第2話
魔王討伐から三日後、王都は歓喜に沸いていた。
城門の外から、遠くで聞こえていた歓声が、凱旋の行列が近づくにつれてどんどん大きくなっていった。
門をくぐった瞬間――
「「「ワァァァァァァ!」」」
民衆の声が一気に爆発し、空を裂くように響き渡った。
道の両側に詰めかけた人波が、波のように揺れた。
子供たちが興奮して花束を投げ上げ、女性たちが涙を拭いながら手を振る。
男たちは拳を高く掲げ、声を張り上げて叫んだ。
「勇者様! 勇者様ぁ!」
マサは馬に揺られながら、疲労で体が鉛のように重かった。
傷の痛みがまだ残り、視界が少しぼやけている。
それでも――あの笑顔を見ると、自然と手が上がった。
「魔王討伐ばんざーい!」
「これで平和が続くんだ!」
「勇者様、ありがとう!」
次々と飛んでくる声に、マサは笑顔で手を振り続けた。
喉が枯れるまで、何度も何度も「ありがとう」と繰り返しながら。
馬が進むたび、花びらがひらひらと降り注ぎ、歓声が背中を押すように続いた。
この瞬間だけは、疲れさえ忘れさせてくれるような、温かな熱気に包まれていた。
王城の大広間では、控えめながらも温かな祝宴が開かれていた。
長いテーブルに並ぶ料理は豪華で、肉の香ばしい匂いや果実の甘い香りが部屋に満ちていたが、出席者は仲間たちと王族、数人の貴族だけだった。
烛台の柔らかな灯りが皆の顔を照らし、穏やかな笑い声が静かに響いている。
ガンドルフが大きな肉を頬張りながら、満足げに言った。
「マサ、今日はゆっくり休めよ。ようやく終わったんだからな」
マサはグラスを手に、軽く笑って頷いた。
「そうだな。明日から……何しようかな」
リリィが隣で優しく微笑み、グラスを軽く傾けながら囁いた。
「あなたなら、何でもできるわ。きっと」
セリーヌはワインをそっと口に運び、穏やかな声で続けた。
「本当に……お疲れ様でした、マサ様」
マサはグラスを手に、ゆっくりと仲間たちの顔を見回した。
皆の表情に、疲れと安堵、そして喜びが混じっている。
胸の奥がじんわりと温かくなった。
――この世界に来てから、20年が経っていた。
赤子として転生し、這いずり、歩き、剣を握り、魔法を学び、仲間たちと出会ってきた。
元の世界には、もう戻れない。
それでも、ここで生きてきた。
そして、今、この瞬間が――何よりの報酬のように思えた。




