないからだ。もう一つの懸念としてサイサリスはどうなるかが不安視されたが、結果としてクレイマンは道具と認定されたようで、地下5階に降りられた。

 今日の一番手パーティーであるアスタル組は、10ブロックも進まぬうちに灰色狼(グレイ・ウルフ)に襲われた。

「正面、数12! 南通路からも数頭来る!」

 T字路でトゥランが叫ぶ。敵総数20はかなり多い。

「大丈夫だ。オレたちは前に2ブロック進むぞ。後続のオルフェン組に南は任せる」

 魔術転送機を降りた直後はどのパーティーも現在地確認を優先するため、西壁沿いの井戸へ向かう。同じ時間、同じフロアに降りれば、井戸までは同伴みたいなものだった。今回の二番手パーティーとは知らない仲ではない。アスタルたちが休むとき、罠師トゥランが頼まれて参加することもあった。

「カテリナ、後続組の治療も頼む。ゴーレムはおまえの護衛に置いていい」

 カテリナがアスタルに返事をする間もなく、オオカミの先陣が彼とウォルターの前衛コンビに激突した。

「サイサリス!」

『わかってる、今は動く時じゃないから俯瞰してるよ。後続も接敵したね。ただ、一人が遅れたみたいで間に入られて分断されてる。マズいかも』

『私からでは見えないわ』

『3ブロック離れてるからね。あ、でも、むこうの戦士の一人が中央突破してオオカミの注意を引いてるから、孤立無援にはならなさそう。そのぶん、こっちが薄くなるけど』

『さらに味方の後続は来そう?』

『来ない。どうしたらいいかな? わたしたちはこのままここで待機?』

『勝手はできないわ。前回のこともあるし』

 カテリナは迷った。状況が見えているだけに判断ができない。

『なら、巻き込まれたていでやっちゃおー!』

 サイサリスは後続組のほうへと踏み出した。

 一斉に襲い掛かる態勢を整えていたオオカミたちは、気配もなく近づいてくる赤鎧に白仮面の人間らしきものを警戒した。魔生物であるオオカミたちに恐怖心はないが、異常を感知する能力は残っている。

 オオカミたちは後続組を放置し、サイサリスを囲んで一斉に吼えた。

『うっわー、メッチャ吼えてるよ。これ、噛まれたらどうなるのかな? あっさり死んじゃうカンジかな。でも、こっちに注意を向けてくれてるなら好都合かも』

 サイサリスは魔剣を正眼にかまえ、オオカミたちの中心ににじり寄った。

 一頭が我慢しきれなかったように右サイドから襲いかかる。

 右薙ぎ一閃。魔剣が残光を残し、灰色狼の首を切り裂いた。それは床に激突する前に砂のように消えていった。

『よし、反応できてる!』

 考える前の行動だった。メモリは自分がすごいと初めて気が付いた。

 余韻は長く続かなかった。次と、さらに次が同時に迫って来る。

 サイサリスは左のオオカミを左腕に喰いつかせ、正面のオオカミに突きを入れた。正面は消え、左腕にぶら下がるオオカミは腕を振って壁に激突させた。

『当たり前だけど痛みがない。けっこう無茶できそう。あ、でも、手の動き、悪い?』

 指を動かすと、わずかに遅れと痙攣のような反応があった。まるで生物のようである。

『生きてないけど、ゴーレムだけど、ベースが人間だからかな? あとでカティーと検証だな』

 メモリは落ち着いていた。戦闘に対する恐怖や嫌悪がない。痛みを伴わないからだろうと自分で思う。魔物も同様なのだろうか。血を流さない。痛みを感じているようにも見えない。死体も残らない。まるで、ゲームのようだった。

『やっぱりこの迷宮、なにかおかしい。ううん、わたしがおかしいんだろうな』

 メモリはそう感じたが、思考を進める暇はなかった。次がまた来るからである。

 クレイマンはイラっとした。

「アーーーーーーーーーー!!!」

 サイサリスは叫んだ。無性に叫びたくなったのだ。

 これには魔物も人間もすべてが驚き、時間が停止したように静まり返った。

「メモリ……」

 カテリナだけがメモリの『心情』に胸が痛んだ。彼女は戦いたいわけではないのだろう。そうしなければならないから戦っているだけだ。その原因は自分にあるとカテリナは知っている。自分のエゴに多くの人を巻き込んでいるのを知っている。

 動きの止まったオオカミは、サイサリスの獲物でしかなかった。

 彼女の周辺に核石が散らばっていた。メモリはそれを一つ踏み砕き、カテリナのもとへ戻った。

『ありがとう、メモリ』

『ゴメン。なんかワーッときちゃった』

『大丈夫。ゴーレムの特殊攻撃で誤魔化すわ』

『え、そしたら「アングリー・ハウリング!」って名前にして! ビックリ・マークつきだからね!』

『しないわよ!』

 『ちぇー』っと拗ねた声を出すメモリに、カテリナはホッとして、同時に苦しかった。

『噛まれたところは大丈夫なの?』

『痛みはないよ。ちょっと調子悪かったけど、直るように念じたら直った。粘土だしね』

『……そう』

 アスタル側のほうも順当に敵の数を減らしている。戦士二人がうまく壁を作り、エリンとオーブルが削っていく。最後の一頭はウォルターが斃(たお)した。

「みんな、無事か?」

 アスタルが周囲を警戒しながら訊いた。全員から返事があり、胸を撫で下ろした。

「ゴーレムが吼えたのはさすがに驚いたぞ」

「ごめんなさい。自律行動はまだ試行錯誤中で、どう動くか私も予測できないの」

「味方を攻撃しないならいい」

 アスタルは前方の戦闘に集中していため、サイサリスが持ち場を離れて戦ったことは知らない。

「いや、助かった。危うくウチの術師がやられるところだった」

 後発組のリーダー、オルフェンがカテリナに礼を言った。

「おたがいさまよ。あなたがたがいたおかげで、私たちも無事ですんだのですから」

「そう言ってもらえると助かる。核石は持っていっていいからな」

「いえ、それこそ折半すべきです。おたがいさまを徹底するためにも」

 オルフェンは二度まばたきし、口もとを緩めた。

「わかった。半数はこちらがもらう。だが、そのゴーレムが踏みつぶした分はそっちのだからな」

「踏みつぶしたぁ!?」

 エリンが床に散らばる核石を回収する。「あ、ほんとだ!」と砕けた核石を摘まみ上げた。

「ゴーレムに核石の価値はわからなかったのよ! それは私の報酬にしてください!」

「ゴーレム学習も高くつきそうだな」

 アスタルが笑うと、まわりも和んだ。

 アスタルとオルフェンのチームは井戸までは同道した。この先は、アスタル組は地下6階を目指し、オルフェン組は5階の探索に入るので別れた。地下6階への階段はその途中で見つけている。

 階段を降りると、3×3ブロックの部屋だった。

「地下6階に到着。これ以降、階段は必ず部屋の中にある。小休憩がとれるから便利だ」

 アスタルはリュックを下ろし、携帯食を口にした。エリンたちも水筒を開けている。

「これ以降というと、7階以下も?」

「8階まではそうだな。オレの経験上の話になってしまうが、例外はなかった」

「なるほど」

 カテリナも水を含んだ。

「それじゃ本題だ。この階の特徴を知っているか?」

 アスタルのレクチャーがはじまった。その間、罠師トゥランが探査をしている。

「地上の貼り紙には、変な文言が書かれていたわ。『イロイッカイズツ』。普通に読むと、『色、一回ずつ』よね」

「そうだ。6階攻略のヒントだ」

「アスタル」

 トゥランがリーダーに呼びかけた。部屋のチェックが終わったのだ。

「見てのとおり、この部屋には東西南北に一枚ずつの扉がある。階段室と転送機室は固定スポットで必ずこの形だ。ただフロアエリアの端だと、その面には扉がないがな。どれでもいい、扉を開けてみろ」

 カテリナは手近な北の扉を開いた。

 赤い通路が続いていた。床も壁も天井も赤い。

「他の扉も開けてみな」

 東の扉を開けると黒い通路だった。

「そういうことね」

「なんとなくわかっただろ? 各通路は扉で区切られていて、通路ごとに色が違う。ちなみに全六色だ」

「それらを一回ずつ通って、地下7階への階段室へ行くのね」

「そうだ。順序は月ごとに変わるから、初挑戦のときは苦労する。オレたちも何周したか」

「今日は21日よね。あと9日で正解しないとならないわね……」

「6階で長く稼ぐと思えばいいさ。迷宮の再構築特性や、階段室・転送機室での順番リセットルールからも絞れる。それに、酒場のコミュニティーで情報交換もしている。どこかのパーティーが突破したら自然と広まるのさ」

「それはいいわね」

 カテリナは残り二枚の扉も開けて、通路の色を確認した。

「理解したところで行くとしよう。ほぼ通路だけだから歩き回るぞ」

 アスタルの言葉をカテリナは不思議に思った。通路だろうと部屋だろうと、歩くことに変わりはないだろうと。

 しかし、二時間も歩くと何となくわかった。壁の裏も通路という『迷路』は通常よりも歩いた気にさせる。実際は罠探査をしながらなのでそれほど進んではいないだが、気分的にそうなるのである。

「今のところ敵もゴブリンとホブゴブリンの混成一部隊だけだな」

「他にはオーガーが出るのよね? 貼り紙情報に書いてあったはず」

「たまにな。一回の探索行で三体に遭遇すれば多いほうだ」

「人型だからまだ戦い易いほうなのかしら」

「真正面からはムリだ。一撃に体が耐えられない。うまく捌いて魔術が一番だ」

「少数ならどうにかなりそうね」

「少数ならな。手早く斃(たお)さないと援軍を呼ばれるから怖いぞ」

 とは言うものの、それから一時間探査しても新たな敵との遭遇はない。

 かと思えば、通路の真ん中に核石が転がっていることもある。

「八個。小さいな。ゴブリンか」

「罠?」

「そうだな。戦闘の痕が見えない。何らかのトラップで死んだんだろう」

 トゥランは遠慮なく核石を拾い集めた。

「迷宮が罠と魔物を配置しているのに、それに魔物がかかるんだからね。世話ないわ」

 エリンが肩をすくめる。

「そこまで複雑に罠も魔物も制御できないってことだな。稀にまるっきり敵や構造が変わったりもするが、そのあたりの調整はないしな」

「構造が変わる?」

 カテリナがアスタルに訊いた。

「ああ。この色迷路も五年前に出現したらしい。それまでこのフロアに特別な仕掛けはなかったらしい」

「迷宮をより複雑にしたいのかしらね」

「さぁな。そんなのは造った本人に訊くしかない」

「本人に訊きにいくつもりはあるの?」

「狂魔術師にか?」

 アスタルは驚いてカテリナを見返した。話の流れの冗談かと思ったが、彼女は真剣な目をしていた。

「……いや、ないな。少なくとも今はな。7階でせいぜいだ。8階は一度降りてすぐにヤバイと気付いた。とてもじゃないがやれる自信はない。クラウンにも会いたくないしな」

 30年前の正規兵による大攻勢で、もっとも被害を出したのが地下8階であるのは探索者にとっての常識だった。それを潜り抜け、どうにかたどり着いた9階で、彼らはさらに半数以上を失い撤退したのだ。未だに地下10階の深淵を覗いた者すらいないのである。

「力量をちゃんと計ってるわけね」

 カテリナは微笑んでいたが、内心で落胆もしていた。

「死ぬために迷宮に来ているわけじゃないんでな」

 アスタルは、いやアスタルたちはカテリナの意図に気付いたが確かめなかった。たがいにどうにもならないとわかっているからだ。


 この日は夕方遅くまで歩き続け、多くの魔物を斃(たお)したが、地下6階突破は成らなかった。

 エンキドゥの酒場で分け前を分配し、アスタルが帰る間際のカテリナに声をかけた。

「明日も潜るなら同行するか?」

「……ありがとう。お願いするわ」

 カテリナは一瞬だけ驚き、微笑んだ。

「カテリナって、迷宮踏破したいんだね」

 エリンが元公爵令嬢の背中を見送ったまま言った。

「したいのか、せざるを得ないのか、さらに先があるのか、そんなのはどうでもいいさ。できる範囲で手を組むのがせいぜいだ」

 エリンとは真逆で、アスタルはカウンターに向かったまま酒を飲んでいた。

「手を貸す、じゃないんだ?」

「そんな上から言えるかよ。一対一ならおそらくオレはあいつに勝てない」

「わかってるじゃん。あのクレイマンは卑怯だよね。最後なんて『ご、む、ご、む』とか呻きながら腕を伸ばしてオーガーの顔面殴ってたよ。効いてなかったけど」

 真面目な顔でからかうエリンに、アスタルは舌打ちしかけた。

 そこに共闘したオルフェンが近づいてきた。

「今朝は助かったぜ。そっちはずいぶん長く潜ってたな」

「カテリナの付き合いで6階迷路をやってたんだよ」

「ああ、そりゃメンドくさいな。ところで、今日はおもしろいもんが見れたぞ」

「おもしろいもの?」

 アスタルたちはオルファンに食いついた。気分を変える話題は大歓迎だった。

「どっかの貴族のボンボンが護衛を連れて迷宮に入っていきやがった。立派な装備だったから、上級貴族だろうな」

「へぇ。今どき珍しいな。お遊びか、泊付けか。おこぼれはあったか?」

「ないない。オレたちが昼に一旦出てきたときに、ちょうど階段を降りるところだったからな」

「そりゃ残念だ。で、そいつらはまだ迷宮か?」

「いや、オレたちが再度迷宮に入って、出たときには帰ったあとだったようだ」

「コテンパンにされて泣いて帰ったか」

 アスタルは笑った。迷宮にシロウト貴族が踏み込もうなど、舐め過ぎの甘え過ぎというものだ。

 「ところがなぁ」オルファンは苦笑いした。

「凱旋するそいつらの胸には『青水晶の欠片(ブルー・ピース)』がぶら下がってたそうだ」

「4階まで走破したってのか!?」

「まぁ、道案内が優秀だったようだからな」

「だろうな。4階となると案内役もなく行けるところじゃない。で、誰か知ってるヤツか?」

「ここ最近で評判のいい罠師(トラマス)だよ」

「じらすなよ」

「『黒の左手』。あの黒髪赤目の若いヤツだ」

 アスタルは不思議と驚かなかった。ありえるだろうと思った。

「ずいぶん金を積んだんじゃないか?」

「貴族様だしな」

 オルファンは笑ったが、アスタルはその気になれなかった。




おまけ

地下6階・階段室にて――

「それらを一回ずつ通って、地下7階への階段室へ行くのね」

『え、それってスゴイ組み合わせじゃない!? 6の6乗だよ!?』

『ロクノロクジョー?』

『6を6回掛けるんだよ。……あ、掛け算てわかるかなぁ???』

『掛け算はわかるけれど、なぜ6回も? ……ああ。メモリ、あなた間違っているわよ。この迷路を突破するには720パターンのどれかよ』

『え、そんな少ないわけないよ! 六色なんだから、6の6乗パターンで、えーと……』

『46656よ。でもそれは簡単に言えばサイコロを六個振って出る数字のパターン。この迷路の場合は順番を入れ替えるパターンだから違うわ』

『え!? ……あ、そ、そう、かも……? ん?』

『異世界では数学は発展していないようね。くすくす』

『……くっ』


おまけ2

色迷路のルール

・上下の各階段室、魔術転送機室の間取りは3×3ブロック

・各室には東西南北の各壁面に一枚ずつ扉があり各自異色の通路に出る(ただし室位置が端だったときは扉はない)

・毎月1日に色の正解順番が変わる

・階段室および魔術転送機室に入ると通った順番がリセットされる

・ルートをリセットしなくとも結果的に正しい順であれば下への扉は開く

・地下7階から階段で上がってきた場合、地下6階の階段室は内側からならば開く


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。