第52話
風呂と酒造り計画が始まってから3日が経った。
村全体がまるで祭りのように活気づいていた。
朝から晩まで木材を運ぶ音、魔法の詠唱、土を固める低く響く振動が絶え間なく響いていた。
マサたちの住むログハウス――いつしかエルフたちから「勇者邸」と呼ばれるようになった場所のすぐ横に、巨大な穴が掘られていた。
マサはアルたちが作ってくれたスコップを手に持ち、勢いよく土を掻き出した。
ズバスッ!
土がドシャドシャと豪快に飛び散った。
深さはすでに三メートルを超えていた。
「よし、これくらいでいいか!」
ガルが即座に飛び込んだ。
「おうよ! 俺が固めてやるぜ!」
ガルが両手を地面に押し当てた。
ゴゴゴ……!
土壁が波打つように盛り上がり、瞬時に硬く滑らかな岩肌へ変化した。
同時にエルフたちが一斉に杖を構えた。
「結界強化!」
アルの声が響き、淡い緑色の光が広がった。
土が崩れる心配はなく、むしろ壁は自然の岩のように美しく整えられていった。
「次は底面だ! 滑り止め用の凹凸を入れるぞ!」
シルヴィが叫んだ。
他のエルフたちが一斉に土を削り出した。
魔法で浮かんだ細かな石粒が、底面に均等に散らばった。
足元が安定するように整えられた。
ガルがしゃがみ込んで、両手を翳した。
ビチチチチ……!
土が一瞬で硬く滑らかに固まり、淡い光が底面を照らした。
マサはガルに近づいて頭をポンポンと優しく撫でた。
「ありがとうな、ガル。助かったよ」
ガルは一瞬体を硬直させ、顔をそむけた。
「……べ、別に。普通に手伝っただけだぜ」
近くで作業していたエルフたちがくすくす笑った。
「ガル、照れてる~!」
とからかう声が飛び交った。
ガルはますます顔を赤くして、低く唸るように言い返した。
「う、うるせぇ! お前らも仕事しろよ!」
だが、声に力がなく、照れ隠しが丸出しだった。
エルフたちはさらに笑いを爆発させた。
その時、
バサバサッ! ゴオオッ!
リースの巨大な銀鱗の翼が風を切り裂き、空から轟音とともに降りてきた。
ドンッ!
地面に着地した瞬間、土煙がモクモクと舞い上がり、村全体が一瞬揺れた。
背中からリリィとセリーヌが軽やかに飛び降りた。
「ただいまー!」
リリィが元気に手を振った。
マサは手を振り返した。
「みんなお帰り! セリーヌも帰って来たんだな」
セリーヌはマサの顔を見た瞬間、頰をほんのり染めて視線を逸らした。
「……はい。マサ様、お元気そうで何よりです」
彼女の声はいつもより少し震えていた。
マサは首を傾げた。
リリィが元気よく言った。
「ただいま! ガンドルフはどこ?」
「多分酒蔵の方にいると思うぞ。案内するよ」
マサが歩き出そうとすると、リースが人間の姿に戻りながら不満げに声を上げた。
「ちょっと! 私、結構頑張ったんだけど!」
マサは振り返り、リースの頭に手を置いた。
「ははっ! ありがとなリース。本当に助かったよ」
リースは少しむくれていたが、マサの手の温かさに肩の力が抜けた。
素直に頭を下げた。
「……ふん。まあ、いいけど」




