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勇者転生 ~裏切られたのでスローライフはじめました~  作者: 川合 佑樹


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第28話

 マサは薄暗いログハウスの中で、パチッと目を覚ました。

 夜明け前の紫がかった光が、隙間からチラチラと漏れていた。

 ――ピリッ!

 肌を刺すような妙な気配を感じた。

 外に、複数の息づかいが潜んでいる。


 マサは息を殺し、ゆっくり手を伸ばして剣に触れた。

「プロテクト」

 薄い膜を全身に張り、魔力の揺らぎを探った。

 ――ビリビリッ!

 外からこちらを試すような一瞬の魔力の波が返ってきた。

「マズいっ!」

 マサはガバッと飛び起き、

 バシュッ!

 剣を抜き放った。

 ドンッ!

 衝撃でログハウス全体が揺れ、サチとガルが目を覚ました。

 二人が状況を掴む間もなく、マサは入り口の布をバサッと蹴り飛ばした。

 外へ勢いよく躍り出た。


 剣を振りかぶった瞬間――視界に飛び込んできたのは、十人ほどの影だった。

 全員がぼろ布を纏い、地に伏せて額を擦りつけ、両手を前に差し出して震えていた。

 一番前の女性が、顔を上げずに叫んだ。

「お許しください……勇者様!」

 土埃が舞い、彼女たちの肩がビクビクと震えた。

 女性の声だった。


 マサは着地し、剣先を地面に向けた。

「……え?」

 視線を巡らせると、金色の長い髪、尖った耳、ボロのマント、そして脇に置かれた弓と矢筒が見えた。

 マサの記憶が瞬時に繋がった。

「エルフ族……?」

 リーダーの女性が、ゆっくり顔を上げた。

 涙で濡れた瞳が、マサをまっすぐ見つめた。

「やはり、勇者様だったのですね!」

「お前は……アル!?」


 ガルがサチを抱え、入口から顔を出した。

「どうした? 敵襲か!?」

 声を荒げて飛び出そうとした。

 エルフたちを見てギョッと固まり、サチも素早く短剣に手をかけた。


 マサは剣を下げ、落ち着いて言った。

「大丈夫、俺の知り合いだ。だからお前らも弓を置け。殺気が漏れてるぞ」

 アル以外のエルフたちが、弓を握りしめたまま体から魔力を溢れさせていた。

 アルが鋭く声を張った。

「アルウェン・ウンドーミエルの名において命じる。戦闘を禁ずる」

 その言葉に、エルフたちは一斉に弓を地面に置き、跪いた。


 ガルとサチは唖然とし、攻撃態勢を解いた。

 マサは剣を鞘に戻した。

「立ち話もなんだ。朝飯でも食いながら話そうぜ」

 アルが慌てて頭を下げた。

「はいっ!」


 マサは周りを見回し、近くに転がっていた丸太を指さした。

「ガル、あの丸太持ってきてくれ」

 ガルがまだ少し警戒しつつも、丸太を軽々と持ち上げ、マサに手渡した。

「……これでいいか?」

 マサは受け取った丸太を地面に立てかけ、剣をスッと抜いた。

 ザクザクッ!

 刃先が木屑を飛び散らせながら、素早く形を整えていく。

 バシュンッ!

 一瞬で、アルの体格に合わせた頑丈な椅子が完成した。


「ほら、簡素だけど座れよ」

 マサは満足げに椅子を軽く叩いて、アルに差し出した。

 アルは額に汗を浮かべ、目を丸くした。

「は、はいっ……」

 恐る恐る椅子に腰を下ろすが、背筋がピンと伸びたまま、まるで爆発でもするんじゃないかと警戒している様子だった。

「今、仲間の分も作るから待ってろ」

 アルが慌てて手を振った。

「いえっ、彼女たちの分は大丈夫です! 立たせておきますので!」

「えっ? でもずっと立ちっぱなしだときついだろ?」

「あのっ! ……聖剣でそのような、恐れ多くて……!」

 後ろのエルフたちも息を呑み、互いに顔を見合わせて、

「私たちは大丈夫です……!」

 と小さなざわめきが広がった。


 マサは全く動じず、

「そうか? この家もこれで作ったぞ? 畑も、水路も全部これで作ったんだ」

 と次々と指さしていった。

 アルがあわあわと視線を泳がせ、後ろのエルフたちは完全に固まった。

 口をぽかんと開けたまま、

「え……えええ……?」

 と唖然とした表情を浮かべた。


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