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勇者転生 ~裏切られたのでスローライフはじめました~  作者: 川合 佑樹


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第39話

 刹那――

 ゴオオオオオオオオ……!!

 低く、重い轟音が空全体を震わせ、魔界の空気が一瞬で圧縮されたように息苦しくなった。

 天が暗く沈み、雲が渦を巻いて引き裂かれる。

 ビリビリビリッ!!

 空間が激しく歪み、黒い裂け目がズバァン! と広がった。


 闇のゲートが、歯車のように回転しながら巨大に開いていく。

 ズドオオオオオオン!!

 大地が激しく揺れ、土煙が噴き上がった。

 ゲートの奥から、圧倒的な存在感を放つ巨体が姿を現した。

 ドラゴンの赤い瞳が開き、咆哮が紫の空を切り裂いた。

 ゴオオオオオオオオオオオン!!


 同時に、リアの周りに黒子たちがパッと現れた。

 彼女を瞬時に囲み、黒子たちが一斉にリアを抱え上げるようにして、影のように溶けた。

 遠くの丘まで瞬間移動させた。

 丘の上に着地したリアは、瞳を大きく見開いていた。

「あれは、始祖の……」

 彼女は思わず呟き、ドラゴンを見上げた。


 マサは口をぽかんと開けた。

「え……?」

 リリィも目を大きく見開いた。

 彼女は呆然とした声で呟いた。

「これはちょっと聞いてないんだけど……?」

 巨大なドラゴンは、二人の驚いた様子をチラリと一瞥した。

 赤い瞳がゆっくりと青い薔薇に包まれた同族のドラゴンに向けられた。

 低く喉を鳴らすような息づかいが響き、巨体がゆっくりと前肢を上げた。

 爪先から淡い銀色の光が溢れ出し、手を翳す動作に合わせて光の渦が広がっていった。

 渦は穏やかだが圧倒的な魔力を帯び、周囲の空気を優しく震わせた。


 薔薇の上のドラゴンが、銀色の光に包まれて輝き始めた。

 氷の花弁がパチパチと小さな音を立てて溶け、霜が蒸気のように立ち上る。

 リリィが息を呑み、静かに呟いた。

「ドラゴンも回復魔法を使うのね……しかも、あんな上位の」

 薔薇内のドラゴンがゆっくりと目を覚まし、頭を持ち上げた。

 折れていた翼が微かに動き、黒い鱗が光を反射して輝く。

 その視線が、巨大ドラゴンに向けられた瞬間――

 ギョッと目を見開き、体を硬直させた。


 すると、巨大ドラゴンは前肢を上げた。

 グッと拳を握り、豪快に振り上げた。

 ドゴアアアアアアン!!

 凄まじい衝撃音が響き渡り、青いバラの氷結がビリビリと振動した。

 拳がドラゴンの頭部を直撃し、鱗が弾けるような音を立てて気絶させた。

 ズドン……と地面が大きく震え、土煙が巻き上がった。

 氷の花弁がガラガラと崩れ落ち、冷気が一気に霧散する。


 巨大ドラゴンは「ふんっ」と低く鼻を鳴らし、まるで「もう二度と暴れるなよ」と諭すように、気絶した同族の頭を優しく――だが威圧的に撫でた。

 爪先が鱗を軽く擦り、静かな威厳を放ちながら。


 再び前肢を翳すと、黒いゲートが再び開いた。

 空間がビリビリと歪み、二体のドラゴン――巨大なものと気絶したものが、光の渦に包まれてゆっくりと引き込まれていった。


 ゲートが閉じ、轟音が消えると、魔界の荒野に再び静けさが戻った。

 風だけが、冷たい余韻を残して吹き抜けた。

 リリィがぽかんとした。

「一体何だったの」

 マサは薔薇を見上げた。

「それよりあれどうすんだ?」

 薔薇は健在だった。

「ずっと寒いの嫌なんだけど……」

「ま、記念碑として残しておきなよ。魔界の新名所、青いバラの丘とかどう?」

 マサはため息をついた。

「スローライフ、いつになったら……」


 空気が冷たく頰を撫でる中、凍りついた巨大な氷の薔薇が、光を反射していた。

 まるで、この村の新たな伝説の始まりを、見守るように。


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