47話 「1対3」
「さて、どこまで届くかね。」
颯爽と飛び出したコーラは、ちらりと小型スピーカーを見る。
移動開始の際、スピーカーは全て近くに置いていた。
十台から出る音は流石にうるさくてたまらないので、ペットボトルを被せて消音していた。
「近くからだけだったら実験にならないな。」
十台あるうちの八台を離す。
上に二台、前にニ台、左右にニ台。
それぞれ背中合わせに置いた。
全てコーラから3km程離す。
カラオケ本体とコーラは4km程離れていた。
八台共問題なく音は聞こえていた。
「この状態だと、本体からなのか、スピーカー同士の中継なのかわからないな。」
現在、本体からの距離は上と左右が5km。
前方は約7kmだ。
まずは左のスピーカーを、コーラからさらに5km離してみる。
音は聞こえない。
「音は聞こえないけど、出てはいるな。」
さらに離すと、すぐに音が出なくなったようだ。
本体から9kmが限界なのか。それとも、中継先まで5kmが限界なのか……。
「まずは単独で届く距離がわからないと、結果がはっきりしにくいな。」
左のスピーカーを、本体からもコーラの近くにあるスピーカーからも、6km離れた位置に置く。
音は出ていない。
本体から5kmの位置まで戻すと、音が出たようだ。
次に、本体から6km以上離しつつ、コーラの近くにあるスピーカーからは5km以内になるように配置する。
今度は問題なく音が出た。
「単独なら5km。中継でも5kmまでは届く。中継の範囲も5kmで間違いなさそうだ。」
次は、動かしていた左のスピーカーを、先ほど置いていたコーラから6km離れた場所に置く。
もちろん、音は出ていない。
そこへ、コーラの真上に置いていたスピーカーを左に移動させる。
しかし、どれだけ移動させても、左のスピーカーから音は出ない。
そして、ついに上のスピーカーからも音が消えた。
「中継は一回だけか。」
二度の中継が可能なら、上のスピーカーを経由して、左のスピーカーからも音が出るはずだった。
「ん? この音楽は……」
先ほどまで流れていたBGMが、いつの間にか別の曲に変わっていた。
ポテチがいつも歌う曲のイントロだ。
「そういや、あいつ歌いたがっていたな。にしては、歌うまでに随分と時間が掛かったな。」
コーラは思わず苦笑する。
……まあ、あいつらしいか。
「さて、とりあえずスピーカーは設置できる分だけやって戻るか。」
バアッン!!
急な破裂音があたりにこだまする。
「なんだ?故障か……?」
大きな破裂音だ。外傷がないか確認する。
特に問題なく、音も出ている。
「ポテチか。」
故障でないことがわかりひとまず安堵する。
……まずは出来る所までやっておこう。
今いるのが拠点から4km。
この1km先に一箇所目のスピーカーを置く。
四台をそれぞれ90度ずつ向きを変えて配置する。
全範囲に音が届くようにすることが目的だ。
スピーカーを載せた台に細工をし、ゆっくり回る仕様にした。
これなら、一部だけ音が届きにくいなんてことはなくなるだろう。
更に5km先にも同様に設置する。
スピーカーは若干下向きにしており、ペットボトルで作った拡声器を取り付けていた。
「よし、一旦戻るか。」
カラオケちゃん達の所に戻る途中、音楽が止まった。
ポテチが歌い終わっているようだ。
……あいつなら感想とか聞くんだろうな。
途中で遭難者達が“ポテチー”って叫んでいたから、どうせ言わせたんだろう。
かなり近づいたところで、紫のライトとギンギラしたミラーボールが目に入る。
なんじゃありゃ?
そう思って目を凝らすと……。
「ヘェー、クシュン!」
思わずくしゃみが出た。
と同時に3人がコーラに気付く。
「実験して来たよ。スピーカー同士の中継は一回なら出来た。スピーカーの最長距離は10km。」
と、コーラが早速報告する。
「で? なんで戻って来たんだ?」
ポテチは冷ややかな態度で言葉を放つ。
「ああっ、全範囲にスピーカーを広げたいからさ。5km地点に八箇所、10km地点に十六箇所。それぞれ四台ずつ置きたい。」
「そんなに使う気かよ。」
思わず口を挟んだ。
「まあな。全部で九十六台必要だから、カラオケちゃん、八十六台出して貰える?」
「大丈夫?重くない?」
「大丈夫。一気にやりたいから全部出して。」
カラオケちゃんは、言われた通り八十六台のスピーカーを出す。
コーラはそれを、棚に並べるようにきれいに積み重ねていく。
それはまるで巨大なオブジェのようだった。
……フェスでも始まるのかよ。
全て積み終えると、コーラは颯爽と夜空へと消えて行った。
「さて、ボチボチやろうかね。」
先ほどいた場所まで戻ると、早速スピーカーを移動させる。
中心地から5km地点の中継、さらに10km先まで、全てペットボトルで繋がっている。
スピーカーごと移動するつもりだ。
脚の関節を生み出すかのように、スピーカーは伸びていった。
5km地点に一組設置するごとに、その先の10km地点にも二組ずつ設置していく。
しばらくするとスピーカーから、
“アホー”、“アホー”と聞こえた気がした。
耳を傾けると、
“アホー、アホー、アホー、アホー、アホー、アホー、アホー、アホー。”
初めは遭難者だけが歌っていた。
コーラが「こいつオッサンかよ!」と思っている間に、ポテチとカラオケちゃんも加わった。
遭難者が「アホー」と歌えば、二人も合いの手のように「アホー」と続く。
“アホー、アホー、アホー、アホー、アホー”
「うるせぇ。」
“いっつもスカすーコーラ「の」アホー!”
“手ぇをー止めるーコーラ「の」アホー!”
“右にまわるーコーラ「の」アホー!”
“アホー、アホー、アホー、アホー、アホー、アホー、アホー、アホー。”
「おちょくり過ぎだろ。」
……あいつら、こっちの作業を見ながら歌ってやがる。
それでも、コーラは作業を進める。
“作業がー好きなーコーラ「の」アホー!”
“実験大好きーコーラ「の」アホー!”
“小学生かよ!コーラ「の」アホー!”
「うるせぇ」
“アホー、アホー、アホー、アホー、アホー、アホー、アホー、アホー。”
「あー、もう我慢できねぇ。」
あまりのしつこさに、コーラは立ち上がる。
「お前らがその気ならやってやるよ!」
ついにコーラが、遭難者への反撃を開始する。




