7話 『参考にならないサバイバル術』
目を覚ますと、
見知らぬ景色が広がっていた。
「おっ、起きた」
「随分と干からびてたな。
水、飲めるか?」
そう言って、
水を差し出される。
目の前にあるのは、
ツッコミたくなる物ばかりだった。
気になって仕方がないが、
悪い夢を見ているだけと思って、
今はそこに触れないでおこう。
「あ、あり……」
礼を言おうとしたが、
喉が張り付き、
上手く声にならない。
まずは、
渡された水をゆっくりと飲む。
……ありがたい。
無人島へ来てから、
水の大切さは嫌というほど思い知った。
自分から「水をくれ」とは、
なかなか言い出しにくい。
向こうから渡してくれた事が、
本当にありがたかった。
「なあ」
二人組の片方が、
こちらへ声をかけてくる。
「ポテチ食うか?」
恥ずかしいのか。
気まずいのか。
それとも、
瀕死になっていた人間への
接し方がわからないのか。
なんとも言えない表情だった。
……ただ、
やさしさなのは間違いない。
「いや、まだ……。
もうちょっと水を」
「そうだぞ。
ポテチよりまずコーラだ」
「えっ、いや……」
困惑していると、
「なんでだよ。
コーラよりポテチだろ」
……冗談で言ってるんだよね?
まじで困惑するのだが。
仕方がないので、
もう一度水をお願いした。
大分落ち着いた所で、
改めて礼を言う。
「介抱してくれてありがとう。
大分落ち着いたよ」
「そうか。
よかった」
そう言いながら、
ずいっとポテチを差し出される。
流石に今回は断れない。
腹を満たす手段も無いのだ。
有り難く頂くことにした。
「コーラもあるぞ」
同じように差し出される。
ただ、
なぜか微妙に申し訳なさそうだった。
水分と食料のおかげか、
ようやく頭が回り始める。
……なるほど。
どうやら、
前に出してぬるくなった
コーラを渡しているらしい。
「まだ冷たい飲み物は、
お腹にきついから助かるよ」
そう言うと、
少し安心したような顔をされた。
そのまま、
コーラも飲ませてもらう。
うっ、正直腹にきてきつい。
だが、おかげでポテチを食べるのが進む。
しばらく様子を見ていた2人が
本格的に話しかけてくる。
「なあ、
なんで遭難してたんだ?」
「そうそう。
長時間移動してたっぽいし」
「右も左も分からなくてね。
勘を頼りに歩いてた」
「その場でなんとか出来なかったのか?」
「無人島に持っていく物、
何にしたんだ?」
「……俺だけ使えない、
アカシックレコード」
2人はしばらく黙る。
頭に何かが巡ってきたのか、
どっと笑い出す。
「ぶはっ!」
「マジか!」
「これだけ盛り込んで、
設計ミスかよ!」
「どうだい?使い心地は?」
悔しいので、ドヤ顔で2人に聞いてみる。
「あっはっはっ。最高!」
と、 同時に返って来る。
「たださ、クラスメイト全員って言って
ハブられるとは思わないじゃん?」
「待って、笑わせてないで。」
「つぼに入るぅ。」
と言って、しばらく止まらない。
笑われているうちに、
周りを観察してると、
後回しにしていた疑問が一気に戻ってくる。
ダンボールで作られた拠点。
……なんで?
切られたペットボトル。
……どうやって?
体にかけてくれてる、
めちゃくちゃデカいポテチ袋。
……いや本当になんで?
使い心地の良さそうな座布団。
……お前達、
無人島生活何日目だ?
その辺に転がる水が入った簡易水槽の中では、
魚がぴちぴち跳ねていた。
……調理しないなら捨てなさい。
そして豊富な水。
……よく確保できたな。
ずっと笑っているので聞いてみる。
「君達のって、
持ってきたのポテチとコーラだよね」
見た感じ、
信じたくないが、
そうだと思う。
自分が知っているのは、
豪華客船とネット通販くらいだ。
「アカシックレコードでわかったんか?」
「おい、
やめろよ!」
二人がまた吹き出す。
こっ、こいつら……。
なんて軽さだ。
心が軽くなる気持ちと、
軽いがゆえのばかさ加減についていけない。
こっちはまだ本調子ではないんだ。
「二人は、
随分仲がいいんだね」
空気を変えたくて、そう聞いてみる。
「ああ。
小学校からの仲だからな」
「幼稚園からだし」
ようやく笑いも落ち着き、
少し話しやすい空気になった。
「二人の拠点って、
ここだよね?
どうやって作ったの?」
「ああ、
最初さ。
俺もこいつも、
何も持ってなかったんだよ」
「だったな。
おかしいなとは思ったけど、
目の前海だったし。
とりあえず遊んでた」
……海で遊ぶなよ。
「そのうち喉乾いてさ。
コーラ飲みたいって思ったら出た」
「ポテチも食いたいって思ったら出た」
定番なら、
最初の一袋だけで終わる持ち物だ。
ホラー映画なら、
真っ先に脱落する役回りだろう。
それが、
ここまで拠点を作っている。
……やっぱり、
色々変わっているんだな。
女神様にも、
「お前のせいで色々変わった」
と言われたばかりだ。
とはいえ、
最初は何も持っていなかった、
というのはかなり優しい仕様だと思う。
……だからって、
海で遊ぶなよとも思うが。
「へぇ、それで?」
続きを聞いてみる。
「食べ終わったらさ、
海の少し先に滑りの良さそうな砂の坂があって。」
「滑りたいな、
ポテチの袋があるなら、
ダンボールないかな?って思ったら出た。」
ツッコミたい気持ちを我慢する。
「気持ちよかったなあ。」
「日が落ちてきたから、
ダンボール出せるだけ出そうぜって」
「出してるうちに、
どっちも出せる事に気付いてな」
「だったら、
多く出した方が勝ちにしようってなったんだけど」
「途中で飽きてさ。
ロボットの足っぽいの作った方が勝ちに変わった」
「夜だったから、
よく見えなかったんだよな」
「そうそう。
だから続きは明日って事になってさ」
「砂浜にいたから、
気付いたら風が強くなってきてな」
「それで初めて、
ダンボールが風除けになるって気付いたんだよ」
「じゃあ何か作るかって話にはなったんだけど」
「出したダンボール片付けるの……」
そこで二人同時に口を開く。
「めんどくさい」
……声まで揃うのか。
「そう考えてたら、
急に眠くなってさ」
「そうそう。
逆に風が気持ちいいんだよ」
「風除けいる?」
「今日はいらないって結論になった」
「一応、
移動するかも聞いたんだけどな」
「移動するくらいなら、
早く寝たいって答えた」
「それで、
結局その場で寝る事にしたんだけど」
「布団っぽい物無かったから、
ロボの足をベッドにしてさ」
「毛布代わりに、
ダンボールにくるまって寝た」
……はあ?
あれだけ話を聞かせておいて、
初日で拠点作ってないのかよ!
心の中で思わず叫ぶ。
目の前に広がっている、
完成系が信じられない位に
初日は雑すぎた様だ。




