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勇者転生 ~裏切られたのでスローライフはじめました~  作者: 川合 佑樹


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第9話

 やがて、通路の突き当たりに、巨大な黒曜石の扉が姿を現した。

 扉は既に大きく開き放たれ、隙間から薄暗い魔素の光が静かに漏れ出していた。

 その青白い光は、玉座の間からゆっくりと溢れ、廊下の床に淡い影を落としていた。

 マサは一瞬足を止め、隣のサーチアイと視線を交わした。

 彼女の眼が、不安げに揺れている。

 マサは小さく息を吐き、穏やかな声で囁いた。

「……大丈夫だ。俺がついてるよ」

 剣の柄に手を置いたまま、彼はゆっくりと玉座の間へと足を踏み入れた。

 足音が石の床に吸い込まれ、静寂がさらに深くなった。


 玉座の間は、薄暗い魔素の光が静かに揺らめき、重厚な静寂に包まれていた。

 中央の玉座に、一人の少女が座っていた。

 黒いドレスに身を包み、長い銀髪を背中に優雅に流している。

 その瞳は、燃えるような深い赤で、闇の中で静かに輝いていた。


 少女――新たなる魔王、リリアーナが、ゆっくりと腰を上げた。

 彼女の動きに合わせて、ドレスの裾が軽く床を擦り、微かな音が響いた。

「勇者め……何しに来た!」

 鋭い声が玉座の間に響き渡ったが、どこか幼さを残す響きが混じっていた。

 マサは静かに息を吐き、穏やかな声で応じた。

「落ち着けよ、魔王」

 そう言いながら、彼は剣を鞘ごと抜き――

 ズンッ!

 重い金属音を響かせて、床に叩きつけた。

 ガランガラン……

 剣が転がる乾いた音が、静寂を鋭く切り裂き、玉座の間全体に反響した。

 リリアーナの瞳が大きく見開かれ、思わず身を乗り出していた。

「な……何だ!? どういうつもりだ……!」

 彼女の声に、威厳を保とうとする強がりと動揺が混じり、わずかに震えていた。

 マサは肩をすくめ、両手を軽く広げてのんびりとした口調で言った。

「いい感じに空いてる土地、ないかな?」


 一瞬、玉座の間全体に重い静寂が落ちた。

 誰もが息を呑み、凍りついたように動けなくなっていた。

 魔素の光さえ、揺らめきを止めたかのように静止している。

 リリアーナが眉を寄せ、声を少し尖らせて繰り返した。

「は……? 土地?」

 マサは軽く首を振り、苦笑いを浮かべながら続けた。

「いやー、王国側に裏切られちゃってさ。根無し草の身の上だけど、寝る場所くらいは欲しいんだよな……頼むよ!」

 彼の言葉に、どこか投げやりな軽さが混じっていたが、瞳の奥には本気の色が宿っていた。


 リリアーナは一瞬、言葉を失い、赤い瞳を大きく見開いた。

 彼女は玉座の肘掛けをギュッと握り、声を少し上ずらせて言った。

「……頼むって……私は魔王だぞ!」

 マサは軽く頷き、にこにことしたまま返した。

「うんうん。よっ、魔王の娘! 元魔王軍幹部のリリアーナ様!」

 リリアーナの眉がピクッと動き、頰がわずかに紅潮した。

 彼女は身を乗り出し、声を尖らせて続けた。

「どうしてそんな調子でいられるんだ! 今この場で殺してもいいのだぞ!」

 マサは悪戯っぽく笑った。

「やってみるか?」

 そう言いながら、彼はゆっくりと魔力を解放した。

 全身から黒い魔力が噴き出し、部屋の空気を重く染めていく。

 ゴオオオ……!

 圧力が徐々にリリアーナに向かって押し寄せ、空気が震え、床がギシギシと悲鳴を上げ始めた。

 玉座の間の魔素の光が揺らぎ、影が不気味に伸びる。

 サーチアイは瞳を固く閉じ、体を小刻みに震わせて後ずさった。


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