第32話
気がつけば、畑はしっかりと区画分けされていた。
それぞれの区画が豊かな実りを上げていた。
ジャガイモの葉は青々と茂り、トマトは赤く熟れていた。
インゲンは蔓を伸ばして花を咲かせていた。
マサはエルフの一人、シルヴィア・フェアリンド・ラリエル・シルヴァナス――通称シルヴィ――と並んで畝の間を歩いていた。
熱心に話し合っていた。
マサがトマトの葉をそっと撫でた。
「つまり、グロウアップは食物自体の強化で、地質にはダメージが出てるってことか?」
シルヴィは穏やかに頷き、細い指で葉を優しく撫でた。
「そうです。朝は薄く全体に、夜は虫よけだけに抑えましょう。水と光があれば、立派に育ちます」
マサは空を見上げた。
魔界特有の厚い曇天が、いつものように紫灰色のベールをかぶっていた。
「日の光かぁ……」
彼は少し考え込み、ふと目を輝かせた。
「ちょっと待っててくれ」
マサは小走りでその場を離れた。
数分後、マサが戻ってきた。
手に握っているのは、聖剣だった。
「よし! やってみるか!」
周囲の空気が一瞬で張り詰めた。
マサは深く息を吸い込み、目を閉じて魔力を練り始めた。
体内の魔力が渦を巻き、血が熱く脈打った。
胸の奥から熱い塊が湧き上がり、腕を通り、手首を震わせ、剣の柄を握る指先まで伝わった。
剣身が微かに震え、淡い金色の光が刃に沿って走った。
空気が重くなり、木々がざわめき、葉が一斉に震え落ちた。
狼たちは本能的に伏せて小さく鳴き声を上げた。
エルフたちも異変に気づき、慌てて視線を向けた。
シルヴィは魔力に当てられ膝が震えた。
「マサ様、何を……?」
マサは目を開き、剣を構えた。
「勇者奥義! ブレイブバースト!」
剣先に向かって魔力がゴゴゴッと急速に集束した。
空気が歪み、圧縮球がブワッと膨張した。
周囲の空気がビリビリと震え、地面が微かに揺れた。
マサは剣を天に掲げた。
ズドオオオオン!
鋭い光の奔流が紫空を貫き、巨大な穴が開いた。
眩い陽光が一気に降り注ぎ、辺りが真っ白に輝いた。
辺り一帯が、まるで別の世界のように明るく照らされた。
エルフたちは息を呑み、次々と膝をついた。
祈るように両手を合わせ、マサに向かって頭を垂れた。
「神の光……」
「勇者様……」
しかし、光は長くは続かなかった。
徐々に穴は縮み、最後はマサをスポットライトのように照らしながら、元の暗い空に戻っていった。
マサは肩を落とした。
「んー。ダメだったか」
ガルが大股で近づき、ポコッとマサの頭を叩いた。
「技を撃つなら先に言え! びっくりするだろ!」
「ごめんごめん! ちょっとどうなるのか気になっちゃって」
「ったく。これだから勇者は……」
ガルの明るい声が、緊張していた空気を一気に解きほぐした。
エルフたちもようやく立ち上がり、顔を見合わせた。
しかし、その安堵も束の間だった。




