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勇者転生 ~裏切られたのでスローライフはじめました~  作者: 川合 佑樹


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第40話

 ドラゴン事件から数日後、拡張された拠点はいつの間にか「勇者村」と呼ばれるようになっていた。

 リリィが毎日マサにチクチクと突っついた結果だった。

「そろそろ名前決めなさいよ!」

 サチとガルも「「その通りだ」」と頷いた。

 エルフたちは「「「えっ、勇者村じゃなかったんですか?」」」と目をぱちくりさせていた。


 そんな中、村の中心部で、ドンッ! と異様な魔力が爆発的に膨れ上がった。

 マサは即座に剣を抜き、

「敵襲か!?」

 と叫んで魔力源へ飛び出した。

 リリィは杖を構え、エルフたちが一斉に武器を抜いた。

 アルが杖を握りしめ、シルヴィが弓を引き絞った。

 ガルは拳を鳴らし、サチは周囲を警戒した。


 マサが魔力源に到着すると、そこにはすでに空間がビリビリと歪み、黒いゲートが開き始めていた。

 全員の視線が、その闇の渦に向けられた。

 そこから現れたのは、二つの人影だった。

 一人は黒髪の少女――まだ幼さを残した顔立ちだった。

 そして、豊満な体躯の女性――長い黒髪を優雅に揺らし、眠たげな優しい笑みを浮かべていた。


 女性はマサを見て、両手をふわっと挙げた。

 その瞬間――

 ゴバァッ!

 巨大な風圧が一瞬だけ爆発的に広がり、周囲の木々がガサガサと大きく揺れた。

 地面がわずかに震え、狼たちが一瞬で吹き飛ばされそうになった。

 全員が反射的に身構え、マサの剣が抜かれた。

 リリィの杖が光り、エルフたちが弓を引き絞る音が響いた。


 女性は慌てたように両手を横に振って、

「あのぉ、攻撃するつもりはないのでぇ、武器を下げてくれませんかぁ?」

 もったりとした、どこか眠たげな喋り口調だった。

 横で少女はぶすっとした顔をしていた。


 マサは剣を下げつつ、皆に合図を送った。

「下がれ。……でも警戒は解くな」

 リリィが杖を構えたまま頷き、アルたちが武器を下ろした。

 マサが女性に尋ねた。

「その魔力、出力を抑えてくれないか? みんな緊張してる」

「はぁい。わかりましたぁ」

 彼女が軽く息を吐くと、漏れ出していた膨大な魔力がすっと収束していった。

 まるで霧が晴れるように、周囲の圧力が一気に軽くなった。


 マサは剣を鞘に戻した。

「その魔力……この間のドラゴンか?」

「はい。私はぁドラゴン族のヴェルドラス・ルミナリアですぅ。こちらはぁ娘のシャードリース。ほらぁ、挨拶しなさぁい」

 少女――シャードリースが渋々前に出て、不満げに頭を下げた。

「……シャードリースです」

 マサは軽く手を振った。

「ルミとリースでいいか? 今日はどうしてここへ?」


 ルミがにこやかに答えた。

「この間はぁ、うちの娘がご迷惑をおかけしたのでぇ謝罪にとぉ。こちらはぁ、つまらないものですがぁ」

 ルミはアイテムボックスを展開した。

 ――ガラガラガラッ!

 金貨の山が地面にどっさりと溢れ出し、陽光を浴びてキラキラと輝いた。

 村の皆が思わず息を呑んだ。


 マサは苦笑した。

「あー、ありがたいんだが……この間のは俺が撃った攻撃で娘さんが落ちてきたから、なんというか」

 ずっと黙っていたリースが、ぷいっと顔を背けながら口を開いた。

「そうよ! あんたが悪いのよ!」

 バガオンッ!

 瞬間、ルミの体から膨大な魔力が一瞬だけ爆発的に噴き出し、彼女の拳が目にも留まらぬ速さでリースの頭を直撃した。

 衝撃波がドンッ! と広がり、焚き火の炎が一瞬で横に吹き飛んだ。


「ぐはっ!」

 リースが吹っ飛び、地面に膝をついて涙目になった。

 村の皆が「ひゃっ!」と小さく悲鳴を上げた。

 マサの剣が反射的に抜かれかけたが、ルミは穏やかな笑顔のままだった。

「すみませぇん。まだぁ負けの一つも認められない若さなのでぇ、どうかぁご容赦くださぁい」

 リースは唇を噛み、涙を浮かべながら頭を下げた。

「……ごべんなざい」

 ルミが続けた。

「この娘ったらぁ、急に降下したのでぇ、止めようと思ったのですがぁ間に合わなかったんですよぉ。本当にすみませんでしたぁ」


 マサは一瞬、リースを睨んだ。

「……襲おうと思っていたのか?」

 リースが小さな悲鳴を漏らした。

「きゅっ……!」

 その怯えた姿を見て、マサは頭を掻いた。

 ルミは何気ない一言のように、そっと言葉を紡いだ。

「こんな娘ですがぁ、これからも一緒にいてあげてくれますかぁ?」

「……いいよ。反省はしてくれるみたいだし」


 ルミは突然リースの後ろに回った。

 そして、リースの両脇を抱え込み、持ち上げた。

 バシュッ!

 一瞬で間合いを詰め、マサの目の前に立った瞬間――

 ゴファアアアッ!

 凄まじい風圧が爆発的に広がり、周囲の木々がガサガサと激しく揺れた。

 村の皆が「うわっ!」と悲鳴を上げ、マサの髪が激しく乱れ、足元がわずかに後退しかけた。


 マサが反射的に防御姿勢を取ろうと右手を挙げた。

 最後に目に映ったのは、ルミの顔だった。

 ルミがリースの右手を掴み、スッとマサの右手に触れさせた瞬間――

 ズズズンッ!

 超高速で、ルミの唇が微かに動いた。

 ほとんど聞き取れないほどの声で、ドラゴン族の古語が一瞬だけ響いた。

「グラヴォ・シュヴァ……エテル・ヴォン・ヌゥル……」

 魂に直接響くような力強さで、言葉の断片だけが皆の頭に浮かんだ。

『魂よ、結ばれよ――永遠の絆を、今ここに』

 ――ビリビリッ!

 マサとリースの体から魔力が噴き出し、温かく重い力が混じり合い、互いの体へズズズッと吸い込まれていった。

 マサ、サチ、ガル、エルフたちが同時に声を上げた。

「「「「「あっ……!」」」」」

 二人の体がピタッと繋がった瞬間、不可逆な鎖が心臓に巻き付くような感覚が走った。


 マサが叫んだ。

「なんでこう立て続けに!?」

 ルミはリースの頭を優しく撫でながら、にこやかに言った。

「マサ様ならぁ。きっと『いいよ』って言ってくださると思ってましたぁ」

 リースは涙目でルミを見上げた。

「母様……!」

 ルミはリースに手を振った。

「リースちゃぁん。頑張ってねぇ」

 そう言うと、彼女は一瞬にしてゲートを展開した。

 優雅に手を振り、ゲートの中に消えていった。


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