第11話
マサはサーチアイと共に、魔界の森の一角に立っていた。
空は紫に染まり、遠くで低く雷鳴のような音が断続的に響いていた。
木々は黒く、葉は赤紫に揺れ、足元には淡い紫の苔が広がっている。
以前来た時よりは魔素が薄れているとはいえ、やはり息苦しい重さが肌にまとわりついた。
サーチアイはリリアーナから正式なお目付け役に任命され、城との連絡役も兼ねることになった。
彼女は少し離れて立ち、マサの様子を静かに見守っていた。
聖剣は「こんなもの預かっておれん」とリリアーナに突き返され、マサの手元に再び戻っていた。
彼は剣を腰に差したまま、荒れた土地をぐるりと見回した。
黒い土が広がり、枯れた木々が散在するだけの、誰も手をつけていない一区画。
マサは小さく息を吐き、ニヤリと笑った。
「よし、ここでいいな」
マサは聖剣を両手でガッと握りしめ、大きく息を吸い込んだ。
「うおおおおお! 開墾だあああ!」
体にプロテクトとストレングスを重ね掛け、魔力を一気に巡らせる。
筋肉がブワッと熱く膨張した。
ズドンッ!
剣先が黒い土を豪快に抉り、ドロドロの湿った土塊がバサバサと四方に飛び散った。
重い土の匂いが鼻を突き、魔界特有の少し甘い魔素の香りが混じって広がった。
マサは息を弾ませながら、剣を振り下ろし続けていた。
ズドン! ズドン!
剣が土を裂くたび、荒れ果てた地面が少しずつ平らになっていく。
汗が額から滴り、髪が顔に張り付いたが、マサの目は興奮で輝いていた。
「この辺は畝だあああ!」
剣を横薙ぎに大きく振り、土を均等に削り取る。
黒い土が盛り上がり、畑の輪郭がぼんやりと形作られ始めた。
少し離れた岩の上に、サーチアイがちょこんと腰掛けていた。
彼女は首を少し傾げ、マサの様子をじーっと見つめ続けている。
眼に、困惑と好奇心が混じっていた。
「……それ、何をやっているの?」
小さな声に、マサは剣を止めて振り返った。
息を整えながら、ニヤリと笑う。
「耕してるんだよ! 土を掘り返して、作物植えられるようにするんだろ?」
サーチアイはさらに首を傾げた。
「私が覗く限り、魔界でそんなやり方をしている者は一人もいませんけど……」
「昔の知識でやってるだけだからなー。まぁ、何とかなるだろ」
マサは剣を肩に担ぎ、汗を拭った。
「マサは農家だったのですか?」
「あー、いや。そういうのを見たことがあるだけだな。元の世界の記憶でさ」
サーチアイは少し間を置いて、淡々と続けた。
「勇者の死因が餓死になるとは、思ってもみませんでした」
「縁起でもないこと言うなよ!」
マサが笑いながら抗議すると、サーチアイは小さく唇を緩めた。
「でも、このままだと寝る場所もないですよ?」
マサは頰を掻き、辺りを見回した。
「あー、今日だけ魔王城に泊まるのは……」
サーチアイがにっこりと微笑んだ。
その笑顔に、どこか悪戯っぽい光が宿っていた。
「……まぁ、無理でしょうね」
マサはすぐに方針を変え、剣を軽く振って決意した。
「じゃあ、家作るか!」




