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勇者転生 ~裏切られたのでスローライフはじめました~  作者: 川合 佑樹


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第34話

 魔界の空は鉛のように重く垂れ下がり、息を詰まらせるほどの暗闇を広げていた。

 低く押し寄せる雲が、すべてを飲み込もうとするように渦巻いている。

 ゴオオオッ!

 漆黒の巨体が轟音とともに落下してくる。

 風圧が吹き荒れ、地面が激しく震えた。

 マサは剣を握りしめ、魔力を急速に練り直そうとした。

 ブレイブバーストの反動で、体が鉛のように重い。

「くそっ……魔力が足らねぇ!」


 周囲のエルフたちが一斉に杖を構え、次々と魔法を放った。

 アルが杖を振った。

「アイス・フォートレス!」

 青白い氷の壁がドラゴンの進路に立ち上がった。

 しかし、巨体がぶつかる音がドゴオオン! と響き、壁が粉々に砕け散った。

 エルフたちの顔が青ざめた。

「ダメだ……!」


 マサは歯を食いしばり、片手で魔力を絞り出した。

 もう片方の手を虚空に伸ばした。

 アイテムボックスが黒く歪み、中から細長いガラス瓶が一本浮かび上がった。

 蓋には赤い封印が施され、瓶の中の液体は不気味に脈打っていた。

「これには……頼りたくなかったが」

 それは魔力強化薬――大戦で極秘に使われていた、勇者仕様の禁断の薬だった。

 一時的に魔力を爆発的に回復させる代わりに、自身の生命力を代償にする。

 通常の人間なら即死するほどの猛毒だった。

 マサは瓶の蓋に指をかけた。


 その瞬間――

 アイテムボックスの中で、誰かの細い手が、そっとマサの指を押さえた。

「待って、マサ」

 柔らかく、どこか切なげな声が、アイテムボックスの奥から直接頭に響いた。

 マサの動きがピタリと止まる。

「え……?」


 アイテムボックスがビリビリと激しく歪み始め、周囲の空気がわずかに揺れた。

 空間の裂け目が広がり、金色の長髪が最初に現れた。

 風もないのに髪が優雅にたなびき、次に黒い外套を纏った女性の姿が、ゆっくりと実体化していく。

 翡翠色の瞳が、マサをまっすぐに見つめ、優しい微笑みを浮かべていた。


 マサは手を引き、目を大きく見開いた。

「って……リリィ!?」


 リリィはアイテムボックスの縁から優雅に踏み出し、髪を軽く払った。

 金色の長髪が風に舞い、翡翠色の瞳がマサを優しく――だが少し呆れたように見つめた。

「やっと見つけたわよ、バカマサ。随分と遠くまで逃げたものね」


 その瞬間、ガルがピタッと動きを止め、鼻をヒクヒクと鳴らした。

 嗅ぎ慣れない――甘く強い魔力の香りが、風に乗って漂ってきた。

 ガルは巨体をゆっくり振り向け、目を丸くしてリリィを凝視した。

「……おい、マサ。なんだそいつは!?」

 サチも警戒しながら呟いた。

「とんでもない魔力量です……」


 アルはドラゴンから目を離さず、声を張り上げた。

「みんな、早くアレをなんとかしないと!」

 リリィは小さく舌打ちし、アルにちらりと目を向けた。

「うるさいわねぇ。こっちは感動の再会なのよ?」

 彼女はマサに視線を戻し、口元に柔らかな笑みを浮かべた。


 彼女はアイテムボックスから、宝石が埋め込まれた煌びやかな杖を取り出した。

 杖の先端に青い光が集まり、辺りの空気が一瞬で凍りつくような冷気を帯びた。

 リリィが杖を高く掲げた。

「アブソリュート・ゼロ・ローゼン・レガリア!」


 瞬間――

 ズドオオオン!

 地面から青い光柱が轟音とともに吹き上がった。

 ドラゴンの障壁をズバァン! と貫いた。

 青い光がバラの花弁のように広がり、落下する巨体を柔らかく包み込んだ。

 冷気がビリビリと空気を凍てつかせ、魔界に巨大な氷のバラが咲き誇った。


 リリィは杖を軽く振った。

 青いバラの花弁のような光が、杖先から無数に散り、ドラゴンの巨体を包み込んだ。

 光の花弁が触れるたび、ドラゴンの鱗が霜を帯び、動きが完全に止まった。

「まぁ、こんなもんでしょ」


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