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勇者転生 ~裏切られたのでスローライフはじめました~  作者: 川合 佑樹


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第8話

 魔王城の地下室は、ひんやりとした石の匂いが鼻を刺した。

 サーチアイが小さく息を吐いた。

「……ここから先は、もう戻れませんよ。と言いたいところですが」

 マサはニヤリと笑い、軽く肩をすくめた。

「またここに来るとはな。案内、よろしく」

 サーチアイは一瞬唇を噛み、わずかに躊躇うように視線を落としたが、すぐに小さく頷いた。

 彼女の指先から淡い紫の光がぴかりと弾け、空間がぐにゃりと歪み始めた。

 ゴゴゴ……

 低い振動音が地下の空気に響き、壁の一部がゆっくりとずれ動いて、隠し階段が姿を現した。


 二人は隠し階段を、ゆっくりと上り始めた。

 足元で古い石段が軋む音が小さく響いた。

 魔王城の内部は、予想以上に荒れ果てていた。

 壁のひび割れから黒い蔦が這い出し、床には厚い埃が積もり、足跡がくっきりと残るほどだった。

 マサは周囲を見回しながら、ぽつりと呟いた。

「……前来た時は、こんなにじっくり見る余裕なんてなかったなぁ」

 指先で壁の深い亀裂をなぞり、砕けた石柱の残骸に触れる。

 冷たい石の感触に、かすかな懐かしさと苦さが込み上げてきた。

「……荒れ放題だな。これ、俺たちの痕跡か……」

 隣を歩くサーチアイが、わずかに視線を伏せた。

 彼女の小さな足音だけが、静かな廊下に控えめに響いていた。


 廊下の隅で、壁の修繕作業をしていた魔族たちが、ふと顔を上げた。

 マサの姿を認めた瞬間、空気が凍りついたように静まり返った。

 道具を持つ手が止まり、息を呑む音が小さく響く。

「……勇者……!」

 一人が震える声で呟き、手にした道具を落とした。

 ガタン!

 乾いた音が廊下に響き、彼は慌てて後ずさった。

 隣の魔獣は尻尾をピタリと巻き込み、目を逸らして素早く角を曲がって逃げていった。

 他の魔族たちも、作業を中断したまま肩を震わせ、壁際に身を寄せている。

 マサは口の端を軽く吊り上げ、ゆっくりと歩を進めた。

「有名人だもんな……」

 その一歩ごとに、魔族たちの肩がビクッと跳ね、視線がさらに伏せられた。

 サーチアイが、マサの少し後ろから小さく声をかけた。

「……皆、怖がっています。貴方は魔王を倒した唯一の存在ですから」

 マサは肩をすくめて、軽く笑った。

「そりゃそうか」


 城内を進むにつれて、空気が次第に重く淀んでいった。

 廊下の隅や影に潜む魔族たちの視線が、じわじわと集まってくる。

 マサの足音が石畳に響くたび、周囲の空気がピリッと張り詰め、緊張が静かな波紋のように広がっていった。

 誰もが息を潜め、ただ見守るように――あるいは警戒するように――こちらを凝視していた。


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