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勇者転生 ~裏切られたのでスローライフはじめました~  作者: 川合 佑樹


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第38話

 マサは剣を握り直した。

「遊びに来たにしては、ずいぶん大仰だな」

 リアが足を止め、青いバラを見上げた。

 吸血鬼の参謀が一歩前に出ようとした瞬間、リアが片手を上げて制した。

「待て。……下がれ」

 参謀は一瞬、眉を寄せたが、無言で後退した。

 リアはマサたちの方へ視線を移した。


「何しに来たんだー?」

 マサは手を振った。

 サチとガル、アルたちは少し不安そうな顔で様子を窺っていた。

 リアは小さくため息を吐いた。

「皆、帰っていいぞ」

 軍勢がザワッとざわめいた。

 リアは軽く手を振ってジェスチャーした。

 兵たちは敬礼して闇の中へ溶けていった。

 ただ一人、吸血鬼の参謀だけが最後までマサを睨みつけ、敵意を剥き出しにしていた。

 マサはそれに気づき、にこやかに手を振った。

「よっ」

 参謀は舌打ちし、黒いマントを翻して闇の中へ消えた。


 マサは鍬を握ったまま、周囲をゆっくり見回した。

 ガルが鼻をヒクヒクさせ、サチが魔力を探る。

 アルが息を吐き、肩の力を抜いた。

「……全員、消えたみたいですね」

 サチが静かに呟いた。

 リアは青いバラに指を差し、マサに向き直った。

「これはなんだ? 何が起きたんだ?」

「あー、太陽欲しいなーって技打ったらドラゴンが落ちてきて、止めようとしたらこうなった……かな?」

 リアの肩がピクッと震え、瞳がカッと見開かれた。

「……そうか……で、納得いくわけないだろ!」

 声が鋭く跳ね上がり、髪が怒りでわずかに揺れた。

「なんだあの光は! 城からでも、あーこの魔力、勇者だなぁって分かったぞ! それでドラゴンを打ち落としたと思ったら、次はこんなもの作り出しよって! なんだ!? 本当に侵略しようとしてるのか!? はっきり言え!」

 マサは慌てて両手を振って制した。

「落ち着けって! ほら、深呼吸!」


 すると、奥のログハウスから、扉がギィッと軽く開く音がした。

 リリィが顔を出し、眠そうに目をこすりながら外の様子を窺った。

 彼女はマサとリアが青いバラの前で向き合っているのを見て、首を傾げた。

「マサ、何してんの? なんか騒がしいけど」

 マサは苦笑いを浮かべ、薔薇を指さした。

「魔王が来ててさ。これどうにかなんないのかってさ」

 リアはリリィの声に反応し、ゆっくり視線を移した。

 金色の長髪と翡翠色の瞳を認めて、眉を寄せた。

「……エルフ。お前が元凶か!」

 リリィは肩をすくめ、軽く手を振った。

「さぁどうだか」

 リアはリリィを睨みつけたが、視界の端でサチとガルが「うんうん」と頷いているのを見て、ふっと息を吐いた。

 肩の力が抜け、ため息混じりに呟いた。

「……はぁ」


 マサは巨大な青いバラの氷結を、ゆっくりと見上げた。

 ドラゴンの鱗が霜に覆われ、微かに息づかいが伝わってくる。

 彼はぼそっと呟いた。

「それでこれっていつ消えるんだ?」

 リリィは少し考えて答えた。

「……この気温だと、1か月くらい?」

 マサが目を丸くして、慌てて振り向いた。

「げっ、そんなにかかるのか!?」

 リリィはくすっと笑い、髪を耳にかける仕草をした。

「しょうがないじゃない。細かな微調整なんてする暇がなかったんだから」

 マサは薔薇をもう一度見上げた。

「他の魔法で溶かすとかできないの?」

「同じ威力ならできないこともないけど……それこそ、ドラゴンブレスくらいの熱が必要ね」

 その言葉に、三人が同時に顔を上げた。

 マサ、リリィ、リアの視線が、ぴたりと揃う。

 静かな一瞬の後――マサがニヤリと笑った。

「あいつ起こしたら、解決しないか?」

 リリィが呆れた声で返した。

「死んでも知らないわよ?」


 リリィがマサの腰に腕を回した。

 彼女は優しく呪文を紡いだ。

「エアリアル・レヴィテイト」

 淡い青い光が二人の足元から立ち上り、体を優しく包み込んだ。

 風がビュウッと耳元を切り、地面がゆっくり離れていく。

 浮遊魔法で、二人は青いバラの上空まで静かに運ばれていった。


 マサは剣を構え直し、息を整えた。

「……じゃあ行くぞ」

 リリィが背中に密着したまま、くすっと笑って返した。

「はいはい」

 彼女の掌をマサの胸に当て、指先から温かな魔力が流れ込み始めた。

 優しく、でも力強くマサの体内を巡り、二人の魔力が共鳴した。

 青白い光が微かに漏れ出し、周囲の氷がわずかにきらめいた。


 マサはその魔力を体内で練り上げ、集中を深めた。

 胸の奥で熱い塊が膨張し、腕を通り、手首を震わせ、剣の柄を握る指先まで伝わった。

 剣身がビクンッと震え、淡い金色の光が刃に沿って走った。

「よし、やるか! 勇者奥義!」


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