↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者転生 ~裏切られたのでスローライフはじめました~  作者: 川合 佑樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
59/60

第59話

 魔界に、静かな冬が訪れていた。

 ザーザーと細かな雪が降りしきり、畑の跡地はすっかり真っ白なキャンバスに変わっていた。

 村全体が柔らかな銀世界に包まれ、遠くの木々さえ白い綿をまとったように静まり返っている。


 勇者邸の縁側に腰掛けたマサは、膝に手を置き、ゆっくりと息を吐いた。

 ハァッ……と白く広がる息が、すぐに冷たい空気に溶けていった。

 外の雪景色をぼんやり眺めながら、遠くでアインやツヴァイたちが楽しげに走り回る姿を目で追う。


 隣に座っていたリリィが、マサの息遣いに気づいてくすっと笑った。

「温度調整の魔法で温めておけばいいんじゃないの? って顔してるわね」

 マサは少し肩をすくめ、雪に覆われた畑を指差した。

「……ある程度は自然に任せた方がいいんだろ?」

 リリィは頷き、答えた。

「ええ。作物だって寒さに耐える力が必要になるのよ。魔法で全部守っちゃうと、春の芽吹きが弱くなっちゃうわ」

 マサは首を軽く傾げ、改めて白い畑を眺めた。

「……そういうものか」


 雪が静かに降り続ける中、二人はしばらく無言で外の景色を眺めていた。

 冷たい風が時折縁側を撫でるが、邸の中から漏れる暖かな灯りが、心地よい安心感を漂わせていた。

 リリィはマサの肩を軽く叩いた。

「十分冬は越せるし、困ったらセリーヌが王都から何か買ってくるから、ドンと構えてなさい、村長」

「みんながいてくれて助かるよ」

 雪が縁側の屋根からぽろりと落ちてきた。

 マサはそれを指で払いながら、遠くの白い森を見やった。


「なんか懐かしい光景だなぁ」

 リリィが怪訝そうに眉を寄せた。

「懐かしいって、雪なんて毎年見てるじゃない」

「なんていうか……、前までは雪ってただの邪魔者だったけど、ここで見ると、なんか違うんだよな。平和な感じで見るのがな」

 リリィも小さく頷いた。

「……そうね」


 マサは積もった雪を指でそっと掬い上げた。

 冷たい感触が指先に染み、すぐに軽く丸めて小さな雪玉を作ってみる。

 白い息を吐きながら、ぼんやりとそれを眺めた。

「……雪合戦とか、してみたいな」

 隣のリリィが、ぷっと小さく吹き出した。

「なにそれ、急に」


 マサは雪玉を軽く転がしながら、懐かしげに笑った。

「雪を丸めて投げ合って遊ぶんだよ」

 リリィはくすくすと笑いを堪えきれず、肩を震わせた。

「あんたが本気出したら、みんなの頭吹き飛ぶんじゃないの?」

 マサは一瞬目を丸くして、すぐに苦笑いを浮かべた。

「……それもそうか」

 彼は雪玉を軽く放り捨てた。

 ポトリ……と小さな音を立てて雪面に落ち、ふんわりとした穴を開けた。

 雪玉はすぐに周りの白に溶け込み、跡形もなく消えていった。


 二人は雪玉の跡を見ながら、しばらく静かに雪景色を眺めていた。

 マサは白い息を吐きながら、ぼんやりと呟いた。

「……普通の冬って、こういう時、何して過ごすんだろうな」

 リリィは一瞬、言葉を失ったように視線を雪面に落とした。

 少し間を置いて、頰がぽっと赤らみ、慌てて視線を逸らした。

「……それは……まぁ、暖かい部屋で、そういうことしてる家庭が多い、とは思うけど……」

 マサは目を丸くして、すぐに苦笑いを浮かべた。

「……なんか、健全なのか不健全なのか、分からなくなってきたな」

「あんたが変な質問したんだからね!」

 リリィは照れ隠しにマサの肩をポカッと小突き、慌てた仕草で顔を背けた。

 でも、すぐに二人は顔を見合わせ、くすくすと笑い出してしまった。

 雪の静けさの中、その笑い声が小さく響いて、すぐに冷たい空気に溶けていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。