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勇者転生 ~裏切られたのでスローライフはじめました~  作者: 川合 佑樹


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第17話

 食べ終わると、焚き火の残り火がパチパチと小さく弾け、暖かな余韻を残していた。

 マサは満足げに腹をさすった。

 串の残りを火に放り込み、聖剣を手に取る。

 近くの枯れ枝を拾い、剣の刃を当ててカツカツと細かく削り始めた。

 火の光が剣の刃に反射し、細かい木屑がチラチラと舞い上がった。

 削られる木の香りが、新鮮に鼻をくすぐる。


 サチは焚き火のそばから、そっと立ち上がって近づいてきた。

 マサの肩越しに削る様子を覗き込み、静かな声で尋ねた。

「……何を作っているのですか?」

 マサは手を止めず、穏やかに答えた。

「食器だよ。箸とかスプーンとか。女の子がずっと手づかみで地べたってわけにもいかねぇだろ」

 サチは一瞬、ぽかんとした表情で固まった。

「……女の子って……私ですか?」

 マサは削る手を止めて、振り向いた。

「おう、当たり前だろ。他に誰がいるんだよ」


 サチは眼を伏せ、指先でスカートの裾を軽く握った。

 小さな声で、照れくさそうに呟いた。

「……ありがとうございます」

 その言葉に、どこか嬉しさが混じっていた。

 焚き火の音が、二人の間に穏やかに響いた。



 夜が更け、ログハウスの中は静かな闇に包まれていた。

 外の魔界の風が、屋根の苔を軽く叩く音だけが聞こえていた。

 マサはマントを敷いた床に寝転がり、天井の丸太を見上げて大きく欠伸をした。

「あー、今日も頑張ったな。肉も食ったし、生活水準もちょっとだけ上がったぞ」

 隣でサチも寝転がり、体を少しマサの方へ向けた。

 彼女の単眼が、残り火の光に優しく輝いている。

「うん……マサはすごいと思います」

「へへっ」

 マサは照れくさそうに笑った。


 サチは少し間を置いて、静かに続けた。

「人間のことを、侮っていました」

 マサはくすっと笑い、穏やかな声で返した。

「魔王から預かってる子だしな。できるだけ良い暮らしはして欲しいさ」

 サチは小さく息を吸い、マサの顔をまっすぐ見た。

「……マサ」

「ん? どうした?」

「もしかして、私のことを子供だと思ってます?」

 マサは一瞬、目をぱちくりさせた。

「……えっ?」


 サチは視線を少し逸らし、淡々と続けた。

「私は……人間の年齢で言うと、大体26歳です」

 マサは思わず上体を起こした。

「……えぇっ!?」

 サチはわずかに唇を尖らせた。

「だから……女の子ではないです」

「魔族だから……見た目はちょっと幼いですが」

 マサはゴクリッと喉を鳴らし、視線を泳がせた。

「あー……そうなん……だ」


 少しの沈黙が流れた。

 マサは照れくさそうに頭を掻き、声を少し低くして尋ねた。

「えー……その。一つ屋根の下ですけど、大丈夫そう?」

 サチはマサをまっすぐ見て、静かに答えた。

「……嫌だったら、一緒にいないです」

「ほー……ふーん……そう」


 マサは少し間を置いて、残り火の光に照らされたサチの顔を見つめた。

 そっと手を伸ばし、彼女の手を取った。

「その……寒いだろ?」

 サチはびっくりして肩を小さく震わせたが、すぐに指を絡めて、ぎゅっと握り返した。

 頰がわずかに熱を帯び、単眼を伏せる。

「……はい」

 二人の手が、重なり合った。

 温もりがゆっくりと伝わり、部屋の中に優しい静けさが満ちていった。

 焚き火の残り火がパチンと弾け、淡い光が二人の影を壁に揺らした。

 マサはゆっくりと目を閉じた。


 外では、魔界の紫の闇に溶け込むように、一つの影が遠くからその様子を静かに見つめていた。

 長い赤髪が夜風に軽く揺れ、影は息を潜め、ただ佇んでいた。

 その瞳には、複雑な光が宿っていた。


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