第16話
サチは思わず喉をゴクリと鳴らした。
彼女の頰がわずかに赤らみ、眼が肉から離せなくなっていた。
匂いに誘われるように、体が少し前傾になっている。
マサはそれに気づいて、くすっと笑った。
「よし、仕上げだ」
アイテムボックスから小さな瓶を取り出し、粗挽きの塩と乾燥ハーブの粉をパラパラと振りかけた。
塩が肉の表面でキラリと光り、ハーブの爽やかな香りがさらに立ち上った。
肉を軽く回し、火加減を調整しながら、最後の焼き目を付ける。
「これで完成だな」
マサは満足げに頷き、串を火から外して軽く振った。
熱々の肉から湯気が立ち上った。
マサは一本の串を、手づかみでサチに差し出した。
熱々の肉汁が少し滴り落ち、地面に小さな染みを作る。
「ほら、一番の功労者が先に食えよ」
サチは目を丸くして、串を見つめた。
「えっ……マサが先に……」
「見つけたお前が偉いんだよ」
サチは少し戸惑いながら、両手で串を受け取った。
熱さに指を少し縮こまらせつつ、感謝の視線をマサに送る。
「でも、狩ったのはマサです……」
マサは自分の串を手に取り、くすっと笑った。
「当たらない剣は切れ味が良くても意味ねぇってな。あいつがよく言ってたんだ」
サチは肉を口に近づけながら、首を傾げた。
「あいつって?」
「……勇者パーティにいた斧使いだよ」
「いい人だったのですか?」
「とてもな。ほら、冷める前に食えよ」
サチは恐る恐る肉に歯を立てた。
ジュワッ……
肉汁が溢れ、噛むたびに香ばしい脂とハーブの爽やかな香りが口いっぱいに広がった。
彼女の眼が大きく見開かれ、体がビクッと震えた。
「……んー! 美味しい!」
サチは思わず両手で串を握りしめ、もう一口大きくかぶりついた。
肉汁が口の端から少し零れ、頰を伝う。
「こんなに柔らかくて……! 普段はただ血なまぐさいだけなのに……!」
マサは自分の串をガブリとかぶりつき、肉汁が口の端から滴った。
満足げに頷きながら、笑う。
「うめー! 焼きたては格別だな」
二人は焚き火を囲み、交互に肉を頰張った。
火の粉がチラチラと舞い、暖かな光が二人の顔を照らす。
「もっと焼こうぜ!」
マサが新しい串を火にかざすと、サチが目を輝かせて応じた。
「これ、最高です!」
「もう一本食うぞ!」
サチは肉汁で汚れた口元を袖で拭いながら、幸せそうに微笑んだ。
「……こんなに美味しいもの、初めて食べました」
マサは串を差し出し、明るく笑った。
「これから毎日食おうぜ!」
「食べつくしましょう!」
「そうだ! 俺たちは自由だ!」
二人は顔を見合わせて、声を上げて笑い合った。




