第6話
初日。
深い森の小道を進んでいると、草むらがガサガサと揺れ、ぷよぷよと柔らかく跳ねる青いスライムが3匹、ゆっくりと姿を現した。
マサは自然と足を止め、剣の柄に手をかけ、静かに抜いた。
視線をスライムたちに据えたまま、小さく息を吐いた。
「……懐かしいな」
一瞬の間を置き、剣がシュパァン!と一閃した。
剣先が正確に核を貫き、3匹のスライムがプシュゥゥ……と音を立てて霧散していく。
青い粘液が地面に飛び散り、甘酸っぱい匂いが周囲にふわりと広がった。
マサは剣を軽く振り、粘液を払い落としてから鞘に収めた。
立ち止まったまま、散らばった粘液の跡を眺めながら、独り言のように呟いた。
「昔は、こんなスライムにすら震えて逃げ回ったっけ……」
小さく微笑みを浮かべ、続けた。
「お前のおかげで、強くなれたんだよな」
二日目。
山道の岩場を進むマサの前に、5匹のゴブリンが突然飛び出してきた。
棍棒を振り回し、黄色い牙を剥き出して、甲高い叫び声を上げながら襲いかかってくる。
マサは静かに剣を構え、息を整えた。
先頭のゴブリンが棍棒を高く振り上げ、勢いよく振り下ろしてきた。
マサは横薙ぎに一閃。
バシュッ!
剣閃が2匹の首を同時に刎ね、黒い血がブワッと噴き出し、岩肌に飛び散った。
首を失った体がゴロゴロと転がり、地面に崩れ落ちる。
残りの3匹が慌てて飛びかかってきたが、マサは返す刃で冷静に一匹ずつ斬り捨てた。
マサは剣に付いた血を岩で軽く拭い、静かに呟いた。
「ゴブリンか……初めての遠征で、この山道で遭遇した時、仲間と必死に戦ってようやく倒したっけ」
リリィの矢が風を切り、セリーヌの魔法が光を放っていたあの頃。
「あの時は、死ぬんじゃないかと本気で思ったな……」
彼は剣を収め、遠くの山並みを見上げた。
「みんな、強くなったな……。俺も」
三日目。
川沿いの古い石橋の上だった。
突然、対岸の茂みがガサガサと大きく揺れた。
「ガルルル……!」
巨大な牙狼が低く唸り、赤い目をギラッと光らせて飛びかかってきた。
マサは素早くプロテクトを薄く張り、鋭い爪をカキンッと弾き返した。
牙狼が咆哮を上げ、再び突進してくる。
彼は静かに一歩踏み込み、剣を横薙ぎに振った。
ザシュゥッ!
首筋を深く裂かれた巨体が大きくよろめき、橋全体をガタガタと揺らしながら崩れ落ちた。
黒い血が石の上に広がり、川の流れにゆっくりと溶けていった。
マサは剣を軽く振り、血を払いながら小さく息を吐いた。
「……魔王軍の残党か。あの頃は、ボロボロになりながらようやく逃げ切ったっけ……」
リリィの弓が折れ、ガンドルフの斧が欠け、セリーヌの魔力が尽きて……。
あの夜、みんなで抱き合って震えていたこと。
彼は橋の縁にしゃがみ、川の冷たい水で手を洗いながら遠くを見つめた。
水が指の間を流れ、血の臭いを静かに洗い流していく。
「もう、誰も守る必要はないんだな……」
静かな川の音だけが、橋の下で響いていた。




