第53話
四人は酒蔵の方へ向かった。
酒蔵は村の北側、貯水池から少し離れた丘の麓に建てられていた。
ガンドルフがエルフたちと交渉を重ね、急ピッチで建設してもらっていた。
中ではすでに樽が並び、発酵槽が整えられていた。
四人が扉を開けると、ガンドルフが酒だるを組み立てていた。
「おぉ、帰ってきたか! リリィ、例のモノは?」
リリィが目を輝かせてアイテムボックスを開いた。
「手に入ったわ!」
と、立派な銅製の蒸留器と赤く熟れたベリーの山を取り出した。
甘酸っぱいベリーの香りが一気に広がった。
「これで合ってる?」
ガンドルフが目を輝かせ、蒸留器をそっと撫でた。
「それじゃ! これがあれば一先ず形にはなるぞ!」
さらにガンドルフは机の上にハチミツと小麦の袋をドンと置いた。
「冬までには蜂蜜酒、果実酒、ビールも間に合わせる。宴じゃ!」
マサ、リリィ、リース、セリーヌが同時に喉を鳴らした。
マサが拳を掲げた。
「よし! 作ろう!」
それから数日後――酒蔵は大騒ぎだった。
ジャガイモを蒸す湯気がモクモクと立ち上っていた。
グロウアップの魔法で麹菌がブクブクと爆発的に増殖していった。
リリィが杖を振りながら指示を出した。
「温度、三十度キープ! もうちょっと低めで!」
リースは「極小ブレスよ!」と小さな炎をフーッと当てた。
強火蒸留を担当していた。
でも、火力が強すぎて一度ジャガイモが焦げかけた。
「わっ、熱すぎた!」
と慌てて息を吹き消した。
リリィに「リース、加減加減!」と突っ込まれた。
ガンドルフは樽を転がしながら笑った。
「これぞ本物の酒造りじゃ! 焦げた分は俺が味見してやる!」
エルフの一人が「私も混ぜます!」と果実を投入した。
甘い香りが一気に広がった。
「もっとこうしよう!」「これでどう!?」の声が飛び交った。
酒蔵全体がまるで祭りの一角のように活気づいていた。
三日目。
ポタポタ……
透明な液体が滴り落ち、甘く辛い香りが酒蔵全体を優しく満たしていった。
蒸留器の先端から落ちる一滴が、グラスに溜まり、キラリと光を反射した。
「できた……!」
マサが最初の杯を傾けた。
ゴクッ……
喉を鳴らした瞬間、目を見開いた。
「これ、すげぇ……! 辛いのに甘みが残って、後味がスッと抜ける……! 完璧だ!」
ガンドルフが胸を張り、髭を誇らしげに撫でた。
「ふははは! これぞ本物の蒸留酒じゃ! 名前は『竜の一滴』じゃな!」
誰も異論を唱えず、リースは一瞬「ふん……」と鼻を鳴らしたが、頰がわずかに赤らんだ。
まんざらでもない顔で小さく頷いた。
「……ま、まあ、悪くないわね」
リリィがニヤニヤしながら杯を掲げた。
「じゃあ、乾杯! 『竜の一滴』完成記念!」
エルフたちが「乾杯ー!」と声を揃えた。
酒蔵にグラスの音が響き渡った。




