第37話
魔界に青いバラが咲いてから数時間後だった。
マサは聖なる農鍬を肩に担ぎ、拡張された畑の端で土を耕していた。
鍬の刃が土を優しく切り裂き、ふかふかの黒土が盛り上がる。
周囲ではエルフたちが作物に魔法をかけ、ガルが土を固め、サチが全体を監視しながら手伝っていた。
凍てついた風がビュウウ……と肌を刺していた。
巨大な氷のバラが、ゴゴゴ……と低く唸るように魔力を放ち、不気味に光を反射している。
マサは鍬をコンッと地面に突き立て、額の汗を拭った。
「……あれが溶けるまで、ドラゴンが大人しくしてるといいんだが……」
その時――
ズズン……!
地面が微かに震え、遠くの地平線から黒い影の集団が、砂煙を巻き上げながら迫ってきた。
マサが鍬を置いた。
「……あれは」
その震動と魔力の波動を感じ取り、周囲の皆がピタッと作業を止めた。
サチが魔力を探りながらマサの元へ小走りで近づいてきた。
「魔王……リア様です」
ガルも土魔法の手を止め、巨体を振り向けてマサの隣に並んだ。
低く唸りながら、鼻をヒクヒクさせた。
「他にも魔族の匂いがプンプンするぜ……しかも、すげぇ強い」
エルフたちが一斉に杖や弓を構えた。
シルヴィが息を呑んで呟いた。
「魔王軍……!」
アルがマサの袖をそっと掴んだ。
「マサ様……!」
ズズン……! ズズン……!
地面の震えが次第に強くなり、砂煙の壁がゆっくりと近づいてきた。
重い蹄の音のような響きが、地響きとなって響き渡る。
影の集団が、魔界の荒野を埋め尽くすように迫り、輪郭が徐々に明らかになっていく。
黒い甲冑や外套を纏った軍勢が、整然とした隊列を組み、威圧的な魔力を放ちながら進んでいた。
砂煙が少し晴れた瞬間――
先頭に立つ黒いドレスの少女の姿が、はっきりと浮かび上がった。
銀色の長い髪が風にたなびき、赤い瞳が鋭く輝く――リアだった。
その背後には、次代の四天王と精鋭軍が、整然と並んで近づいていた。
四天王はそれぞれ異様な威圧感を放ちながら歩を進めた。
先頭の参謀格――吸血鬼の男性は、蒼白い肌に血のように赤い瞳を光らせていた。
長い黒髪を後ろで束ね、黒いマントの下から細身の剣をチラリと覗かせていた。
常に冷たい表情で、鋭い視線をマサに突き刺すように睨みつけていた。
その隣の人狼の女性は、銀灰色の毛並みを逆立て、耳をピクピク動かしていた。
尻尾を振って、筋肉質な体躯に革の鎧を纏っていた。
牙を覗かせて低く唸り、獣のような輝く瞳で、獲物を狙うようにマサたちを睨んでいた。
さらに、漆黒の翼を折りたたんだ翼人の男性は、背中の巨大な翼をわずかに震わせていた。
羽根がキラリと刃のように光り、端正な顔に薄い嘲笑を浮かべていた。
唇を舐める仕草を見せた。
最後は、赤い肌に黄金の瞳の悪魔の女性だった。
小さな翼がパタパタ震え、腰の鎖がカチャカチャと音を立てていた。
楽しげに周囲を見回していた。




