第31話
拡張された畑から、笑い声が立ち上っていた。
ガルが土魔法で溝の壁を固めながら、大声で叫んだ。
「よし、次はここだぜ! 根っこ優しくほぐしてくれ!」
エルフたちが輪になって緑の光を土に注ぎ込み、根を丁寧に整えていく。
「グロウジェントル!」
淡い光が広がり、土がふかふかに耕されていく。
サチは岩の上から全体を監視し、指示を飛ばした。
「アル、そこの土をもう少し深く! 水が溜まりやすいように」
アルが素早く魔法を調整し、微笑んだ。
「はい、サチ!」
マサは少し離れたところで、いつもの癖で剣を軽く振り上げた。
「よし、俺も手伝うか――」
しかし、エルフたちが慌てて駆け寄ってきた。
アルが両手を振って止めに入る。
「マサ! 待ってください! 聖剣で土を掘るなんて……あまりにも勿体ないです!」
他のエルフたちも声を揃えた。
「刃が傷むかも……!」
「森の精霊が泣きますよ……!」
「え、聖剣だから大丈夫だろ?」
マサが首を傾げて笑った。
エルフたちは互いに顔を見合わせた。
「では、私たちが――」
言葉を合図に、数人のエルフたちが自然と輪になって立ち上がった。
彼らは両手を広げ、指先を軽く絡め合い、静かに目を閉じた。
古の森の言葉――優しく響くエルフ語の詠唱が、同時多重に紡がれ始めた。
「シルヴァ・テラ・ノクティス……ルミナ・ヴェルデ……」
「エテルナ・フォレスタ……グラディス・ラディクス……」
「ヴェントス・スピリトゥス……アーデン・クレスケ……」
声が重なり合い、最初は囁きのように静かだった詠唱が、次第にハーモニーを形成していく。
一人の声がメロディを導き、他の声がそれを支え、別の声が高く重ねる――
まるで森の木々が風に歌うような、多層的な響きが空気を震わせた。
淡い緑の光が各々の指先から溢れ出し、螺旋を描きながら輪の中心に集束していく。
木々の葉がざわめき、地面の土が微かに震え、魔界の風が優しく巻き起こった。
光の渦が大きくなり、輝きを増し、純粋な生命の力が凝縮されていく。
マサは息を呑み、ガルが「おおお……!」と感嘆の声を漏らし、サチが眼を大きく見開いた。
光が頂点に達した瞬間――
バチッ!
輝く塊が弾け、中心に一振りの鍬が実体化した。
柄は滑らかな銀白色の古木で、触れるだけで優しい温もりが伝わりそうだった。
刃先は深緑の樹皮が鋼のように硬く鍛え上げられ、縁に微かなルーンが刻まれ、淡く光を放っていた。
全体から森の魔力が穏やかに脈動し、土を耕すために生まれたかのような完璧なバランスを備えていた。
エルフの一人が恭しく両手で鍬を掲げ、マサに差し出した。
「どうぞ、これをお使いください。森の精霊と私たちの魔力を込めた、聖なる農鍬です。聖剣に劣らぬ耐久性と、土を優しく耕す力を持っています」
マサが受け取り、柄を握った。
驚くほど手に馴染み、軽いのにずっしりとした重みを感じた。
試しに、鍬をコンコンと地面に叩きつけてみた。
カンッ! カンッ!
刃先が土を切る音が、まるで鉄槌のように響いた。
マサが呟いた。
「……鋼鉄よりも堅いぞ、これ」
エルフたちが誇らしげに胸を張った。
「当然です!」
マサは鍬を肩に担いだ。
「……ありがとな。今日からこれで掘るよ!」




