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勇者転生 ~裏切られたのでスローライフはじめました~  作者: 川合 佑樹


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第50話

 ガンドルフとセリーヌが戻ってきた、あの感動の再会宴から――翌日。

 といっても、すでに昼を大きく回っていた。

 マサは頭をガシガシ押さえ、ログハウスの扉を押し開けた。

「うぅ……頭がガンガンする……」

 外へ出ると、柔らかな光がまぶしくて目を細めた。

 魔界の陽光はいつもより優しく、肌を撫でるように温かかった。

 だが、二日酔いの頭痛は容赦なくズキズキと脈打っていた。


 村の中心部はすでに大勢でごった返していた。

 リリィが中央に仁王立ちし、鋭く指示を飛ばしていた。

「そこ! もっと左! 柱が傾いてるわよ!」

「は、はい! リリィ様!」

 エルフたちは「よいしょっ!」と声を揃え、木材を運び、縄を張り、杭を打ち込んでいた。

 木の粉塵が舞い、活気が空気を震わせた。


 その横で、ガンドルフがテーブルに大きな羊皮紙を広げていた。

 太い指で線を引いて、金色の浴槽を真ん中に据えた配置をメモしていた。

 ガンドルフがマサの気配に気づき、顔を上げて手を振った。

「おお、起きたか! もう作業に取り掛かっとるでの!」


 マサはフラフラしながら近づいた。

「おー、ガンドルフ。ありがとう。あれ? セリーヌは? 中にもいなかったけど」

「あやつは今や救国の英雄として聖女になっとるからの。一旦国に帰ったわ」

「え、そうなんだ。大変そうだな……」

「じゃが……直ぐ帰って来るだろうがの」

「転移魔法使えるもんな。すぐ戻れるか」


 ガンドルフは一瞬、目を逸らした。

「……そういう意味ではないがな」

 マサは怪訝な顔でガンドルフを見上げた。

「どういうこと?」

「はっは! 後で知る方が面白そうだからの! 秘密じゃ!」

 マサは頰をぷくっと膨らませ、子供みたいに唇を尖らせた。

「えー! 教えてよ!」

「ワシはなーんも知らんからのぉ。エルフどもにでも教えてもらえ」

「後で聞いてみるかぁ……」


 ガンドルフは設計図を軽く叩き、満足げに畳み始めた。

「ふむ、これで風呂の骨組みは完璧じゃの。後は資材じゃて……」

 そう言いながら、ふとマサの顔を見て、髭を撫でてにやりと笑った。

「ところで相談なのじゃがの」

 マサは興味を引かれて身を乗り出した。

「なんだ?」

 ガンドルフは声を少し潜め、目を輝かせて続けた。

「酒を造ってもええか?」

 マサが一瞬目を丸くした。

「……作れるのか!?」


 ガンドルフは胸を張り、指を折りながら数え始めた。

「エルフどもから聞いた材料だけでも、4種類は作れるな。果実酒、蜂蜜酒、穀物酒……あと、蒸留酒じゃ」

 マサの目がさらに輝いた。

「何から作る!?」

 ガンドルフは浴槽の方を指さし、悪戯っぽく笑った。

「蒸留器さえ作れれば、3日で蒸留酒は作れる。デカい風呂に使って、熱燗でぐいってなもんだ。どうじゃ?」

 マサは拳を握り、声を弾ませた。

「よし! 分かった! 絶対作ろうぜ!」


 その声が弾んだ瞬間、周りの聞き耳を立てていたエルフたちが一斉に歓声を上げた。

「やったー!」

「酒ですか!?」

「熱燗いいですねー!」

 リリィがくすくす笑いながら近づいてきて、

「私も手伝うわよ。果実酒なら得意なんだから」

 風呂の建設と酒造りの計画が同時に動き出し、村全体が一つの祭りのように沸き立っていた。


 ガンドルフはさらさらと羊皮紙に線を引いていった。

 そしてわずか数十分で設計図が完成した。

「これでよし。後は任せたぞ、エルフども!」

 エルフたちは設計図を奪い合うようにして清書を始めた。

「ここに配管を通せば、貯水池から湯を引けますね!」

「浴槽の周りを石で囲んで、保温効果を高めましょう!」

「マサ様のプライベート空間も確保します!」


 彼らは設計図を眺めながら、嬉々として資材を運び出し始めた。

 ログハウスのすぐ横に、風呂場の基礎を築く作業が賑やかに進んでいく。

 ガンドルフが「ここに湯船を置くのじゃ!」と声を上げ、エルフたちが石材を丁寧に並べ、ガルが土魔法で地面をガチガチに固めていた。

 そんな中、何故かリースが一番積極的に動き回っていた。

 彼女は巨大な石を軽々と持ち上げ、基礎の位置にドサッと置いた。

 作業中のエルフの一人が少しずれた石を直そうとすると、リースが素早く近づいて鋭く指示を飛ばした。

「そこ、もっとしっかり固めて! 崩れるわよ!」

 エルフたちが慌てて「リース様、ありがとうございます!」と頭を下げ、土を追加で固めていく。

 リースは「ふん、別に……」と鼻を鳴らしたが、照れ隠しに髪を耳にかける仕草をしながら、手を止めなかった。

 次々と石を運び、位置を微調整し、皆の作業をテキパキとサポートしていた。

 マサはその様子を少し離れたところから眺め、くすっと笑った。

「リース、張り切ってるな……」


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