第33話
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!
大気が震え、地面がビリビリと鳴った。
マサは反射的に空を見上げた。
紫空に、巨大な漆黒の影が現れた。
翼に穴が空き、錐揉みで回転しながら落ちてきていた。
ドドドドドッ!
凄まじい風圧が大気を煽り、狼たちが怯えて遠吠えを上げた。
ドラゴンの咆哮が、ゴオオオオオオン! と紫空を切り裂いた。
戦場で何度も見た、絶対王者の生命体だった。
全身を覆う黒い鱗は鎧のように輝いていた。
翼は半分以上が引き裂かれている。
ガルが呆然と見つめた。
「おいおいおいおい! なんでドラゴンが落ちて来てるんだ!? さっきのか!? さっきの攻撃が当たったんじゃないか!?」
マサは苦笑した。
「やっちゃったかも……」
サチが駆け寄り、落下軌道を追った。
「マズいです! このままではここに落下してきます!」
マサが叫んだ。
「逃げられるか!?」
「あのサイズですから……厳しいかと」
エルフたちが悲鳴を上げ、シルヴィが杖を握りしめながら叫んだ。
「結界を張ります! でも、ドラゴンの巨体に耐えられるかは……!」
ガルが吠えた。
「勇者奥義で何とかならないのか!?」
マサがニヤリと笑った。
「さっきので……魔力がからっけつだ」
「よし、死ぬ前に一回お前を殺しとくか」
その瞬間、アルがアイテムボックスから杖を取り出し、素早く構えた。
「時間を稼ぎます!」
アルが杖を高く掲げ、息を吸い込んで叫んだ。
「フレイム・ヴォルテックス!」
杖先から赤い光が爆ぜ、巨大な炎の渦がドラゴンに向かって迸った。
パシュンッ!
しかし、火球はドラゴンの鱗に触れた瞬間、弾かれるように消滅した。
「……ドラゴンスケイルの魔力障壁か」
巨大な影が、ますます近づいてきた。
地面が震え、風圧が木々を揺らし、狼たちは怯えて遠吠えを上げた。
マサは剣を握り直した。
「みんな……下がってろ」
ドラゴンの咆哮が、紫空を切り裂くように響いた。
――その巨体が、拠点の真上を覆い尽くそうとしていた。
遠く離れた深い森の奥。
焚き火の音だけが響く薄暗い光の中、黒いフードを深く被った人物が一人、座っていた。
光線が紫空を貫いた瞬間、顔を上げた。
「……見つけた」
フードの下から、低く抑えた声が漏れた。
口元が歪んだ。
ニヤリ。
「勇者……まだ生きていたか」
焚き火がパチンと弾け、炎が一瞬だけ顔を照らした。




