第43話
そして、村では意外な展開が起きた。
リースが「鍛冶がしたい」と言い出したのだ。
彼女は100年以上前から趣味で刀を作っていた。
しかも、聖剣を間近で見たくて好奇心から降下したところを、ブレイブバーストに巻き込まれてしまったのだと、白状した。
マサが驚いて目を丸くした。
「マジかよ……じゃあ、炉とか全部作れるの?」
リースが胸を張った。
「当然よ! でも材料が足りないわ。鉄鉱石とか炭とか……」
サチがすかさず手を挙げた。
「鉄なら、近くの山に鉱脈があります」
アルが頷いた。
「私たちも手伝います!」
ガルが肩を回した。
「俺は土魔法で炉の基礎固めと、煙突用の煙道掘るぜ!」
こうして、村全体が総出で鍛冶場作りに取り掛かった。
リースが「ここに炉を置くわ!」「煙突はこっちよ!」と指示を飛ばした。
時折「ちゃんと聞いてるの!?」と指導しながら、エルフたちにまで「はい! リース様!」と返事させる始末だった。
ガルが「任せろ!」と土魔法で炉の基礎をドカドカ固めていった。
サチは全体の魔力バランスを調整した。
リリィは「火が安定するように!」と魔法をかけていた。
やがて、立派な鍛冶炉が完成した。
赤く燃える炎が炉口から覗き、熱気が村にじんわりと広がった。
薪がパチパチと弾ける音が響き、周囲の空気が暑く揺らめいていた。
リースは少し離れたところで、炉の炎をじっと見つめていた。
彼女は鍛冶炉の完成を待ちわびていたように、完成の瞬間から視線を離さなかった。
ドラゴン族の血が騒ぐのか、炎と鉄の匂いに瞳を輝かせていた。
リースはマサの近くまで小走りで近づき、興奮気味に言った。
「マサ……聖剣、出してよ」
マサはちょっと警戒しながら鞘から剣を抜いた。
「えっ、折らないよな……?」
リースは剣を受け取り、すぐに炉の火に翳してじっくりと刃を眺めた。
炎の光が剣身を赤く染め、刃文がくっきりと浮かび上がる。
彼女は銀色の瞳を細め、指先で刃をそっとなぞった。
「いつから研いでないのよ、これ……?」
マサが申し訳なさそうに頭を掻いた。
「聖剣だからいいかなーって……ずっと放置してた」
リースは剣を火の光に透かしながら、呆れたように息を吐いた。
「なによこれ……! 聖剣なのに、こんなに欠けたり曇ったりしてるなんて」
マサは肩をすくめて、頭を下げた。
「……すみませんでした」
リースが剣を炉の火に翳してじっくりと見つめた。
「ふん……」
リースは剣を炉の中に差し込み、回転させながら熱を加えていった。
剣身が徐々に赤く、橙色に変わり、やがて白熱した輝きを放った。
村人たちが息を呑んで見守る中、リースが小さなハンマーを手に取った。
彼女は剣を炉から引き抜き、すぐに刃文を確認した。
「……まずは刃こぼれね」
リースが小さなハンマーを軽く振り下ろした。
カン!
金属が響き、剣先の微かな歪みが一瞬で直った。
熱気がムワッと広がり、鉄の匂いが鼻を突いた。
彼女は剣を裏返した。
カン!
今度は刃の中央部を叩き、火花がチカチカと散った。
金属が熱で柔らかくなっているうちに、微調整を加えていった。
マサが感心したように近づいた。
「おー……職人みたいだ」
リースが鼻を鳴らした。
「まだまだこれからよ」
彼女は剣を再び炉に戻し、熱を均等に加えた。
引き抜いた瞬間、リースが息を吸い込み、小さな口を開いた。
ドラゴンブレスを極小規模で吐き出した。
赤い炎が剣身に触れると、金属が一瞬青白く光った。
リースがすぐにハンマーを振り下ろした。
カン! カン!
ブレスで熱を補いながら、連続で叩いていった。
炎と打撃が交互に繰り返され、剣身が微かに震えた。
リリィが呟いた。
「ドラゴンの息吹を直接打ち込むなんて……贅沢ね」
カン! カン!
叩くたびに、刃の欠けが消え、表面が滑らかになっていった。
そして炉とハンマーとドラゴンブレスを交互に繰り返す音だけが、鍛冶場に響き続けた。
リースは集中を切らさず剣身を叩き、熱を補い、微調整を重ねていった。
彼女は剣を炉に戻し、ジュウウウ……と熱を均等に加えた。
引き抜いた瞬間――スッと息を吸い込み、小さな口を開いた。
プシュッ!
ドラゴンブレスを吐き出した。
赤い炎が剣身に触れた瞬間、金属がビカッ! と青白く光った。
刃が鏡のように輝き、切っ先が空気を切り裂くような鋭さを帯びた。
リースが剣をマサに差し出した。
「終わったわ。……これが、ちゃんと手入れされた聖剣よ」
マサが剣を受け取り、柄に指を絡めた瞬間――
剣身が微かに震え、青白い光が迸った。
柄から熱い脈動が腕を伝い、胸の奥まで響いた。
一瞬、体内の魔力が吸い取られるような感覚がした。
剣が「生きている」かのように、マサの魔力を貪るように絡みつき、そしてすぐに優しく返してきた。
まるで「ようやく本当の形に戻った」と剣が囁くようだった。
マサは息を呑んだ。
「うわっ……なんだこれ。剣が俺の魔力を……吸ってる? でも、吸い取られてるんじゃなくて……返してくれてる? 俺と一体になって呼吸してるみたいだ!」
剣の刃が、淡く光を帯びて輝きを増した。
刃文がより鮮やかになり、切っ先が空気を切り裂くような鋭さを放った。
今までとは違う、圧倒的な「存在感」がそこにあった。
マサがリースを見つめた。
「すげぇ……刃が新品どころか、俺の魔力と完全に同期したみたいだ。ありがとう、リース。これ……本当にすごいよ」
「ふ、ふん……ボロボロの剣で倒されたなんて、ドラゴンの名に傷がつくからやっただけなんだから!」
「リースって結構可愛いところあるよな」
「う、うるさい! あんたに褒められてもうれしくないんだから!」
村はますます形を整えていった。
マサは剣を握りしめた。
剣が手のひらで温かく脈打つ感覚が、なんだか心まで満たしてくれるようだった。
マサは空に剣を掲げた。
「お前も……俺の家族だ」
と小さく呟いた。




