第36話
しばらくして、話し合いが終わったのか、リリィとアルが一緒に戻ってきた。
二人は並んでマサの前に立ち、揃って右手を差し出した。
リリィが柔らかく、しかし確かな声で言った。
「マサ、右手を出して」
マサは少し戸惑いながらも、右手を差し出した。
「こうか?」
リリィとアルが同時にその手に自分の手を重ねた。
リリィが柔らかく、しかし確かな声で言った。
「マサ、私たちをこれからもずっと守ってくれる?」
アルがそっと付け加えた。
「……ずっと、そばにいてくれますか?」
マサは少し戸惑いながらも、二人の真剣な視線を見て、穏やかに微笑んだ。
「あぁ、もちろんだ」
リリィとアルが、同時に目を閉じて呪文を紡ぎ始めた。
二人の声が重なり、優しく、でも力強く響いた。
「「――魂よ、永遠の絆を誓え……。――心よ、互いを離さぬよう……」」
二人の声が完全に同期していった。
「「我が魂を汝に捧げ、汝の魂を我に受け入れん……」」
青白い魔力がリリィの体からブワッと放出された。
同時にアルからも淡い金色の光が溢れ出した。
三つの光がクルクルと宙で渦を巻いた。
まるで三つの心臓が一つになるように、三人の体に吸い込まれていった。
温かく、重い力が胸に満ち、マサは思わず息を呑んだ。
マサは左手で額を抑えた。
「リリィ、なんでまた……」
ガルが慌ててマサの肩を揺らした。
「マサ、大丈夫なのか!?」
アルが穏やかに、しかし力強く言った。
「大丈夫です。彼を傷つけたりはしません。これは……精霊契約なのです」
サチが尋ねた。
「魔力とは違う力が見えます。テイムに似たようなものでしょうか」
リリィは優しく微笑んだ。
「違うわ。これは魂の契約」
サチが首を傾げた。
「どういうことですか?」
マサは諦めたように言った。
「強制的に、この二人と結婚したことになったんだよ」
リリィが勢いよくマサに飛びついた。
髪がマサの頰をサラサラとくすぐった。
「やっとなれた!」
マサは彼女の背中に手を回した。
「お前たち、二人揃って無茶苦茶だな」
リリィはマサの胸に顔を埋め、甘えるように呟いた。
「文句ある?」
アルがそっとマサの袖を掴んだ。
「よろしく……お願いいたします」
ガルがマサの背中をバンバン叩いた。
「家族がまた増えたってことか! いいじゃねーか! これでますます賑やかになるぜ!」
サチは三人の手を優しく見つめた。
でも、その表情は少し複雑で、眼がわずかに揺れていた。
リリィはそれに気づき、サチに視線を送る。
「安心して、あなたが第一夫人よ」
サチの眼が一瞬大きく見開かれた。
リリィはサチの目を見つめた。
「これからも、みんなでマサを支えていきましょう?」
サチは頰をわずかに染めて頷いた。
「……ありがとう」
ダイニングホールに、暖かな笑い声が響いた。
魔界の夜が、初めて優しく訪れた。




