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勇者転生 ~裏切られたのでスローライフはじめました~  作者: 川合 佑樹


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第41話

 リースは口をあんぐり開けたまま、固まっていた。

 周囲は静まり返り、誰もが呆然と二人の少女を見つめていた。

 やがて、足音が近づいてきた。

 サチとガル、そしてリリィが歩み寄った。

 三人は地面に広がった金貨の山を見て、揃って目を細めた。


 リリィが最初に口を開いた。

 彼女は金貨を一本指でつまみ上げ、軽く投げては受け止めながら言った。

「これ持参金ね。やられたわね、マサ」

 マサは頭を抱えた。

「なんで次から次へと……」

 サチが呟いた。

「ドラゴンは昔からいけ好かない」

 ガルが豪快に笑い、巨体を揺らした。

「まぁまぁいいじゃねーか! 家族が増えるのは良いことだ!」


 その声に、リースがはっと意識を取り戻した。

 彼女は両手を握りしめて叫んだ。

「こんなのは、認めないからなー!」

 リースは勢いよく村の外へ向かって駆け出した。

 リリィはリースの背中を目で追いながら、ため息混じりに言った。

「あーあー。無駄なことを」


 リースは走り続けた。

「なんでお母様はこんなことを! あんな下等生物とだなんてっ!」

 彼女は必死に走りながら、体を低くした。

 銀色の鱗が背中から浮き上がり、翼がバサバサと広がり始めた。

「こんなところ――」


 しかし――

「へ?」

 足元が光り出し、リースが足を止めた。

 次の瞬間、

 ヴァヒュッ!

 体が強制的に引き戻され、一瞬でマサの目の前にワープした。

 勢い余って顔面がマサの腹にボスッ! と直撃した。

「ぐふっ!」

 マサは慌てて両腕でリースを抱き止めた。

「おっと……大丈夫か?」


 リースは顔を上げ、涙目で睨みつけた。

「離せ! この……!」

 リリィが近づいてきた。

 彼女はリースの頭を軽く撫でて、優しい声で告げた。

「魂の契約をした者同士は、許可なく離れることはできなくなるのよ。覚えておきなさい。あと……」

 マサが怪訝な顔で尋ねた。

「あと……なんだ?」

「離れた後は精霊が無駄に気を効かせて、もう離れないでねーって、一定時間離れたくても離れられなくなるからね」


 リースの顔がサッと青ざめた。

「うわあああああああ!」

 必死に暴れ、マサの胸をバンバン叩き、腕を振りほどこうとした。

 だが、体はピクリとも動かない。

 透明な鎖でガッチリ繋がれたように。

「いやだあああ! このまま下等生物の慰み者になるのは嫌だあああ!」


 村中に悲鳴が響き渡る中、マサはリースの頭を撫でた。

「慰み者って……」

 ガルが腕を組んで、片眉を上げた。

「お前も魔族なら、負けた相手に全てを捧げるくらいの覚悟は持てよなー」

 リースは首を激しく振った。

「負けてないもん! 負けてないもん!」

 彼女はマサの服を掴み、必死に引き離そうとした。

 だが、全ての事象がそれを拒むように、指一本動かせなかった。


 リースの小さな体がぴくぴくと震え、涙がぽろぽろとこぼれた。

 マサは優しく、しかしはっきりと言った。

「まぁまぁ落ち着けよリース。俺は変態じゃない。お前みたいな小さい奴に手は出さねーよ」

 サチが横から言った。

「ふーん」

 リースが横目でサチを睨んだ。

「うわあああ! やっぱり変態なんだー! あと私は200歳だあああ!」

 マサが目を丸くした。

「えっ」

 リリィがマサの背中を軽く叩きながら、からかうように言った。

「まんざらでもない顔すんな」

 リースはさらに声を張り上げた。

「やっぱり好き放題されるんだああ!」


 村の中心部に、リースの悲鳴と仲間たちの笑い声が響いた。

 金貨の山は陽光を浴びて輝き続けていた。

 紫の空の下で、新しい家族の騒がしい一日が始まっていた。

 マサはリースの頭を軽く撫で、ため息をついた。

「……ま、慣れていこうぜ」

 リースの暴れ声は、だんだん涙混じりの小さな呟きに変わっていった。

「……嫌なのに……」

 彼女はまだ暴れていたが、手はマサの服をぎゅっと掴んだまま離さなかった。


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