第57話
マサは村の奥へと歩き始め、リアとダミアンがその後ろに続いた。
秋の風が三人の間を優しく通り抜け、落ち葉がカサカサと足元で音を立てた。
リアは冬マントの裾を軽く払いながら、村の中をゆっくりと進んだ。
瞳が、収穫を終えた畑の跡地、整然と積み上げられた薪小屋、酒蔵から立ち上る甘い香り、そして露天風呂の湯気までを、一つ一つ丁寧に捉えていった。
時折立ち止まり、視線を細めては、村人たちの様子や建物の仕上げをじっくりと観察していた。
その態度は、ただの視察というより、自分の領地を確かめるような落ち着きと、どこか満足げな色を帯びていた。
マサは村の道をゆっくり歩きながら、一つ一つ丁寧に説明していった。
リアは隣で時折小さく頷き、視線を村の隅々まで巡らせていた。
興味深げに目を細め、施設や村人たちの様子をじっくり観察している。
「ここが薪小屋だよ。リースがドラゴン姿で運んでくれるから、冬の間は火が絶えないんだ」
リアは積み上げられた薪の山を見て、軽く息を吐いた。
「ふむ……これだけあれば、確かに安心ね。畑の土も、よく手入れされているわ」
マサは笑顔で頷き、酒蔵の方を指差した。
「次は酒蔵。ガンドルフが張り切って仕込んでるよ。蜂蜜酒と果実酒が、もうすぐ熟成終わる頃だ」
リアの目が少し丸くなった。
「もう酒まで造っているのか……!?」
甘い香りがふわりと漂ってくるのを感じて、彼女は小さく鼻を動かした。
さらに進んで、露天風呂の湯気が立ち上る方へ。
「そしてこれがみんなの自慢、露天風呂。湯温はリリィが魔法で調整してるんだ」
リアは湯気の向こうにぼんやり見える光の玉を眺め、感心したように呟いた。
「風呂まで……本当に、贅沢な村ね」
一つ一つの説明に、リアの声に感心と驚きの響きが混じっていた。
ダミアンは最初こそ警戒心を剥き出しにし、マサの背中を鋭く睨み続けていた。
だが、歩くにつれてその表情が少しずつ柔らかくなっていく。
空を飛ぶリースが巨大な薪の束を運ぶ姿を見て、
「……ドラゴン族が、薪運びなど……」
と小さく呟き、目を丸くした。
酒蔵の前を通りかかり、甘酸っぱい香りを嗅いだ瞬間、
「……まて、この香りは……」
と息を漏らし、わずかに足を止めた。
村の喧騒――エルフたちの笑い声や、工事の音、日常の温かさが、ダミアンの硬い表情を少しずつ溶かしていくようだった。
マサは歩きながら、リアに視線を向けた。
「どう?」
リアは一瞬黙り、ふっと唇を緩めた。
「予想以上に……立派だな」
リアの声には、敵対心ではなく、純粋な感嘆が混じっていた。




