第47話
一晩置いた生地は、二倍近くに膨らんでいた。
翌朝、皆で成形して窯に入れた。
リリィの魔法とガルの土魔法で温度を調整し、窯は安定した。
窯の前でみんなが輪になって座り込んだ。
扉をじっと見つめていた。
「あとどれくらいかな……」
マサがそわそわしながら呟いた。
リリィが胸を張った。
「もうすぐよ!」
徐々に、窯から甘く香ばしい匂いが漏れ始めた。
最初はほのかに、でもだんだん強くなっていった。
村の空気に混じり、風に乗って広がっていった。
エルフたちが鼻をクンクンさせた。
「この匂い……!」
「もう我慢できない……!」
と目を輝かせた。
ガルが「腹減ってきたぜ!」とよだれを腕で拭った。
サチが頷きながら、「生きてる匂い……」と呟いた。
リリィが窯の前にしゃがみ込み、そっと扉に手をかけた。
「そろそろいいわね……」
窯の扉を開けると、ふわぁぁ……!
黄金色の香ばしいパンの香りが、村全体に一気に広がった。
表面はこんがり黄金色で、ふっくらと膨らんでいた。
熱気がむわっと立ち上り、湯気が優しく揺れた。
リリィが一つちぎって、熱々のパンをマサに差し出した。
「ほら、村長さん。味見をどうぞ」
みんなが息を呑んで見守る中、マサが受け取って一口かじった。
カリッ……!
外は香ばしく音を立て、中から柔らかい食感が広がった。
甘みがじんわりと口に広がった。
「……うまい」
マサが拳を固めて唸った。
「みんな、食べてみろ! ヤバいぞ!」
みんなが一斉に手を伸ばし、パンが次々とちぎられていった。
カリッ! ふわっ!
エレが目を輝かせた。
「こ、これ……! こんなに香りが豊かで、ふわふわで……! 口の中で溶けるみたい……!」
アルが感動の声を上げた。
「こんな美味しいパン、初めてです……!」
ガルが豪快にかぶりついた。
「うおおおお! これヤバいぞ!」
リースが小さく一口かじった。
「……ま、まあまあね」
サチが頷きながら齧った。
「酵母の香りが生きてて、奥行きがありますね……」
リリィが優雅に一口かじった。
「甘みが深くて、塩気が絶妙……。これはもう、芸術よ」
その香ばしい匂いに釣られたのか、狼のアイン・ツヴァイ・ドライ・フィーが遠くからクンクン鼻を鳴らしながら駆け寄ってきた。
マサの足元にじゃれつき、尻尾をブンブン振って上目遣いに見上げ、「クゥン! クゥン!」と甘えた声でパンをねだる。
マサがくすっと笑って、小さくちぎったパンを投げると、狼たちが空中でパクッとキャッチ!
喜んで尻尾を振り回し、村中に可愛い遠吠えのような鳴き声が響いた。
エルフたちが「かわいい……!」と目を細め、ガルが「俺のもよこせ!」と大笑いした。
マサは皆を見回して笑った。
「みんなが喜んでくれてなによりだ!」
村中にパンの香りが満ち、紫の空の下で、今日も皆の絆がまた一つ深まった。




